最後の魔導師

蓮生

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第2章 旅立ち

食卓にて

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 ようやく眠ったマリウス達の顔をながめていたウエンは、廊下を歩くかすかな人の足音に、耳をましていた。

 サフィラスとニゲルの話は終わったようだ。

 音を立てずに立ち上がると、扉を開けて廊下に体を滑り込ませる。この部屋を通り過ぎて一階へ降りる階段の方に向かうサフィラスとニゲルが、ウエンの気配に気付いてふり返った。

「…話はついたか」
 小声で問いかけると、サフィラスがあごを動かして、台所に来て欲しいという態度たいどを示した。
 となりのニゲルはサフィラスを見上げて、ウエンにも視線を流したが、それきり前を向いて彼の魔導師と一緒に歩いていく。その後ろを静かに歩いて台所まで行くと、スマルが食卓の木の机の前にまだ座っていたようだ。オイルランプで照らされた顔が心配そうにこちらを見つめてゆっくり立ち上がる。

「…みんな、話はすんだの?」

そのままお湯を沸かしている炉に立つと、温かいお茶を入れて机まで運ぶ。スマルは静かに席に着いた全員に、すこしでもこわばった空気がなごむようにと、湯気をくゆらせるカップを配った。


「…大丈夫だ。私達は決まった」

 その一言に、同席していた者は一様に言葉をのんで魔導師を見つめる。

 しかしながらニゲルはうつむいていた。

 アーラとマリウスが納得しない事は考えなくてもわかっていたからだ。
 なんと説明すれば良いのだろうか。
 そもそも、話を聞いてくれるかもわからない。マリウスなんか、2人を置いてニゲルが出ていくと知ったら、怒り狂いそうだ。
 それに、いつここを離れるかといった具体的なことはまだ決めていない。こんなに急に色々な事が決まってしまって、戸惑とまどいもある。しかし、サフィラスには時間がないのだ。だから、明日、明後日…いずれにしても、ここを出発するのはそう遠くない、すぐだろうと想像がついた。

 ただあまりにそれは心さみしく、今すぐにでもみんなと離れたくないと言ってしまいそうになる気持ちをおさえるので精一杯になる。

 2度と会えないのではないか、そんな悪いことばかりが浮かんでしまうのだ。

「ねぇ、ニゲルくん。わたしね、3人ともここで暮らしたら良いって思ってるのよ…あなたは自分がいたらみんなの命が危険になるから迷惑めいわくだと思ってるかもしれないけど、私達は自分が助かりたいからってあなたを見放すような事はしたくない。あなたがここにいたいなら、出来る限り守るわ」

 スマルさんはやきもきしているのか、そう言ったあとも、落ち着かない両手をにぎったりこすったりしている。こんな自分達のために、ヴェシカのお母さんは身振みぶ手振てぶりで、言葉以上に、ここにいて良いのだと全身であらわしてくれて、思わず泣き言が出そうになる。

 けれど、ニゲルは決めていた。

「はい…。けど、僕は。サフィラスと…、行きます」

 すっと顔を上げてスマルさんを見つめると、スマルさんは辛そうな表情をした。ニゲルはそれを見ていたら決心が揺らぎそうな気がして、再びうつむいた。

「…マリウスくんと、アーラちゃんは、それで納得する?」

「…わからない…。本当は僕だって離れたくはない。けど、僕は行かなきゃいけない。サフィラスは僕に言った。力を持つ者は正しく使う責任があるって…それをサフィラスから学びたいんだ。それに、お母さんがそうしてくれたように、僕はアーラとマリウスを守りたい。お母さんとの約束を守りたいんだ。もう、誰も家族が欠けてほしくない。だから僕もみんなを守るために、サフィラスの弟子になって、この力をちゃんと使えるようになります。…もう誰も、力があるからって、魔法が使えるからって、そのせいで傷つけられたりすることがない世界にしたい。…そしたら、僕も生きていけるから…」 


「…そう…。わかったわ」

 スマルさんの鼻をすする音が聞こえて顔を上げると、両眼から沢山の涙が出ていて、それを静かにぬぐっていた。

「あの、お願いがあるんです。アーラとマリウスをここに置いてもらえませんか。もう、あの洞穴には住めなさそうだから…」

「それは心配しないでくれ。私やスマルが何の心配もいらないようにしっかり二人を守るから」
 ウエンさんが、たくましい腕でニゲルの肩をたたく。任せろと言ってくれているのだ。

「…あ…ありがとう…ございます…」

 ニゲルは気を抜けば泣いてしまいそうになる目を必死に誤魔化ごまかす為に、ゴシゴシと乱暴らんぼうにこすった。

「君は本当に立派なお兄ちゃんだよ。どうか私達を忘れないで、時にはここにも来て欲しい。便りもくれ。…そうだ、サフィラス。あのタカをお前たちに預けよう。あいつは特別かしこいから、そう遠くなければこの農場までの手紙だって運んでくれるだろう。山野さんやではりょうも楽になる。ニゲルの助けにきっとなるさ」

「そうか、助かるよ。ありがとう」

「名前はサビだよ」

「サビ?」
「そう。あいつ、さび色の羽が腹のところにあるんだ。だから、サビ。鷹はかしこいからサフィラスに扱いをしっかり教えてもらうんだぞ。そうすればお前の相棒になるさ。ニゲル、お前は1人じゃない。我々も仲間だ。それを忘れないでくれ」



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