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第5話
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移動手段は車。
麻生にはよく似合ってる、黒くてデカい若者らしいデザイン。
万年徒歩の俺とは随分違うなって思わされる。
歩きで10分程の距離は、車だとものの3分くらいで到着した。
うちは、築19年の2階建てアパート。
リフォームはされてるものの、使用感は否めない。
でも、もうここに3年くらい住んでる。
前に住んでたアパートよりも気に入ってて、近くに住んでる大家さんともよく話す様になったりして、建物は古いけど居心地は良い。
「どうぞ、狭いけど」
麻生の部屋みたいにオシャレじゃないし、広くない。
麻生は、特に何も気にした様子もなく、靴を脱いで上がって来てる。
……どう思ってんだろ……
「せまっ」とか思われてんだろうか…。
「食おうぜ」
「あ、うん」
おれは、ぶっかけうどんとおにぎり、麻生はがっつり大盛りの唐揚げ弁当だ。
「休憩何時まで?」
「あー、割と自由」
「え?」
「外に出た時は、お客さんとの打ち合わせが終わったらそこから休憩になるけど、時間配分は自分で出来るから大丈夫」
うどんを口に運びながら聞く。
「夢のある庭を創る仕事?」
俺の問い掛けに唐揚げを食べる手が一瞬止まって……その後直ぐに、柔らかい笑顔を俺に向ける。
その、優しいモードはどうも苦手。
自分だけにそんな感じなんじゃないかって、要らぬ心配をしてしまうのも苦しいし。
「あぁ、はは、そうだな。そうだと良いけど」
優しい口調。
何か……ズルい。
「どんな仕事?」
「新築した後とかさぁ、庭整えるじゃん。それ。デザインから施工まで全部」
「へぇ~~~っ、麻生は何やってるの?」
「俺は、お客さんの希望を聞いて、図面描いてる」
「えっ!すごっ!」
俺の反応が面白いのか、ククッと笑いながら聞いてる。
「何でそんなの出来るの?」
「何でって…高校出てから、そういうの専門に習ったから」
「え……高校の時にもうこういう仕事したいって思ってたの?」
「…ん~…まぁ、そうだな。サッカーは好きだったけど、そんな通用するような腕前じゃ無かったしな」
あはは、と笑って弁当をかき込んでる。
「中学の時に親が家建ててさ、庭をどうするかって事になって、そん時に親の希望聞いて描いて来てくれた図面がさ…俺らの中じゃ希望をポンポン言っただけでイメージとか全く沸いてなかったんだ。でも、それをちゃんと形にして持って来てくれてさ……すげぇなって思った。こういう仕事って夢があんな~って漠然と思ったんだ」
……麻生はちゃんとしてる。
俺なんかよりずっと。
「じゃあ中学の時から、こういう仕事良いなって頭ん中にあったって事?」
「…まぁ、そうとも言えるけど…そん時はそんな真剣に考えてねぇよ。高校からだな、やってみたいって思ったのは」
……何か……チャラチャラしてるだけの奴かと思ってたけど……
「麻生はすごいよ」
本心を言った。
ほんとにそう思う。
「何かさ……正直、チャラ男だし女の事しか考えて無いんだろうなって思ってたけど、」
「お前、それ、あん時も言ってたな」
あん時、と言うのは、罰ゲームの時だろう。
覚えてんだ、俺が言った事…。
「でも、ちゃんとそんな時から将来の事とか夢とか考えてたんだな……それで、今、その仕事に就いてやりたかった事やってるってすごいよ」
「…そうか?でも、まだ下っ端だし、先輩に手直しされてばっかだけどな」
