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第8話
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* 幸多side *
『もしもし』
「出んの早っ」
那生に電話をかけたら、1コール目で出た。
『何、どしたの?』
「いや、まぁ、何でもねぇけど」
『用事じゃないのかよ~、俺今忙しいんだけど』
「飯食ってるだけだろ?」
『飯食うのが忙しいんだよっ』
今はこんなに、普通に会話をする。
あんなに傷付けたのに。
『同窓会終わったの?』
「や、今途中」
『途中に何で電話して来んのさ』
「何か、相原と話しててお前の話になってさ」
『…え、』
那生が少し黙った。
微妙な沈黙が流れる。
「俺……知らなかったわ……お前が家出て来た理由」
『…何今更そんな事言ってんの』
表情は見えない。
普通な感じで言うけど。
「噂になってた事も、今日初めて知った」
『あっそ。もう昔の事だよ、そんなの』
大して気にも留めてないような口調だけど、多分、那生の中では何も解決してないんだろうって事はだいたい分かる。
「那生」
『…………』
また、黙る。
勝手な想像だけど……多分、今、相当動揺してんだろ…
「…傷付けて……悪かったな…………ごめん」
『…な…何だよ、急に、しおらしくなっちゃって』
とか言ってるけど……その声は少し震えてる。
だけど俺はそのまま話を続ける。
今は素直に話したい気分になってんだ。
「お前は何も間違ってねぇよ。男しか好きになれなくてもさ」
『だから…変だって、幸多、あ、酔ってんの?』
まだ言ってるけど…それも無視。
「あの時、あんな風にお前を傷付けた事を、今頃後悔してる……って、遅ぇよな」
『遅すぎだよ、バカ』
重くならないようなトーンで返して来る。
コイツはきっと……俺が想像してるよりもだいぶ……優しいんだろう…。
「許しては貰えないのかも知れないけど………俺…これからもお前に連絡すると思う」
『はぁ?』
「お前には、バカだ何だって言われるかも知れねぇけど」
『今もちょっと何か、バカだしね』
結構、俺に暴言吐くよな…。
でも、俺は別に………嫌いじゃない。
『再会するまではさぁ…どっかで会ったら文句の1つや2つ……いや、多分、20個くらいあるけど、』
「多いな…」
『まぁ、そういうの、言ってやりたいって思ってたとこもあるけど……再会したら…何か思ってたより話しやすいし、意外と優しいし、ちょっとバカだし、』
「バカ頻発するじゃん」
呑気に笑ってる。
俺の事そんなバカバカ言うの、お前くらいだぞ。
『俺の事…全部知ってるのって幸多だけだからさ…俺も…何か楽なんだ…隠さなくて良いってほんとに全然違う。…だから…また色々話聞いてよ』
何か…そんなに知らないけど、何となく那生らしいなって思ってしまう。
あんなに傷付けた相手なのにさ……
「同窓会参加の皆さ~ん、先生の言葉があるんで会場に集まって下さ~い」
会場から出てる参加者に向かって声がかかる。
「あ、会場戻んないといけねぇみたい」
『あ、ほんと?分かった』
「あのさ…」
『ん?』
もう一度だけ……ちゃんと謝らせてくれ。
ほんとに、悪かったって今なら心底思えるからさ…。
「ほんとに、ごめんな」
『もぉ~っ、まだ言ってんの?あっ、じゃあさ、悪かったって思ってんならお土産買って来てよっ』
交換条件がそんなんで良いのか…。
「え、良いけど…何が良いの」
『考えてLINEするから』
「分かった、じゃな」
『うん、じゃあ』
そう言って電話を切って、急いで会場に戻った。
vvvvv……
恩師の言葉的な時間。
ポケットで携帯が短く震えた。
取り出すと、那生からのメッセージだった。
