月の在る場所

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第9話

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* 那生side *

過去の彼女とかの話になると、俺はどうコメントしたら良いのか分からない。

男としか経験が無いから……下手に合わせて話すとボロが出そうで、ホッキョクグマの看板が見えたのを良い事に、その話を終わらせた。

……でも…遼だって、俺が幸多に取られたような気がして嫌だった…とか……ジェラシーとか言ってたけど……それって、どういう感情な訳?

俺に対して……友達以上の感情がある…とも取れるじゃん……。

もしかして……バイとか?

聞いてみた事無いけど………聞く勇気は無い。

高校の時、衝動的に告白してしまった先輩の事を「もしかしてバイかも」と思った。すごく優しかったしボディータッチも多くて……遼みたいに、俺にすごく良くしてくれた。

だから、告白したんだ。

だけど、結果は見事撃沈。
男に対してそんな感情を持てない人だった。

ゲイの俺が、バイかも?って思ったのに、だ。

だから………遼になんか尚更聞けない。
また、俺の勘違いだったら……怖すぎる…。






「楽しかった~!」

動物園を満喫して、遼の車に戻った。

「ま、月のはしゃぎ様がガキレベルだったけどな」
「ふ~ん、どうせガキですよ~」

あはは、と笑って車を発進させる。

「まぁ、でも、楽しかったなら良かったよ」
「うん。遼、ありがとな」
「ん?」
「気ぃ遣ってくれて」

昨日、俺が月を見て泣いてたから……今日、こんな風に元気付けてくれた。
遼は、出会った時からほんとにずっと優しくて……遼みたいな人が恋人だったらな~って思わなかった訳じゃない。

でも…好きにならないで居た。
…失いたくないって思ったから。

それに、ちょっと……トラウマ的なのもあって……恋愛感情で見る事をしなかった。
そしたら、ほんとに友達として……いや、何か只の友達じゃなくて……何か…一番近いのは……家族みたいな…かな、…そういう風に遼の事を俺は見てる。

何かのきっかけでそれは変わるのかも知れないけど……俺から変える事は出来なくて、今に至る。

幸多と再会して……俺の中でも少し変化があったのも事実。
会いたくないってずっと思ってたけど……偶然とは言え会ってみたら……あの時の優しかった幸多と重なる事ばっかりで、優しくしてくれた幸多は好きだったな、とか……嫌でも思い出す。

……でも、やっぱりこれも罰ゲームで、どっかで幸多の友達が見てて、俺が落ちたらまた大爆笑されるんじゃないの?とかちょっと思ってるとこあるしな……。


「月は、好きな子居ないの?」
「へっ?」

行き成り……思っても無かった質問で、変な声が出てしまった。

「何急に」
「いや、俺のさぁ、そういう話は今まで結構したけど、月のは聞いた事無いなぁって思ってさ。好きな子とか昔の彼女とかそういう」

………どうしよう……

困る…。

「好きな子は、別に居ないよ。バイトの子もみんな彼氏居るじゃん」
「友達、紹介してもらったりとかは?」
「あ~…紹介ね」
「彼女欲しくないの?」

………彼氏なら欲しいけどさ。

「別に…いいかなぁ」

嫌だな……この話…。

「そうなんだ。そもそも月ってさ、どんな子が好きなの?」
「え…うーん…好きになった子がタイプ」
「あ~そういうパターンね。昔の彼女は?どんな感じ?」
「…別に。どれもタイプ違う」

