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第6話
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* 幸多side *
「この辺だと思う」
店の看板を見ながら歩く。
「幸多、ほんとにここで合ってんのか?」
「合ってる…と思う…ってか、俺だって来た事ねぇからわかんねんだよ」
「もうさぁ、その、同級生に電話してみろよ~」
「仕事中なんだから出れる訳ねぇだろ」
設計を勉強するために行った専門学校で、意外と馬の合う奴らが何人か居て、特に今日の俺を入れて4人の面子は直ぐに打ち解けて仲良くなった。
それぞれ働いてる今も、月に2~3回は集まって近況報告と銘打った飲み会をする。
みんな大体、俺と同じような仕事をしてる奴らだけど、やっぱりその会社によって自分の立ち位置があるし、方向性もちょっとずつ違う。
例えば、俺は庭だけど、他の奴は家、マンション、公共施設専門…とか言うように、関わる場所が違っててその話聞いてるだけでも面白い。
仕事の話が5割、あとの5割は女の話。
まぁ、仕方ない……男だし。
「あっ、あれじゃねぇ?」
過去には読者モデル経験もあるイケメンな大河(たいが)が看板を指さした。
鳥栖屋(とりすや)……ここだ。
教えて貰った那生のバイト先。
「大河、ナイス」
「じゃ、ビール1杯な」
「えーっ、見返りデカくねぇ?」
突っ込んだのは、悠真(ゆうま)。
こいつはクオーター。
「唐揚げ、何かの金賞受賞だって」
入口横にデカデカと宣伝してる看板を見て、嬉しそうに言ったのは自他共に認める唐揚げ好きの蒼(そう)。
蒼は筋肉バカとでも言うか……暇さえあればジムで鍛えてる。俺らん中じゃ一番長身だけど、鍛えてるからすっげぇデカくて半端ない威圧感…。鍛えてる割にはだいたいいつも唐揚げ頼んでんな、確か。
「何かのって、そこちょっと重要じゃねぇか?」
「あはは、まぁ、美味いんだろう」
「土曜だし、混んでるかもな」
とか言いつつ、店内へ入る。
「「「いらっしゃいませーーっ」」」
何人ものスタッフが声掛けしてくれる。
その中に、那生も居た。
振り返り様に声掛けをした那生は、俺を見てすげぇ驚いた顔してる。
店のロゴが入った黒いポロシャツを着て、同じく黒いエプロンを着けている。
下はジーンズが決まりの様で、スタッフは全員そんな恰好をしてる。
「麻生っ!」
俺の顔を見るなり一言そう言ったけど……約束を思い出したのか、小声で「あ、えっと、幸多」と言いながら俺の前に駆け寄って来た。
胸元には大きめの名札を着けてて、『月 23さい』と書いている。
りょう、には「月」と呼ばれてるのを知ってる。電話の向こうでそう呼んでるのを何回か聞いた。
ここでは那生は「月」と呼ばれてるんだろう。
「よぉ」
「よぉ。…ってか来るなら連絡くれたら個室空けてたのに」
「あぁ、そうなの?」
「土曜だよ?」
「でしょ?俺らもそう言ったんだけどね」
突如会話に入って来たのは大河。
那生が「あはは~」と合わせて笑ってる。
「席、空いてねぇの?」
「う~ん…あ、ちょっとだけ待ってくれたらそろそろ帰るって言ってたグループが1組居るから」
「ん。じゃ待ってるわ」
那生は俺の後ろの面々に「すみません」と言いながら、待ち席を案内してくれた。
そんな俺達……と言うよりは、俺個人を入店した時からずっと見てる奴が居るって事には気付いてる。
多分だけど…奥の方に居るあの男前が…きっと「りょう」なんだろう。
まぁ、良い。
俺だって、どんな奴が気になってたからさ…。
那生が親友だと言ったソイツの事を。
入口付近の待ち席で待ってた俺達の前に、会計をしに来てるグループと共に那生が歩いて来てて……俺は何となく、那生の様子を見てた。
先頭で通路を歩いて来てた那生が、脇に脱がれた客の靴を小上がりの下にサッと揃えながら来てる。
すぐ後ろを歩いて来てるグループのおっちゃんは、足が悪くて杖をついている。
歩きやすいように、躓かないように通路を広く空けたんだって分かった。
「月ちゃん、今度一緒に飲んでよ」