『買って来て欲しいお土産。 ○○ラーメン、○○バウム、○○珈琲のインスタントコーヒー、○○スーパーのオリジナルパスタソース3種類くらい、○○神社の恋愛のお守り、良い香りがする柔軟剤、トイレットペーパー 以上。』
「ふっ、…」
思わず、笑ってしまった。
隣で相原にちょっと変な目でみられたけど…。
ラーメンやバウムクーヘンは地元じゃかなり有名なやつだ……最後の柔軟剤とトイレットペーパーに関しては、最早お土産ではなく只切らしてる日用品を頼んだだけだろっ。
……だけど、こういうのも何となく心地良くて……
遠慮されるより言ってくれる方が良い……まぁ、これはちょっと多いけど…。
* 那生side *
幸多に……あんな風に言われるとは思ってなかった。
「ごめん」だなんて………今更だよ、ほんと。
あの罰ゲームは、絶対忘れる事は出来ないけど……でも、5年経った今、再開した幸多を掴まえてあの時の事を文句言うのも何か違うなって思ってた。
だって……グラつかなければ…ゲームは俺の勝ちで終わってた事だ。
幸多ともっと一緒に居たいって思ってしまった俺の負けで正解だ。
しかも、絶対落ちないとか言っといてのあの結末だから、余計恥ずかしい…。
再会した時だって、俺は見ず知らずの男とホテルから出て来たの見られてるし……カッコ悪いったらないよ。
食べ終えたコンビニ弁当のパックをゴミ箱に捨てて、何となく壁際に歩いて行って窓を開ける。
そこから、雲一つない暗い夜空に薄黄色の真ん丸い月が見えた。
幸多があんな事言うから、高校時代の事ばっかりが頭ん中に浮かんで来る。
ホントに最悪な高校生活だった。
そもそも先輩に告白したのが間違いだったと思う。
何か焦って……告白してしまった。
やっぱ、男が男を好きになるって、周りはやっぱり不快に思うらしくて、当事者の俺を「ホモ」だの「ゲイ」だの「キモイ」だの「ウザい」だの…そんな風に攻撃する事で、不快感を払拭しようとしてんだろうな、って思える。
バイ菌をやっつける、みたいな事。
女子が男子を、反対に、男子が女子を好きになった時には、周りはみんな「頑張れ」と言う。
なのに、男子が男子を好きになった途端に、全員が敵だ…。
思いを寄せる相手までもが……嫌悪感丸出しで拒絶して来る。
だから今まで、特定の彼氏は居ないままでここまで来てる。
彼氏が欲しいって思わない訳じゃ無い。
俺はけっこう惚れやすい体質で、気持ちが上がると直ぐに告白してしまう。
男同士の場合、のんびりしてられない。
今まで出会って来た男の人たちは、最初こそ俺にハマったみたいに言うけど……途中から、様子が変だなって思ったら、結局やっぱり女の人の所に戻って行く。
だからもう、軽々しく人を好きになるの止めよう…って半年前に心に誓ったのに、結局寂しくなって人恋しくなって……幸多と再会したあの日の様に、初めて会ったような男とホテルでセックスをする。
気持ち良いし、その時は何も考えないで良いし、お互いそういう趣味だし……気兼ねなく出来る。
だけど、別れ際が虚しくて仕方ない。
自分は一生……幸せになれないんじゃないかって気になって……辛さと不安だけが残る。
でも……止められない。
「………っ、もぉ………最悪じゃん………」
見上げてた綺麗な月が一気にぼやけて滲み、自分が泣いてる事に気付く。
休憩室、1人だから良いけど……もうすぐ店に戻らないといけない……泣いた顔で戻れないじゃん……
『…傷付けて……悪かったな…………ごめん』
……今更、謝んなよ、バカ。
あの、罰ゲームの時の幸多が本当の幸多なら…………俺は、1週間もあれば落ちるだろう…。
「何泣いてんの」
「っ、ぅっ、わっ!!!」
思いっっっきりビビりまくってしまった。
俺のビビり様に、その声の主である遼もビクッと肩を竦ませてる。
「なっ、何でっ、いつから居たのっ」
「さっき、普通に入ったけど」
え……そうなの……?
