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1章 出会い
農場にて 新たな出会い
しおりを挟む翌朝早く、サフィラスが洞穴まで迎えにくると、ニゲル達は身一つでその農場に向かった。
3人とも持っている服で一番綺麗なものを着て、アーラには、可愛く見えるように寝癖をなおして、髪をちゃんと解いてあげた。
お母さんの貯金のお金は家に置いておくのも心配になったけれど、サフィラスが家の鍵にこっそり魔法を使って絶対に開かないし壊せないようにしようと耳打ちしてくれたので、全て置いてくることに決めた。
農場には、洞穴の家から1時間ほど馬車に揺られてついた。
脇に植えられた背の高い木が並ぶ道を進み、レンガの門を通り抜けると、左には牧草地が広がり、遠くに牛が見える。右には庭があって、なんだか見たことのない花も沢山咲いている。それに、木の柵に囲われた鶏がいたり、畑が見える。そして、洞穴の家には無い、窓が沢山ある大きな二階建ての建物があった。きっとこれから会う人はそこにすんでいるのだろう。そのそばには離れの建物も3つある。
あまりに広々とした庭や建物の大きさに、マリウスもアーラも馬車の窓にへばりついて外を眺めては緊張した面持ちで目を瞬いている。ニゲルも窓の外を眺めて、こんなに明るい場所で走り回って暮らせたら楽しいかもと思った。
「私がみんなの紹介をしよう。そしたらしばらく席を外すから、みんなで色々お話をたのしむといい。また昼過ぎに迎えにくるよ」
サフィラスはみんなに声をかけると、隣に座るニゲルの頭を撫でた。
「…ニゲル、心配することはない。私を信じて。悪いようにはしない」
ニゲルはうなずいた。
「わかったよ。必ず迎えにくる?」
「あぁ。迎えにくる」
その時、ガタンと揺れて馬車が止まった。
御者と何やら外で誰かが話している声が聞こえてきた。
おっとりした女の人の声だ。
そして、ガチャンととびらが開かれた。
「あら、みなさん、はじめまして。…あぁ!久しぶりじゃないサフィラス!」
「やあ、久しぶりだね、スマル。ウエンは?」
スマルと、サフィラスから呼ばれたその女の人は、後ろで赤茶色い髪を一つに束ねていて、なんだかすっきりとした表情で明るく笑っている。おそらく、お母さんと同じくらいの歳か、それよりすこし年上みたいな気がした。
「ウエンは今朝急に用事が出来ちゃってね、本当はみんなと沢山時間を過ごす予定だったんだけど、朝早く出ちゃって…夕方まで帰ってこないのよ」
「そうか…。ちょっと話があったんだが…仕方ない」
「あら。もう行っちゃうの?」
「ああ。用を済ましてまた夕方迎えに来るつもりだ。それまでよろしく頼む。女の子がアーラちゃん、この子はマリウスくん。そして、」
サフィラスはアーラとマリウスに続き、馬車から降りたニゲルをじっと見て声をかけた。
「この子が、ニゲル。…ではまた後で迎えにくる。スマル、頼んだよ。…ニゲルも楽しんで」
ニゲルはサフィラスの何か物言いたげな表情をじっと見つめたが、心配しないでほしいという気持ちを込めて、なんとか笑顔でうなずく。
「…うん。またね」
アーラとマリウスも、馬車に乗り込んだまま降りないサフィラスをふり返る。
サフィラスは右手をあげてニゲルたち3人に手を振ると、御者と共に颯爽と元来た通りへ消えていった。
「さあ、みんな!中に入りましょ!まずは朝ごはんを一緒に食べましょう」
棒のように突っ立ったままの3人に、その女の人は晴れた日の太陽のような瞳で元気よく笑いかけた。
そうしてうながされて屋敷に入って、ニゲルはとにかくすべてに驚いていた。
まず、洞穴の家とは比べられないくらいものすごく広い。
こんな広い台所は見たことがないというくらい広々として明るい台所。炉も大きいけれど、そのそばにはパンを焼くことが出来る石窯があるのだ。部屋の中に石窯があるなんて、いままで見たことがない。石造りの壁の間には細長い窓がいくつかあって、天井も高い。そしてそれに続く部屋には10人くらいが囲んでもまだ余裕がありそうなほどの大きな四角い、黒っぽい木の机があって、すでに白いお皿や木のカップがたくさん並んでいる。中央にはパンがいっぱい入ったカゴが見える。
「…すごい…」
マリウスがあっけにとられて部屋中をぐるぐる見回している。アーラは石の壁にかけられている葉っぱや押し花で作られた綺麗な飾りを食い入るように見ていた。
女の人はニゲル達のそばにくると、背中を押して着席をうながす。
「あなた達のことは食事をしながらゆっくり聞かせてね。さあさあ、席について!まずはうちにいる子たちの紹介だわ」
そう言ったとたん、廊下からドタバタとした足音と共に大きなしゃべり声が聞こえてきた。
「あーもう!ラモったらなんであんな寝坊助なの!?私達お母さんに早く起きなさいって言われてたのに!」
「…仕方ないよ。俺とラモは昨日、新しく来る奴のための準備で夜更かししたし、疲れてんだよ」
マリウスとニゲルは、はつらつとした女の子の声と、ラモという子をかばうような男の子の声が耳に届いて、2人して顔を見合わせた。
「…ちょっとあんた達!静かにね。もうみんな来てるんだから!」
パッとその2人の視線が、机のところの椅子に大人しく腰掛けているニゲル達をとらえた。
「あ!!本当だわ」
「おっと、これは失礼」
ちょっと背の高い女の子はびっくりして丸い目をさらに丸く見開いている。男の子は、口元を押さえてチラッとスマルという女の人を見た。その時、横顔しか見えない時にはわからなかった黒い眼帯が見えた。左目が悪いのだろうか。
「2人とも、ラモはどうしたの?」
「ラモは寝てて起きやしない。俺もヴェシカも起こしたけど、布団、頭からかぶっちまってるよ」
「…んもう!今日は朝からお客さんが来るって話したのに!…仕方ないわ。貴方達も席に着いて!自己紹介よ!」
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