レジに入った那生にその常連っぽいおっちゃんが話しかけてる。
酔ってて声がデカいから全部聞こえる。
「え~、それはどうしよっかな」
「何で、俺が奢るからさ。こんなむさっ苦しいおっさんばかりより、月ちゃんみたいな若い子と飲みたいよ」
「お前が誘ってるくせによく言うよな」
「そうだそうだ」
「あはは、突っ込まれてますよ」
「女の子と飲んだらちょっと問題あるだろうから、月ちゃん、相手してよ」
「え~、じゃあ店長に聞いときます。店長がダメって言ったらダメですよっ」
「良いって言ったら?」
「いただきますっ」
テンポよく会話を続け、会計を済ませた後はグループを送り出して自分も外に出てる。
「小島さんっ、そこ、段差段差っ、足元気を付けてっ」
那生の声が聞こえて来る
何か……ちょっと……すげぇって思ってる。
さっきのおっちゃんは多分常連で、きっと那生のファンだろう。
でも、何か分かる……ちょっとした事だけど……一生懸命やってんのとか、優しい性格が無意識か分かんねぇけど出てしまってんのとか……そう言うとこが………何か…
俺には真似出来ないと思うし……
何となく……ちょっと……
可愛いじゃん、って思う。
「あっ、急いでテーブル片付けるからもうちょい待って」
戻って来た那生が俺にそう言って、今度はさっき空いたテーブルの方に小走りで行った。
テーブルの食器をせっせと片付けてる。
那生ともう1人………りょうだ。
何か話しながら2人で片付けてるのを、何となく見る。
那生が何か言ってりょうの腕を軽く叩くと、りょうが笑って那生の頭をグシャグシャと撫でた。
…………ちょっと………気に入らねぇのは何でだ。
「幸多、顔怖ぇよ」
隣から大河にそう言われて、那生たちの方をガン見してたんだなって事に気付く。
「お待たせしました~」
片付け終わった那生が急いでやって来た。
「ごめん、待たせちゃって、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫」
「あ、じゃあ、ご案内します」
大河たちに向かって那生が言う。
さっき片付けてくれた席へ通される。
男4人でちょうど、って感じの席。
「今度はもっと広いとこ取っとくから先に言えよな~」
「あぁ、そだな。でも4人だしちょうど良いよ」
席に座り、とりあえず全員ビールを注文。
「月ちゃん」
「えっ、」
大河が行き成りそう呼んだから、那生が少し驚いてる。
「月ちゃん、で良いんでしょ?ここに書いてる。さっきのおっちゃんもそう呼んでたし?」
「あっ、はい、もちろん」
自分の胸元を指して言った大河に、那生は笑顔で答える。
「幸多の同級生でしょ?」
「あ、はい」
「こいつ、結構、俺様でオラオラだけど昔は大丈夫だったの?」
俺様、って何だよ。
そんなワンマンじゃねぇよ、俺は。
「あははっ、まぁ、俺も被害被ってました」
サクッとそんな風に答えた那生の腕に、軽くパンチしてやった。
「何で、そうだろ?俺は被害者だっ」
「うるっせ、早くビール持って来いよ」
「出たっ、オラオラッ」
那生はそう言って、おしぼりと取り皿をテーブルに置くと厨房の方へ戻って行った。
「話しやすい奴だね」
大河が那生の事をそんな風に言ったのが……何となく嬉しく感じたり…。
俺だって、5年ぶりに那生に再会して…強気発言する事も多々ある奴だけど、会話が…何というか……続くな、って思った。
那生が持ってるもんなんだろう……聞き上手なのか何なのか分かんねぇけど、何か話してしまう雰囲気って言うか…。
「ビールお待たせしましたぁ~」
那生が運んで来た。
「月ちゃん、唐揚げ、何か賞取ってんの?」
蒼が聞いた。
「あ~そうなんですっ。唐揚げグランプリって大会があって、それの居酒屋部門で金賞取ったんですよ~!すごいでしょ?」
「確かにっ、じゃあ美味いんだ」
「めっちゃ美味いですっ、俺はおすすめっ」
じゃあ、と蒼が2皿注文した。
他にもそれぞれが食べたい物を注文する。
にしても、マジで忙しそうな店。
ホールスタッフは那生以外にも何人か居るけど、全員動き回ってる。
「月ちゃんっ、焼き鳥3人前~」
「あっ、は~い。タレですか?塩ですか?」
「タレで~」
「は~い、ありがとうございま~す」
