月の在る場所

seaco

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第10話

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* 幸多side *

「だぁからね~~……幸多はぁ~~ヤな奴だってぇ~」

………最初のビールを飲み切って、小さめの缶のチューハイを2本飲んで……今はカクテルを半分飲んでるとこだけど………

こうなってしまった。

弱いクセにどんどん飲むからだ……3本目の途中まではそんなに酷くなかったのに、それを飲み切った辺りから急激に酔っ払いになった。

「はぁ?何で俺がヤな奴なんだよ」
「え~~~?…二股とかぁ~~当たり前って聞いたしぃ」
「はぁぁ!?いつ誰に聞いたんだよ」
「え~、高校の時、みんな言ってたよ~聞こえて来たもん」

……そんな事言われてたのか、俺……
まぁ、確かに、学校に彼女が居るのに他校の子とも付き合ってたとかあったけど……て、それを二股って言うのか…。

でも、いつもやってた訳じゃねぇし。

「んあ~~~っ…眠いぃ~~」
「え、あ、寝るか?」
「え~~ヤダし」
「何でだよ」
「もっと話したぁいぃぃ~~」

那生はそう言いながらも眠いのも事実で、上半身を支えてるのは何とか起きてる体だけで、思考はだいぶ夢の中だ…。

ゴンッ

「…ん、…った!」
「え、」

ちょっと目を離した一瞬でユラユラしてた上半身が大きく傾き、そのまま床へ落ちた。
その拍子にどこかぶつけたっぽいけど…。

「いたぁ~~いぃ……眠い…」
「どっちだよ」

時間はもう3時が来るところ。
普通に眠いだろ、そりゃ。俺だってよくよく考えてみたら同窓会から帰ってすぐだし、もう寝たいわ。







「……わーっ」
「…っ、」

ベッドに倒れ込んだ。

そのまま床で寝そうな那生を、歯磨きとトイレに連れて行ってやった俺って何て優しいんだ…。

……今の数分ですんげぇ疲れた…。
俺ももう寝る………けど……さすがに、一緒にはマズいかな…。

那生のベッドはシングルで、そもそも狭い。
しかも今は那生が思いっきり大の字になって寝てるから、俺のスペースがない。

リビングにソファでもあればそこ借りるんだけど、生憎、那生の家にはソファは無い。

「……ここか…」

仕方なく、ベッドを降りた所の床に寝転ぼうとした時……

「幸多~」
「えっ、何」

寝たと思ってたからちょっとビビった。

「どうぞぉ~」

機嫌良さげにベッドの端に寄って俺の寝るスペースを空けてくれてる。

……床は辛ぇってちょっと思ってたから、そこ貸してくれるならすっげぇ嬉しいとこだけど……

「何もしないからぁ~」

…酔っ払ってても…そんな気遣ってんだな、お前。

「じゃあ…ここ借りる」
「ん~どうぞ~」

ふふふ、とか笑ってるけどさ…。
変な感じ……お前と俺がこんな狭いベッドで一緒に寝てるなんてな。

「早く寝ろよ?」
「え~~何でだよぉ~」
「酔っ払いだし」
「質悪くないからぁ~大丈夫」

そうか?
絡まれそうな気がしてんだけど、俺…。

「お守り、買いに行くんでしょ~?」

上機嫌な感じ。

「あぁ、行くよ」
「楽しみぃ~~~」

嬉しそうにしてんな…。

「お守り、そんなに欲しいの?」
「欲しい~~」
「何で」
「え~~だってぇ~~良い出会いがあるかなぁ~~って思うし~」
「出会いねぇの?」
「なぁいよ~~あったら彼氏居るでしょ~~、ないから困ってんだよぉ」

だって、セフレは居るんだろ?
そいつらは彼氏に昇格しねぇの?

