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1章 出会い
3人の子供
しおりを挟む食事の机に並べられた木のカップには、香ばしい匂いのお茶が注がれた。目の前でとくとくと茶色い液体を吐いているやかんの口を見ていると、昔お母さんがこんな匂いのするお茶っぱを沢山作っていたような記憶がよみがえってきた。
そして、いよいよ器に、豆の煮込みスープがたっぷりと入れられ、平たいお皿には菜の花みたいに黄色い卵が乗せられたのだ。まちがいない。たしかに卵だ。思わず目を見張った。刻んだ玉ねぎや人参が入ったたまごなんて、いつぶりだろうか!美味しそうなにおいに、自然とごくん、と唾を飲んでしまう。
「うわあ…たまごだ…」
となりに座るマリウスもぼそりとつぶやいた。
「さあ、まだ一人起きてきていないけど、食べましょ!パンは好きなだけ食べてね!かごの横にジャムがあるでしょ?器にとって、パンにつけて食べてみて!木苺のジャムよ。おいしいわよ~」
「じゃ、俺が先にとらせてもらうよ」
ひょいっと、ニゲルの真向かいに座る眼帯の男の子が、かごの脇にあるびんを取った。
赤いとろとろしたものを、びんに突っ込まれていた木のスプーンで山盛りすくって、2回、自分の皿に乗せておいたパンの切れ端にボテッと落とした。
「…いただきます…」
となりでおそるおそるといったマリウスの声が聞こえて振り向くと、まずはスプーンで豆の煮込みスープをすくっていた。きっと緊張して、とりあえずなんかノドに引っかからない飲みやすいものと思ったのだろう。すこし手がふるえている。アーラもマリウスの隣で小声でいただきますと言うと、同じように豆のスープに手を伸ばしていた。
ニゲルは向かいの眼帯の男の子をちらりと見た。なぜか彼の事が気になるのだ。すると、彼もこっちを見ていたのか、もぐもぐとパンを頬張るほおが一瞬止まり、バチっと目が合った。鋭い目つきだ。あわててうつむく。
「い……いただきます」
ごまかすように何気なくつかんだものがフォークだったため、ニゲルは平たいさらに盛られた野菜の入った卵料理をそれですくった。
「ん…おいしい…!」
思わず口の端がにこりと持ち上がった。食べたことない味だったけれど、ふんわりとしているたまごに、味のついた野菜がコロコロ入っていて、シャキシャキしたりとろとろしたりで、口の中が楽しい。それを見たのか、眼帯の男の子の隣に座る背の高い女の子が自慢そうに言った。
「そりゃそうよ!お母さんの卵料理は最高に美味しいもん!絶対気に入るって思ってた。ね!マーロン!」
ニゲルは再びマーロンと呼ばれた男の子を見た。
かれの名前は、マーロンというのか。
「…ああ。うまい」
パンが好きなのだろうか。こんどはかごからパンの薄切りを2つ器にとり、その上に卵料理を乗せてかぶりついた。
「じゃあ、食べながらまずは…最年長のヴェシカから自己紹介してちょうだい!」
女の人がそういうと、手に持っていたフォークを置き、にこりと女の子が笑った。
「いいわ!私はヴェシカ。ここの農場の娘よ!もうすぐ15歳になるけど、まだぎりぎり14歳。いつもは乳しぼりや鶏舎の管理をしているの。よかったら後で一緒にやらない?」
そう言う笑顔が女の人にそっくりだ。そうして女の子はニゲルたち3人を眺めると、お母さんというあの女の人を振り返った。
「ねえ、お母さん、いいでしょ?」
「いいわよ。ただし、このうちを案内したいからそれがすんでからね!」
「…じゃあ、ボクが案内するよ」
全員がびっくりして一斉に声の主を振り返った。
「ラモ!あなた、ちょっと遅いわよ!」
ヴェシカのお母さんが、その子に近寄って、鶏のしっぽのようなねぐせの頭をなだめるようになでつけた。廊下の柱からねぐせまみれの焦げ茶色の髪がこちらをのぞいている。まるでアーラみたいだ。
「あー、ごめんなさい。眠くってさ」
ゆっくりと柱から出てくると、てくてくゆらゆらと、こちらに向かって歩いてくる。
服はボタンで止まってはいるけれど、なんだか襟がずれて、ななめになっている。かれが椅子をギイっと引いてマーロンの隣に腰かけると、どうやらボタンが一個飛ばしでついているとわかった。
「おい!ラモ。お前、さっさと自己紹介しろよ」
「え?ボク?」
かれはマーロンにそう言われて、ヴェシカのお母さんが注いでくれたカップのお茶をゴクンとのみこんだ。
そしてその視線がすぐにアーラを見た。
おそらく、かれとアーラは同じくらいの歳ではないだろうか。背が小さいし、そばかすがあるほっぺがふっくらとしているのもアーラと同じで、とにかくよく寝そうだ。眠たそうなまなこが、ぱちぱちと瞬いて、次に隣に座るマリウスとニゲルをとらえると、恥ずかしそうにねぐせだらけの頭をかいた。
「あー、えっと…ボクはラモって言います…あー、その…えっと…」
ちょっと高い声で、目をキョロキョロと動かしながら必死に何をしゃべろうか考えている姿を見ると、なんだか手伝ってあげたくなる。まるでリスみたいだ。ニゲルはその様子を見ていて、つい笑みを浮かべてしまった。
「おい、ラモ!おまえ、笑われてるぞ」
「あ、ごめんなさい!…そんなつもりじゃなくて…」
ニゲルはマーロンが言っているのは自分の事だと思い、悪い風に勘違いされたくなくてとっさに首を横にブンブン振った。
「その、君がアーラに似ているなって、思って…」
チラッとアーラを見る。
アーラはラモを見て、うつむいた。耳やほっぺが赤くなっている。
「…ボクに似てる?アーラって、その子?」
サッと、人差し指でアーラをさすと、首をかしげてニゲルを見た。とたんに、アーラが顔を上げてコクンとうなずいた。
「…えっと、わたしはアーラです…はじめまして」
多少顔がひきつっていたけれど、アーラは立ち上がっておじぎまでして、立派に挨拶した。
「アーラちゃんね!かわいい名前。私はここの農場主のウエンの妻、スマルよ。よろしくね!」
「よろしく」
そう農場のみんなは口々に言った。
ニゲルも慌て立ち上がり挨拶する。
「僕はニゲルって言います。年は11歳。アーラは8歳です。僕が一番上で、となりのマリウスは10歳です」
「は、はじめまして…マリウスです」
マリウスも立ち上がるとぎこちなくおじぎをした。
「…俺が最後だな」
そういうと、マーロンはパンのかけらを口に放り込んだ。
「…俺はマーロン。見ての通り、左目が見えない。戦争から逃げる途中に爆撃でやられたんだ。一年前にここに来た。この、ラモと一緒にな」
そう言うと、ラモの肩を叩いた。
「…せんそう…?」
ニゲルの疑問を含んだぽつりとした小さなつぶやきに、マーロンは反応した。
「ああ。一年前に起きた60日戦争だよ。俺とラモはそれで親とバラバラになっちまったんだ」
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