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第2章 旅立ち
別れの時⑨
しおりを挟む「マーロン!!」
ニゲルは黙り込んだマーロンに苛立ちの声を上げた。
自分がここを離れると言ったのは、ここに住み生活をするみんなの事と、きょうだいの事を考えたからだ。
それなのに、ついて来るだって?
どう考えたって、それはだめだ。
マーロンは少なくともニゲルよりは年が上だし、ヴェシカと同じくらいしっかりしているように見えていた。
そんな彼がこんなことを言い出すなんて、信じられない気持ちになる。
たとえウエンさんやスマルさんと血がつながっていないとはいえ、ここでは必要とされ、大切にされていて、皆の気持ちをーーーなにより助けてくれたウエンさんを裏切るようなことはしないと思っていた。
このことをウエンさんやスマルさんが知ったら、一体どう思うのか。
恩を仇で返すのかと、きっと言われてしまう。
もしもマーロンやラモがこの家を出ていけば、そうしてニゲルについてきたら、命の保証など無いのだ。
それだけではなく、マーロンやラモがニゲルやサフィラスを追ってくる誰かに捕らえられてしまった場合、この農場だって危険にさらされることになるだろう。武器を持った大人にかなうわけない、何の力も持たない子供が簡単に口を割ってしまえば、必死に守ってくれている大人を危険に巻き込むのだ。実際、きびしい尋問なんかに自分たちがたえられるとも思えない。
自分は仕方ないし少なくとも幾らかの覚悟をしてはいるけれど、ラモやマーロンがそんな目に合うと思うと、ゾッとするほど恐ろしい。
だから、そんなことはとてもじゃないが許すことは出来ない。
「ぜったい、ダメ!僕はそんなことを頼んだ覚えはないよ!」
「…けどよ、考えてみろよ」
マーロンはさきほど投げつけたチュニックを右肩にかけると、倒れた椅子を起こしてドカッと腰かける。
「ニゲル、お前、もしもサフィラスになんかあったら、一人ぼっちになるじゃねえか」
ニゲルはマーロンの問いに、目をそむけた。
そんなことは知っている。
そんなことは承知の上だ。
黙っているとマリウスがマーロンの方にしかめっ面で向き直る。
「だからって、なんでマーロンが行くって話になるんだよ」
「バカだな…おれは、ここの子じゃねえ。ラモだってそうだ。いつかは出ていかなきゃならない。ずっとそう思ってきた。ウエンさんの好意でここに置いてもらってるだけだ。俺たちの居場所はここにはないんだ…。それに、きっとはぐれた時に、親は死んだんだと思う……だったら、誰の事を気にすることもない。もう、どこに行っても家族はいないんだ…なら、俺の事を俺が決めてもいいじゃねえか」
「……」
マリウスは口を真一文字にむすんでうつむいた。
あきらめたような、悲しい、さびしい…まるでそう言っているような表情を、マーロンがしたからだ。
「けど僕はサフィラスとは2人で行くって決めたんだ。いまさらマーロンたちを連れて行くなんて、絶対サフィラスも許さないと思うよ。それくらい危険なんだ。僕たちは人を傷つけたり殺したりする奴に狙われてるんだ!」
「そんなことはわかってるさ」
マーロンはチュニックを椅子の背にかけてから立ち上がると、ニゲルの両肩に手を置いた。
「…頼む。俺は俺で、やるべきことがあるんだ。お前やサフィラスに守ってくれとは言わない、ただ、ついて行くことを許してほしいだけなんだ」
おもわず眉を寄せながら、真剣な顔つきのマーロンを見つめる。
「…なんでそこまで。やるべきことって?まさか、変なこと考えてないよね?」
「変な事って?」
「お父さんやお母さんをなくしたなら、復讐とか…」
一瞬マーロンは真顔で無言になったが、肩に置かれていた手を離して、すぐに表情をゆるめた。
「…さあな。好きに生きるだけだよ。とにかく、俺はサフィラスさんにお願いするつもりだ」
「いや、ちょっと待ってよ!本当に危険なんだよ!遊びでも何でもないんだ!冗談はやめてよ!」
ニゲルは腕を掴んでにぎりしめた。
「お前がどう言おうが、俺は決めたんだ。ニゲルやマリウスに会えたのもきっと何かの思し召しなんだろうさ。この家に未練もない。とちゅうで死んだら死んだで、誰が困るわけでもないだろう」
「そんなこと言ったって、ラモはどうするんだよ!マーロンが死んじゃったらラモだって一人ぼっちになっちゃうじゃないか!」
「それでも、俺についてくるって言ったんだ、あいつは」
「え?」
「…わかるだろ?あいつも俺も、まだ子供って言われて大人に混ざってまともに生活していけない…こうして誰かに拾ってもらってそこで生活するか、生きる為に物を盗んだり悪いことをして苦しく生きていくか、そんな選択しかない。だからって、ウエンさんみたいないい人にずっと迷惑かけられるかよ…俺たちは、ウエンさんやスマルさんに嫌われたくないんだ!お荷物だって、いつか思われるんじゃないかって…そんな風に、いい加減出ていってほしいって思われる日が来るんじゃないかって…だったら、今のうちにここを出ていった方が、いい思い出をずっと残しておける…いつか立派になって、ここに帰ってこれるじゃないか!」
「そんなこと言ったって、働き場所もないのにどうするの!?13歳と8歳じゃ、どう考えたって大人に仕事もらえないよ」
「だから、お前について行って、体をきたえながら探す」
「はあぁぁ…」
思わず額を押さえた。
何という事か。
呆気にとられて何も言えない。
「あぁ…もう…!」
ニゲルが旅行にでも行くと思っているのだろうか。
そもそもサフィラスがこんなに急いでいるのも、ニゲルに魔法の訓練をさせるためだ。
マーロン達にどんな事情や理由があっても、それを見られるわけにはいかない。
誰にも見られてはいけないものなのだから。
―――もう、これはサフィラスに相談するしかない。
なんとか、食い下がってくるマーロン達を説得してもらおう。
ニゲルはそう思って口を開きかけた。
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