月の在る場所

seaco

文字の大きさ
8 / 13

第8話

しおりを挟む
* 幸多side *

『もしもし』
「出んの早っ」

那生に電話をかけたら、1コール目で出た。

『何、どしたの?』
「いや、まぁ、何でもねぇけど」
『用事じゃないのかよ~、俺今忙しいんだけど』
「飯食ってるだけだろ?」
『飯食うのが忙しいんだよっ』

今はこんなに、普通に会話をする。
あんなに傷付けたのに。

『同窓会終わったの?』
「や、今途中」
『途中に何で電話して来んのさ』
「何か、相原と話しててお前の話になってさ」
『…え、』

那生が少し黙った。
微妙な沈黙が流れる。

「俺……知らなかったわ……お前が家出て来た理由」
『…何今更そんな事言ってんの』

表情は見えない。
普通な感じで言うけど。

「噂になってた事も、今日初めて知った」
『あっそ。もう昔の事だよ、そんなの』

大して気にも留めてないような口調だけど、多分、那生の中では何も解決してないんだろうって事はだいたい分かる。

「那生」

『…………』


また、黙る。
勝手な想像だけど……多分、今、相当動揺してんだろ…


「…傷付けて……悪かったな…………ごめん」


『…な…何だよ、急に、しおらしくなっちゃって』


とか言ってるけど……その声は少し震えてる。
だけど俺はそのまま話を続ける。

今は素直に話したい気分になってんだ。


「お前は何も間違ってねぇよ。男しか好きになれなくてもさ」

『だから…変だって、幸多、あ、酔ってんの?』


まだ言ってるけど…それも無視。


「あの時、あんな風にお前を傷付けた事を、今頃後悔してる……って、遅ぇよな」

『遅すぎだよ、バカ』


重くならないようなトーンで返して来る。
コイツはきっと……俺が想像してるよりもだいぶ……優しいんだろう…。


「許しては貰えないのかも知れないけど………俺…これからもお前に連絡すると思う」

『はぁ?』

「お前には、バカだ何だって言われるかも知れねぇけど」

『今もちょっと何か、バカだしね』


結構、俺に暴言吐くよな…。
でも、俺は別に………嫌いじゃない。

『再会するまではさぁ…どっかで会ったら文句の1つや2つ……いや、多分、20個くらいあるけど、』
「多いな…」
『まぁ、そういうの、言ってやりたいって思ってたとこもあるけど……再会したら…何か思ってたより話しやすいし、意外と優しいし、ちょっとバカだし、』
「バカ頻発するじゃん」

呑気に笑ってる。
俺の事そんなバカバカ言うの、お前くらいだぞ。

『俺の事…全部知ってるのって幸多だけだからさ…俺も…何か楽なんだ…隠さなくて良いってほんとに全然違う。…だから…また色々話聞いてよ』

何か…そんなに知らないけど、何となく那生らしいなって思ってしまう。
あんなに傷付けた相手なのにさ……


「同窓会参加の皆さ~ん、先生の言葉があるんで会場に集まって下さ~い」

会場から出てる参加者に向かって声がかかる。


「あ、会場戻んないといけねぇみたい」
『あ、ほんと?分かった』
「あのさ…」
『ん?』

もう一度だけ……ちゃんと謝らせてくれ。
ほんとに、悪かったって今なら心底思えるからさ…。


「ほんとに、ごめんな」

『もぉ~っ、まだ言ってんの?あっ、じゃあさ、悪かったって思ってんならお土産買って来てよっ』


交換条件がそんなんで良いのか…。

「え、良いけど…何が良いの」
『考えてLINEするから』
「分かった、じゃな」
『うん、じゃあ』

そう言って電話を切って、急いで会場に戻った。







vvvvv……

恩師の言葉的な時間。
ポケットで携帯が短く震えた。

取り出すと、那生からのメッセージだった。

『買って来て欲しいお土産。 ○○ラーメン、○○バウム、○○珈琲のインスタントコーヒー、○○スーパーのオリジナルパスタソース3種類くらい、○○神社の恋愛のお守り、良い香りがする柔軟剤、トイレットペーパー 以上。』


「ふっ、…」

思わず、笑ってしまった。
隣で相原にちょっと変な目でみられたけど…。
ラーメンやバウムクーヘンは地元じゃかなり有名なやつだ……最後の柔軟剤とトイレットペーパーに関しては、最早お土産ではなく只切らしてる日用品を頼んだだけだろっ。