奥の方からそんな会話が聞こえて来た。
常連も多いんだな、この店は。
俺ら世代も沢山来てて、どのテーブルを見てもやっぱり唐揚げの注文率はすげぇ高い感じがする。
「あっ、遼、これも一緒に頼む~」
「はいよ」
時々、那生がりょうと話す声も聞こえる。
俺の事は苗字で呼ぶのに、アイツの事はりょうと呼んでた事が気に入らなくて、俺の事も名前で呼ぶように言った。
俺は、あの罰ゲームの時から那生の事は「那生」と名前で呼んでんのに、アイツはずっと「麻生」だった。
何か…それ以上は近付かないって、一線引かれてるような気がしてちょっとムカついた。
アイツが俺に踏み込んで欲しくないって思ってたとしても、それは仕方ない。あの罰ゲームが尾を引いてんだろうし…。
だから、俺とはあんまり親しくなりたくなくて、いつまでも「麻生」と呼んでたのかも知れないけど。
5年経って再会した時……アイツはよく知りもしない男とホテルから出て来て、聞けばヤッてたってすんなり認めるし……昔の那生しか知らない俺は、少なからず興味を持ったのは確か。
「お待たせしました」
唐揚げを運んで来たのは、りょうだった。
名札に『遼 23さい』と書いてる。
年上かと思ったけど、同い年なんだ…。
「麻生さん、ですよね。月と同級生の」
「え、」
突然、そう言われて思わず遼の顔を見た。
「戸渡 遼と言います」
「あぁ、」
「宜しくお願いします」
別に、お願いされる事も無ぇけど。
「また、どっかで会うかも知れないんで」
「あぁ、どうも」
短く返すと、遼は去って行った。
「…何か、敵対心?」
「え?」
「さっきのスタッフ」
「…知らねぇ」
やけに勘の鋭い大河が小声で言って来たけど……何かちょっと……ムカついてる自分が居る。
「お待たせしましたぁ~」
入れ替わりに那生が注文した料理を持ってやって来た。
「あっ、唐揚げ食べた?」
「や、今来たし」
「え~、食べてみてよ、早く」
料理の皿をテーブルに並べながら、すげぇ急かして来る。
とりあえず、蒼は唐揚げを1皿確保してる。
キラキラしながら那生が待ってるから、全員とりあえず唐揚げを一口食べた。
「美味いっ!!」
蒼が言うと途端に嬉しそうな顔で那生が小さくガッツポーズしてる。
大河も悠真も「美味い」を連発。
俺にもその視線が向けられたから、美味いと褒めてやった。マジで金賞取るだけの事はある。
「醤油?…何か味噌っぽい感じもする」
「わっ、すげぇ~、幸多分かるの?」
「入ってる?」
「隠し味に味噌使ってる」
嬉しそうな顔でそう言うけど……
「隠し味なのに、言って良いの?」
「え、…あ…」
那生っぽいなって思って可笑しくなった。
……まぁ、那生っぽいと言っても、俺が那生の何を知ってんだって言われたら……正直、知らねぇんだけど……でも、何となく、完璧ではないのは分かってて……多分、「おっちょこちょい」みたいなワードが一番しっくり来るんだろうな、って漠然と思う。
これ、言ったらきっと殴られそうだな…。
「何か…好きでしょ、幸多、あのタイプ」
唐揚げにテンション上がってる蒼と悠真は置いといて、大河がこっそり言って来る。
「好きでしょ、って」
「いやいや、そこにどんな意味があるかは俺は知らねぇけどさ…好きか嫌いかで言ったら好きでしょ?」
「何を言わせたいんだよ」
「俺も好きだもん、あの感じ」
「はぁっ!?」
思わず大河を凝視した。
「ん?何?」とか言ってる唐揚げ組は放っといて……
「ほら、焦ってる、やっぱり好きなんじゃん」
「何だよ、お前」
「別に?」
そう言って、ははっと笑う。
こいつの勘の鋭さは今までも色んな場面で分かってたけど……
まぁ、でも、那生の事を好きとかそう言うんじゃ無くて……何て言うか……あの罰ゲームが俺の中でも強烈に残ってて……落とそうとして毎日連絡してた時は、アイツからの返事とかリアクションが、その頃からテンポが良くてやり取りしやすかったのはある。
ゲイなんて、だいぶ変わってる奴だって思ってたから。
それからは、俺らが2時間近く飲み食いしてる間、店の客は入れ替わりで常に満席状態で、那生はずっと忙しなく店内を動き回ってた。