ははっ、と照れたように笑う。
「俺なんかさ……23になってもやりたい事の1つも見付かんなくて、バイトで生活してんだよ?……やっぱ、違うよ……俺は…ダメだ」
何か、泣いてしまいそうだな…って思ったら……頭をポンポンと撫でられた。
……こういう時、頭ポンポンはダメだって。
我慢出来なくなるじゃん。
「……っ、ぅ………」
堪えたけど………ダメだった。
今までの人生……何かあんまり上手くは回って来なかった。
やっぱり……一番は……自分がゲイだって事。
好きな人が出来たって……まず上手く行かない。気持ち悪がられる事はあっても、喜ばれるような事は無い。それに……母さんにも肩身の狭い思いさせて……この先だって、可愛い孫を見せてあげられそうもない。今まで、何人か男の人と付き合ったけど、どの人も長続きしなくて……結局はみんな女の人に戻って行く。もう俺は一生……幸せになれないんじゃないかって言う不安とか……あの罰ゲームだってそうだ………ゲームだって分かってて、麻生に魅かれた。結果は最初から分かってた、落ちたら終わりって麻生は言ってたし。……だけど……嘘でも何でも、俺だけを見てくれたあの1週間は、ほんとに楽しかったんだ……なのに、現実に、嘘だよって言われたらすごく辛くて……何でこんなに傷付けられないといけないのって、そればっか思って……卑屈になったり、投げやりになったり……そんなんで、幸せになれる訳ないって……頭ではそう思う。俺だって幸せになりたい。だけど上手く行かない…。
麻生にポンポンされた瞬間、そんな事が、一気に胸の奥の方から溢れ出して来て………気付いたらわんわん泣いてた。
恥ずかしいし…カッコ悪いけど………麻生は、俺の涙が止まるまでずっと背中を摩ってくれていた。
「抱え込みすぎじゃねぇ?たまには泣かねぇとな」
とか言うもんだから……また、涙がこみ上げて来る。
急激に泣いたせいで頭痛いし、熱も上がった気がする…。
だいぶ長い事泣いてたけど……麻生は、めんどくさがる事なく最後まで付き合ってくれた。
「…頭いた…」
「一気に泣くからだよ」
プッと笑って言う。
だけど、おかげで涙は止まった。
「…ごめん」
「何が?」
「時間…大丈夫?」
「あぁ、あと30分くらいは大丈夫」
途中で泣いたせいで、まだ2人とも食べ終われてなかった昼御飯を思い出したように食べ始める。
「那生は何やってんの?」
「ん?」
「バイト」
「普通だよ、居酒屋」
「長いの?」
「2年」
食べ終わった唐揚げ弁当のパックを袋に入れて纏めてる。
「けっこう長いね」
「何か…店長や上の人も良い人で、バイトも皆仲良いし、居心地良くて続いてる」
「へぇ、良いじゃん。どこ?」
「え、聞いてどうすんの」
「今度行こうかと」
「何で」
「何でって、飯食いにだよっ」
バシッと肩を叩かれる。
「いてっ、病人だぞっ」
「え?あ、そうだったな、あはは」
ただでさえさっき大号泣したから、熱上がった気してんのに。
店の名前と場所を教えたら「おっけー、今度行くわ」とか言ってるし。
やっぱり……再会してから、接点持ちすぎだって。
だけど、そんな俺も、麻生には一生会いたくないって思って来たけど、会ってみると案外普通に話せたりするもんだな……とか思ってたりして……
やっぱり……俺がゲイだって事を麻生が知ってるってとこがデカいよ。
隠さなくて良いって……すごく、救われる。
俺も、食べ終えたパックを袋に一緒に纏める。
「トイレ借りる」
「あ~、そこ出て直ぐのドア」
「おぅ。あ、そうだ、那生、熱1回測っとけよ」
「あ、うん」
