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番外編-焔の神器とフルード編-
1.天より戻って 前編
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【はじめに】
お読みいただきありがとうございます。
番外編『優しいだけでは』㊷の続きに当たる物語です。
フレイムの領域で修行を終えたフルードが地上に戻った直後の話になります。
おまけまで含めて全16話です。
◆◆◆
『この神器は眠ってる。目覚めるのはお前が心の底から喚んだ時。完成するのは俺が愛し子を得た時だ。もしお前に何事もなく、かつ俺が愛し子を持たなければ、これは永劫に目覚めることはない』
天から地上へ戻る時、優しく抱擁してくれた最愛の兄。一時の別れを迎える間際、自分の胸をトンと突いて兄が告げた言葉の意味は、まだ分からない。
◆◆◆
統一歴2998年。
「眠っている、か。どういう意味だろう」
広大な邸の窓を開ければ、心地よい風が吹き抜ける。見上げる視界に映るのは、雲一つない快晴の空。
目に染みる青を眺めながら右腕を胸の前で握り、無造作に横へと薙ぐ。紅蓮の炎が宙を踊り、掌中に燃える弓が出現した。最高神が一、火神はこれを見て驚嘆と慈愛を浮かべ、『我が御子神フレイムがもう一柱いる』と評し、その銘を授けた。
「力が封印されているのかな」
弓を矯めつ眇めつし、脳内で剣を思い描けば、炎弓は即座に剣型へと変形した。一回転させてから斜に構え、軽く振り下ろすと、力強い神炎が残像に合わせて舞い散った。この5年半ですっかり慣れ親しんだ神威――フルードの兄であり師であるフレイムの力だ。
「いや、そんなことはないか。普通に使える」
(そう言えば、心から喚んだら目覚めると言っていた)
しばし剣を眺めた後、息を吸い込んで声を出す。
「神器さん。神器さん? 返事をして下さい、神器さーん!」
当人は至って真面目に呼びかけているが、傍目から見れば頭のおかしい奴である。
「駄目か……」
(何の反応もない)
諦めて神器を体内に戻し、上司である帝国大神官へ念話を送る。
《ライナス大神官、フルードです。天界から戻り、先程荷解きが終わったところです》
9歳の頃から15歳になるまでの間、フレイムの神域で聖威師の修行を付けてもらっていた。それが終了し、地上へ戻ったのが今朝。この数日は一日中霧雨が降り続いていたようで、晴れ渡った今でも空気が湿気を帯びている。
(といっても、聖威を使ったから一瞬でできたのだけど)
うず高く積み上がる大量の荷物も、聖威師の力を持ってすれば瞬き一回もしない間に開梱から収納まで完了する。
《そうか、ご苦労様。数日は休暇扱いにしているから、ゆっくり休みなさい。……と言いたいところだが、早速やってもらいたいことがある》
《はい。以前よりお伺いしていたことですね》
《ああ。君とローナの婚約式だ》
イステンド大公家の嫡女にして次期大公、アシュトン・ローナ・イステンド。年齢はフルードより一つ下。生家の慣習で男装している彼女と付き合うようになり、もう2年ほどが経つ。
《本当は、ローナが成年相当の12歳になった時点で済ませてしまいたかったんだ。だが、君が天界にいたから延期していた。正式な成年となる15歳までには婚約者を確定し、公表したい》
アシュトンが15歳を迎え、完全な成人になり次第、正式な結婚式を執り行うという。いささか駆け足のような気もするが、帝国随一の権門たる大公家の嫡女の婚姻となれば、色々とあるのだろう。
《私は今日の午後から半休を取っている。諸々の準備もあることだし、すまないがうちに来て欲しい。夜には日勤のローナが戻るから、今宵の内に式を執り行なおうと思っている》
《分かりました。それでは昼過ぎ頃、イステンド大公邸に伺います》
承諾したフルードは念話を切った。シンとした部屋で、何とも言えない寂寥が心にのしかかる。今まではすぐ隣に兄がいてくれた。
「フルード様」
部屋がノックされ、邸に配置されている形代が一礼して入室して来た。5年以上も主が不在だった邸から、人間の使用人は既に引き払われている。いるのはライナスやオーネリアたちが手配してくれた形代だ。今後は一人前の聖威師として機密事項を多く扱うようになるため、再び人間を入れることはせずこのままでいくつもりだ。
(近い内に自分で形代を用意しよう)
いつまでもライナスたちに甘えてはいられない。聖威を使いこなせるようになった以上、自分でやれることはやらなくては。そう思いながら形代を見る。
「何か?」
「フルード様のお戻りを歓迎する祝品が多数届いております」
「ああ……」
またぞろ面倒くさい事態になったと、溜め息を押し殺す。きっと世界中の王侯貴族から品々が献上されているのだろう。狼神の寵を得て聖威師になった時もそうだった。聖威師は世界王たる帝国と皇国の王すら凌駕する位置に在る。色持ちの聖威師となれば尚更で、皇帝にすら通ずる極地にいる。
「整理して目録を作っておいて下さい。後で確認します。返礼は祝品の内容物と相場に見合った物を見繕ってリストを用意して下さい」
