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第7話
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* 遼side *
突然だった。
月の声が思いっきり聞こえた。
「麻生っ!」
…って。
直ぐに月が駆け寄って真正面に立った相手……
……ふ~ん……ソイツが麻生なんだ。
…………だいぶイケメンじゃん。
月が何か喋ってる。
話声までは聞こえないけど。
多分……俺が見てる事を、アイツも気付いてる。
突然……月の生活の中に入り込んで来た感じ…。
今まで、月との会話の中に麻生なんて名前の奴、登場した事無かったし…。
正直……麻生と電話してる月は、今まで俺が見て来た月とは違ってて……口調も表情も初めて見る感じで……
そんな風に月の感情を揺らして来るこの麻生と言う奴の事を……
会う前から、俺は警戒してる。
月に聞いたら、高校の同級生ってだけで特に仲良かった事も無いって言ってたけど……そんな只の同級生に対して、電話であんなに強い口調で怒鳴りまくるかな…。
……大嫌いだと言った割には、家に上げたり……月を怒らせる割にはこうやって店に来たり……
何となく……お互いが、特別って思ってるんじゃないかと……勝手に推測してる。
グループ客が帰った後のテーブルを月と一緒に片付ける。
「あれが麻生?」
「え、うん、そう」
皿をトレーに重ねて纏めながら月が答える。
「イケメンじゃん」
「あー…そうだね。高校ん時もすっげぇモテてた」
月は纏め終わったトレーを端に退けて、テーブルをアルコールで拭いてる。
「俺とどっちがイケメン?」
「へ?」
大きな目をパチパチさせて俺を見た。
「う~ん、性格の良さがポイント加算で遼の勝ちかな」
と笑って、俺の腕をパシッと叩く。
良い奴って思われてんだって、単純に嬉しくなって……麻生がこっち見てんのに気付いてたけど、敢えて月の頭をグシャッと撫でた。
ちょっと……黒いとこを出してしまった。
月が思ってる程、性格良くないかも…俺。
月は、麻生のテーブルに行く度に何か喋って楽しそうに笑ってる。
お客さんとすぐ仲良くなるのは、月の得意技だ。今だって、麻生の友達とも普通に喋ってるし。
「お待たせしました」
麻生のテーブルに唐揚げを運んだ。
ちょっと、絡んでみたくなって。
麻生は俺の顔を見た。
どう思ってんのかは知らないけど、その目はさっき月に向けてた目とは全然違う感じ。
きっと、コイツも俺と同じような感情を持ってるんだろうな…。
俺が麻生を気に入らない様に、麻生も俺が気に入らない。
何となく。
「麻生さん、ですよね。月と同級生の」
「え、」
俺が話しかけた事を意外そうにこっちを見る。
「戸渡 遼と言います」
「あぁ、」
「宜しくお願いします」
別に、お願いしたいとも思って無いけど。
一応。
「また、どっかで会うかも知れないんで」
「あぁ、どうも」
それだけ言って、去った。
良い感じはしなかっただろう。
それならそれで良い。牽制球を投げたと思ってくれても良い。
麻生は月の事を『那生』と呼んでいる。
この前、麻生が月の家に居た時……月との電話中に後ろから聞こえた。
『月』と呼ぶのは、月が提案したからだ。月島の月。
バイト入ってすぐ仲良くなって、何で呼ぼうかって言ってた時……俺はとりあえず無難に名前呼びを提案したけど、月が『だったら月が良い。呼ばれた事ないから』とか言うから、じゃあそれで、みたいな感じで…それからずっと月って呼んでる。
その後は、新しく入ったバイト仲間とかお客さんにも、月と呼ばせてる。
なのに、麻生だけは『那生』と呼んでいる。
……麻生以外に名前で呼ばせたくないのか、とか……思ってしまう。
月とは俺がショップの仕事がメインになる前から、ほとんど毎日バイトで顔を合わせてて、お互いの家も何度も行き来してる。
