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1章 出会い
秘密基地
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「や、やど…?」
「うん、寝泊りできるところ」
そう言うお兄さんの綺麗な黒髪は、風にたなびいて、まるでふわりと舞うリボンの様に軽やかに波打っていた。
「……」
ニゲルは考えた。
宿は、町場にしかない。
この辺りは山の麓で、町からは結構離れている。
だから、民家もぽつぽつしかないし、たまに見かける猟師のおじさん達なんて、町場で暮らすのが面倒だからと、山暮らしをしている人もいる。
今から町に戻って宿を探すにしても、ニゲルの足で必死に歩いても、1日以上かかる。
きっと大人でも、半日はかかるんじゃないかな、そう思った。
モジモジと指先をいじりながら、お兄さんを見上げる。
「…えっと…、僕には、その、よく分からない…けど、」
ないと思う。
そう最後まで言おうとしたら、お兄さんはいきなりそばに転がり落ちていたつりざおを拾い上げた。
「…これ、君の?」
ニゲルの唯一のつりざお。
毎日使っているから、持ち手の部分なんて黒ずんで汚れてきたない。
「え?う、うん…」
「糸が切れてるじゃないか」
「あ、さっき…魚に逃げられて…」
しゅんと、しりつぼみになる声に、お兄さんは、ニゲルの顔を覗きこんだ。
「……それで泣いていたのかい?」
「えっ…見てたの?」
びっくりするやら恥ずかしいやら、とにかく驚きのあまりニゲルはドングリ眼でお兄さんを見つめ返していた。
まさか、泣いているのが見られていたなんて。
(はずかしい…!)
「これ、私が直してあげよう」
(え?)
思いもしない良い話に、耳を疑った。
(え…うそ?)
「これがないと泣くくらい困るんじゃないのか?」
お兄さんは、悪戯っ子のような目でニゲルを見返してきた。
「いいの!?直せるの!?」
「あぁ。嘘じゃない。このくらい簡単さ」
「じゃ、直してよ!」
期待に膨らんだ頰を、お兄さんはツンツンと綺麗な指でつついてきた。
「その代わり、君のお家に泊まらせてくれないかな?」
「な、なんで?」
(僕たちのいえに?)
「な、何もないよ、僕んち…」
泊めてほしいだなんて。
戸惑って、ついつい疑わしい声になってしまった。
人の良さそうな感じがするから、ニゲルの家に泥棒に入ってやろうというわけではないかもしれないが、無闇に知らない人を入れてはダメとお母さんが言っていた事を思い出す。
「ダメかい?…そう心配しなくても、私は怪しい者ではないよ。君のお母さんも知ってるしね」
なんだって?
お母さんを知ってる?
お母さんを知っているって本当の本当に?
「ねぇ、なんでお母さん知ってるの!?お母さん、今どこ??」
ニゲルはきれいな刺繍やキラキラした粉のようなものが付いている青いそでを掴んで、必死に訴えた。
「お母さんに会いたい!!お母さんはどこに居るの!?」
お兄さんは、残念そうな声色で、ニゲルにほほえみかけた。
「…お母さんはね、どうしても帰れない、遠い国に行かなくちゃならなくなったんだ。でも、ニゲル君の事を忘れたりしてないよ」
「な、なんで!!なんで遠くにいっちゃったんだ!!僕たちを置いて!!ひどいよ!なんで!!」
ニゲルは周りなんか気にせず叫んだ。
「君の事が大切だから、何にも言わずに出ちゃったんだ。どうか許してあげてよ」
それを聞いて、ニゲルは袖に顔を押しつけて泣いた。
大声で泣いた。
お母さんがこの悲しみを聞いていればいい、そうして、どんなに自分達が怒っているか知って後悔すればいい。
ニゲルは当て付けのようにお兄さんの袖を涙で濡らし、強く握りしめて、しわくちゃにした。
「ニゲル君、君には何人きょうだいがいるの?」
「うっ…うぅっ…ずずっ…しら、ない…」
もうめちゃくちゃだ。
魚も取れない。
つりざおは壊れた。
変なお兄さんは家に泊めてくれと言う。
そのお兄さんが、お母さんは帰って来れないほど遠くに行ってしまったと言う。
頭の中は、もういっぱいいっぱいになった。
「…君はお兄ちゃんなんだよね?だから、1人で頑張ってるんだろう?」
「…だったら、なに…」
「私が、つりざおを直すついでに、山で野ウサギでも捕まえてあげよう。そしたら、みんなでウサギ汁を食べよう。…どうかな?すこしは元気になれる?」
ニゲルは眼をパチパチと瞬いた。
涙で濡れて重くなったまつげが、そよそよと通り抜けた秋風に優しくなでられる。
「…うさぎ…食べたこと、ない…」
顔を上げると、お兄さんはもう一度、頭を撫でてくれた。
「さあ、もう日が沈んでしまうよ。一緒に帰ろう」
しかし、ニゲルは戸惑った。
家はせまい。
おとなが、お兄さんのように背の高い身体が、横たえられる場所が無いのだ。
「で、でも」
ちょっと待ってと言うと、お兄さんは首をかしげた。
「大丈夫だよ」
「僕のうちは、その、せまいんだ。だから、お兄さんじゃ、入らない…」
「入らない?」
「あぁ…そうじゃなくて、身体を横に出来るような広い場所がないんだ…」