会計をする時はレジにやって来て「割り勘?計算しようか?」とか言ってくれたけど、俺らの割り勘ってすげぇざっくりだから、適当に出し合って払った。
当然のように見送りで外まで出て来てくれる。
「どっか行くの?」
「あ~、多分な」
「へぇ~、良いね。みんなイケメンでびっくりしちゃった」
誰か狙ってんの?とちょっと意地悪く聞いてやったら、バーカと言ってグーでパンチされた。
「ありがと、来てくれて」
「美味かった、また来るわ」
笑顔で頷く。
「みなさんもありがとうございました~」
大河たちにお辞儀してる。
「唐揚げ気に入っちゃって、コイツ」
「ほんとですかっ、良かった」
「マジで美味かった」
「また来るね、月ちゃん」
何か……馴染んでるし…。
「じゃな」
「うん。明日、同窓会でしょ?」
「あー、そう」
「早めに切り上げないと明日に響くよ?」
「人をおっさんみたいに言うな」
あはは、と笑って俺らを見送った那生は、また店内へと戻って行った。
何か……ちょっと満足してる。
那生が、俺に対してのガードを少し下げてくれたような気がした。
「この辺だと思う」
店の看板を見ながら歩く。
「幸多、ほんとにここで合ってんのか?」
「合ってる…と思う…ってか、俺だって来た事ねぇからわかんねんだよ」
「もうさぁ、その、同級生に電話してみろよ~」
「仕事中なんだから出れる訳ねぇだろ」
設計を勉強するために行った専門学校で、意外と馬の合う奴らが何人か居て、特に今日の俺を入れて4人の面子は直ぐに打ち解けて仲良くなった。
それぞれ働いてる今も、月に2~3回は集まって近況報告と銘打った飲み会をする。
みんな大体、俺と同じような仕事をしてる奴らだけど、やっぱりその会社によって自分の立ち位置があるし、方向性もちょっとずつ違う。
例えば、俺は庭だけど、他の奴は家、マンション、公共施設専門…とか言うように、関わる場所が違っててその話聞いてるだけでも面白い。
仕事の話が5割、あとの5割は女の話。
まぁ、仕方ない……男だし。
「あっ、あれじゃねぇ?」
過去には読者モデル経験もあるイケメンな大河(たいが)が看板を指さした。
鳥栖屋(とりすや)……ここだ。
教えて貰った那生のバイト先。
「大河、ナイス」
「じゃ、ビール1杯な」
「えーっ、見返りデカくねぇ?」
突っ込んだのは、悠真(ゆうま)。
こいつはクオーター。
「唐揚げ、何かの金賞受賞だって」
入口横にデカデカと宣伝してる看板を見て、嬉しそうに言ったのは自他共に認める唐揚げ好きの蒼(そう)。
蒼は筋肉バカとでも言うか……暇さえあればジムで鍛えてる。俺らん中じゃ一番長身だけど、鍛えてるからすっげぇデカくて半端ない威圧感…。鍛えてる割にはだいたいいつも唐揚げ頼んでんな、確か。
「何かのって、そこちょっと重要じゃねぇか?」
「あはは、まぁ、美味いんだろう」
「土曜だし、混んでるかもな」
とか言いつつ、店内へ入る。
「「「いらっしゃいませーーっ」」」
何人ものスタッフが声掛けしてくれる。
その中に、那生も居た。
振り返り様に声掛けをした那生は、俺を見てすげぇ驚いた顔してる。
店のロゴが入った黒いポロシャツを着て、同じく黒いエプロンを着けている。
下はジーンズが決まりの様で、スタッフは全員そんな恰好をしてる。
「麻生っ!」
俺の顔を見るなり一言そう言ったけど……約束を思い出したのか、小声で「あ、えっと、幸多」と言いながら俺の前に駆け寄って来た。
胸元には大きめの名札を着けてて、『月 23さい』と書いている。
りょう、には「月」と呼ばれてるのを知ってる。電話の向こうでそう呼んでるのを何回か聞いた。
ここでは那生は「月」と呼ばれてるんだろう。
「よぉ」
「よぉ。…ってか来るなら連絡くれたら個室空けてたのに」
「あぁ、そうなの?」
「土曜だよ?」
「でしょ?俺らもそう言ったんだけどね」
突如会話に入って来たのは大河。
那生が「あはは~」と合わせて笑ってる。
「席、空いてねぇの?」
「う~ん…あ、ちょっとだけ待ってくれたらそろそろ帰るって言ってたグループが1組居るから」
「ん。じゃ待ってるわ」
那生は俺の後ろの面々に「すみません」と言いながら、待ち席を案内してくれた。
