最後の魔導師

蓮生

文字の大きさ
12 / 93
1章 出会い

導師の弟子

しおりを挟む

「…それでも、僕はサフィラスの弟子になりたい。どうか僕の先生になって」

 ニゲルは強くなりたかった。
 アーラやマリウスを守りたい。そして、自分の目標を持ってみたい。知らない事を知って、洞穴から出て、この世界に飛び出してみたい。

「じゃあ、私はニゲルが求める事をできるだけ、教えてあげよう。ただし、魔法に関しては、約束を守ってもらうよ」

サフィラスは約束の証にと、丸めて紐で結んである、一枚の古びて破れかけている紙を、懐から取り出した。
 紐を解き、クルクルと巻いてあった手のひら大の紙を広げる。

「これは読めるかな?」

差し出された紙を見ると、なにやらミミズが干からびて縮んだ時のような、ちょっとガタガタした文字が並んでいる。
 下の方には、その文字が一部消えたような跡もある。

「…読めない字だ…」

「そうか。なら私が読もう。ここには魔法を学びたい者が魔導師と交わす約束が書いてあるんだ。いいかい?……1つ、むやみに見せない。2つ、誰にも教えない、3つ、安易に使わない。」

「え…もしかして、アレは、人に見せたりしたらだめなの…?」

 ニゲルの期待は風船の空気が抜けるごとく、一気にしぼんだ。
 だいたい誰にも見せられないものを覚えて、いつ使うのか。一生日の目を見ない技になるではないか。
 あの宙に浮く矢はすごくかっこよかったのに。
 使えるようになっても、誰にも自慢できないなんて。
 残念な気持ちに眉が下がる。

「がっかりしたかい?」

「…うん…」

「使えるようになったら、妹や驚く弟に自慢したかった?」

「…まあ、そうだね…だって、サフィラスは僕に見せてくれたじゃない!」
「はは。たしかに。でも私は、見せてとせがまれて誰かに見せたりはしない。魔法は、本当に使うべき時、あとはどうしても使わなければならない時以外はむやみに見せたりはしない。ニゲルだけ、特別だ」

 特別。

 そう言われた途端、ムズムズするような嬉しさが込み上げた。
 ただ1人、自分にだけ特別に見せてくれたのか。
 その事実に思わずほおが緩む。

「なんで僕だけ特別に見せてくれたの?」

「それは、今は秘密だ。でも、48日後に教えてあげる」

「そっか…わかったよ…。内緒にしとく!誰にも教えない、言わない。けど、安易に使わないって、どういう意味なの?」

 サフィラスは、ニゲルの目を見てしっかりとうなずいた。
「そう、安易に使ったら絶対ダメだ。安易って、つまり、深く考えずに、パッと使っちゃうってこと」
「いちいち考えて使うの?」
「その通り」
「…なんで!?面倒だよ!使えるものはパッと使った方がいいに決まってる!」

 サフィラスは首を横に振った。

「それはダメだ」

「なんでよ…」
 酷く真剣なかおで見つめ、ニゲルの両腕を握りしめた。
「ニゲル。これはとても大事な事だ。ニゲルは、もしかしたら人を殺せるだろう技をパッと使うのかい?」
「使わないよ!」
「じゃあ、ニゲルを何度も何度もいじめてくる人や、弟達を危険にさらす人が現れたとき、その技を使えたら?」

「…わからない…つかう、かも…」

「そういう困った時や、危険にさらされた時、それ以外のどんな時でも、それを本当につかうべきかどうか、考えなければいけない…それは、力を持つ者の責任なんだ」

「そうなんだ…」
 なんだか難しくてよく分からない。

「ニゲルにはまだ難しいかもしれないけど、人は大きな力を持つと、変わってしまう。欲深くなるんだ。自分に都合よく相手を支配しようとしたり、その力で気に入らない相手を痛めつけたりする。そして、もっと、もっとと、手に入る物をどんどん自分のものにしてしまおうと思うようになるんだ」

「僕はしない!」

「そうか、それは安心だ。だけどちょっと考えてごらん?もしニゲルが、それこそ立派な騎士や王様、友達の誰にも負けない強い力を得たら、その力をあちらこちらで気持ちよくふるってみたくなりはしないかい?誰も自分に敵う人がいないんだから。そうして、ちやほやされたり、すごいって褒められて大事にされたりして、好きな様に生きてみたいと。それに、悪い人を倒して!って可愛い女の子なんかに頼まれるかもね。どうかな?」

「たしかに!それはやってみたいかも!そしたら、僕たちは貧乏じゃなくなるじゃない!御礼に沢山お金も貰えるかも!英雄にもなれる!」

 そうだ、サフィラスの言う通り、たしかにそうする事もいつかできるかもしれないと思った。だって、不思議な技が使えたら、きっとどこに行っても引っ張りだこだ。

「…あぁ、魅力的だね。お金持ちになれるかも。英雄にもね。…どうする?それだと、私はニゲルに教えられないよ、魔法はね」

「え…」

 最後の一言に、ニゲルは大きな衝撃を受けた。

 破れそうなその黄ばんだ紙に書かれている文字を凝視する。

(な、なんで…)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

#アタシってば魔王の娘なんだけどぶっちゃけ勇者と仲良くなりたいから城を抜け出して仲間になってみようと思う

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 ハアーイハロハロー。アタシの名前はヴーゲンクリャナ・オオカマって言ぅの。てゆうか長すぎでみんなからはヴーケって呼ばれてる『普通』の女の子だょ。  最近の悩みはパパが自分の跡継ぎにするって言って修行とか勉強とかを押し付けて厳しいことカナ。てゆうかマジウザすぎてぶっちゃけやってらンない。  てゆうかそんな毎日に飽きてるンだけどタイミングよく勇者のハルトウって子に会ったのょ。思わずアタシってば囚われの身なのってウソついたら信じちゃったわけ。とりまそんなン秒でついてくよね。  てゆうか勇者一行の旅ってばビックリばっか。外の世界ってスッゴク華やかでなんでもあるしアタシってば大興奮のウキウキ気分で舞い上がっちゃった。ぶっちゃけハルトウもかわいくて優しぃし初めての旅が人生の終着点へ向かってるカモ? てゆうかアタシってばなに言っちゃってンだろね。  デモ絶対に知られちゃいけないヒミツがあるの。てゆうかアタシのパパって魔王ってヤツだし人間とは戦争バッカしてるし? てゆうか当然アタシも魔人だからバレたら秒でヤラレちゃうかもしンないみたいな?  てゆうか騙してンのは悪いと思ってるょ? でも簡単にバラすわけにもいかなくて新たな悩みが増えちゃった。これってぶっちゃけ葛藤? てゆうかどしたらいンだろね☆ミ

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

処理中です...