その時、ニゲルは良い事をひらめいた。
「…そうだ…あ、あの!僕の秘密基地にくる??」
「うん、寝泊りできるところ」
そう言うお兄さんの綺麗な黒髪は、風にたなびいて、まるでふわりと舞うリボンの様に軽やかに波打っていた。
「……」
ニゲルは考えた。
宿は、町場にしかない。
この辺りは山の麓で、町からは結構離れている。
だから、民家もぽつぽつしかないし、たまに見かける猟師のおじさん達なんて、町場で暮らすのが面倒だからと、山暮らしをしている人もいる。
今から町に戻って宿を探すにしても、ニゲルの足で必死に歩いても、1日以上かかる。
きっと大人でも、半日はかかるんじゃないかな、そう思った。
モジモジと指先をいじりながら、お兄さんを見上げる。
「…えっと…、僕には、その、よく分からない…けど、」
ないと思う。
そう最後まで言おうとしたら、お兄さんはいきなりそばに転がり落ちていたつりざおを拾い上げた。
「…これ、君の?」
ニゲルの唯一のつりざお。
毎日使っているから、持ち手の部分なんて黒ずんで汚れてきたない。
「え?う、うん…」
「糸が切れてるじゃないか」
「あ、さっき…魚に逃げられて…」
しゅんと、しりつぼみになる声に、お兄さんは、ニゲルの顔を覗きこんだ。
「……それで泣いていたのかい?」
「えっ…見てたの?」
びっくりするやら恥ずかしいやら、とにかく驚きのあまりニゲルはドングリ眼でお兄さんを見つめ返していた。
まさか、泣いているのが見られていたなんて。
(はずかしい…!)
「これ、私が直してあげよう」
(え?)
思いもしない良い話に、耳を疑った。
(え…うそ?)
「これがないと泣くくらい困るんじゃないのか?」
お兄さんは、悪戯っ子のような目でニゲルを見返してきた。
「いいの!?直せるの!?」
「あぁ。嘘じゃない。このくらい簡単さ」
「じゃ、直してよ!」
期待に膨らんだ頰を、お兄さんはツンツンと綺麗な指でつついてきた。
「その代わり、君のお家に泊まらせてくれないかな?」
「な、なんで?」
(僕たちのいえに?)
「な、何もないよ、僕んち…」
泊めてほしいだなんて。
戸惑って、ついつい疑わしい声になってしまった。
人の良さそうな感じがするから、ニゲルの家に泥棒に入ってやろうというわけではないかもしれないが、無闇に知らない人を入れてはダメとお母さんが言っていた事を思い出す。
「ダメかい?…そう心配しなくても、私は怪しい者ではないよ。君のお母さんも知ってるしね」
なんだって?
お母さんを知ってる?
お母さんを知っているって本当の本当に?
「ねぇ、なんでお母さん知ってるの!?お母さん、今どこ??」
ニゲルはきれいな刺繍やキラキラした粉のようなものが付いている青いそでを掴んで、必死に訴えた。
「お母さんに会いたい!!お母さんはどこに居るの!?」
お兄さんは、残念そうな声色で、ニゲルにほほえみかけた。
「…お母さんはね、どうしても帰れない、遠い国に行かなくちゃならなくなったんだ。でも、ニゲル君の事を忘れたりしてないよ」
「な、なんで!!なんで遠くにいっちゃったんだ!!僕たちを置いて!!ひどいよ!なんで!!」
ニゲルは周りなんか気にせず叫んだ。
「君の事が大切だから、何にも言わずに出ちゃったんだ。どうか許してあげてよ」
それを聞いて、ニゲルは袖に顔を押しつけて泣いた。
大声で泣いた。
お母さんがこの悲しみを聞いていればいい、そうして、どんなに自分達が怒っているか知って後悔すればいい。
ニゲルは当て付けのようにお兄さんの袖を涙で濡らし、強く握りしめて、しわくちゃにした。
「ニゲル君、君には何人きょうだいがいるの?」
「うっ…うぅっ…ずずっ…しら、ない…」
もうめちゃくちゃだ。
魚も取れない。
つりざおは壊れた。
変なお兄さんは家に泊めてくれと言う。
そのお兄さんが、お母さんは帰って来れないほど遠くに行ってしまったと言う。
頭の中は、もういっぱいいっぱいになった。
「…君はお兄ちゃんなんだよね?だから、1人で頑張ってるんだろう?」
「…だったら、なに…」
「私が、つりざおを直すついでに、山で野ウサギでも捕まえてあげよう。そしたら、みんなでウサギ汁を食べよう。…どうかな?すこしは元気になれる?」
ニゲルは眼をパチパチと瞬いた。
涙で濡れて重くなったまつげが、そよそよと通り抜けた秋風に優しくなでられる。
「…うさぎ…食べたこと、ない…」
顔を上げると、お兄さんはもう一度、頭を撫でてくれた。
「さあ、もう日が沈んでしまうよ。一緒に帰ろう」
しかし、ニゲルは戸惑った。
家はせまい。
おとなが、お兄さんのように背の高い身体が、横たえられる場所が無いのだ。
「で、でも」
ちょっと待ってと言うと、お兄さんは首をかしげた。
「大丈夫だよ」
「僕のうちは、その、せまいんだ。だから、お兄さんじゃ、入らない…」
「入らない?」
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その時、ニゲルは良い事をひらめいた。
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