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近くて遠い存在
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「それを恋というんですよ!」
「恋?」
箸を片手に俺は首を傾げた。前田は前のめりに顔を近づけてうなずく。
「そう、恋です。立花さんは恋をしてるんですよガンちゃんに」
「恋って俺、もう三十路だけど」
「年は関係ありません」
前田がムキになって言う。お昼休みの休憩室は人が多く、騒がしい。会話を他の人に聞かれる心配はあまりない。
俺はきんぴらごぼうを口に運ぶ。ガンちゃんの手作り弁当だ。
後輩は目ざとくその弁当に目を向ける。
「朝と昼も夜もガンちゃんがご飯作ってくれてるんでしょ。もう完全に胃袋掴まれちゃってるじゃないですか」
「胃袋掴まれてるって大げさな……」
ガンちゃんとの生活を考えてみる。朝起きれば健康的で美味しい朝食が準備されている。昼はお弁当。帰ればガンちゃんが作ってくれた夕飯がある。
ガンちゃんと生活を共にしてから俺の食生活は整えられた。健康的な食事は体だけではなく心にも健康を与えてくれる。
今の俺ってほとんどガンちゃんのご飯で構成されている。
「でしょ」と言いたげな後輩の顔に俺は目をそらした。
前田は大きなため息をついた。
「本当は分かってるんじゃないんですか?自分が恋してるって」
「は?そんなわけない。俺は恋とかそういうのはいらないしこれからもするつもりないから」
前田は二度目のため息をついて紙コップのお茶を飲む。
「どうしてそうも頑固かなー」
「頑固ってな、俺はーー」
「でもガンちゃんに触れられるの嫌じゃないんでしょ」
俺は黙る。嫌、じゃない。嫌どころかもう少し触れて欲しいと思ってしまうのだ。
沈黙の意味を分かったかのように前田はうなずく。
なんでも分かったような後輩の態度に俺はムッとする。
そもそもどうして俺は後輩なんかにこんな話をしているのだろうか。
「もういいよ、この話は」
話を切り上げようとすると前田はそれに被せるように声を発した。
「じゃあ、ガンちゃんが他の人に触れることを想像してみてください。どう思いますか?」
「どうって、別に…」
ガンちゃんが他の人に触れる?キスをしたりそれ以上のことを他の人と……
「今、嫌だって思ったでしょ」
一瞬、心の中を読まれたと思ってどきりとした。
「それが答えでしょ。逃げてても何も解決しませんよ」
「逃げる?」
前田がうなずく。
俺は逃げているのだろうか。何から?ガンちゃんの気持ちから?自分の気持ちからだろうか。目を逸らしてなかったことにしてもそれは無くなりはしない。この気持ちに名前をつけることが怖い。
ちゃんと分かっている。分かっているけど。
「あーなんかムカつく。なんでも分かったようなこと言うなよ」
後輩を軽く睨む。
「まあ、立花さんよりは分かってますよ。恋愛については」
何も言えない。俺は恋愛なんて分からない。知りたいとも思わなかった。でもこのままじゃいけない。変わらないといけないのだろう。
「恋愛は分からないが、前田に頼んである資料がまだ提出されてないけどそっちはどうなってる?」
前田に何か仕返しをしてやりたくて俺は指摘する。生意気な後輩は目を逸らす。
「ちゃんとやってますよ、地道に」
「今日の定時までに提出だから頼むな」
「うー」
肩を落とす後輩に俺は笑う。笑いながら俺の思考はガンちゃんに寄っていく。
ガンちゃんは今、何をしているだろう。
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