最後の魔導師

蓮生

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1章 出会い

60日戦争

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  ニゲルは一年前に戦争があったことを全く知らなかった。
「ラモと俺は同じ村で、俺のおじいとおばあがラモのお母さんと仲良しでさ。小さい頃からいっしょによく遊んでた。けど、戦争がおきて、村が隣の国の奴らに焼かれてしまったんだ。俺の母さんは俺を連れて逃げていたんだけど、なにせ逃げる人がいっぱいで、人に押されてさ。気づいたら母さんとはぐれてた」
「…それで、その時に目をケガしたんだ?」
 ニゲルはマーロンの左目、黒い眼帯がんたいを見つめた。
 かれの髪と同じ色のその眼帯は、こちらを見つめるちょっと鋭くて深い森のような緑色の右目の片割れを隠し、黒地くろじに浮き上がるきれいな緑色の刺繍ししゅうで飾られていた。つたのような模様もようだ。

「いや。逃げる途中に、近くに砲撃ほうげきが落ちたんだ。それで、なにかのかけらか、とにかくとがったものが飛んできて、目に当たったらしい。俺は覚えていなくて、そのまま倒れていたのをラモが見つけて、ウエンさんに助けてもらったんだ。それからずっとここさ」
 マーロンはお茶を一口飲んで、眼帯を触った。

「…マーロン」

スマルさんは、悲しそうな顔をして、マーロンを見つめている。

「…ねぇ、とりあえず、ラモも来た事だし、朝ごはん食べたらうちを案内して!終わったら早く鶏舎にいこう!かわいい鳥がいっぱいいるよ!」

 ヴェシカは明るく笑うと、今のちょっと重たくなった部屋の空気を風のように飛ばした。

「うん」

ニゲル達3人はヴェシカにうなずくと、目の前のご馳走をようやくいつものように食べはじめた。

「みんな沢山たべてね!鶏舎けいしゃからかえってきたら、丁度お昼くらいになるだろうから、またここに集まって」

 
 その後スマルさんは、豆の煮込みスープを一生懸命けんめい食べていたニゲル達の器に、お玉でもう一杯足すと、食後にと、赤いりんごをむいてくれた。
 そのスープは麦のパンにすごく合っていて、いくらでも食べられそうだとマリウスはかき込んでいて、それを見たニゲルは、久しぶりの、なんだか懐かしいような、心にポッとロウソクが灯ったかのような、暖かな気持ちになったのだった。
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