くだらない話したり、たまには仕事や将来の事とか真面目に話してみたり、俺が彼女と別れた時は家飲みだ!とか何とか言って押しかけて来たり……
ほんとに、色んな場面で俺の隣には月が居た。
なのに、行き成り、麻生が現れて……
月の様子が変なんだ。
俺のこの……苛立ちが『嫉妬』なんだって事には、俺は割と前から気付いてる。
しかも、本人に会ってみたら……手強いなって思うくらいのイケメンで……ちょっと内心焦ってる。
月がどう思ってるか知らないし、麻生だってどういう感情で居るのか分からないけど、俺の心中が穏やかじゃ無い事だけは確か。
麻生たちが帰る時、月が外まで見送りに出る。
結局、俺が麻生と絡んだのは最初の1回だけ。
「月ちゃん、さっきの友達?」
「あぁ、1人だけね。他の3人は今日初めて会った」
「イケメンしか居なくて、ビール持ってった時変な汗出た~」
「あはは、今日子ちゃん、彼氏居るじゃん」
「彼氏とイケメンは別だよ~~。イケメン見るぐらいタダだし浮気にも何にもなんないでしょ?」
見送りから帰って来た月を学生バイトの今日子ちゃんが掴まえて話してる。
「彼氏居なかったら絶対紹介して貰うとこだったぁ~~」
「…彼氏が可哀そうになって来た」
「彼氏一筋だよ、私はっ」
「嘘つけっ」
楽しそうに笑ってる。
月はよく笑う。
ちょっと童顔ってのもあって、同い年には見えない。
ここで制服着てるとそうでも無いけど、休みの日に私服を見たりすると特にそう思う。
私服が子供っぽいって意味じゃなくて……素のままの月が、何か…幼く見える。俺には。
~~~~~~~~
「お疲れ様でした~」「お疲れ~」
バイトが終わって、今は1時。
土曜だったから客数も多く、片付けも少し長引いた。
「腹減ったかも」
「かも、って何だよ。何か食って帰る?」
「ん~…ラーメン」
「良いよ、じゃ後ろ乗る?」
「乗る~」
そう言って、俺の自転車の後ろに跨って来る。
一応、兄貴のお下がり的な車があって普段はそれに乗ってんだけど、バイトの日は流れで飲んだりする事もあるし、今日みたいに帰りに何か食いに行くみたいなパターンもあるから、自由の利く自転車で来るようにしてる。
「今日さぁ……」
「んー?」
「麻生が来たじゃん」
「あぁ、…うん」
背中越しに聞こえる月の声。
「嬉しかったの?」
「え…」
月が、少し黙った。
「嬉しいとか、そう言うんじゃないよ、別に」
ちょっとだけ返答に困ってるような声。
「俺は、嬉しくなかった」
「……………」
完全に黙った。
聞こえてない訳は無いだろう。
俺のこんな発言を、月はどう思うんだろうか。
「も~っ!遼は麻生の事気にしすぎっ!」
空気を変えようと思ったのか急に明るい声でそう言って、俺の背中を思いっきり叩いた。
「いってぇしっ」
「あははっ、心配しなくても遼の方がイケメンだって!」
「はぁ~?そんな事分かってるし」
「わっ、嫌な奴~~っ」
せっかく月が変えた空気を、また戻すのは気が引けて……俺もそのテンションに乗った。
月が隣に居るのに、麻生の事で気まずくなりたくないって思ってる俺も居て……。
「あっ、遼っ、ここ、ここっ、このラーメン屋行ってみたいっ」
「えっ、おおぅ、」
急に言うから通り過ぎそうになって慌ててブレーキを掛けた。
…とりあえず、今日はこれでいい。
今、この時間、月の隣に居るのは俺だ。
* 幸多side *
東京から2時間……地元に帰って来た。
今は実家。
正月は帰れなかったから、前に帰って来たのは去年の盆休みの時だ。有給とくっ付けて少し長めに休みを取ったから、割とゆっくり過ごせた。
今回はこの同窓会の為の帰省なので、実家で1泊するだけだ。
親にはブーイングされたが、ゴールデンウィークはゆっくり帰るから、などと少し誤魔化して同窓会に向かうべく家を出た。
学年全体の同窓会だから参加者が結構多く、会場は披露宴にも使われる規模のホテルの部屋を貸し切ってるらしい。