……だけど、こういうのも何となく心地良くて……
遠慮されるより言ってくれる方が良い……まぁ、これはちょっと多いけど…。




* 那生side *

幸多に……あんな風に言われるとは思ってなかった。

「ごめん」だなんて………今更だよ、ほんと。

あの罰ゲームは、絶対忘れる事は出来ないけど……でも、5年経った今、再開した幸多を掴まえてあの時の事を文句言うのも何か違うなって思ってた。

だって……グラつかなければ…ゲームは俺の勝ちで終わってた事だ。

幸多ともっと一緒に居たいって思ってしまった俺の負けで正解だ。


しかも、絶対落ちないとか言っといてのあの結末だから、余計恥ずかしい…。


再会した時だって、俺は見ず知らずの男とホテルから出て来たの見られてるし……カッコ悪いったらないよ。


食べ終えたコンビニ弁当のパックをゴミ箱に捨てて、何となく壁際に歩いて行って窓を開ける。
そこから、雲一つない暗い夜空に薄黄色の真ん丸い月が見えた。


幸多があんな事言うから、高校時代の事ばっかりが頭ん中に浮かんで来る。

ホントに最悪な高校生活だった。
そもそも先輩に告白したのが間違いだったと思う。

何か焦って……告白してしまった。

やっぱ、男が男を好きになるって、周りはやっぱり不快に思うらしくて、当事者の俺を「ホモ」だの「ゲイ」だの「キモイ」だの「ウザい」だの…そんな風に攻撃する事で、不快感を払拭しようとしてんだろうな、って思える。
バイ菌をやっつける、みたいな事。

女子が男子を、反対に、男子が女子を好きになった時には、周りはみんな「頑張れ」と言う。
なのに、男子が男子を好きになった途端に、全員が敵だ…。

思いを寄せる相手までもが……嫌悪感丸出しで拒絶して来る。
だから今まで、特定の彼氏は居ないままでここまで来てる。

彼氏が欲しいって思わない訳じゃ無い。

俺はけっこう惚れやすい体質で、気持ちが上がると直ぐに告白してしまう。
男同士の場合、のんびりしてられない。

今まで出会って来た男の人たちは、最初こそ俺にハマったみたいに言うけど……途中から、様子が変だなって思ったら、結局やっぱり女の人の所に戻って行く。

だからもう、軽々しく人を好きになるの止めよう…って半年前に心に誓ったのに、結局寂しくなって人恋しくなって……幸多と再会したあの日の様に、初めて会ったような男とホテルでセックスをする。

気持ち良いし、その時は何も考えないで良いし、お互いそういう趣味だし……気兼ねなく出来る。
だけど、別れ際が虚しくて仕方ない。

自分は一生……幸せになれないんじゃないかって気になって……辛さと不安だけが残る。
でも……止められない。

「………っ、もぉ………最悪じゃん………」

見上げてた綺麗な月が一気にぼやけて滲み、自分が泣いてる事に気付く。
休憩室、1人だから良いけど……もうすぐ店に戻らないといけない……泣いた顔で戻れないじゃん……


『…傷付けて……悪かったな…………ごめん』


……今更、謝んなよ、バカ。

あの、罰ゲームの時の幸多が本当の幸多なら…………俺は、1週間もあれば落ちるだろう…。


「何泣いてんの」
「っ、ぅっ、わっ!!!」

思いっっっきりビビりまくってしまった。
俺のビビり様に、その声の主である遼もビクッと肩を竦ませてる。

「なっ、何でっ、いつから居たのっ」
「さっき、普通に入ったけど」

え……そうなの……?
全く気付かなかったけど……。

ビビりすぎて涙拭くのも忘れてた。
急いで、制服の袖で涙を拭き取る。

「何か見えんの?」

遼が俺の少し後ろから俺が見てた月を見上げて来る。

「月見てたの?」
「…うん。真ん丸だし」
「あぁ、そだな」
「キレイ」
「うん」
「感動しちゃって」
「それで泣いたの?」
「そう」

……そんな、ロマンティストじゃ無いだろっ、て思ってるのはその顔見たら分かるよ。
でも、今はそう言う事にしといて欲しい。

俺はゲイで、高校時代に幸多に罰ゲームで迫られて、見事にハマった所で強制終了されて、その事が噂になって居辛くなって、出て来た東京で知らない男とセックスしてホテルから出て来た所で5年ぶりに幸多と再会して、今になって謝られて動揺して泣いてた……なんて口が裂けても言えない。