言われた通りに体温計を持って来る俺って、素直。
脇に挟んだと同時に、携帯が鳴った。
遼からの電話だった。
「もしもし」
『あ、もしもし、月?』
「うん」
『生きてるか?』
「生きてる生きてる。何?昼休憩?」
『ん。体調どうかなと思ってさ』
「あ~、今熱測ってるとこ」
ピピピと体温計が鳴った。
「37度3分。やっと下がって来た」
『ほんとだな、良かったわ』
そう言えば……遼は……今日は朝から変だった。
……何か……何て言うか急に……距離が近くなったって言うか……抱きしめられたし…。
「あ、遼、そう言えば今朝何も食べてないんじゃないの?うち何も無かっただろ?」
『あ~、うん、無かったな』
「あはは、ごめん、ほんと。昨日から面倒みて貰ったのに、食べるもん無いって軽く辛いよな」
『まぁ、俺も何も無かった時には1人で軽く突っ込んだけどな』
「あはは、ほんとごめんっ、次バイト一緒の日何か奢る」
「那生、熱何度だった?」
そのタイミングで麻生がトイレから帰って来て、そう言った。
その声は、遼にも聞こえたみたいで…
『え、誰』
「あ~、えっと、麻生」
そう言って、体温計を麻生の目の前に差し出す。
「ちょっと下がってんな、じゃあ俺、そろそろ行くわ」
「えっ、麻生、ちょっと待ってよ、ごめん、遼、後でかけ直す」
そう言って一旦遼との電話を切った。
麻生は立ち上がり玄関に向かってたから、急いでそれを追いかける。
靴を履いて俺を振り返った麻生は、やっぱり腹立つくらいイケメン。
「…泣いてごめん」
「もう良いよ、別に気にしてねぇ」
「…ありがと」
「おう」
何か……沈黙が流れてしまった。
「何か言いたい事ある?」
麻生が俺を覗き込む。
「…麻生の事……勘違いしてた」
「ん?」
「ただのチャラ男じゃなかった」
「……褒めてんの?」
うん、と頷いて見せる。
「ははっ、まぁ、褒めてんなら良いか」
男前の顔して笑う。
そりゃ、その顔されたら女の子なんか一瞬で落ちるだろ。
「麻生は?何か言う事ある?」
「あ~。ある」
あるんだ……
ちょっとドキドキする。
「LINEして良い?」
「へ?」
意外っちゃ、意外。
そんな事、今ここで言われるとは思って無かった。
「良いよ、どうぞ」
「どうも」
俺と連絡取りたいの?とか思っちゃうじゃん。
「あ、それと、」
「うん、」
「俺の下の名前知ってんだよなぁ?」
「え…」
………うん、と頷く。
「言ってみて」
「え?」
「言ってみて」
何だよ……何気に恥ずかしいんですけど……
「こ……幸多…」
「麻生じゃなくて、そっちで呼んで」
「え…」
「今からな」
熱い。
熱い熱い…。
一気に顔が熱いっ!!
「じゃ、な」
「う、うん」
「ゆっくりしろよ」
「ありがと」
俺がそう言うと、麻生……あ、じゃなくて、幸多は軽く手を上げてドアを閉めた。
「何なんだよぉ~~………意味分かんね……」
ドキドキしてる心臓が鬱陶しい…。
あいつ、遊んでんのかな、俺で……。
もしかして、これ、また罰ゲームだったらどうしよう……。
「あ、…遼、」
途中で遼の電話を切ったんだった。
急いでリビングに戻り、遼にかけ直す。
『もしもし』
「遼、ごめん、電話途中で、」
『麻生と何やってたの』
「え、…」
遼も様子が変なんだ…。
幸多の事、異常に気にしてるし…。
「何もやってないよ」
『何で家に居んの』
「コンビニに買い物行ったら、仕事で割と近くに居て、」
何で遼に説明してんだ、って思うけど……
『それで今まで居たの?』
「あ…うん」
『特別なんだな、相当』
……何か……怒ってる?