ホテルのロビーに入ると、早速色んな奴が絡んで来た。
あんまり話した事無い奴も居れば、昔付き合ってた女の子まで、5年という歳月を経て懐かしさを前面に押し出しながら話す。
「麻生~~っ!」
振り返ると相原が居た。
一気に高校時代を思い出して、久々の再会に嬉しくなる。
「めっちゃ久々だよなっ、元気にしてるか?」
高校時代よりは幾らか落ち着いた感じの相原が、俺の頭をグリグリしながら言う。
「あっ、麻生~、相原~っ」
俺と相原が一緒に居るのを見つけた奴らが次々と集まって来た。
高校時代の、いつもの面子。
そこに、仲の良かった女子達も合流して、始まる前から異常にテンション上がってるし…。
~~~~~~~~
次々と色んな奴が入れ替わりでやって来て、話しながらの食事。
ほんとに、色んな奴が来るから一言で言うと……目まぐるしい。
まぁ、思い出話は尽きないもんで、あんな事もあったこんな事もあった、と誰かしらが話す話題に乗っかったり……
「お前と話すのほんと久しぶりだよな」
ちょっと落ち着いた時、相原が隣でそう言った。
「ほんとだな。大阪はどう?関西弁喋ってんの?」
「まぁ、5年も居たらちょっとはうつる」
小学校と提携してるスポーツブランドの会社に勤めてるから、結構忙しくしてるみたいだ。
「仕事楽しい?」
「そうだな、最初はピンと来なかったけど、今は結構好きでやってるわ」
「良かったじゃん」
「麻生は?エクステリア?」
「あ~そう。俺も今は面白くなって来た。先輩ですげぇ人が居てさ、その人の下に付いてる」
「麻生が人の下に付くとか……考えらんねぇんだけど」
「はぁ?何だよそれ」
俺ってそんなワンマンなイメージ?
大河にも、俺様とかオラオラとか言われたし…。
「俺、案外普通だよ?」
「そうかぁ~~?」
疑惑の眼差しを向けて来る。
「まぁ、楽しくやってんなら良いけどさ」
「まぁな」
相原と緩く笑い合う。
「それにしても、すげぇ規模だよな、これ」
「あ~、発起人が優秀クラスの奴らだからな」
「…だからか、何かすげぇと思ったわ」
俺らだったらこんな企画になる訳が無いしな…。
まぁ、俺らが発起人になる事なんか先ず無いけどさ…。
「受付やってた奴に参加人数聞いたら、かなりの出席率だった。来てないの20人くらいじゃねぇ?」
すげぇ。
ホテル貸し切りってのもきっと出席率上げた要因だろうな、きっと。
まだ男も女も独身が圧倒的に多いから、みんなきっと自由に動けんだ。
家庭があるとどうしても都合がつかなかったりして、来られないとかなるもんな…。
「瞳ちゃんは今臨月だって。もう産まれそうだから来れないって連絡あったって言ってたな。あと加奈も今新婚旅行行ってるってさ」
「結婚してんだ、2人とも」
「そ。俺ら同じクラスだった森本も理由は知らねぇけど欠席だって。あとは……あぁ、そうそう、アイツ来てねぇわ、ほら、あのゲイだった月島」
行き成り、那生の名前が出て、ちょっとドキッとした。
「まぁ、アイツの場合は来たくても来れないだろうけどさ」
サラッと相原がそう言った。
「え、何それ」
「え、あぁ、そっか、麻生知らないか」
「何」
何か分からないけど、気になって仕方ねぇ。
相原の言い方も何か含んでるし…。
「罰ゲームやったじゃん、覚えてる?」
「あぁ、」
忘れる訳無いだろ、あんな罰ゲーム。
「あの後、卒業まで結構みんな月島が麻生狙ってるとかいじってたじゃん」
「あぁ…そうだな」
いじってたって言うより……いじめだろ、あれ。
俺らは罰ゲームしか関わってないけど、その後の那生に対する周りの言動や行動は陰湿だった。
まぁ、そのきっかけを作ったのは俺らだ…。
「麻生は卒業して直ぐ上京したから知らねぇだろうけど、月島の事結構な噂になってさ、月島の近所でも一気に広がってたみたいでさ。俺んちの母ちゃんまで『月島くんって子、同性愛者なんでしょ?』とか言って来たぐらいだから、かなり広がってたんじゃねぇかな」
