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解体道具
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「うん、このケーキもおいしいね! クリームもいいけど、このチーズケーキ? ちょっとすっぱい感じもボクは好きだな」
そう言って目の前のケーキを美味しそうにほおばるご機嫌のタオと、それを微笑ましげに黙って見守る領主家一同と副ギルド長。
タオが出されたお菓子を堪能し終わり、一息ついたところでバルドが話を切り出した。
「実は、タオ殿にご相談したいことがあるのだが……」
ヒドラの解体ができず、難儀していること。
その打開策として、タオの持つ剣を譲ってもらえないかということ。
詳しいヒドラ解体の現状をレイアが補足しつつ、バルドがタオにお伺いを立てるも……。
「無理」
タオの返事は素っ気ない。
「お願いします! もう、タオちゃんしか頼れる人がいなくて……」
必死に拝み倒すレイアにアンドレも加勢する。
「なら、ヒドラを解体する間だけ、タオ殿の剣を職人に貸してもらうのはどうだろうか?」
あの剣を売ってもらえるなら何よりだが、現実的に考えて、あの剣がどれほどの値になるのか想像もつかない。
自分の命を預ける剣を見ず知らずの他人に貸せというのも非常識だが……。
ここはレイア嬢の抱える問題を解決することを最優先に考えて、なんとか剣を貸してもらう方向で交渉するべき。
剣の買取については、ヒドラの素材売却が終わった後、改めて交渉すればいい。
そんなアンドレの思惑に、タオが悪い笑みを浮かべる。
「まぁ、貸すだけなら別にいいけどね。せっかくだし、アンドレさんもちょっと使ってみる?」
そう言って腰の巾着から剣を取り出すタオ。
どう考えても剣の入る大きさではないのだが……?
カテリーナから聞いた話によると、あの巾着はタオの持つ屋敷の蔵に繋がっている? とのことで、蔵にしまってある物は巾着から自由に出し入れできるという。
剣もそうだが……あの袋もまさに神具だな。
「はい、どうぞ」
無造作に取り出した剣をアンドレに手渡すタオと、
「では、少々拝借します」
そう言って、両手でタオの差し出す剣を恭しく受け取るアンドレ……だが。
「くッ! ぐぐぐぐ~~~ぅ」
体全体で必死に支えるも、渡された剣を落とさぬよう抱き抱えるだけで精一杯で……。
全身を震わせながら、剣を落とさぬようなんとか床に膝をつく。
そうして、ようやく無事に剣を床に置くことができたアンドレが、ほっとしたように大きなため息を吐いた。
「ね? 無理でしょ?」
「い、いったいなんなのですか、この剣は!?」
「火尖剣。ボクが作った宝貝で、お気に入りの剣だね。
どう、アンドレさん? 貸してあげてもいいけど、使えそうかい?
まだ、売ってほしい?」
「……いえ、この剣は私には分不相応と思い知りました」
まずはヒドラ解体の名目で剣を借り受け、あわよくばそのまま譲ってもらえるよう交渉できないかというアンドレの下心は、タオには先刻お見通しだったらしい。
想い人の前で思わぬ醜態を晒すことになってしまったが、これも己の力量を弁えず、要らぬ欲をかいた結果と素直に反省するアンドレ。
(アンドレさんも、根は素直で真面目なんだよね)
アンドレの心の声を聞きながら、タオがそんなことを考えていると……。
「あの、私も試させてもらっていい?」
レイアが席を立ち、アンドレの前に置かれた剣に手を伸ばすも……。
床に置かれた剣はびくともしない。
続いてカテリーナとバルドが試してみるも、バルドがかろうじて剣を構えることができたぐらいで、残り3人は床から持ち上げることすらままならない。
「この剣はね、炎陽鉄と朱砂鋼を太陽の炎で鍛えたもので、重さもかなりあるんだよ。
もちろん大聖の神珍鉄ほど非常識なものじゃないけど、ふつうの人が使うには厳しいと思うよ」
(いえいえ、半神となられたお父様でも構えるのがやっとって……。それはもう、人族では扱えないものでは?)
そんな感想を抱きつつ、カテリーナは考える。
エンヨウテツ? シュサコウ? 確か、東方から伝わった錬金術関連の本にそのような鉱物の記述があったような……?
どちらも、確か伝説級の素材だったはず……。
それに、太陽の炎って!
そんな温度に耐えられる炉など存在しませんわ。
そんなもの、どうやってって……ん? 先ほどタオ様はボクが作ったとおっしゃっていたような?