『好きなの?麻生の事』
「…え…?」
…………どしたの、遼。
『大嫌いなんじゃなかったのかよ』
怒ってるし……
………俺、どうしたら良いの…。
「……怒るなよ…」
『あぁ………ごめん』
「や………良いよ」
『月から友達の話とか聞いた事無かったから……急に麻生なんて知らない名前が出て来て、月がソイツと話して怒ったり苛ついてんの見て……何か、俺の知らない月を麻生は知ってんだって思ったら、何か……月が取られたみたいな気がして嫌だった』
………何だよ……
可愛いじゃん…。
「バーカ」
『何だよ』
「おこちゃまか」
『うるせっ』
「俺の事、大好きなんだな、遼は」
『バカにしてんな』
「してないしてない。可愛いなぁ~と思ってるだけ」
『何か…悔しいんですけど』
「自分で言ったんじゃん」
『言うんじゃなかったわ』
「あはは、もう遅いっ」
何となく、茶化して雰囲気を変えたけど…………心拍数上がってるよ。
幸多と言い遼と言い……心臓持たねぇわ。
夜になって、やっと熱が36度台に下がって来た。
はぁ…久々に熱出したなぁ……。
昨日は怠すぎて風呂にも入れなかったけど、今日はもう早々に風呂で温まって体が冷える前に布団に入って、もういつでも寝れる状態。
何か……麻生と……あ、違う……幸多と再会してから目まぐるしかったな……とか思って、今までの出来事を思い返してたら、枕元に置いてあった携帯が短く震えた。
……幸多からLINEだ。
『熱下がったか?』
案外マメに聞いてくれんだな……。
そういう所も、意外。
『やっと36.8度になった』
『良かったじゃん』
『移ってない?』
『今んとこ大丈夫』
罰ゲームの時に……やり取りしてた感じを思い出す。
幸多は絵文字やスタンプはほとんど使わなくて、文字だけのメッセージ………今も、そのままみたいだ。
あの時は、毎日連絡してくれた。
ま、全部、嘘だったんだけど。
『そう言えば、来週高校の同窓会だな』
あー……前に来てたな、ハガキ…。
『そうだね』
『お前行くの?』
『俺は行かないよ』
『行かねぇの?何で?』
『友達居なかったしな~。それに、来週はバイトが忙しい』
俺なんかが行ったって、また気持ち悪がられるのがオチだ。
やっとあの時の傷が癒えて来たのに、また同窓会行って傷口えぐられたくないし。
行く勇気なんて無い。
『幸多は行くの?』
幸多、って文字打つのもちょっと慣れないけど……
『相原とか久々だから行こうと思ってる』
『仲良かったよな?』
『卒業してからはちょこちょこ連絡取るくらいで、会ってない』
『え、そうなの?』
『仕事で大阪に住んでるから、滅多に会えない』
『大阪なんだ、そりゃ会えないね』
『みんな地元か関西の方に行ってるから、こっちに居んの俺の周りだったらお前だけだよ』
何かちょっと……ドキッとした。
俺の周り、って……俺は、お前の周りに属してんの?
……そんな訳ないか…………知ってる奴って意味だよな…。
『へぇ、そうなんだ、知らなかった』
普通に返す。
『那生、バイトいつ入ってんの?』
急に、那生、とか……打たれると、焦る。
『明日からは5連勤っ!』
『マジか。病み上がりなのにな』
『それな。マジで辛い』
『1こ聞いていい?』
『何?』
『りょうって奴も同じなんだよな?』
え……?
……何で、気にすんのさ…。
『そうだけど、何で?』
『高校ん時、お前友達と居たイメージ無かったから、そいつとは随分仲良いんだな~と思ってさ』
『どうせ友達居ませんよ』
『何だよ、拗ねんなよ』
『遼はバイトで知り合ったけど、今は親友』
『それだけ?』
『そうだよ。何』
『お前ゲイじゃん』
『だから何』
『知ってんの?』
『知らないよ』
『言ってねぇの?』
『誰にも言ってない。俺がゲイだって知ってんのは、俺の周りでは幸多だけだっ』
…………何だよ……