そんな俺達……と言うよりは、俺個人を入店した時からずっと見てる奴が居るって事には気付いてる。
多分だけど…奥の方に居るあの男前が…きっと「りょう」なんだろう。
まぁ、良い。
俺だって、どんな奴が気になってたからさ…。
那生が親友だと言ったソイツの事を。
入口付近の待ち席で待ってた俺達の前に、会計をしに来てるグループと共に那生が歩いて来てて……俺は何となく、那生の様子を見てた。
先頭で通路を歩いて来てた那生が、脇に脱がれた客の靴を小上がりの下にサッと揃えながら来てる。
すぐ後ろを歩いて来てるグループのおっちゃんは、足が悪くて杖をついている。
歩きやすいように、躓かないように通路を広く空けたんだって分かった。
「月ちゃん、今度一緒に飲んでよ」
レジに入った那生にその常連っぽいおっちゃんが話しかけてる。
酔ってて声がデカいから全部聞こえる。
「え~、それはどうしよっかな」
「何で、俺が奢るからさ。こんなむさっ苦しいおっさんばかりより、月ちゃんみたいな若い子と飲みたいよ」
「お前が誘ってるくせによく言うよな」
「そうだそうだ」
「あはは、突っ込まれてますよ」
「女の子と飲んだらちょっと問題あるだろうから、月ちゃん、相手してよ」
「え~、じゃあ店長に聞いときます。店長がダメって言ったらダメですよっ」
「良いって言ったら?」
「いただきますっ」
テンポよく会話を続け、会計を済ませた後はグループを送り出して自分も外に出てる。
「小島さんっ、そこ、段差段差っ、足元気を付けてっ」
那生の声が聞こえて来る
何か……ちょっと……すげぇって思ってる。
さっきのおっちゃんは多分常連で、きっと那生のファンだろう。
でも、何か分かる……ちょっとした事だけど……一生懸命やってんのとか、優しい性格が無意識か分かんねぇけど出てしまってんのとか……そう言うとこが………何か…
俺には真似出来ないと思うし……
何となく……ちょっと……
可愛いじゃん、って思う。
「あっ、急いでテーブル片付けるからもうちょい待って」
戻って来た那生が俺にそう言って、今度はさっき空いたテーブルの方に小走りで行った。
テーブルの食器をせっせと片付けてる。
那生ともう1人………りょうだ。
何か話しながら2人で片付けてるのを、何となく見る。
那生が何か言ってりょうの腕を軽く叩くと、りょうが笑って那生の頭をグシャグシャと撫でた。
…………ちょっと………気に入らねぇのは何でだ。
「幸多、顔怖ぇよ」
隣から大河にそう言われて、那生たちの方をガン見してたんだなって事に気付く。
「お待たせしました~」
片付け終わった那生が急いでやって来た。
「ごめん、待たせちゃって、大丈夫?」
「あぁ、大丈夫」
「あ、じゃあ、ご案内します」
大河たちに向かって那生が言う。
さっき片付けてくれた席へ通される。
男4人でちょうど、って感じの席。
「今度はもっと広いとこ取っとくから先に言えよな~」
「あぁ、そだな。でも4人だしちょうど良いよ」
席に座り、とりあえず全員ビールを注文。
「月ちゃん」
「えっ、」
大河が行き成りそう呼んだから、那生が少し驚いてる。
「月ちゃん、で良いんでしょ?ここに書いてる。さっきのおっちゃんもそう呼んでたし?」
「あっ、はい、もちろん」
自分の胸元を指して言った大河に、那生は笑顔で答える。
「幸多の同級生でしょ?」
「あ、はい」
「こいつ、結構、俺様でオラオラだけど昔は大丈夫だったの?」
俺様、って何だよ。
そんなワンマンじゃねぇよ、俺は。
「あははっ、まぁ、俺も被害被ってました」
サクッとそんな風に答えた那生の腕に、軽くパンチしてやった。
「何で、そうだろ?俺は被害者だっ」
「うるっせ、早くビール持って来いよ」
「出たっ、オラオラッ」
那生はそう言って、おしぼりと取り皿をテーブルに置くと厨房の方へ戻って行った。
「話しやすい奴だね」
大河が那生の事をそんな風に言ったのが……何となく嬉しく感じたり…。
俺だって、5年ぶりに那生に再会して…強気発言する事も多々ある奴だけど、会話が…何というか……続くな、って思った。
那生が持ってるもんなんだろう……聞き上手なのか何なのか分かんねぇけど、何か話してしまう雰囲気って言うか…。
「ビールお待たせしましたぁ~」