全く気付かなかったけど……。
ビビりすぎて涙拭くのも忘れてた。
急いで、制服の袖で涙を拭き取る。
「何か見えんの?」
遼が俺の少し後ろから俺が見てた月を見上げて来る。
「月見てたの?」
「…うん。真ん丸だし」
「あぁ、そだな」
「キレイ」
「うん」
「感動しちゃって」
「それで泣いたの?」
「そう」
……そんな、ロマンティストじゃ無いだろっ、て思ってるのはその顔見たら分かるよ。
でも、今はそう言う事にしといて欲しい。
俺はゲイで、高校時代に幸多に罰ゲームで迫られて、見事にハマった所で強制終了されて、その事が噂になって居辛くなって、出て来た東京で知らない男とセックスしてホテルから出て来た所で5年ぶりに幸多と再会して、今になって謝られて動揺して泣いてた……なんて口が裂けても言えない。
「止まった?」
「止めた」
「はは…そっか」
遼はそれ以上は聞いて来なかったけど、きっと聞きたい事だらけなんだろうな…。
そんな顔してる。
「月」
「ん?」
窓を閉めながら返事をする。
「明日俺ショップ休みだからさ、月のバイトまでどっか行かねぇ?」
「え…?」
……きっと……俺が泣いてたから…元気付けてくれようとしてる。
遼は、すごく優しい。
「月の行きたいとこ、行こうぜ」
素直に嬉しくて……うん、と頷いた。
「ありがとな」
「え、なんで遼がお礼言うんだよ」
「頷いてくれて」
「……何か恥ずかし…」
あははっ、とか言って盛大に笑ってるけど……遼が俺を大事な友達だって思ってくれてるのはほんとによく分かるから……。
だからこそ……尚更、昔の事は言えない…。
幻滅されたくないし…気持ち悪がられたくない……。
遼にそんな事されたら……俺マジで立ち直れないって思うし…。
~~~~~~~~
* 遼side *
「ぉわ~~~っ!すげぇ~~~~っ!!遼ちょっと、録った?今のっ」
テンションの上がり様がすげぇし…。
どこでも良いと言ったら、動物園と言うから来てる訳だけど……とにかく、出だしの鳥ゾーンからもう月が大変で………今は、ちょうど、象のリボンちゃんに餌やり体験出来る時間で、家族連れ、家族連れ、女子学生グループ、家族連れ、カップル…と、来て、俺ら2人。
そして、俺らの後ろはまた家族連れらが続いてる。
俺は前後の視線を感じてるけど、月はリボンちゃんの餌のニンジンを握りしめてどうやってあげるかをイメトレしてるから、全く周りが見えてない。
まぁ、ちょっと自慢するみたいで申し訳ないけど、俗に言う俺がイケメンって奴で、月は可愛い系男子だから、正直、周りからチラチラ見られてる事は俺は自覚せざるを得なかった。
多分、男2人で動物園ってどういう関係?付き合ってるの?…みたいな妄想をされてるんだろうって事も容易に想像出来る。
だけど、月はリボンちゃんに夢中なんだ。
リボンちゃんだけじゃない。今まで見て来た動物達全てに心を奪われ過ぎて、正直俺の事も見えてない時あったよな…。
それで、今、リボンちゃんに餌をやった自分の事を動画に収めたのか、と興奮気味に言われたところだ。
「録った録った、めっちゃ録れた」
「ほんとっ?見せてっ」
満足そうに餌やりを終えると、動画再生操作をしてる俺の手ごと掴んで見ようとして来る。
「すんげぇがっつきすぎっ」
「見たい見たい、早く見たい」
動物園でこんなに豹変するとは……予想外だわ。
「おお~~~っ、すげぇ~~~、可愛い~~~っ」
自分の手からニンジンを食べるリボンちゃんにご満悦。
「ねっ!」
「ねっ、て何」
「え?可愛いじゃん」
「あぁ、…まぁ、うん」
当然のように、動画送ってね~、と頼まれる。
どんだけ好きなんだよ、動物…。
「月、楽しい?」
「めっちゃ楽しいっ」
そっか。
まぁ、こんだけテンション上がっといて「楽しくない」なんて言われたら、俺そのまま泣いて帰るわ…。
「動物園なんてさ~、いつぶりかなぁ」
「ほんとだな、俺だってそうだわ」
「え~、遼は彼女と行ったりしてたんじゃないの?」