「あの、タオ様。先ほどタオ様はこの剣をご自分で作られたとおっしゃっていたような……」
「あぁ、うん。これ、ボクの自信作なんだ」
そう言って自慢げな顔を向けてくるタオ様。
本当にお可愛らしい! ではなくて……。
「それはつまり、タオ様はヒドラの体を切断できるような剣を、ご自分でお作りになれるということでしょうか?」
カテリーナの言葉に、他の3人もその可能性に思い至る。
タオの剣を使わせてもらうのは無理でも、ヒドラを解体できるような刃物を作ってもらうことは可能ではないかと。
「うん、それはできるよ。流石に火尖剣ほどの剣を下界で作るのは無理だけど、トカゲの解体道具くらいならなんとかなると思うよ」
そのタオの言葉に安堵の息が漏れるも、続くタオの言葉に再び表情を固くする。
「ただねぇ、問題は素材が手に入るかだね。ふつうの鋼程度じゃいくら鍛えてもどうにもならないよ。
そうだなぁ……カティの錬金術の知識にあるこの辺で手に入りそうな素材でいうと……。
うん、ネメアの獅子の爪! これならトカゲの解体くらい余裕じゃない?」
タオの何気ない言葉に、その場に頽れる副ギルド長だった。
そう言って目の前のケーキを美味しそうにほおばるご機嫌のタオと、それを微笑ましげに黙って見守る領主家一同と副ギルド長。
タオが出されたお菓子を堪能し終わり、一息ついたところでバルドが話を切り出した。
「実は、タオ殿にご相談したいことがあるのだが……」
ヒドラの解体ができず、難儀していること。
その打開策として、タオの持つ剣を譲ってもらえないかということ。
詳しいヒドラ解体の現状をレイアが補足しつつ、バルドがタオにお伺いを立てるも……。
「無理」
タオの返事は素っ気ない。
「お願いします! もう、タオちゃんしか頼れる人がいなくて……」
必死に拝み倒すレイアにアンドレも加勢する。
「なら、ヒドラを解体する間だけ、タオ殿の剣を職人に貸してもらうのはどうだろうか?」
あの剣を売ってもらえるなら何よりだが、現実的に考えて、あの剣がどれほどの値になるのか想像もつかない。
自分の命を預ける剣を見ず知らずの他人に貸せというのも非常識だが……。
ここはレイア嬢の抱える問題を解決することを最優先に考えて、なんとか剣を貸してもらう方向で交渉するべき。
剣の買取については、ヒドラの素材売却が終わった後、改めて交渉すればいい。
そんなアンドレの思惑に、タオが悪い笑みを浮かべる。
「まぁ、貸すだけなら別にいいけどね。せっかくだし、アンドレさんもちょっと使ってみる?」
そう言って腰の巾着から剣を取り出すタオ。
どう考えても剣の入る大きさではないのだが……?
カテリーナから聞いた話によると、あの巾着はタオの持つ屋敷の蔵に繋がっている? とのことで、蔵にしまってある物は巾着から自由に出し入れできるという。
剣もそうだが……あの袋もまさに神具だな。
「はい、どうぞ」
無造作に取り出した剣をアンドレに手渡すタオと、
「では、少々拝借します」
そう言って、両手でタオの差し出す剣を恭しく受け取るアンドレ……だが。
「くッ! ぐぐぐぐ~~~ぅ」
体全体で必死に支えるも、渡された剣を落とさぬよう抱き抱えるだけで精一杯で……。
全身を震わせながら、剣を落とさぬようなんとか床に膝をつく。
そうして、ようやく無事に剣を床に置くことができたアンドレが、ほっとしたように大きなため息を吐いた。
「ね? 無理でしょ?」
「い、いったいなんなのですか、この剣は!?」
「火尖剣。ボクが作った宝貝で、お気に入りの剣だね。
どう、アンドレさん? 貸してあげてもいいけど、使えそうかい?
まだ、売ってほしい?」
「……いえ、この剣は私には分不相応と思い知りました」
まずはヒドラ解体の名目で剣を借り受け、あわよくばそのまま譲ってもらえるよう交渉できないかというアンドレの下心は、タオには先刻お見通しだったらしい。
想い人の前で思わぬ醜態を晒すことになってしまったが、これも己の力量を弁えず、要らぬ欲をかいた結果と素直に反省するアンドレ。
(アンドレさんも、根は素直で真面目なんだよね)
アンドレの心の声を聞きながら、タオがそんなことを考えていると……。
「あの、私も試させてもらっていい?」
レイアが席を立ち、アンドレの前に置かれた剣に手を伸ばすも……。
床に置かれた剣はびくともしない。
続いてカテリーナとバルドが試してみるも、バルドがかろうじて剣を構えることができたぐらいで、残り3人は床から持ち上げることすらままならない。
「この剣はね、炎陽鉄と朱砂鋼を太陽の炎で鍛えたもので、重さもかなりあるんだよ。
もちろん大聖の神珍鉄ほど非常識なものじゃないけど、ふつうの人が使うには厳しいと思うよ」
(いえいえ、半神となられたお父様でも構えるのがやっとって……。それはもう、人族では扱えないものでは?)
そんな感想を抱きつつ、カテリーナは考える。
エンヨウテツ? シュサコウ? 確か、東方から伝わった錬金術関連の本にそのような鉱物の記述があったような……?
どちらも、確か伝説級の素材だったはず……。
それに、太陽の炎って!
そんな温度に耐えられる炉など存在しませんわ。
そんなもの、どうやってって……ん? 先ほどタオ様はボクが作ったとおっしゃっていたような?
「あの、タオ様。先ほどタオ様はこの剣をご自分で作られたとおっしゃっていたような……」
「あぁ、うん。これ、ボクの自信作なんだ」
そう言って自慢げな顔を向けてくるタオ様。
本当にお可愛らしい! ではなくて……。
「それはつまり、タオ様はヒドラの体を切断できるような剣を、ご自分でお作りになれるということでしょうか?」
カテリーナの言葉に、他の3人もその可能性に思い至る。
タオの剣を使わせてもらうのは無理でも、ヒドラを解体できるような刃物を作ってもらうことは可能ではないかと。
「うん、それはできるよ。流石に火尖剣ほどの剣を下界で作るのは無理だけど、トカゲの解体道具くらいならなんとかなると思うよ」
そのタオの言葉に安堵の息が漏れるも、続くタオの言葉に再び表情を固くする。
「ただねぇ、問題は素材が手に入るかだね。ふつうの鋼程度じゃいくら鍛えてもどうにもならないよ。
そうだなぁ……カティの錬金術の知識にあるこの辺で手に入りそうな素材でいうと……。
うん、ネメアの獅子の爪! これならトカゲの解体くらい余裕じゃない?」
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