適当に答えた。
彼女なんか居た時無いし…。


「月さぁ……こういう話すんの嫌?」
「……………」

急に核心を突かれて沈黙してしまった。
何か……微妙な空気だし…。

窓を開けて風を入れる。

「……そうだね…嫌かな」

何となく、遼の顔は見れなかった。

「そっか。じゃあ、しねぇよ」

何かすごく気を遣わせてしまってる気がして…少し自分が嫌になった。

「月のそんな顔、見たい訳じゃねぇし」
「…え?」

そう言われて、思わず遼の方を向くと、いつもの優しい笑顔で俺をチラッと見てまた前を向いた。

その顔を見たら………何か……また、泣いてしまった。
窓の方を向いたけど遼にはバレてて、伸ばして来た手で頭をグリグリと撫でられる。

「泣き虫かっ」

遼が笑って突っ込んで来た。
そういう所が、優しいって思うんだ。

俺が気まずくならないように、遼はいつもそうやって……俺を肯定してくれる。

遼を好きになれたら……幸せになれるのかな……。




~~~~~~~~

* 幸多side *

「幸多~~っ!」

名前を呼ばれてそっちを見ると、制服を適当に丸めてリュックに突っ込みながら、いそいそと小走りでやって来る那生が居た。

3時間前くらいに、同窓会の帰省からこっちへ帰って来た。
思いっ切り土産を頼まれたから、それを渡してやろうと思って那生に連絡をした。

『さっき帰って来た。土産渡したいし、バイト上がり店の前で待ってて良い?』という俺のメッセージに『お帰り~。お土産~。オッケ~終わったらね~』と、なんとも緩い返事が来た。

それで、店の前の道に車を停めて、降りて待ってたとこ。

「お疲れ」
「うん、幸多もお疲れ。ごめんね、わざわざ」
「や、トイレットペーパーもリクエストされてたから急ぐかなと思ってさ」

フッと笑うと、同じ様に那生も笑う。

「あ~、そうだね、ちょっと急ぐ」
「やっぱな、あれ無いとどうにもなんねぇしな」

そう言いながら、車に乗るよう促した。

「えっ、」
「送る」
「え、でも、もう遅いよ?明日仕事は?」
「一応、明日は休みにしてる。それに、お前電車だろ?これ持って電車って辛くねぇ?」

後部座席に置いた土産の数々を視線で指すと、那生もそれを覗き込んで「…辛い」と呟いて車に乗り込んで来た。

「幸多、明日予定あるの?」
「や、別にねぇ」
「じゃあさ、泊まる?」
「え、」

…………何か……

あっさり……誘うじゃん……


泊まる?……なんてさ…。


「良いの?」
「何が?」
「泊まっても」
「良いよ?何で?」
「…俺だぞ?」
「ダメなの?」
「…や…ダメじゃねぇけど」
「何、嫌なら無理に泊まらなくて良いけど」
「嫌じゃねぇけど…」

お前はゲイで……
高校時代、俺はお前をゲームとは言え落とそうとしてて……

……この前は、あの豪雨だったから…那生を泊める事に何の意味も感じて無かったけど、今、こうやって改めて那生から誘われると、何か戸惑ってしまうのは何でだ…。


「…別に……迫ったりしねぇよ」


那生が、小さな声で言った。

那生はちゃんと、俺の複雑な感情を分かってる。
男しか好きにならない那生だからこそ、そういうの気付くのかも。

「別にそういう意味じゃねぇけど……お前が…嫌かなって思ってさ」
「…嫌だったら、泊まれなんて言わないし……お土産買って来て貰って、バイト終わるの待って貰って、家まで送って貰うのに……そのまま帰すのも何か……悪いし……」

最後の方はボソボソなって聞こえなくなった。
それが少し可笑しくて、フッと笑うと…………

那生は直ぐ、それに乗っかって笑う。

重い空気が、きっとダメなんだろう…。


だから、あんな事をして傷付けた俺の事も、否定しない。


「じゃあ、酒でも飲む?」
「わ、ちょっと、酔わせて何する気だよぉ~」

俺の腕を肘でグイグイ押して来る。

「バーカ、お前こそ俺酔わせんなよっ」

那生の肘を押し返す。
また、可笑しそうに笑ってる。

……あの罰ゲームの時から……いや、もっと前から、コイツはこんな奴だったんだろうか……。

高校時代…俺も、他の奴らと同じ様に、那生の事をちゃんと見なかった。
「先輩にマジで告ったゲイが居る」って聞かされて、揶揄って傷付けただけだ。

こんなに…よく笑う…優しい奴だって事には気付かなかった。





2度目の那生の部屋。

「幸多、風呂は?」
「家で入って来た」
「そっか、じゃあちょっと俺、マッハでシャワーして来るから、ちょっと待ってて」

好きにしてて、とか言いながら急いでリビングを出て行く。

とりあえず、今買って来た酒やつまみ類を袋から出してみる。
那生と酒飲む日が来るなんて、とか考える。

ふ、と卒業式の日に下駄箱で泣いてたアイツのシルエットが浮かぶ。
何でこのタイミングで思い出すのかは分からない。

……ずっと頭に消えずに残ってるからかな…。

罰ゲームから後、那生はどんな気持ちで高校生活を過ごしたんだろう。
クラスも離れてたから那生があんなに虐められてるって事を知ったのは、卒業の2週間くらい前だった。

ずっと虐められてた。