…………知らなかった、そんなの…。
「月島の母親もすげぇ肩身狭い思いしてたっぽくて、月島は進路決まってた訳じゃねぇけど居辛くなって東京行ったってさ」
………俺らの所為じゃん。
那生の母親まで巻き込んで…。
「東京に行ったのも、こっちよりもそういうゲイとか多いだろうって事で出会いを求めて行ったとか、その時は聞いた。あと、そういう店があんじゃん、ゲイが集まる店とか場所とか、そういうとこ行くために上京した、とか。ま、噂だけどさ」
……何か……原因作ったの俺らだけど……那生の事をよく知りもしないで適当な噂ばっか流れてるって事に、かなり苛立ちを感じた。
那生の事、俺だってそんなに知らねぇけど……でも、実家に居辛くなるような状況って相当だよ…。
「だから、実家には寄り付かないんだって。上京してから1回も帰って無いみたいだしさ。帰りたくても気まずくて帰って来れないだろうな」
他人事みたいに話す相原にも少し腹が立った。
だけど、俺は思いっきり当事者で…ここで那生の肩を持つような発言をしたって、何の説得力も無い。
俺も一緒になって、那生を傷付けた。
それも、思いっ切り。
あの罰ゲームの後、一気に那生の事が全学年に広がって……嫌がらせされてる場面も正直何回も見た。
廊下歩いてたら那生のクラスの黒板にデカデカと『ホモ』だの『ゲイ』だの書かれた文字を、泣きそうな顔で必死で消してる那生を見た事もある。
一番、脳裏に焼き付いてんのは、卒業式の日。
バカ騒ぎしてる俺らから少し離れた所の下駄箱で、自分のところから溢れ出してた悪口の紙の山を1人でゴミ箱に捨ててる姿。
1人で校門へ向かう那生は………泣いていた。
何か、強烈に焼き付いてて………それがあったからかも…。
あの日、行き成り再会した時……何故か放っておけなくなったのは。
あんな事をした俺にさえも、笑顔を向けてくれる。
5年っていう月日がそうさせてるのかも知れないけど……正直5年ぐらいでは立ち直れないくらいのトラウマを植え付けてしまった、って思ってる。
俺らがした事は……本当に最低な事だったって……相原の話を聞いて思った。
……何か………
無性に那生の声が聞きたいって思うのは何でだ…。
『バイト?』
那生にメッセージを送信してみたら、意外にも直ぐに既読になって『バイトだけど今休憩中~』と返って来た。
「相原、ちょっと悪い、仕事の電話して来る」
「おっけ~」
仕事の電話と言って、その場を立った。
……那生と話がしたい。
突然だった。
月の声が思いっきり聞こえた。
「麻生っ!」
…って。
直ぐに月が駆け寄って真正面に立った相手……
……ふ~ん……ソイツが麻生なんだ。
…………だいぶイケメンじゃん。
月が何か喋ってる。
話声までは聞こえないけど。
多分……俺が見てる事を、アイツも気付いてる。
突然……月の生活の中に入り込んで来た感じ…。
今まで、月との会話の中に麻生なんて名前の奴、登場した事無かったし…。
正直……麻生と電話してる月は、今まで俺が見て来た月とは違ってて……口調も表情も初めて見る感じで……
そんな風に月の感情を揺らして来るこの麻生と言う奴の事を……
会う前から、俺は警戒してる。
月に聞いたら、高校の同級生ってだけで特に仲良かった事も無いって言ってたけど……そんな只の同級生に対して、電話であんなに強い口調で怒鳴りまくるかな…。
……大嫌いだと言った割には、家に上げたり……月を怒らせる割にはこうやって店に来たり……
何となく……お互いが、特別って思ってるんじゃないかと……勝手に推測してる。
グループ客が帰った後のテーブルを月と一緒に片付ける。
「あれが麻生?」
「え、うん、そう」
皿をトレーに重ねて纏めながら月が答える。
「イケメンじゃん」
「あー…そうだね。高校ん時もすっげぇモテてた」
月は纏め終わったトレーを端に退けて、テーブルをアルコールで拭いてる。