…ゲイだって、親友が居たって良いじゃん……
『そっか』
『誰にも言うなよな』
『言わねぇよ、バーカ』
『バーカ、がすんげぇ余計』
『口止めしなくても言わねぇよ、バカ』
あ………
……何か………
『ごめん』
『謝んな、バカ』
『バカって言いすぎ』
『(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)』
『笑いすぎっ』
『あ~、面白ぇ。お前って面白いね』
『俺は面白くないけどなっ』
『あ~、笑ったわ』
『知らねぇし』
『あー、じゃ、俺そろそろ風呂入って来るわ』
あ~…長々LINEしちゃったな。
何か……ちょっと楽しかったし…。
『俺ももう寝る』
『そっか。じゃあ、またな』
またな…って言ってくれるんだ…。
ほんとに、あの時みたいだな…。
『おやすみ~』
『おやすみ』
おやすみ、とか返してくれるんだな…。
何か幸多って…こんな奴なんだ……
ムカつくだけの奴だって思ってたけど……全然普通なんだな…。
麻生にはよく似合ってる、黒くてデカい若者らしいデザイン。
万年徒歩の俺とは随分違うなって思わされる。
歩きで10分程の距離は、車だとものの3分くらいで到着した。
うちは、築19年の2階建てアパート。
リフォームはされてるものの、使用感は否めない。
でも、もうここに3年くらい住んでる。
前に住んでたアパートよりも気に入ってて、近くに住んでる大家さんともよく話す様になったりして、建物は古いけど居心地は良い。
「どうぞ、狭いけど」
麻生の部屋みたいにオシャレじゃないし、広くない。
麻生は、特に何も気にした様子もなく、靴を脱いで上がって来てる。
……どう思ってんだろ……
「せまっ」とか思われてんだろうか…。
「食おうぜ」
「あ、うん」
おれは、ぶっかけうどんとおにぎり、麻生はがっつり大盛りの唐揚げ弁当だ。
「休憩何時まで?」
「あー、割と自由」
「え?」
「外に出た時は、お客さんとの打ち合わせが終わったらそこから休憩になるけど、時間配分は自分で出来るから大丈夫」
うどんを口に運びながら聞く。
「夢のある庭を創る仕事?」
俺の問い掛けに唐揚げを食べる手が一瞬止まって……その後直ぐに、柔らかい笑顔を俺に向ける。
その、優しいモードはどうも苦手。
自分だけにそんな感じなんじゃないかって、要らぬ心配をしてしまうのも苦しいし。
「あぁ、はは、そうだな。そうだと良いけど」
優しい口調。
何か……ズルい。
「どんな仕事?」
「新築した後とかさぁ、庭整えるじゃん。それ。デザインから施工まで全部」
「へぇ~~~っ、麻生は何やってるの?」
「俺は、お客さんの希望を聞いて、図面描いてる」
「えっ!すごっ!」
俺の反応が面白いのか、ククッと笑いながら聞いてる。
「何でそんなの出来るの?」
「何でって…高校出てから、そういうの専門に習ったから」
「え……高校の時にもうこういう仕事したいって思ってたの?」
「…ん~…まぁ、そうだな。サッカーは好きだったけど、そんな通用するような腕前じゃ無かったしな」
あはは、と笑って弁当をかき込んでる。
「中学の時に親が家建ててさ、庭をどうするかって事になって、そん時に親の希望聞いて描いて来てくれた図面がさ…俺らの中じゃ希望をポンポン言っただけでイメージとか全く沸いてなかったんだ。でも、それをちゃんと形にして持って来てくれてさ……すげぇなって思った。こういう仕事って夢があんな~って漠然と思ったんだ」
……麻生はちゃんとしてる。
俺なんかよりずっと。
「じゃあ中学の時から、こういう仕事良いなって頭ん中にあったって事?」
「…まぁ、そうとも言えるけど…そん時はそんな真剣に考えてねぇよ。高校からだな、やってみたいって思ったのは」
……何か……チャラチャラしてるだけの奴かと思ってたけど……
「麻生はすごいよ」