那生が運んで来た。
「月ちゃん、唐揚げ、何か賞取ってんの?」
蒼が聞いた。
「あ~そうなんですっ。唐揚げグランプリって大会があって、それの居酒屋部門で金賞取ったんですよ~!すごいでしょ?」
「確かにっ、じゃあ美味いんだ」
「めっちゃ美味いですっ、俺はおすすめっ」
じゃあ、と蒼が2皿注文した。
他にもそれぞれが食べたい物を注文する。
にしても、マジで忙しそうな店。
ホールスタッフは那生以外にも何人か居るけど、全員動き回ってる。
「月ちゃんっ、焼き鳥3人前~」
「あっ、は~い。タレですか?塩ですか?」
「タレで~」
「は~い、ありがとうございま~す」
奥の方からそんな会話が聞こえて来た。
常連も多いんだな、この店は。
俺ら世代も沢山来てて、どのテーブルを見てもやっぱり唐揚げの注文率はすげぇ高い感じがする。
「あっ、遼、これも一緒に頼む~」
「はいよ」
時々、那生がりょうと話す声も聞こえる。
俺の事は苗字で呼ぶのに、アイツの事はりょうと呼んでた事が気に入らなくて、俺の事も名前で呼ぶように言った。
俺は、あの罰ゲームの時から那生の事は「那生」と名前で呼んでんのに、アイツはずっと「麻生」だった。
何か…それ以上は近付かないって、一線引かれてるような気がしてちょっとムカついた。
アイツが俺に踏み込んで欲しくないって思ってたとしても、それは仕方ない。あの罰ゲームが尾を引いてんだろうし…。
だから、俺とはあんまり親しくなりたくなくて、いつまでも「麻生」と呼んでたのかも知れないけど。
5年経って再会した時……アイツはよく知りもしない男とホテルから出て来て、聞けばヤッてたってすんなり認めるし……昔の那生しか知らない俺は、少なからず興味を持ったのは確か。
「お待たせしました」
唐揚げを運んで来たのは、りょうだった。
名札に『遼 23さい』と書いてる。
年上かと思ったけど、同い年なんだ…。
「麻生さん、ですよね。月と同級生の」
「え、」
突然、そう言われて思わず遼の顔を見た。
「戸渡 遼と言います」
「あぁ、」
「宜しくお願いします」
別に、お願いされる事も無ぇけど。
「また、どっかで会うかも知れないんで」
「あぁ、どうも」
短く返すと、遼は去って行った。
「…何か、敵対心?」
「え?」
「さっきのスタッフ」
「…知らねぇ」
やけに勘の鋭い大河が小声で言って来たけど……何かちょっと……ムカついてる自分が居る。
「お待たせしましたぁ~」
入れ替わりに那生が注文した料理を持ってやって来た。
「あっ、唐揚げ食べた?」
「や、今来たし」
「え~、食べてみてよ、早く」
料理の皿をテーブルに並べながら、すげぇ急かして来る。
とりあえず、蒼は唐揚げを1皿確保してる。
キラキラしながら那生が待ってるから、全員とりあえず唐揚げを一口食べた。
「美味いっ!!」
蒼が言うと途端に嬉しそうな顔で那生が小さくガッツポーズしてる。
大河も悠真も「美味い」を連発。
俺にもその視線が向けられたから、美味いと褒めてやった。マジで金賞取るだけの事はある。
「醤油?…何か味噌っぽい感じもする」
「わっ、すげぇ~、幸多分かるの?」
「入ってる?」
「隠し味に味噌使ってる」
嬉しそうな顔でそう言うけど……
「隠し味なのに、言って良いの?」
「え、…あ…」
那生っぽいなって思って可笑しくなった。
……まぁ、那生っぽいと言っても、俺が那生の何を知ってんだって言われたら……正直、知らねぇんだけど……でも、何となく、完璧ではないのは分かってて……多分、「おっちょこちょい」みたいなワードが一番しっくり来るんだろうな、って漠然と思う。
これ、言ったらきっと殴られそうだな…。
「何か…好きでしょ、幸多、あのタイプ」
唐揚げにテンション上がってる蒼と悠真は置いといて、大河がこっそり言って来る。
「好きでしょ、って」
「いやいや、そこにどんな意味があるかは俺は知らねぇけどさ…好きか嫌いかで言ったら好きでしょ?」
「何を言わせたいんだよ」
「俺も好きだもん、あの感じ」
「はぁっ!?」
思わず大河を凝視した。
「ん?何?」とか言ってる唐揚げ組は放っといて……
「ほら、焦ってる、やっぱり好きなんじゃん」