「俺とどっちがイケメン?」
「へ?」
大きな目をパチパチさせて俺を見た。
「う~ん、性格の良さがポイント加算で遼の勝ちかな」
と笑って、俺の腕をパシッと叩く。
良い奴って思われてんだって、単純に嬉しくなって……麻生がこっち見てんのに気付いてたけど、敢えて月の頭をグシャッと撫でた。
ちょっと……黒いとこを出してしまった。
月が思ってる程、性格良くないかも…俺。
月は、麻生のテーブルに行く度に何か喋って楽しそうに笑ってる。
お客さんとすぐ仲良くなるのは、月の得意技だ。今だって、麻生の友達とも普通に喋ってるし。
「お待たせしました」
麻生のテーブルに唐揚げを運んだ。
ちょっと、絡んでみたくなって。
麻生は俺の顔を見た。
どう思ってんのかは知らないけど、その目はさっき月に向けてた目とは全然違う感じ。
きっと、コイツも俺と同じような感情を持ってるんだろうな…。
俺が麻生を気に入らない様に、麻生も俺が気に入らない。
何となく。
「麻生さん、ですよね。月と同級生の」
「え、」
俺が話しかけた事を意外そうにこっちを見る。
「戸渡 遼と言います」
「あぁ、」
「宜しくお願いします」
別に、お願いしたいとも思って無いけど。
一応。
「また、どっかで会うかも知れないんで」
「あぁ、どうも」
それだけ言って、去った。
良い感じはしなかっただろう。
それならそれで良い。牽制球を投げたと思ってくれても良い。
麻生は月の事を『那生』と呼んでいる。
この前、麻生が月の家に居た時……月との電話中に後ろから聞こえた。
『月』と呼ぶのは、月が提案したからだ。月島の月。
バイト入ってすぐ仲良くなって、何で呼ぼうかって言ってた時……俺はとりあえず無難に名前呼びを提案したけど、月が『だったら月が良い。呼ばれた事ないから』とか言うから、じゃあそれで、みたいな感じで…それからずっと月って呼んでる。
その後は、新しく入ったバイト仲間とかお客さんにも、月と呼ばせてる。
なのに、麻生だけは『那生』と呼んでいる。
……麻生以外に名前で呼ばせたくないのか、とか……思ってしまう。
月とは俺がショップの仕事がメインになる前から、ほとんど毎日バイトで顔を合わせてて、お互いの家も何度も行き来してる。
くだらない話したり、たまには仕事や将来の事とか真面目に話してみたり、俺が彼女と別れた時は家飲みだ!とか何とか言って押しかけて来たり……
ほんとに、色んな場面で俺の隣には月が居た。
なのに、行き成り、麻生が現れて……
月の様子が変なんだ。
俺のこの……苛立ちが『嫉妬』なんだって事には、俺は割と前から気付いてる。
しかも、本人に会ってみたら……手強いなって思うくらいのイケメンで……ちょっと内心焦ってる。
月がどう思ってるか知らないし、麻生だってどういう感情で居るのか分からないけど、俺の心中が穏やかじゃ無い事だけは確か。
麻生たちが帰る時、月が外まで見送りに出る。
結局、俺が麻生と絡んだのは最初の1回だけ。
「月ちゃん、さっきの友達?」
「あぁ、1人だけね。他の3人は今日初めて会った」
「イケメンしか居なくて、ビール持ってった時変な汗出た~」
「あはは、今日子ちゃん、彼氏居るじゃん」
「彼氏とイケメンは別だよ~~。イケメン見るぐらいタダだし浮気にも何にもなんないでしょ?」
見送りから帰って来た月を学生バイトの今日子ちゃんが掴まえて話してる。
「彼氏居なかったら絶対紹介して貰うとこだったぁ~~」
「…彼氏が可哀そうになって来た」
「彼氏一筋だよ、私はっ」
「嘘つけっ」
楽しそうに笑ってる。
月はよく笑う。
ちょっと童顔ってのもあって、同い年には見えない。
ここで制服着てるとそうでも無いけど、休みの日に私服を見たりすると特にそう思う。
私服が子供っぽいって意味じゃなくて……素のままの月が、何か…幼く見える。俺には。
~~~~~~~~
「お疲れ様でした~」「お疲れ~」
バイトが終わって、今は1時。