本心を言った。
ほんとにそう思う。
「何かさ……正直、チャラ男だし女の事しか考えて無いんだろうなって思ってたけど、」
「お前、それ、あん時も言ってたな」
あん時、と言うのは、罰ゲームの時だろう。
覚えてんだ、俺が言った事…。
「でも、ちゃんとそんな時から将来の事とか夢とか考えてたんだな……それで、今、その仕事に就いてやりたかった事やってるってすごいよ」
「…そうか?でも、まだ下っ端だし、先輩に手直しされてばっかだけどな」
ははっ、と照れたように笑う。
「俺なんかさ……23になってもやりたい事の1つも見付かんなくて、バイトで生活してんだよ?……やっぱ、違うよ……俺は…ダメだ」
何か、泣いてしまいそうだな…って思ったら……頭をポンポンと撫でられた。
……こういう時、頭ポンポンはダメだって。
我慢出来なくなるじゃん。
「……っ、ぅ………」
堪えたけど………ダメだった。
今までの人生……何かあんまり上手くは回って来なかった。
やっぱり……一番は……自分がゲイだって事。
好きな人が出来たって……まず上手く行かない。気持ち悪がられる事はあっても、喜ばれるような事は無い。それに……母さんにも肩身の狭い思いさせて……この先だって、可愛い孫を見せてあげられそうもない。今まで、何人か男の人と付き合ったけど、どの人も長続きしなくて……結局はみんな女の人に戻って行く。もう俺は一生……幸せになれないんじゃないかって言う不安とか……あの罰ゲームだってそうだ………ゲームだって分かってて、麻生に魅かれた。結果は最初から分かってた、落ちたら終わりって麻生は言ってたし。……だけど……嘘でも何でも、俺だけを見てくれたあの1週間は、ほんとに楽しかったんだ……なのに、現実に、嘘だよって言われたらすごく辛くて……何でこんなに傷付けられないといけないのって、そればっか思って……卑屈になったり、投げやりになったり……そんなんで、幸せになれる訳ないって……頭ではそう思う。俺だって幸せになりたい。だけど上手く行かない…。
麻生にポンポンされた瞬間、そんな事が、一気に胸の奥の方から溢れ出して来て………気付いたらわんわん泣いてた。
恥ずかしいし…カッコ悪いけど………麻生は、俺の涙が止まるまでずっと背中を摩ってくれていた。
「抱え込みすぎじゃねぇ?たまには泣かねぇとな」
とか言うもんだから……また、涙がこみ上げて来る。
急激に泣いたせいで頭痛いし、熱も上がった気がする…。
だいぶ長い事泣いてたけど……麻生は、めんどくさがる事なく最後まで付き合ってくれた。
「…頭いた…」
「一気に泣くからだよ」
プッと笑って言う。
だけど、おかげで涙は止まった。
「…ごめん」
「何が?」
「時間…大丈夫?」
「あぁ、あと30分くらいは大丈夫」
途中で泣いたせいで、まだ2人とも食べ終われてなかった昼御飯を思い出したように食べ始める。
「那生は何やってんの?」
「ん?」
「バイト」
「普通だよ、居酒屋」
「長いの?」
「2年」
食べ終わった唐揚げ弁当のパックを袋に入れて纏めてる。
「けっこう長いね」
「何か…店長や上の人も良い人で、バイトも皆仲良いし、居心地良くて続いてる」
「へぇ、良いじゃん。どこ?」
「え、聞いてどうすんの」
「今度行こうかと」
「何で」
「何でって、飯食いにだよっ」
バシッと肩を叩かれる。
「いてっ、病人だぞっ」
「え?あ、そうだったな、あはは」
ただでさえさっき大号泣したから、熱上がった気してんのに。
店の名前と場所を教えたら「おっけー、今度行くわ」とか言ってるし。
やっぱり……再会してから、接点持ちすぎだって。
だけど、そんな俺も、麻生には一生会いたくないって思って来たけど、会ってみると案外普通に話せたりするもんだな……とか思ってたりして……
やっぱり……俺がゲイだって事を麻生が知ってるってとこがデカいよ。