「畏まりました。菓子や特産品などもございますが、一部お持ちいたしましょうか。また、別件ですが朝食もすぐにご用意できるよう整えております」
お読みいただきありがとうございます。
番外編『優しいだけでは』㊷の続きに当たる物語です。
フレイムの領域で修行を終えたフルードが地上に戻った直後の話になります。
おまけまで含めて全16話です。
◆◆◆
『この神器は眠ってる。目覚めるのはお前が心の底から喚んだ時。完成するのは俺が愛し子を得た時だ。もしお前に何事もなく、かつ俺が愛し子を持たなければ、これは永劫に目覚めることはない』
天から地上へ戻る時、優しく抱擁してくれた最愛の兄。一時の別れを迎える間際、自分の胸をトンと突いて兄が告げた言葉の意味は、まだ分からない。
◆◆◆
統一歴2998年。
「眠っている、か。どういう意味だろう」
広大な邸の窓を開ければ、心地よい風が吹き抜ける。見上げる視界に映るのは、雲一つない快晴の空。
目に染みる青を眺めながら右腕を胸の前で握り、無造作に横へと薙ぐ。紅蓮の炎が宙を踊り、掌中に燃える弓が出現した。最高神が一、火神はこれを見て驚嘆と慈愛を浮かべ、『我が御子神フレイムがもう一柱いる』と評し、その銘を授けた。
「力が封印されているのかな」
弓を矯めつ眇めつし、脳内で剣を思い描けば、炎弓は即座に剣型へと変形した。一回転させてから斜に構え、軽く振り下ろすと、力強い神炎が残像に合わせて舞い散った。この5年半ですっかり慣れ親しんだ神威――フルードの兄であり師であるフレイムの力だ。
「いや、そんなことはないか。普通に使える」
(そう言えば、心から喚んだら目覚めると言っていた)
しばし剣を眺めた後、息を吸い込んで声を出す。
「神器さん。神器さん? 返事をして下さい、神器さーん!」
当人は至って真面目に呼びかけているが、傍目から見れば頭のおかしい奴である。
「駄目か……」
(何の反応もない)
諦めて神器を体内に戻し、上司である帝国大神官へ念話を送る。
《ライナス大神官、フルードです。天界から戻り、先程荷解きが終わったところです》
9歳の頃から15歳になるまでの間、フレイムの神域で聖威師の修行を付けてもらっていた。それが終了し、地上へ戻ったのが今朝。この数日は一日中霧雨が降り続いていたようで、晴れ渡った今でも空気が湿気を帯びている。
(といっても、聖威を使ったから一瞬でできたのだけど)
うず高く積み上がる大量の荷物も、聖威師の力を持ってすれば瞬き一回もしない間に開梱から収納まで完了する。
《そうか、ご苦労様。数日は休暇扱いにしているから、ゆっくり休みなさい。……と言いたいところだが、早速やってもらいたいことがある》
《はい。以前よりお伺いしていたことですね》
《ああ。君とローナの婚約式だ》
イステンド大公家の嫡女にして次期大公、アシュトン・ローナ・イステンド。年齢はフルードより一つ下。生家の慣習で男装している彼女と付き合うようになり、もう2年ほどが経つ。
《本当は、ローナが成年相当の12歳になった時点で済ませてしまいたかったんだ。だが、君が天界にいたから延期していた。正式な成年となる15歳までには婚約者を確定し、公表したい》
アシュトンが15歳を迎え、完全な成人になり次第、正式な結婚式を執り行うという。いささか駆け足のような気もするが、帝国随一の権門たる大公家の嫡女の婚姻となれば、色々とあるのだろう。
《私は今日の午後から半休を取っている。諸々の準備もあることだし、すまないがうちに来て欲しい。夜には日勤のローナが戻るから、今宵の内に式を執り行なおうと思っている》
《分かりました。それでは昼過ぎ頃、イステンド大公邸に伺います》
承諾したフルードは念話を切った。シンとした部屋で、何とも言えない寂寥が心にのしかかる。今まではすぐ隣に兄がいてくれた。
「フルード様」
部屋がノックされ、邸に配置されている形代が一礼して入室して来た。5年以上も主が不在だった邸から、人間の使用人は既に引き払われている。いるのはライナスやオーネリアたちが手配してくれた形代だ。今後は一人前の聖威師として機密事項を多く扱うようになるため、再び人間を入れることはせずこのままでいくつもりだ。
(近い内に自分で形代を用意しよう)
いつまでもライナスたちに甘えてはいられない。聖威を使いこなせるようになった以上、自分でやれることはやらなくては。そう思いながら形代を見る。
「何か?」
「フルード様のお戻りを歓迎する祝品が多数届いております」
「ああ……」
またぞろ面倒くさい事態になったと、溜め息を押し殺す。きっと世界中の王侯貴族から品々が献上されているのだろう。狼神の寵を得て聖威師になった時もそうだった。聖威師は世界王たる帝国と皇国の王すら凌駕する位置に在る。色持ちの聖威師となれば尚更で、皇帝にすら通ずる極地にいる。
「整理して目録を作っておいて下さい。後で確認します。返礼は祝品の内容物と相場に見合った物を見繕ってリストを用意して下さい」
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