「好きになった人にさぁ~好きになってもらいたいじゃん」
「それは男も女も一緒だけどな」
「だけど……男同士は違うよ…」

急に……沈んだ声に、何となく那生の方を見る。
暗い部屋でも少し目が慣れて、表情も何となく分かる。

少しだけ……困った様な顔。

「そんなもんなの?」
「うん、そんなもんだよぉ~。だぁからさぁ~~あの罰ゲームの時」

急に罰ゲームの話になって、那生が何を言うのか気になった。
あんなに、那生の全部を否定した……

「もしかしたら…幸多も俺の事好きになって、俺も幸多の事好きで、もしかして両想いになれたのかも知れな~いとか思ったぁ~~~あはは、何か俺、バカだよな~、最初から罰ゲームだって言ってるのに…」

……酷く……胸の奥が痛い。
今頃になって…痛くてもダメか……

「…期待しちゃったんだ、俺」

しん……と静まり返った。
俺は何も言えず……那生も少し黙った。


「でも、いいよ」
「え?」

不意に那生が言った言葉に、そう呟きを返す。
何がいいの。


「あの頃よりも今の幸多の方がずっといいよ」


何だか……ちょっと感動してしまった。
そんな事言われると思って無かったから。

「だって今はさ、罰ゲームじゃないのに優しいじゃん」

ふふ、と笑う。

「那生、」
「ん~?」

もう、だいぶ眠そうな雰囲気だけど……


「…ほんとに…悪かったって思ってる。お前の事、すげぇ傷付けたと思うし、辛い思いさせたって思う。ほんとに、ごめんな」


これは本当に本心。
月日が経って、相原から那生の事聞いて……面白可笑しくやった事が、那生の人生を狂わせたかも知れないって思った。

俺らは楽しいからそれで良かった。
だけど、那生は自分を否定された。

ゲイである事を誰にも受け入れて貰えず、ただ陰湿な嫌がらせに耐えてた。

きっかけを作ったのは俺だ。


「幸多が謝る事ないよぉ」


いや、謝るべきは俺だよ。


「噂になったぐらいでさぁ、逃げ出して来た俺が弱かったんだよ、逃げ出して来たから帰り辛くなってるだけ、堂々としてたら帰れたと思う、それをさ~幸多の所為で居辛くなったとか思うのって違うと思うし…何て言うか……なんかダッサいじゃん。そもそもさぁ~、落ちないとか言っといて好きになってる俺の方がダメだよぉ~、落ちなかったらさ~幸多が本気出しても唯一落ちなかった奴とか言って、伝説になったりしたかも知れないじゃ~~ん」