「止まった?」
「止めた」
「はは…そっか」

遼はそれ以上は聞いて来なかったけど、きっと聞きたい事だらけなんだろうな…。
そんな顔してる。

「月」
「ん?」

窓を閉めながら返事をする。

「明日俺ショップ休みだからさ、月のバイトまでどっか行かねぇ?」
「え…?」

……きっと……俺が泣いてたから…元気付けてくれようとしてる。
遼は、すごく優しい。

「月の行きたいとこ、行こうぜ」

素直に嬉しくて……うん、と頷いた。

「ありがとな」
「え、なんで遼がお礼言うんだよ」
「頷いてくれて」
「……何か恥ずかし…」

あははっ、とか言って盛大に笑ってるけど……遼が俺を大事な友達だって思ってくれてるのはほんとによく分かるから……。

だからこそ……尚更、昔の事は言えない…。
幻滅されたくないし…気持ち悪がられたくない……。

遼にそんな事されたら……俺マジで立ち直れないって思うし…。




~~~~~~~~

* 遼side *

「ぉわ~~~っ!すげぇ~~~~っ!!遼ちょっと、録った?今のっ」

テンションの上がり様がすげぇし…。

どこでも良いと言ったら、動物園と言うから来てる訳だけど……とにかく、出だしの鳥ゾーンからもう月が大変で………今は、ちょうど、象のリボンちゃんに餌やり体験出来る時間で、家族連れ、家族連れ、女子学生グループ、家族連れ、カップル…と、来て、俺ら2人。
そして、俺らの後ろはまた家族連れらが続いてる。

俺は前後の視線を感じてるけど、月はリボンちゃんの餌のニンジンを握りしめてどうやってあげるかをイメトレしてるから、全く周りが見えてない。

まぁ、ちょっと自慢するみたいで申し訳ないけど、俗に言う俺がイケメンって奴で、月は可愛い系男子だから、正直、周りからチラチラ見られてる事は俺は自覚せざるを得なかった。
多分、男2人で動物園ってどういう関係?付き合ってるの?…みたいな妄想をされてるんだろうって事も容易に想像出来る。

だけど、月はリボンちゃんに夢中なんだ。
リボンちゃんだけじゃない。今まで見て来た動物達全てに心を奪われ過ぎて、正直俺の事も見えてない時あったよな…。

それで、今、リボンちゃんに餌をやった自分の事を動画に収めたのか、と興奮気味に言われたところだ。

「録った録った、めっちゃ録れた」
「ほんとっ?見せてっ」

満足そうに餌やりを終えると、動画再生操作をしてる俺の手ごと掴んで見ようとして来る。

「すんげぇがっつきすぎっ」
「見たい見たい、早く見たい」

動物園でこんなに豹変するとは……予想外だわ。

「おお~~~っ、すげぇ~~~、可愛い~~~っ」

自分の手からニンジンを食べるリボンちゃんにご満悦。

「ねっ!」
「ねっ、て何」
「え?可愛いじゃん」
「あぁ、…まぁ、うん」

当然のように、動画送ってね~、と頼まれる。
どんだけ好きなんだよ、動物…。


「月、楽しい?」
「めっちゃ楽しいっ」

そっか。
まぁ、こんだけテンション上がっといて「楽しくない」なんて言われたら、俺そのまま泣いて帰るわ…。

「動物園なんてさ~、いつぶりかなぁ」
「ほんとだな、俺だってそうだわ」
「え~、遼は彼女と行ったりしてたんじゃないの?」
「動物園は来てねぇよ、しばらく」
「ほら、来てんじゃん」

まぁ、そりゃさ……来るでしょ、彼女居たら。

「俺なんかほんともう……小学校以来じゃないかなぁ」
「月は彼女と動物園行かなかったの?」
「えっ、あぁ、…うん、」

微妙な返事。
嫌な思い出でもあんのかよ。

「あーっ、出たーーっ、ホッキョクグマ~!!」

少し先にホッキョクグマの看板を見付けて、小走りで駆け出して行った。

そう言えば……月の今までの恋愛話とか聞いた事ねぇな……とか、その後ろ姿を追いかけながら緩く考えた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?【高瀬陸×一ノ瀬湊 編】

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

俺の好きな男は、幸せを運ぶ天使でした

たっこ
BL
【加筆修正済】  7話完結の短編です。  中学からの親友で、半年だけ恋人だった琢磨。  二度と合わないつもりで別れたのに、突然六年ぶりに会いに来た。 「優、迎えに来たぞ」  でも俺は、お前の手を取ることは出来ないんだ。絶対に。  

転生DKは、オーガさんのお気に入り~姉の婚約者に嫁ぐことになったんだが、こんなに溺愛されるとは聞いてない!~

トモモト ヨシユキ
BL
魔物の国との和議の証に結ばれた公爵家同士の婚約。だが、婚約することになった姉が拒んだため6男のシャル(俺)が代わりに婚約することになった。 突然、オーガ(鬼)の嫁になることがきまった俺は、ショックで前世を思い出す。 有名進学校に通うDKだった俺は、前世の知識と根性で自分の身を守るための剣と魔法の鍛練を始める。 約束の10年後。 俺は、人類最強の魔法剣士になっていた。 どこからでもかかってこいや! と思っていたら、婚約者のオーガ公爵は、全くの塩対応で。 そんなある日、魔王国のバーティーで絡んできた魔物を俺は、こてんぱんにのしてやったんだが、それ以来、旦那様の様子が変? 急に花とか贈ってきたり、デートに誘われたり。 慣れない溺愛にこっちまで調子が狂うし! このまま、俺は、絆されてしまうのか!? カイタ、エブリスタにも掲載しています。

処理中です...