土曜だったから客数も多く、片付けも少し長引いた。
「腹減ったかも」
「かも、って何だよ。何か食って帰る?」
「ん~…ラーメン」
「良いよ、じゃ後ろ乗る?」
「乗る~」
そう言って、俺の自転車の後ろに跨って来る。
一応、兄貴のお下がり的な車があって普段はそれに乗ってんだけど、バイトの日は流れで飲んだりする事もあるし、今日みたいに帰りに何か食いに行くみたいなパターンもあるから、自由の利く自転車で来るようにしてる。
「今日さぁ……」
「んー?」
「麻生が来たじゃん」
「あぁ、…うん」
背中越しに聞こえる月の声。
「嬉しかったの?」
「え…」
月が、少し黙った。
「嬉しいとか、そう言うんじゃないよ、別に」
ちょっとだけ返答に困ってるような声。
「俺は、嬉しくなかった」
「……………」
完全に黙った。
聞こえてない訳は無いだろう。
俺のこんな発言を、月はどう思うんだろうか。
「も~っ!遼は麻生の事気にしすぎっ!」
空気を変えようと思ったのか急に明るい声でそう言って、俺の背中を思いっきり叩いた。
「いってぇしっ」
「あははっ、心配しなくても遼の方がイケメンだって!」
「はぁ~?そんな事分かってるし」
「わっ、嫌な奴~~っ」
せっかく月が変えた空気を、また戻すのは気が引けて……俺もそのテンションに乗った。
月が隣に居るのに、麻生の事で気まずくなりたくないって思ってる俺も居て……。
「あっ、遼っ、ここ、ここっ、このラーメン屋行ってみたいっ」
「えっ、おおぅ、」
急に言うから通り過ぎそうになって慌ててブレーキを掛けた。
…とりあえず、今日はこれでいい。
今、この時間、月の隣に居るのは俺だ。
* 幸多side *
東京から2時間……地元に帰って来た。
今は実家。
正月は帰れなかったから、前に帰って来たのは去年の盆休みの時だ。有給とくっ付けて少し長めに休みを取ったから、割とゆっくり過ごせた。
今回はこの同窓会の為の帰省なので、実家で1泊するだけだ。
親にはブーイングされたが、ゴールデンウィークはゆっくり帰るから、などと少し誤魔化して同窓会に向かうべく家を出た。
学年全体の同窓会だから参加者が結構多く、会場は披露宴にも使われる規模のホテルの部屋を貸し切ってるらしい。
ホテルのロビーに入ると、早速色んな奴が絡んで来た。
あんまり話した事無い奴も居れば、昔付き合ってた女の子まで、5年という歳月を経て懐かしさを前面に押し出しながら話す。
「麻生~~っ!」
振り返ると相原が居た。
一気に高校時代を思い出して、久々の再会に嬉しくなる。
「めっちゃ久々だよなっ、元気にしてるか?」
高校時代よりは幾らか落ち着いた感じの相原が、俺の頭をグリグリしながら言う。
「あっ、麻生~、相原~っ」
俺と相原が一緒に居るのを見つけた奴らが次々と集まって来た。
高校時代の、いつもの面子。
そこに、仲の良かった女子達も合流して、始まる前から異常にテンション上がってるし…。
~~~~~~~~
次々と色んな奴が入れ替わりでやって来て、話しながらの食事。
ほんとに、色んな奴が来るから一言で言うと……目まぐるしい。
まぁ、思い出話は尽きないもんで、あんな事もあったこんな事もあった、と誰かしらが話す話題に乗っかったり……
「お前と話すのほんと久しぶりだよな」
ちょっと落ち着いた時、相原が隣でそう言った。
「ほんとだな。大阪はどう?関西弁喋ってんの?」
「まぁ、5年も居たらちょっとはうつる」
小学校と提携してるスポーツブランドの会社に勤めてるから、結構忙しくしてるみたいだ。
「仕事楽しい?」
「そうだな、最初はピンと来なかったけど、今は結構好きでやってるわ」
「良かったじゃん」
「麻生は?エクステリア?」
「あ~そう。俺も今は面白くなって来た。先輩ですげぇ人が居てさ、その人の下に付いてる」
「麻生が人の下に付くとか……考えらんねぇんだけど」
「はぁ?何だよそれ」
俺ってそんなワンマンなイメージ?
