最後の魔導師

蓮生

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第2章 旅立ち

別れの時⑧

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「君たち。もう落ち着いたかな?」

 突然の声にハッとして3人は扉の方を見た。
 そして、扉の向こうのウエンさんの声に、今更ながら部屋中が大変な事になっている事に青ざめたのである。

 ―――やばい。

 今開けられたら、大変な惨状さんじょうがバレてしまう!
 3人は巣をつつかれたハチのようにあわてふためいて、とりあえず散乱した服や本や小物を拾いながら、ちょっと待ってやら、なんやらかんやらをくちばしってみたものの、あっけなく扉は開かれた。


「マーロン」

 
 ウエンさんの冷静な声に、ぎくりとマーロンが固まる。


「…この部屋の状況はどういうことかな?」


 ギギギッと音がしそうなほどぎこちなくウエンさんに振り向いたマーロンは、大きな身体のかげからこちらを心配そうにのぞきこむラモとアーラ、ヴェシカを認めて天をあおいだ。

「ごめんなさい…えーっと、こんなつもりじゃなかったんだけど、つい……」

 マリウスとニゲルにも視線をよこしたウエンさんは眉間みけんにシワを寄せて不機嫌ふきげんだ。
「だれが家の物を壊して良いと言ったんだ。これ以上けんかをするなら外でしなさい」

 反省しなさいと、すべて片付け終わるまで部屋から出たらダメだと言われる。夕飯もそれまでおあずけということになり、ウエンさんはみんなをともなってすぐに消えた。
 
「はぁぁ…」
 ニゲルは詰めていた息をようやく吐いた。
 もう、頭が痛い。体もあちこち痛いけど、本当に頭が痛くなる。それにしても、マリウスはニゲルと絶対口を聞きたくないとばかりに、無視を決め込んでいるようだ。
 話しかけてもいっこうになしのつぶて
 マーロンもウエンさんにかなり怒られて落ち込んだのか、それとも疲れているのか、無言で割れたオイルランプを片付けている。何だか話しかけられる雰囲気ふんいきでもない。

 仕方ない。
 こうなる事は嫌だったけれど、アーラにはきちんとお別れを言わなければ。
 とにかくはやく片付けよう。
 そう思い、ニゲルも無言で床に散らばった服を片付けようと手にして、はたと、それがちょっと大きめのズボンであることに気が付いた。近くに落ちている白いシャツも拾って目の前にかざしてみる。さらに小山になった衣類の山の、上の方につみかさなってシワシワになっている服も手にしてみるが、やはりどれも大きい。

「…ちょっと、これ、誰の?まさか…ウエンさんの服を勝手に持ってきたわけじゃないよね?」

 マリウスとマーロンをキョロキョロと交互に見る。
 どっちがもってきたんだ、こんなに大量に。
 ただでさえあんなに怒らせてしまったのに、服まで盗んだと思われてはたまったものではない。早急そうきゅうに元の場所に返さなければ!

「あ――…」

 ニゲルが眉を上げてとげとげしい空気を発していると、マーロンがしゃがんでオイルをふきとる手を止め、ぎこちなく口を開いた。

「あの…、だな。それは―――…。俺とラモのだ」

「けど…大きくない?」
 ニゲルは手にしていた、しわくちゃの―――灰色に茶色い刺繍の入ったチュニックをマーロンに投げた。
「大人のじゃないの?それ。何で持ってきたんだよ」
「あーーー、それはだな」
 そういって口ごもると、マリウスの方を見て動きを追っている。

 マリウスは視線を感じたのか、向けていた背中ごしにこちらを振り返った。
「…言っとくけど、僕はいらないから。絶対」
 真っ赤だけど意志の宿ったキツイ目で冷たく言い放つ声に、マーロンは肩をすくめる。

「どういうこと?」

 ニゲルは訳の分からない行動をするマーロンを不審ふしんな目で見た。

「えっと…、まあ、60日戦争で逃げてる時に家から色々持って出てきた服とか物で…マリウスにやろうかなと、思って…」

「は?…なんで!?」

 なんでマーロンの家にあった大人向けの服なんてマリウスにやろうと思ったのか、意味不明だ。それもこのタイミングで!
 
 途端とたん、ガンッ!という、何かがり飛ばされてかべにぶつかった音がひびいた。
 ビクッと思わず肩がはねたニゲルは、とっさに音のした方をふり向く。

「…ラモもマーロンも、僕にはアーラと一緒にここに居ろという。そこに散らばってる服や物をやるからってね。…けど、自分たちは兄ちゃんについて行くつもりなのさ!だからいらないものを僕に押し付けようって魂胆こんたんなんだよ!!」

 ニゲルは足で携帯けいたい用の革製水筒かわせいすいとうをけとばしたマリウスから、視線しせんをマーロンへと移した。

「マーロン。どういうこと!?」
 頭の中がカッカして、どうしてそんな考えになったのかたださずにはいられない。

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