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第3章 エイレン城への道
ニス湖畔、アルカット城④ ニゲル
しおりを挟む身体をぬぐってなんとかひとりで着替えを終えた時、先ほどのおじいさんが再びやってきた。
たかが着がえなのに、体力を使ってしまったのか、だるくて寝台からなかなか腰を上げられない。
ニゲルはぼんやりと扉から入ってきたおじいさんが持つお盆を目で追いかけていた。
カタカタと音を立てるそれに乗せられた器からは、湯気が立って良いにおいがする。
思わずお腹も鳴りそうになる。
「お弟子様。薬とお食事をお持ちしました」
おじいさんはお盆を持ったまま、寝台に腰をかけるニゲルに近づいてくる。
「…ありがとうございます…あの、すみません。さっきの人だけど…」
「ああ、アビーですか」
おじいさんはきょとんとした表情で、首をかしげた。
「あの…僕が拭くのは自分でやるって言ったので…怒らないであげてください」
ニゲルははずかしかったけれど、あの子が怒られるのはかわいそうだから、自分のせいでそうならないようにしなければと思った。
「…ふふ。そうでしたか!どおりで…」
しかしそんな気も知らないで、おじいさんは目尻にしわを作るほどにこにこと笑っている。
「え?…どおりでって?」
「あぁ、いえ…私が来るまで彼女がうろうろと扉の前で行ったり来たりしていたものですから」
「ええ!?」
「大丈夫ですよ。叱ったりしていませんから。ただ、いつ桶を取りに戻ればよいか悩んでいたのでしょう。あとできっと桶と着がえた衣類を取りに来ると思いますよ」
「ああ…そうなのか…ごめんなさい…」
「良いのです。それより、召し上がりませんか?これはハトを煮込んだスープで、かぶとひよこ豆を煮込んだものです。どうぞ」
おじいさんは上品なしぐさでそばにあった机にお盆を置くと、スプーンと煮込みの入った器を取り上げ、ニゲルの前に差し出した。木の器の中には、やわらかそうなかぶのかけらに、ほぐしたハトの身がすこし、そして肌色のような、白い小指の先ほどの大きさの丸いものがいくつか、コロコロとスープの中にしずんでいる。
量はさほどない。
「ありがとうございます…」
「食後にお水と一緒にこちらの丸薬をお飲みください。熱さましです」
「はい」
ニゲルはうなずいて、おじいさんが手で指した水差しと小さな紙の上に乗った丸い2つの薬を見つめた。
薬は何で出来ているのかわからないけど、黒っぽい色で、想像するに…なんだか苦そうである。
「他に何か必要な物はございますか?」
「…あの、サフィラスに会いたいんです、どこに居ますか?」
ここまで自分を運んできてくれたのはサフィラスだろう。しかしあれから会っていないので、背中のケガがどうなったのかも気になるし、あの強盗騎士とどうなったのかも知らない。内心、今の状況が心細くないと言えばうそになるけど、それよりも、とにかく自分の目でサフィラスが無事であると確認したかった。
「今はおそらくアラン様とご一緒かと。ここは医務室ですので、…そうですね…、体調がよろしければこの後サフィラス様のお部屋にご案内いたしましょうか?」
「アラン様…って?」
「はい。我が主にして、このアルカット城主、アラン・ダード様でございます」
それを聞いて、スプーンを落としそうになるほどおどろいた。
「アッ、…すみません…!僕知らなくて!本当にすみません!」
これだけ丁重に扱われておきながら、畏れ多くも城主のことを知らなかったとは、不敬にもほどがある。
真っ赤になっておそるおそる顔を上げておじいさんを見ると、おじいさんは気にする様子もなくほほ笑んでいた。
「ふふ。さあさあ、しっかり召し上がってください。私はこれで失礼いたします。後ほどお迎えに参ります」
しかしそう時間もたたないうちに、おじいさんから話を聞いたのか、部屋にサフィラスがやってきた。
そこまではいい。
問題は、来たのがサフィラスだけじゃなかったことだ。
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