大河にも、俺様とかオラオラとか言われたし…。
「俺、案外普通だよ?」
「そうかぁ~~?」
疑惑の眼差しを向けて来る。
「まぁ、楽しくやってんなら良いけどさ」
「まぁな」
相原と緩く笑い合う。
「それにしても、すげぇ規模だよな、これ」
「あ~、発起人が優秀クラスの奴らだからな」
「…だからか、何かすげぇと思ったわ」
俺らだったらこんな企画になる訳が無いしな…。
まぁ、俺らが発起人になる事なんか先ず無いけどさ…。
「受付やってた奴に参加人数聞いたら、かなりの出席率だった。来てないの20人くらいじゃねぇ?」
すげぇ。
ホテル貸し切りってのもきっと出席率上げた要因だろうな、きっと。
まだ男も女も独身が圧倒的に多いから、みんなきっと自由に動けんだ。
家庭があるとどうしても都合がつかなかったりして、来られないとかなるもんな…。
「瞳ちゃんは今臨月だって。もう産まれそうだから来れないって連絡あったって言ってたな。あと加奈も今新婚旅行行ってるってさ」
「結婚してんだ、2人とも」
「そ。俺ら同じクラスだった森本も理由は知らねぇけど欠席だって。あとは……あぁ、そうそう、アイツ来てねぇわ、ほら、あのゲイだった月島」
行き成り、那生の名前が出て、ちょっとドキッとした。
「まぁ、アイツの場合は来たくても来れないだろうけどさ」
サラッと相原がそう言った。
「え、何それ」
「え、あぁ、そっか、麻生知らないか」
「何」
何か分からないけど、気になって仕方ねぇ。
相原の言い方も何か含んでるし…。
「罰ゲームやったじゃん、覚えてる?」
「あぁ、」
忘れる訳無いだろ、あんな罰ゲーム。
「あの後、卒業まで結構みんな月島が麻生狙ってるとかいじってたじゃん」
「あぁ…そうだな」
いじってたって言うより……いじめだろ、あれ。
俺らは罰ゲームしか関わってないけど、その後の那生に対する周りの言動や行動は陰湿だった。
まぁ、そのきっかけを作ったのは俺らだ…。
「麻生は卒業して直ぐ上京したから知らねぇだろうけど、月島の事結構な噂になってさ、月島の近所でも一気に広がってたみたいでさ。俺んちの母ちゃんまで『月島くんって子、同性愛者なんでしょ?』とか言って来たぐらいだから、かなり広がってたんじゃねぇかな」
…………知らなかった、そんなの…。
「月島の母親もすげぇ肩身狭い思いしてたっぽくて、月島は進路決まってた訳じゃねぇけど居辛くなって東京行ったってさ」
………俺らの所為じゃん。
那生の母親まで巻き込んで…。
「東京に行ったのも、こっちよりもそういうゲイとか多いだろうって事で出会いを求めて行ったとか、その時は聞いた。あと、そういう店があんじゃん、ゲイが集まる店とか場所とか、そういうとこ行くために上京した、とか。ま、噂だけどさ」
……何か……原因作ったの俺らだけど……那生の事をよく知りもしないで適当な噂ばっか流れてるって事に、かなり苛立ちを感じた。
那生の事、俺だってそんなに知らねぇけど……でも、実家に居辛くなるような状況って相当だよ…。
「だから、実家には寄り付かないんだって。上京してから1回も帰って無いみたいだしさ。帰りたくても気まずくて帰って来れないだろうな」
他人事みたいに話す相原にも少し腹が立った。
だけど、俺は思いっきり当事者で…ここで那生の肩を持つような発言をしたって、何の説得力も無い。
俺も一緒になって、那生を傷付けた。
それも、思いっ切り。
あの罰ゲームの後、一気に那生の事が全学年に広がって……嫌がらせされてる場面も正直何回も見た。
廊下歩いてたら那生のクラスの黒板にデカデカと『ホモ』だの『ゲイ』だの書かれた文字を、泣きそうな顔で必死で消してる那生を見た事もある。
一番、脳裏に焼き付いてんのは、卒業式の日。
バカ騒ぎしてる俺らから少し離れた所の下駄箱で、自分のところから溢れ出してた悪口の紙の山を1人でゴミ箱に捨ててる姿。
1人で校門へ向かう那生は………泣いていた。
何か、強烈に焼き付いてて………それがあったからかも…。
あの日、行き成り再会した時……何故か放っておけなくなったのは。
あんな事をした俺にさえも、笑顔を向けてくれる。
5年っていう月日がそうさせてるのかも知れないけど……正直5年ぐらいでは立ち直れないくらいのトラウマを植え付けてしまった、って思ってる。
俺らがした事は……本当に最低な事だったって……相原の話を聞いて思った。
……何か………
無性に那生の声が聞きたいって思うのは何でだ…。
『バイト?』
那生にメッセージを送信してみたら、意外にも直ぐに既読になって『バイトだけど今休憩中~』と返って来た。
「相原、ちょっと悪い、仕事の電話して来る」
「おっけ~」
仕事の電話と言って、その場を立った。
……那生と話がしたい。
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番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~
青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」
その言葉を言われたのが社会人2年目の春。
あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。
だが、今はー
「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」
「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」
冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。
貴方の視界に、俺は映らないー。
2人の記念日もずっと1人で祝っている。
あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。
そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。
あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。
ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー
※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。
表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
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