「動物園は来てねぇよ、しばらく」
「ほら、来てんじゃん」
まぁ、そりゃさ……来るでしょ、彼女居たら。
「俺なんかほんともう……小学校以来じゃないかなぁ」
「月は彼女と動物園行かなかったの?」
「えっ、あぁ、…うん、」
微妙な返事。
嫌な思い出でもあんのかよ。
「あーっ、出たーーっ、ホッキョクグマ~!!」
少し先にホッキョクグマの看板を見付けて、小走りで駆け出して行った。
そう言えば……月の今までの恋愛話とか聞いた事ねぇな……とか、その後ろ姿を追いかけながら緩く考えた。
『もしもし』
「出んの早っ」
那生に電話をかけたら、1コール目で出た。
『何、どしたの?』
「いや、まぁ、何でもねぇけど」
『用事じゃないのかよ~、俺今忙しいんだけど』
「飯食ってるだけだろ?」
『飯食うのが忙しいんだよっ』
今はこんなに、普通に会話をする。
あんなに傷付けたのに。
『同窓会終わったの?』
「や、今途中」
『途中に何で電話して来んのさ』
「何か、相原と話しててお前の話になってさ」
『…え、』
那生が少し黙った。
微妙な沈黙が流れる。
「俺……知らなかったわ……お前が家出て来た理由」
『…何今更そんな事言ってんの』
表情は見えない。
普通な感じで言うけど。
「噂になってた事も、今日初めて知った」
『あっそ。もう昔の事だよ、そんなの』
大して気にも留めてないような口調だけど、多分、那生の中では何も解決してないんだろうって事はだいたい分かる。
「那生」
『…………』
また、黙る。
勝手な想像だけど……多分、今、相当動揺してんだろ…
「…傷付けて……悪かったな…………ごめん」
『…な…何だよ、急に、しおらしくなっちゃって』
とか言ってるけど……その声は少し震えてる。
だけど俺はそのまま話を続ける。
今は素直に話したい気分になってんだ。
「お前は何も間違ってねぇよ。男しか好きになれなくてもさ」
『だから…変だって、幸多、あ、酔ってんの?』
まだ言ってるけど…それも無視。
「あの時、あんな風にお前を傷付けた事を、今頃後悔してる……って、遅ぇよな」
『遅すぎだよ、バカ』
重くならないようなトーンで返して来る。
コイツはきっと……俺が想像してるよりもだいぶ……優しいんだろう…。
「許しては貰えないのかも知れないけど………俺…これからもお前に連絡すると思う」
『はぁ?』
「お前には、バカだ何だって言われるかも知れねぇけど」
『今もちょっと何か、バカだしね』
結構、俺に暴言吐くよな…。
でも、俺は別に………嫌いじゃない。
『再会するまではさぁ…どっかで会ったら文句の1つや2つ……いや、多分、20個くらいあるけど、』
「多いな…」
『まぁ、そういうの、言ってやりたいって思ってたとこもあるけど……再会したら…何か思ってたより話しやすいし、意外と優しいし、ちょっとバカだし、』
「バカ頻発するじゃん」
呑気に笑ってる。
俺の事そんなバカバカ言うの、お前くらいだぞ。
『俺の事…全部知ってるのって幸多だけだからさ…俺も…何か楽なんだ…隠さなくて良いってほんとに全然違う。…だから…また色々話聞いてよ』
何か…そんなに知らないけど、何となく那生らしいなって思ってしまう。
あんなに傷付けた相手なのにさ……
「同窓会参加の皆さ~ん、先生の言葉があるんで会場に集まって下さ~い」
会場から出てる参加者に向かって声がかかる。
「あ、会場戻んないといけねぇみたい」
『あ、ほんと?分かった』
「あのさ…」
『ん?』
もう一度だけ……ちゃんと謝らせてくれ。
ほんとに、悪かったって今なら心底思えるからさ…。
「ほんとに、ごめんな」
『もぉ~っ、まだ言ってんの?あっ、じゃあさ、悪かったって思ってんならお土産買って来てよっ』
交換条件がそんなんで良いのか…。
「え、良いけど…何が良いの」
『考えてLINEするから』
「分かった、じゃな」
『うん、じゃあ』
そう言って電話を切って、急いで会場に戻った。
vvvvv……
恩師の言葉的な時間。