俺が何事も無かった様に毎日遊んでた時に。


俺は……どれだけ那生を傷付けたんだろう…。







「ふぅ~~~~っ、お待たせ~~~~っ」

機嫌良さげに、乾いたばかりの髪を手櫛で何度か梳きながらリビングに戻って来た。
すっかり家モードの那生はちょっと幼く見えて、高校時代を思い出す。

「あ、そうだ、幸多、何か服持って来る。それじゃ寝れないよな」

そう言って、寝室に入って行った。
泊まるって展開になると思ってねぇから普通にジーパン履いてるけど…

「別に良いよ?これでも」
「え~だって窮屈じゃん、待ってよ、多分あるから、えっと、ここに、…あったあった」

寝室の開いたドアに向かってそう言ってみたけど、何か見つかった様だったので那生の帰りを大人しく待った。

「これこれ、はい、着替えて」

渡されたのは、グレーのスウェットの上下。

「あぁ、じゃあ借りる」

そう言って立ち上がり、今着てる服を脱いで着替えた。
キッチンでつまみを皿に出してる那生をチラッと見たら、その場で着替え出した俺にちょっとだけ気まずそうにしてる。

ゲイだしな。

俺にしてみたら、目の前で友達の女の子が行き成り着替え出したみたいなもんか…。
気まずいわな、そりゃ…。

「ははっ、」

ちょっと笑った俺に那生が急いでこっちを見る。

「丈、短ぇ」
「はははっ、ほんどだっ」

貸してくれたスウェットは、那生より10cm以上背が高く、更にマッチョでは無いと言えそこそこ鍛えてる俺には上も下も丈が短く、鏡見てないけどどんな感じか想像出来て笑ってしまった。

「あっはは、幸多、結構デカいんだね」
「まぁ、こうなるんじゃないかと思ったけどな、コレ渡された時」
「はははっ、マジで?俺分かんなかった~」
「長身あるあるだわ」
「マジで面白すぎんだけど~、あっはは、短ぁ~~」

暫く俺を見て可笑しそうに笑ってた。

俺なら、自分をあんなに傷付けた奴相手に、こんなに自然に笑えねぇな…。



「かんぱ~~い」

何に乾杯したのか分かんねぇけど、那生がそう言うからつられて俺も「乾杯」と言う。
とりあえず、2人とも1本目はビール。

「さぁて、お土産見てみようかなぁ~」

半分くらい一気に飲んで一息吐いた那生は、土産を纏めた袋を自分の方へ引っ張って中を見てる。

「あっ、このラーメン!明日食べよ~、美味いよな?これ」
「あぁ、そだな」
「あーっ、バウムも~~っ、これ俺1人で全部食べた事あるっ、幸多甘いの好き?」
「あー、まぁ、」
「あっ!わっ、わっ、これ懐かし~~っ!このソース知ってる?」
「知らね、」
「めっちゃ美味いんだよ、ほんとに。お店の味のパスタ出来るんだよ、マジでっ、明日これでも良いな、幸多どのソースが良い?」
「俺はバジルかな」
「バジル~~良いっ!あっ、コーヒーこれいつも家にあった~~っ、アイスにしても良いんだよ、よく溶けて美味しいんだ~っ」
「そうなの、」
「あっはは、柔軟剤も入ってる、これ良い匂い?」
「だと思う」
「今日から使お~っと、柔軟剤イヤな匂いだったら凹むよね~。トイレットペーパーもこれ良い紙のヤツじゃ~ん!こんな高いの買った事ないよ~」
「………………」


………よく喋る奴…。


「……どしたの?」

フッと我に返った様に俺を見てそう言った。

「…………すんげぇ喋るじゃん」
「え…?そんな喋ってた?」
「……ずっと喋ってたよ」
「へ~~、無意識~」

そう言って、ビールをゴクゴクと飲んだ。
そんな様子が可笑しくて、つい笑ってしまう。


「お守りが無いよ?」


地元で有名な神社。
恋愛の神様がどうのこうのって、俺も元カノから何度も聞かされた事があるし、実際行ってお守りを強制的に買う流れになったり……意外と何度も行った事のある神社。


「どうしても時間的に無理だった」

「…そっかぁ、でも、それ以外はパーフェクトじゃんっ、すげぇ」

嬉しそうに笑って見せるけど、お守りが無くてちょっと残念そうな顔したよな、今。


「那生、今度さぁ、」
「ん?」
「神社にお守り買いに行かねぇ?」
「え………うん、今度、行く」

携帯を取り出し、管理してるスケジュールアプリを開く。

「来週は…あ、俺、水曜が休みだわ。水曜行ける?朝早めに出たら昼飯向こうでゆっくり食っても、お前のバイトまでには余裕で帰って来れるだろ?」

そう言って那生に視線を移して……ちょっと、ドキッとした。
……泣きそうな顔してるから。

「どしたの」
「……ほんとに…今度行くんだ」
「行かねぇの?」

嫌なら、良いけどさ……

「今度って言って、次が無い事がほとんどだから…」

……お前の人生と重ねんなっ。
確かに「今度な」って便利な言葉だけど………でも、お前のセフレとは違うんだよ、俺は。

「今度っつったら今度だよ。…次はあんだよ」
「……うん……じゃあ行く…今度」
「…水曜、空けとけよ」
「うん」

今度は笑った。
何となく、残りのビールを一気に飲み切ってしまった。

……何か、調子狂うわ……コイツ。

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