「何だよ、お前」
「別に?」
そう言って、ははっと笑う。
こいつの勘の鋭さは今までも色んな場面で分かってたけど……
まぁ、でも、那生の事を好きとかそう言うんじゃ無くて……何て言うか……あの罰ゲームが俺の中でも強烈に残ってて……落とそうとして毎日連絡してた時は、アイツからの返事とかリアクションが、その頃からテンポが良くてやり取りしやすかったのはある。
ゲイなんて、だいぶ変わってる奴だって思ってたから。
それからは、俺らが2時間近く飲み食いしてる間、店の客は入れ替わりで常に満席状態で、那生はずっと忙しなく店内を動き回ってた。
会計をする時はレジにやって来て「割り勘?計算しようか?」とか言ってくれたけど、俺らの割り勘ってすげぇざっくりだから、適当に出し合って払った。
当然のように見送りで外まで出て来てくれる。
「どっか行くの?」
「あ~、多分な」
「へぇ~、良いね。みんなイケメンでびっくりしちゃった」
誰か狙ってんの?とちょっと意地悪く聞いてやったら、バーカと言ってグーでパンチされた。
「ありがと、来てくれて」
「美味かった、また来るわ」
笑顔で頷く。
「みなさんもありがとうございました~」
大河たちにお辞儀してる。
「唐揚げ気に入っちゃって、コイツ」
「ほんとですかっ、良かった」
「マジで美味かった」
「また来るね、月ちゃん」
何か……馴染んでるし…。
「じゃな」
「うん。明日、同窓会でしょ?」
「あー、そう」
「早めに切り上げないと明日に響くよ?」
「人をおっさんみたいに言うな」
あはは、と笑って俺らを見送った那生は、また店内へと戻って行った。
何か……ちょっと満足してる。
那生が、俺に対してのガードを少し下げてくれたような気がした。
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これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?【高瀬陸×一ノ瀬湊 編】
綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。
湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。
そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。
その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。
転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~
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BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。
突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。
有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。
約束の10年後。
俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。
どこからでもかかってこいや!
と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。
そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変?
急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。
慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし!
このまま、俺は、絆されてしまうのか!?
カイタ、エブリスタにも掲載しています。
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