ポケットで携帯が短く震えた。
取り出すと、那生からのメッセージだった。
『買って来て欲しいお土産。 ○○ラーメン、○○バウム、○○珈琲のインスタントコーヒー、○○スーパーのオリジナルパスタソース3種類くらい、○○神社の恋愛のお守り、良い香りがする柔軟剤、トイレットペーパー 以上。』
「ふっ、…」
思わず、笑ってしまった。
隣で相原にちょっと変な目でみられたけど…。
ラーメンやバウムクーヘンは地元じゃかなり有名なやつだ……最後の柔軟剤とトイレットペーパーに関しては、最早お土産ではなく只切らしてる日用品を頼んだだけだろっ。
……だけど、こういうのも何となく心地良くて……
遠慮されるより言ってくれる方が良い……まぁ、これはちょっと多いけど…。
* 那生side *
幸多に……あんな風に言われるとは思ってなかった。
「ごめん」だなんて………今更だよ、ほんと。
あの罰ゲームは、絶対忘れる事は出来ないけど……でも、5年経った今、再開した幸多を掴まえてあの時の事を文句言うのも何か違うなって思ってた。
だって……グラつかなければ…ゲームは俺の勝ちで終わってた事だ。
幸多ともっと一緒に居たいって思ってしまった俺の負けで正解だ。
しかも、絶対落ちないとか言っといてのあの結末だから、余計恥ずかしい…。
再会した時だって、俺は見ず知らずの男とホテルから出て来たの見られてるし……カッコ悪いったらないよ。
食べ終えたコンビニ弁当のパックをゴミ箱に捨てて、何となく壁際に歩いて行って窓を開ける。
そこから、雲一つない暗い夜空に薄黄色の真ん丸い月が見えた。
幸多があんな事言うから、高校時代の事ばっかりが頭ん中に浮かんで来る。
ホントに最悪な高校生活だった。
そもそも先輩に告白したのが間違いだったと思う。
何か焦って……告白してしまった。
やっぱ、男が男を好きになるって、周りはやっぱり不快に思うらしくて、当事者の俺を「ホモ」だの「ゲイ」だの「キモイ」だの「ウザい」だの…そんな風に攻撃する事で、不快感を払拭しようとしてんだろうな、って思える。
バイ菌をやっつける、みたいな事。
女子が男子を、反対に、男子が女子を好きになった時には、周りはみんな「頑張れ」と言う。
なのに、男子が男子を好きになった途端に、全員が敵だ…。
思いを寄せる相手までもが……嫌悪感丸出しで拒絶して来る。
だから今まで、特定の彼氏は居ないままでここまで来てる。
彼氏が欲しいって思わない訳じゃ無い。
俺はけっこう惚れやすい体質で、気持ちが上がると直ぐに告白してしまう。
男同士の場合、のんびりしてられない。
今まで出会って来た男の人たちは、最初こそ俺にハマったみたいに言うけど……途中から、様子が変だなって思ったら、結局やっぱり女の人の所に戻って行く。
だからもう、軽々しく人を好きになるの止めよう…って半年前に心に誓ったのに、結局寂しくなって人恋しくなって……幸多と再会したあの日の様に、初めて会ったような男とホテルでセックスをする。
気持ち良いし、その時は何も考えないで良いし、お互いそういう趣味だし……気兼ねなく出来る。
だけど、別れ際が虚しくて仕方ない。
自分は一生……幸せになれないんじゃないかって気になって……辛さと不安だけが残る。
でも……止められない。
「………っ、もぉ………最悪じゃん………」
見上げてた綺麗な月が一気にぼやけて滲み、自分が泣いてる事に気付く。
休憩室、1人だから良いけど……もうすぐ店に戻らないといけない……泣いた顔で戻れないじゃん……
『…傷付けて……悪かったな…………ごめん』
……今更、謝んなよ、バカ。
あの、罰ゲームの時の幸多が本当の幸多なら…………俺は、1週間もあれば落ちるだろう…。
「何泣いてんの」
「っ、ぅっ、わっ!!!」
思いっっっきりビビりまくってしまった。
俺のビビり様に、その声の主である遼もビクッと肩を竦ませてる。
「なっ、何でっ、いつから居たのっ」
「さっき、普通に入ったけど」
え……そうなの……?
