座敷童、嫁に行く。

法花鳥屋銭丸

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材木問屋・世渡家三男坊の祝言

※元日のくるみは……。

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 ちゅっ、ちゅっ、ちゅくっ。

 閨に淫靡な音がする。

「くるみ、あ、そんな、可愛いお口で、しゃぶっていい、もの、じゃ、あ、あ、ああっ」

 狼狽した声を聞きながらたりの股にうずくまり、心を込めて舌を動かす。
 たりの、いとしい夫のにおいがする。
 握った根元は熱く張り詰めていた。

「く、口の中っ。熱っ……。くるみ、ああ、そんなとこ揉んじゃ、あ」

 布団に座ったたりは、くるみにされるがまま。珍しく顔を真っ赤に染めて身を震わせている。
 口にくわえ込んだたりのものが気持ちよさそうにぴくぴくするのを唇で感じ、くるみは嬉しくなった。


 ◇


 正月は台所で火を使わずおせち料理を食べるから、元日の朝はゆっくりだ。
 いつもよりのんびりしつつも、昼からたりはおふくとともに挨拶回りに出るため、きりりと羽織袴の姿になった。

「入れ違いになるけど、髪結いさんを頼んでおいたよ。祝言の時に来てくれたひとだから安心だ」

 たりの脱いだ着物を畳んでいると、たりは羽織の紐を結びながら、くるみへにっこり笑顔を見せる。

「祖母様と俺が出かけている間にね、身支度をして待っておいで。初詣に一緒に行こう」

 初詣にはこれを着るといいよ、と言って、たりは新しい着物を置いて出かけていった。

 新しい着物というのは心が浮きたつものだ。お山を下りるまで、着物をまともに着替えたことのなかった座敷童ならなおさらに。
 たりがくれた着物は京友禅の総柄だった。千代紙のように小さな柄が繰り返されている。黒地に赤みがかった細竹が規則正しく並ぶ中、梅や菊の小花がたくさん咲いた、愛らしくも粋な柄である。

 ふたりが出かけている間、おしずや髪結いのひとも加わって、ああでもない、こうでもないと帯や半衿を選ぶ時間はとても楽しいものだった。



「よく似合うねえ、くるみ。可愛いのに粋だ。こんなに素敵な御新造さんが俺のお嫁さんだなんて、夢のようだねえ」

 おふくと新年の挨拶回りから帰り、羽織袴から縞の着物へ改めたたりは、くるみの手を引きながらうっとりと言う。

 鎮守様への参道は、初詣のひとでごったがえしていた。あまりのひとの多さに尻込みしたくるみを、鎮守様まで遠回りで連れて歩きながら、たりは文句ひとつ言わない。

「こんなにきれいなくるみだもの、ひとごみの中で歩いて、着物が乱れちゃもったいないよ」

 例によって褒めちぎられて、くるみは照れてうつむいた。そうすれば今度は髷がよく似合うと言われ、つないでいない方の手で赤くなった顔を覆う。

「振袖姿が拝めなくなったのは残念だけど、くるみの若妻姿もいいものだねえ。可愛い中にも、凜とした色気があって……。その着物もね、お前さんが着れば値千金どころじゃない、一万両の眺めだよ」

 くるみは、お山のおかげで嫁入り支度はできたものの、普段着や気軽なよそ行きなどを全く持たずに嫁いだ。
 ちょいとそこまでお豆腐を買いに行くのに、嫁入り支度の黒紋付きなど着ていけない。そのため、折に触れたりやおふくが、こうして着物を選んでくれる。

 そのたびにたりはこの調子でくるみを褒めちぎるのだ。心からの言葉だと幸せそうな顔が言っていて、嬉しいやらくすぐったいやらでどうしようもない。

「割鹿の子も、くるみがすると可愛いなあ。赤い縮緬が花の咲いたようじゃないか」

 それは髪結いのひとの腕がよかったからだ。くるみに気を遣って結ってくれたので、今もあまり痛い思いをせずに済んでいる。

 くるみのまげは、人妻となったため丸髷の割鹿の子だ。人妻の髪型といいながら可愛らしい。髪結いのひとの腕もあって、ふわっとした縮緬と簪や櫛が華やかだ。ただ、痛い思いをしないように結えば、どうしても保ちが悪くなってしまうそうだが。

 髪がつれて痛いため、くるみは毎晩ほどいて眠っている。普通は一度髪結いに結ってもらったら、五日ほどは保たせるものらしい。女は自分で髪を結えてようやく一人前だというし、保たせるのは無理でも、せめて早くこの髷を結えるようになりたい。

「やっぱり鎮守様の回りは混んでいるね。大丈夫かい、くるみ」

 境内に入ろうとするところで、くるみはひとにぶつかりかけた。危ういところをたりに肩を抱かれ、引き寄せられる。
 たりの胸元に顔を押しつけ、そのかおりをかいで胸の奥がきゅんとする。

 昨晩は年神様をはばかって、閨で触れ合うことはしなかった。今まで、それこそあのお山でたりにはじめて抱かれてからこちら、毎晩のように可愛い、好きだとささやかれ、何度となく求められたのに。
 たった一晩、何もなかっただけなのに、布越しの体のぬくみとかおりを感じただけで、なんだか溶けてしまいそうだ。

