逃げ出した先は異世界!二度目の人生は愛と平穏を望む

絆結

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49.帰宅そして再会

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イアンの件は、彼に斬りつけられた人たちが回復して証言が得られるまで保留となった。
私の護衛の件は、殿下の鶴の一声で決定してしまった。
やはり私に断る権利などなく…。
結婚相手まで決められなかっただけ有難く思うしかない。
話は纏められ終了となり、客室から出た私とジェイクは「早急に婚姻の用意を」と、2人でクロフォード家へ向かうようにとモーティマー家の馬車へ押し込められた。

「あの…」
向かい合って座り、恥ずかしさと戦いながらなんとか声を絞り出す。
けれどその声はジェイクの言葉によって遮られた。

「いいのか?本当に」

彼の言葉に、ずっと上げられなかった顔を上げた。
胸の前で手を組み、きゅっと力をこめ彼を見つめる。
少し不安の混じる表情で問いかける彼に、私は頷き返し、大きく息を吸い彼の瞳を真っ直ぐに見つめて想いを告げた。

「私もジェイクが好きなの。ずっとジェイクの傍にいたい。傍にいて欲しい」

震えだしてしまいそうになる手を、力をこめて胸に引き寄せる。
好きだと、必要だと言ってもらえた。
彼の言葉は信じられる。
それでも不安で震えそうになる私を彼はじっと見つめて、その腰を浮かすと私の隣へと席を移した。
横から肩を抱き込み、私の頭を抱え彼の肩へ凭せかける。

「夢みたいだ。俺はルイーズの友人でしかいられないと思っていたのに」

囁くように甘く零される言葉が私の耳をくすぐる。
思わずこみ上げそうになる涙を堪え、私は小さく言葉を返した。

「私の方こそ夢のようだわ。この世界でも誰にも必要としてもらえないと思っていたのに、一番望んだ人に必要としてもらえるなんて。…幸せすぎて、夢のようだわ」
「ルイーズ…」

肩を抱き寄せていた側と反対の肩を勢いよく掴まれ、力強く抱き締められる。
この先のことを考えれば、まだまだ不安がない訳ではない。
けれど彼の腕の中に私の居場所があるのなら、恐れるものなどないのかもしれない。
唯一残る恐れと言えば、この幸せが夢なのではないかという恐れだけだろう。



色々と展開が早すぎてついていけず、考えなければいけないことが沢山ある気はするけれど、王太子殿下に急かされている以上、まず進めるべきは婚姻の準備だ。
お互いの気持ちが確認できた今、甘い雰囲気を味わうよりも先に、クロフォード家に着くまでの間に私たちはすべきことの確認をすることになった。

「とりあえず俺が17にならないことには正式な婚姻はできない。けれど、ルイーズの身の安全のためには一緒に住む必要がある。例外的ではあるけれど、親父に許可を貰って婚約を済ませたら、殿下が用意してくださる屋敷へと移ることになると思う」

こちらへ来た当初アルバート案内人から一応説明は受けていたけれど、改めてこの世界での婚姻についてジェイクから説明を受ける。
この世界では、男性は17歳、女性は16歳を成人年齢として、その歳になれば婚姻を結ぶことができる。
通常は婚約式をして正式に婚約し、結婚式をしてから同じ住まいに移る。
つまり結婚式を済ますまでに一緒に住むことはありえないらしい。
結婚していない男女が一緒に住んでいるのは理由わけあって結婚できない人たちの事実婚という状態らしい。
なので、普通なら絶対に許してもらえない同棲だが、今回は特殊な背景事情と、王太子殿下の後ろ盾があるため特に反対をされることはないだろう、ということだった。

「まあ、親父ならそんな事情がなくても認めてくれるだろうけどな。ルイーズのこと気に入ってたし」
言われて、物腰柔らかそうなジェイクのお父様の姿を思い浮かべる。
確かに、クロフォード家の方全員、あまり堅いことを言いそうな感じではなかった。
そう考えてから、私はふとあることに思い至って、一気に申し訳なさがこみ上げてくる。