俺をバシバシ叩きながら言う。

もう眠いのか喋ってるけど目は一切開けない。
寝ても良いよって言ったら5秒で寝るだろ…。

だけど俺は……この、酔っ払いの事を…

何となく……大事にしてやんねぇといけないような……使命感のようなものが湧き上がって来てるのを感じてる。


「お前って、こういう奴だったんだな」

「え~?」

「俺、何か今感動してる」

「あはは、何~?」

「再会して良かった」

「ん~?」

「そう思わねぇ?」

「ん~…思う~」

ははっ、何も考えてねぇな、その言い方…。
もう、マジで寝そうじゃんっ。

「幸多、もう、眠い…」

そう言って、ほんとに5秒後には寝てた。


「お前は弱くねぇよ…」


気持ち良さげに眠りに入った那生に向かって呟く。
もう返事は返って来ねぇけど…。





~~~~~~~~

* 那生side *

う~~~………怠いな……

この前の風邪の時とは違う怠さ………これは……え~と……

「二日酔いか?」

閉じたままだった目がパチッと開いた。

「ははっ、そういうおもちゃあったよな、起こしたら目開ける猿みたいなやつ」

……既に、俺の寸足らずになってた家着は脱いで自分の服に着替えた幸多が、ベッドに腰掛けて男前丸出しで気怠そうに笑う。
ちょっと寝癖ついててもカッコいいんだから、良いよなイケメンは…。

「ここ、すっげぇシワ」

自分の眉間の所を指差して言う。

「頭いたい…」
「あ~まぁ、そうだろうな」
「…なんで…?」
「酔っ払ってたじゃん」
「あ~……そう?」

ご機嫌だったのは覚えてる。
何か楽しかったしさ…。

「……何時?」
「12時前」
「えっ……めっちゃ寝てた……」
「あはは、まぁ、俺も30分前まで寝てたけどな」

そっか、幸多も寝てたんだ。

………って…

「幸多、どこで寝たの?」
「え、」
「え?」
「覚えてねぇの?」
「…何?」

覚えてねぇの、って何だよ…
え?…え…?……俺、何かした?

「覚えてねぇのかよ~…俺の事誘っといて」
「えっ、えっ、ちょっと待ってよ、何?誘うって何?」

酷く焦ってしまった。
全く覚えて無いけど……

もしかして……襲っちゃった?

「ふっ、あっはは、バーカ、何もしてねぇよ」
「えっ?何も?」

なんだ……何もしてないのか………って、何ちょっとがっかりしてんだよっ。
良かった、良かった、マジで良かった…幸多相手にあんな事やこんな事を無意識でやってなくてほんとに良かった…。

「何かあった方が良かった?」
「良い訳無いわ、バカッ」
「だって残念そうな顔してたじゃん」
「してないしてない」

ブンブンと首を振ると、痛む頭がグラリと揺れた。


「あぁ、でも、一緒には寝たよ」


え……。


「え、一緒にって?」

聞いてみる。
この、ホームセンターで購入したどこにでもある安物の狭小のシングルベッドで、一緒に寝たって事?

「お前んちソファもねぇし、仕方なくここの床で寝ようとしてたら、お前が隣に来いって言ったんじゃん」
「………へぇ~…」
「へぇ、じゃねぇよ」
「で?」
「あぁ、じゃあ、って」
「寝たの?」
「うん」
「一緒に?」
「うん」
「ここで?」
「そう」
「……ふぅ~ん」

…ダメだ
全く思い出せないな…。

「覚えてねぇ感じ?」
「…そんな感じ」

俺の答えを聞くなり、幸多は俺の隣に滑り込んで来て業とらしく圧し掛かって来ると、その俺よりも遥かにデカい鍛えた体で思いっきり羽交い絞めして来た。
どう、もがいても解けない。

「わーっ、ちょっと!」
「こんなに近くで寝たのにっ」
「こんな近かったのっ?」
「だってベッド超狭いし」
「狭くて悪かったな」
「お前が誘ったんだぞっ」
「誘うって言うなよっ」
「だってマジで、」
「止めろ止めろっ、」
「覚えてねぇとかひでぇ」
「酷くないっ、ゲイ掴まえて今こんな状況になってる方が酷いっ」
「…………」
「…………」

「…………」

「…………」

あの………無言になられると、困るんですけど……
動きはピタッと止まってるけど……絡み合ったままだし……

「そっか……そうだな…」
「…ん、?」
「お前、ゲイだったな」
「…え、そこ忘れられると辛いんですけど」
「あぁ、悪い」
「や、あぁ……はは、」

特に可笑しくもないけど、笑ってみた。
本当は……心臓が…止まりそうだってば。

「…えっと、退かないの?」

俺の上でちょっと気まずそうに固まってる幸多に聞いてみた。

「あぁ、うん、いや、ちょっと、」
「え、?」
「…退かない」
「…は?」

退かない、って……


何故にっ!!


「ちょっと、試したい」
「え?何を?」

少し、幸多が近付いた気がした。

え、ちょっと待って…

え、これ、キ、キスすんの?

嘘でしょ?

「お、お、お試しとか無いんですけど」
「あぁ、そっか、でも、」
「ちょちょちょっ、待ってって幸多っ、」

幸多がまた少し近付く。

「確かめたい」
「何、何、意味が分かんない」

幸多との距離…5cmくらい…かな…
もう、キスするんだと……腹を括った、ら…



ピンポーン🎵



玄関のチャイムが鳴った。

また、ピタリと2人とも動きが止まる。


ピンポーン🎵


もう一度、鳴る。

「こここ、幸多、誰か来たから」
「あぁ、そだな…」

幸多は起き上がって俺を解放した。
あんなに近かった距離が遠くなり……少しだけ寂しいような気がしたり………俺って乙女。

「はぁい」

起き上がって玄関へ向かう。
宅配かな……ネットで何か買ってたっけ…?

そんな事を思いながら、玄関を開ける。

「よぉ」

ドアの向こうには、遼が立っていた。

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