 くるみは熱い息を吐く。
 足が、このままぎゅうっと抱きしめてくれないだろうか。

「くるみ、大丈夫かい、ほんとに?」

 心配したたりが顔をのぞき込んでくる。

 くるみは御水屋で手水を使い身を清めるまで、たりのかおりにぽわぽわと酔ったままだった。


 ◇


 くるみはたりの脚の間にうずくまって、舌と手を動かす。昨夜に閨事がお休みだったたりのものは、くるみにくわえられてさらに固さを増している。

「くるみ、くるみ、くち、お前さんの、小さなお口、気持ちいいよ……ッ」

 気持ちいい、と言われて嬉しい。

 今日は陽が落ちるのが待ち遠しかった。初詣、ひとごみから幾度となくかばわれる度に、くるみはたりの体のぬくみとかおりに切なくなった。
 ようやく一緒の布団に入っても、たりは今日のくるみがどんなに可愛かったかについて話すばかり。触れてくる気配さえなく、くるみは焦れて焦れて、焦れたあげくにこんなことになってしまったのだ。

 あのお山でくるみを女にして以来、ほとんど毎日のようにたりはくるみを抱いた。嬉しくて、幸せで、気持ちよくて、ああ、くるみをたりなしにはいられなくしたのは、お山から下りようと決心させたのはたりなのだ。

 優しく手で触れられるだけでくちづけが、肩を抱かれればたり自身が欲しくなってしまうように、肌をなでられるだけで甘く啼いてしまうようにくるみを変えたのはたり以外にいない。
 だから、どんなにくるみがはしたないことをしても、呆れないでほしい、と思う。自分はとうに、自分に呆れかえってしまっているけれども―――。

「くっ、くるみ、くるみ。俺も、お前さんに触らせておくれ」

 震える手で頭をなでられる。くるみが口元をたりのものから離し首をかしげると、たりはぱたん、と布団に倒れ込んだ。そのまま、こっちに手をひらひらしてみせる。

「こっちに可愛いお尻をよこしてごらん」

 戸惑いながらもくるみはたりの隣に、彼へ尻を向けて手をついた。

「俺の顔をまたいで続きをしておくれ。そうすりゃ、俺も、可愛いくるみにたくさん触れるよ」

 え。
 顔を。
 またぐ?

 思わず振り返ると、たりはにこにこしながらこっちを見ている。けれどその額は汗ばみ目尻が赤らんで、情事の熱がありありと見て取れる。

「さあ、ほら、こっちだよ」
「あ……」

 寝巻の上から尻を優しくなでられた。ぞくぞくして、勝手に尻が揺れてしまう。くるみは寝巻の裾をからげて体の前で抱きしめながら、おずおずとたりの顔をまたいだ。

 恥ずかしい。
 顔から火が出そうだ。

 そこがとても恥ずかしく秘密めいた場所だということは、他ならぬたりからたっぷりと教え込まれている。
 たりに触れられ繋がれば、どれほど気持ちよく幸せになれるのかも。

「ああ、くるみ、いい眺めだねえ……。俺のを舐めて濡れたのかい」
「あんっ」

 恥ずかしさと、尻をなで回す手の感触に声が出る。

「さ、もっと腰を落として……そう。濡れて、ひくひく動いて……。あかぁいここが、触ってくれと言ってるみたいだよ」

 尻を、内ももをなでられて、肝心の場所などどこにも触られていないのに、くるみの中から熱い蜜があふれ出ていく。

「ああ、あっ、んんっ」

 割れ目を広げられ、舌でなぞられる。たまらずかくん、とたりの体の上へ崩れ落ちれば、さっきまで触れていたたり自身が視界に入る。
 手で握り、くちづけする。たりが快楽に息を詰めたのが聞こえた。

 ぴちゃ、ぴちゃ、ちゅっ、くちゅっ。

 濡れた音がふたつ聞こえるのは、そう長い時間ではなかった。

「ん……う、あ、あん、あっ、ああッ!」

 くるみの熱く濡れたそこを、たりの舌がなぞり、舐め、こする。耐えられなくて、たりのものから口を離して声をあげてしまう。
 なんとか口にくわえてしまいたいのに、気持ちよくて声が止まらないのだ。せめてと必死になって手を動かし、何度も何度もくちづける。

「ああ、蜜まで甘い。くるみはどこもかしこも甘くて美味しいよ」
「ああ……っ、あう、うっ」

 ゆっくりと長く太い男の指が入ってきて、くるみは気持ちよさにぶるっとふるえた。その拍子に指をしめつけてしまい快楽に啼く。

「締まるねえ。ふわふわでとろとろで、あまぁい蜜がたっぷりなのに、俺の指に絡みついて離さない……。くるみ、お前さんはほんとに可愛い。たまらないよ」
「……ああっ」

 たりのとろけた声の中に欲と熱を感じ、手にした彼ものの固さにこれから先の快楽を思い、くるみはさらに彼の指を締めつけて啼いた。

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