「…セレスに報告してる暇なかったな…」

私の家で別れてから、セレスは変わらずクロフォード家に滞在している。
事の成り行きや、ちょっとしたことまで、手紙に書いてセレスには常に知らせていた。
けれど、パーティーが終わった後のジェイクとのすれ違い、私の誘拐に王宮での話し合いと怒涛どとうの勢いで進む流れに、彼女に手紙を書いている間もなかった。
同じ人を好きになったのに、嫌味を言うでもなく、嫌がらせをするでもなく、むしろ背中を押してくれるような彼女だから、私も嘘偽りなく彼女には報告したいと思っていた。
できることならクロフォード家に行くより先に、彼女には一番に報告したかったのに…。

「そうだな。でも、先に知らせることができなかった事情もセレスなら分かってくれるだろう」
私の小さな呟きを拾って答え、ジェイクは優しく私の頭を撫でてくれた。
「ええ。そうね…」
私は目を閉じ、彼女の顔を思い浮かべた。
元気にしているかな…。


そんな話をしている内に、馬車はクロフォード家の前へと到着した。
なんの先触れもなく突然家の前に公爵家の馬車が停まり、家の前で遊んでいたコリンとトリシャが目を丸くする。
「かーさん!」「お母さん!」
慌てた2人のあげた声で、家の中から母親のソフィアさんが出てくるのと、私たちが馬車から降りたのは同時だった。

「あら?!ジェイク、ルイーズさん!お帰りなさい」

公爵家の馬車から私たちが降りてきた瞬間驚きの声をあげたものの、すぐ後に「お帰りなさい」と言えてしまうあたり、お母様は少し天然なのかもしれないと思う。

「あっ、兄ちゃん!ルイーズ姉ちゃん!」
「お兄ちゃん、ルイーズお姉ちゃん!お帰りなさい!」
コリンとトリシャも私たちに気づくと元気に声をあげた。
ジェイクが皆に「ただいま」と声をかけ、家族の再会を喜んでいる間に私は御者の方に声をかけ馬車を帰す。
その様子を伺っていたお母様が、馬車が走り出すのを見てから「とりあえず中へ入りましょうか」と声をかけてくれた。

セレスはお母様に頼まれた買い物に出ているらしく、そして勿論お父様はお仕事に出られていて、家にはお母様とコリンとトリシャだけだった。
どうせお父様とセレスにも話をしなくてはならない。
そして、コリンとトリシャにも話はするにしても、彼らにはまだ難しい話もあるので、話はお父様が戻られて、コリンとトリシャが眠ってからすることにして、とりあえずセレスの帰りを待ってお茶にすることになった。
コリンとトリシャは外でセレスの帰りを待つと言って、また外へと駆け出していってしまった。

残されたお母様が意味ありげに私たちに視線を配り、ふわっと微笑む。
「ウィルが帰ってきてから詳しく聞くけど…」
お母様はジェイクの前まで寄り、彼を見上げる。

「お嫁さんが決まったのかしら?」

にっこりと微笑むお母様の言葉に、2人して固まり顔を真っ赤に染め上げる。
天然な振りをして実は物凄く鋭い人なのかしら?
それともここは母親の勘?!
緊張で汗が吹き出しそうになる私とは裏腹に、お母様は手を合わせて握りしめ、実に嬉しそうに言葉を紡ぐ。

「あらあら。嬉しいわぁ。今日はご馳走を作らなくちゃ!」

彼も私も何も答えていないのに、嬉しそうにそう言うと、ジェイクに顔を寄せて彼の顔を覗き込み「うふふ。想いが通じて良かったわね」とウインクして見せる。
既に話をする前から歓迎ムード一色なのは有難いけれど、本当になんとも小恥ずかしい。
ジェイクは私と視線を合わせると、赤くなった顔を手で覆い、俯きながらお母様に言葉を返した。

「コリンとトリシャが寝たら、全部ちゃんと話すから…」
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