隠さなくて良いって……すごく、救われる。
俺も、食べ終えたパックを袋に一緒に纏める。
「トイレ借りる」
「あ~、そこ出て直ぐのドア」
「おぅ。あ、そうだ、那生、熱1回測っとけよ」
「あ、うん」
言われた通りに体温計を持って来る俺って、素直。
脇に挟んだと同時に、携帯が鳴った。
遼からの電話だった。
「もしもし」
『あ、もしもし、月?』
「うん」
『生きてるか?』
「生きてる生きてる。何?昼休憩?」
『ん。体調どうかなと思ってさ』
「あ~、今熱測ってるとこ」
ピピピと体温計が鳴った。
「37度3分。やっと下がって来た」
『ほんとだな、良かったわ』
そう言えば……遼は……今日は朝から変だった。
……何か……何て言うか急に……距離が近くなったって言うか……抱きしめられたし…。
「あ、遼、そう言えば今朝何も食べてないんじゃないの?うち何も無かっただろ?」
『あ~、うん、無かったな』
「あはは、ごめん、ほんと。昨日から面倒みて貰ったのに、食べるもん無いって軽く辛いよな」
『まぁ、俺も何も無かった時には1人で軽く突っ込んだけどな』
「あはは、ほんとごめんっ、次バイト一緒の日何か奢る」
「那生、熱何度だった?」
そのタイミングで麻生がトイレから帰って来て、そう言った。
その声は、遼にも聞こえたみたいで…
『え、誰』
「あ~、えっと、麻生」
そう言って、体温計を麻生の目の前に差し出す。
「ちょっと下がってんな、じゃあ俺、そろそろ行くわ」
「えっ、麻生、ちょっと待ってよ、ごめん、遼、後でかけ直す」
そう言って一旦遼との電話を切った。
麻生は立ち上がり玄関に向かってたから、急いでそれを追いかける。
靴を履いて俺を振り返った麻生は、やっぱり腹立つくらいイケメン。
「…泣いてごめん」
「もう良いよ、別に気にしてねぇ」
「…ありがと」
「おう」
何か……沈黙が流れてしまった。
「何か言いたい事ある?」
麻生が俺を覗き込む。
「…麻生の事……勘違いしてた」
「ん?」
「ただのチャラ男じゃなかった」
「……褒めてんの?」
うん、と頷いて見せる。
「ははっ、まぁ、褒めてんなら良いか」
男前の顔して笑う。
そりゃ、その顔されたら女の子なんか一瞬で落ちるだろ。
「麻生は?何か言う事ある?」
「あ~。ある」
あるんだ……
ちょっとドキドキする。
「LINEして良い?」
「へ?」
意外っちゃ、意外。
そんな事、今ここで言われるとは思って無かった。
「良いよ、どうぞ」
「どうも」
俺と連絡取りたいの?とか思っちゃうじゃん。
「あ、それと、」
「うん、」
「俺の下の名前知ってんだよなぁ?」
「え…」
………うん、と頷く。
「言ってみて」
「え?」
「言ってみて」
何だよ……何気に恥ずかしいんですけど……
「こ……幸多…」
「麻生じゃなくて、そっちで呼んで」
「え…」
「今からな」
熱い。
熱い熱い…。
一気に顔が熱いっ!!
「じゃ、な」
「う、うん」
「ゆっくりしろよ」
「ありがと」
俺がそう言うと、麻生……あ、じゃなくて、幸多は軽く手を上げてドアを閉めた。
「何なんだよぉ~~………意味分かんね……」
ドキドキしてる心臓が鬱陶しい…。
あいつ、遊んでんのかな、俺で……。
もしかして、これ、また罰ゲームだったらどうしよう……。
「あ、…遼、」
途中で遼の電話を切ったんだった。
急いでリビングに戻り、遼にかけ直す。
『もしもし』
「遼、ごめん、電話途中で、」
『麻生と何やってたの』
「え、…」
遼も様子が変なんだ…。
幸多の事、異常に気にしてるし…。
「何もやってないよ」
『何で家に居んの』
「コンビニに買い物行ったら、仕事で割と近くに居て、」
何で遼に説明してんだ、って思うけど……
『それで今まで居たの?』
「あ…うん」
『特別なんだな、相当』
……何か……怒ってる?