全く気付かなかったけど……。
ビビりすぎて涙拭くのも忘れてた。
急いで、制服の袖で涙を拭き取る。
「何か見えんの?」
遼が俺の少し後ろから俺が見てた月を見上げて来る。
「月見てたの?」
「…うん。真ん丸だし」
「あぁ、そだな」
「キレイ」
「うん」
「感動しちゃって」
「それで泣いたの?」
「そう」
……そんな、ロマンティストじゃ無いだろっ、て思ってるのはその顔見たら分かるよ。
でも、今はそう言う事にしといて欲しい。
俺はゲイで、高校時代に幸多に罰ゲームで迫られて、見事にハマった所で強制終了されて、その事が噂になって居辛くなって、出て来た東京で知らない男とセックスしてホテルから出て来た所で5年ぶりに幸多と再会して、今になって謝られて動揺して泣いてた……なんて口が裂けても言えない。
「止まった?」
「止めた」
「はは…そっか」
遼はそれ以上は聞いて来なかったけど、きっと聞きたい事だらけなんだろうな…。
そんな顔してる。
「月」
「ん?」
窓を閉めながら返事をする。
「明日俺ショップ休みだからさ、月のバイトまでどっか行かねぇ?」
「え…?」
……きっと……俺が泣いてたから…元気付けてくれようとしてる。
遼は、すごく優しい。
「月の行きたいとこ、行こうぜ」
素直に嬉しくて……うん、と頷いた。
「ありがとな」
「え、なんで遼がお礼言うんだよ」
「頷いてくれて」
「……何か恥ずかし…」
あははっ、とか言って盛大に笑ってるけど……遼が俺を大事な友達だって思ってくれてるのはほんとによく分かるから……。
だからこそ……尚更、昔の事は言えない…。
幻滅されたくないし…気持ち悪がられたくない……。
遼にそんな事されたら……俺マジで立ち直れないって思うし…。
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* 遼side *
「ぉわ~~~っ!すげぇ~~~~っ!!遼ちょっと、録った?今のっ」
テンションの上がり様がすげぇし…。
どこでも良いと言ったら、動物園と言うから来てる訳だけど……とにかく、出だしの鳥ゾーンからもう月が大変で………今は、ちょうど、象のリボンちゃんに餌やり体験出来る時間で、家族連れ、家族連れ、女子学生グループ、家族連れ、カップル…と、来て、俺ら2人。
そして、俺らの後ろはまた家族連れらが続いてる。
俺は前後の視線を感じてるけど、月はリボンちゃんの餌のニンジンを握りしめてどうやってあげるかをイメトレしてるから、全く周りが見えてない。
まぁ、ちょっと自慢するみたいで申し訳ないけど、俗に言う俺がイケメンって奴で、月は可愛い系男子だから、正直、周りからチラチラ見られてる事は俺は自覚せざるを得なかった。
多分、男2人で動物園ってどういう関係?付き合ってるの?…みたいな妄想をされてるんだろうって事も容易に想像出来る。
だけど、月はリボンちゃんに夢中なんだ。
リボンちゃんだけじゃない。今まで見て来た動物達全てに心を奪われ過ぎて、正直俺の事も見えてない時あったよな…。
それで、今、リボンちゃんに餌をやった自分の事を動画に収めたのか、と興奮気味に言われたところだ。
「録った録った、めっちゃ録れた」
「ほんとっ?見せてっ」
満足そうに餌やりを終えると、動画再生操作をしてる俺の手ごと掴んで見ようとして来る。
「すんげぇがっつきすぎっ」
「見たい見たい、早く見たい」
動物園でこんなに豹変するとは……予想外だわ。
「おお~~~っ、すげぇ~~~、可愛い~~~っ」
自分の手からニンジンを食べるリボンちゃんにご満悦。
「ねっ!」
「ねっ、て何」
「え?可愛いじゃん」
「あぁ、…まぁ、うん」
当然のように、動画送ってね~、と頼まれる。
どんだけ好きなんだよ、動物…。
「月、楽しい?」
「めっちゃ楽しいっ」
そっか。
まぁ、こんだけテンション上がっといて「楽しくない」なんて言われたら、俺そのまま泣いて帰るわ…。
「動物園なんてさ~、いつぶりかなぁ」
「ほんとだな、俺だってそうだわ」
「え~、遼は彼女と行ったりしてたんじゃないの?」
「動物園は来てねぇよ、しばらく」
「ほら、来てんじゃん」
まぁ、そりゃさ……来るでしょ、彼女居たら。
「俺なんかほんともう……小学校以来じゃないかなぁ」
「月は彼女と動物園行かなかったの?」
「えっ、あぁ、…うん、」
微妙な返事。
嫌な思い出でもあんのかよ。
「あーっ、出たーーっ、ホッキョクグマ~!!」
少し先にホッキョクグマの看板を見付けて、小走りで駆け出して行った。
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