『好きなの?麻生の事』
「…え…?」
…………どしたの、遼。
『大嫌いなんじゃなかったのかよ』
怒ってるし……
………俺、どうしたら良いの…。
「……怒るなよ…」
『あぁ………ごめん』
「や………良いよ」
『月から友達の話とか聞いた事無かったから……急に麻生なんて知らない名前が出て来て、月がソイツと話して怒ったり苛ついてんの見て……何か、俺の知らない月を麻生は知ってんだって思ったら、何か……月が取られたみたいな気がして嫌だった』
………何だよ……
可愛いじゃん…。
「バーカ」
『何だよ』
「おこちゃまか」
『うるせっ』
「俺の事、大好きなんだな、遼は」
『バカにしてんな』
「してないしてない。可愛いなぁ~と思ってるだけ」
『何か…悔しいんですけど』
「自分で言ったんじゃん」
『言うんじゃなかったわ』
「あはは、もう遅いっ」
何となく、茶化して雰囲気を変えたけど…………心拍数上がってるよ。
幸多と言い遼と言い……心臓持たねぇわ。
夜になって、やっと熱が36度台に下がって来た。
はぁ…久々に熱出したなぁ……。
昨日は怠すぎて風呂にも入れなかったけど、今日はもう早々に風呂で温まって体が冷える前に布団に入って、もういつでも寝れる状態。
何か……麻生と……あ、違う……幸多と再会してから目まぐるしかったな……とか思って、今までの出来事を思い返してたら、枕元に置いてあった携帯が短く震えた。
……幸多からLINEだ。
『熱下がったか?』
案外マメに聞いてくれんだな……。
そういう所も、意外。
『やっと36.8度になった』
『良かったじゃん』
『移ってない?』
『今んとこ大丈夫』
罰ゲームの時に……やり取りしてた感じを思い出す。
幸多は絵文字やスタンプはほとんど使わなくて、文字だけのメッセージ………今も、そのままみたいだ。
あの時は、毎日連絡してくれた。
ま、全部、嘘だったんだけど。
『そう言えば、来週高校の同窓会だな』
あー……前に来てたな、ハガキ…。
『そうだね』
『お前行くの?』
『俺は行かないよ』
『行かねぇの?何で?』
『友達居なかったしな~。それに、来週はバイトが忙しい』
俺なんかが行ったって、また気持ち悪がられるのがオチだ。
やっとあの時の傷が癒えて来たのに、また同窓会行って傷口えぐられたくないし。
行く勇気なんて無い。
『幸多は行くの?』
幸多、って文字打つのもちょっと慣れないけど……
『相原とか久々だから行こうと思ってる』
『仲良かったよな?』
『卒業してからはちょこちょこ連絡取るくらいで、会ってない』
『え、そうなの?』
『仕事で大阪に住んでるから、滅多に会えない』
『大阪なんだ、そりゃ会えないね』
『みんな地元か関西の方に行ってるから、こっちに居んの俺の周りだったらお前だけだよ』
何かちょっと……ドキッとした。
俺の周り、って……俺は、お前の周りに属してんの?
……そんな訳ないか…………知ってる奴って意味だよな…。
『へぇ、そうなんだ、知らなかった』
普通に返す。
『那生、バイトいつ入ってんの?』
急に、那生、とか……打たれると、焦る。
『明日からは5連勤っ!』
『マジか。病み上がりなのにな』
『それな。マジで辛い』
『1こ聞いていい?』
『何?』
『りょうって奴も同じなんだよな?』
え……?
……何で、気にすんのさ…。
『そうだけど、何で?』
『高校ん時、お前友達と居たイメージ無かったから、そいつとは随分仲良いんだな~と思ってさ』
『どうせ友達居ませんよ』
『何だよ、拗ねんなよ』
『遼はバイトで知り合ったけど、今は親友』
『それだけ?』
『そうだよ。何』
『お前ゲイじゃん』
『だから何』
『知ってんの?』
『知らないよ』
『言ってねぇの?』
『誰にも言ってない。俺がゲイだって知ってんのは、俺の周りでは幸多だけだっ』
…………何だよ……
…ゲイだって、親友が居たって良いじゃん……
『そっか』
『誰にも言うなよな』
『言わねぇよ、バーカ』
『バーカ、がすんげぇ余計』
『口止めしなくても言わねぇよ、バカ』
あ………
……何か………
『ごめん』
『謝んな、バカ』
『バカって言いすぎ』
『(笑)(笑)(笑)(笑)(笑)』
『笑いすぎっ』
『あ~、面白ぇ。お前って面白いね』
『俺は面白くないけどなっ』
『あ~、笑ったわ』
『知らねぇし』
『あー、じゃ、俺そろそろ風呂入って来るわ』
あ~…長々LINEしちゃったな。
何か……ちょっと楽しかったし…。
『俺ももう寝る』
『そっか。じゃあ、またな』
またな…って言ってくれるんだ…。
ほんとに、あの時みたいだな…。
『おやすみ~』
『おやすみ』
おやすみ、とか返してくれるんだな…。
何か幸多って…こんな奴なんだ……
ムカつくだけの奴だって思ってたけど……全然普通なんだな…。
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