月の在る場所

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第11話

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「り、遼っ」


これは………マズいのでは?
……幸多と遼が会ってしまうのでは?

いやいや、別に、会ったって良いじゃん。
そもそも居酒屋で顔合わせてるんだし。

いや、でも、良いのか?

何かダメな気がする…。

いや、どっちだ……

もう分かんない……

「ど、どしたの」
「や、お前、動物園の帰りも元気無かったじゃん、ちょっと不安定な感じだったし」
「あぁ、ごめん、心配かけて」
「元気になった?」
「うん、ありがと」
「今日俺もバイトだし、飯でも食って一緒に行こうと思ってさ、」

と言いながら、いつもの様に中へ入ろうとする遼がチラッと幸多の靴を見たのが分かった。

「誰が来てんの」
「えっ、」

大凡、幸多だと予想はついてるんだろう…。
遼の顔から一瞬で笑顔が消えた。

何か……何だろう、この感じ……
浮気がバレたみたいな……

いや、そうなると本命が遼で浮気相手が幸多って事になるから……逆?
いや、逆も変か……遼と浮気ってのも違うし………

って、どうでも良いな、そんな事…。

ガチャ……と、背後でリビングの扉が開く音。
幸多が来たんだって、見なくても分かる。

俺の背後に向けられる遼の視線。

「あぁ、やっぱりあんたか」

先に声を出したのは遼。
幸多がどんな顔してるのか気になって、チラッと振り返る。

「あんた?」

不機嫌な声。

も~~~~~っ、怒ってるじゃん、怒ってるじゃんっ、顔怖いってばっ。
いきなり「あんた」はそりゃ気ぃ悪いよぉ~、今のは遼が悪いって…

「お前にあんた呼ばわりされる覚えねぇけどなぁ」

いやいや、「お前」はもっと無いだろ…
それもうケンカの合図じゃんっ

「幸多、ちょっと、」

俺の後ろまで来た幸多を両手で抑えて止める。

「何、この人泊まったの?」

視線は幸多を捉えたまま、遼が俺に言う。

「う、うん」
「仲良いんだな、友達じゃないって言ってたのに」
「えっ、」
「あ?」

……俺と同時に後ろで幸多が呟いた。
もーっ、遼、そんな事今言うなよーっ、確かにそう言ったけど…

「えっと、幸多、あの、電話でムカついてさ、俺も怒っちゃってたしもうあんな奴友達じゃなーいみたいな?」

俺、何、こんな必死で言い訳してんだろ…。
ってか、この状況何なんだよ…。

「まぁ、確かに、友達じゃねぇかもな」
「え、…」

友達じゃない、と言われて……何故か胸の奥が痛んだ………のは、ほんの一瞬。


「友達よりもうちょっと進んでんな、俺ら」


バカーーーーーーーーッ!!

意味深発言過ぎるだろっ!!
一気に顔が熱くなるのを感じて、思わず幸多の肩をバシッと叩く。

「お前と月の間で昔何があったか知らねぇけど、今になって月の周りウロチョロして振り回すんじゃねぇよ」

えーーーっ!
ちょっと遼、どしたのっ!
急にどしたのっ!

「あの、遼、それは、」
「別にウロチョロしてるつもりは無ぇけどな。俺から見たらお前の方がよっぽど那生に纏わり付いてるように見えるけど?嫉妬してますって顔してるしさ」

マジで勘弁してーーっ、これ以上はもう俺止めらんないよっ?

「幸多も止めて、ほら、ねっ、遼も、」

距離が詰まった2人の間に立つ。

何これ…修羅場?
……俺の為にケンカしないで、みたいになってんじゃん…。

イケメンに挟まれて何なの、俺……モテ期到来してんの?

「ここまで言われて止められると思う?」
「え、や、思…わないけど、でも、」
「吹っ掛けて来たのはそっちだしな」
「幸多、ちょっと黙ってよ」
「お前には俺の視界にも入って来て欲しくねぇだけだよ」
「遼、止めてってば」
「だったらお前がどっか消えればいいじゃねぇか」
「もう、幸多っ」
「お前マジムカつく」
「同感」

2人がそれぞれお互いの胸ぐらを掴んだのは同時。


「もう、止めろって言ってんだろーーっ!!!」


間に挟まれてた俺は渾身の力で腕を伸ばし2人の体を押し退けた。
腕がすんげぇ痛いけど…案外、力って出るんだな、って思った…。

俺に押し退けられて、2人は少しヨロけたけど……やっぱり睨み合ってる…。


「ケンカするなよ…」


静まり返った玄関に俺の情けない声が漏れた。


「2人の事は好きだよ……遼は、ずっと…バイト入って知り合った時からずっと好きだよ、今だってずっと。……幸多は…色々あったけど……こうやって、ちゃんと話せる今の幸多はすごく好き……どっちも好きだよ、俺にはどっちも大切……だから、ケンカしないでよ…」



シーン…としてる。

遠くで踏切鳴ってんなぁ、とか、今ハトがベランダに居たよな、とか考える余裕がある程に、沈黙してた。


「…帰るわ」

そう言ったのは幸多だった。
リビングに入り鞄を持って戻って来た幸多に、遼が玄関のスペースを無言で譲る。

「遼、ちょっと待ってて、送って来るから」
「…分かった」

遼が短く返事したのを聞いて、幸多と一緒に部屋を出る。



幸多……怒ってんのかな…。

少し先を歩く幸多が、不意に立ち止まって俺を振り返った。

「…悪かったな、…何か」

何だよ、しょんぼりしちゃって、幸多らしくない。

「なーに落ち込んでんの」

そう言って、幸多の背中をバンッと叩いて、そのままエレベーターの方へ押し出して歩いた。
エレベーターのボタンを押して、その到着を待つ。

「何かさ…あいつにあんな風に言われて、ちょっとムキになった。嫉妬してんのは俺の方かもな」
「え、?」

俺が間抜けな声を発したと同時に到着したエレベーターの扉が開く。
一瞬ボーッとしてた俺は、急いでそれに乗り込んだ。

1階のボタンを押した瞬間……目の前に幸多の腕が来た。
幸多は壁に手を付いて、俺は思わず幸多の方を見たまま固まった……

だってコレ………女子が憧れるやつでしょ…?

「こ、幸多…」

そこまでで、俺の言葉は途切れた。
近付いて来た幸多が俺にキスをしたから…。

チュ…と軽い音を立てて直ぐに離れそうになった唇は、角度を変えてもう一度触れた。
今度はゆっくり…。

「……へっ?」

幸多が離れて、俺が上擦った声を漏らす。
チン、と小さく鳴って扉が開き、2人の世界だった密室は終わり。

スタスタと歩く幸多を追いかけるようについて行く。

「あ、あの、幸多」
「ん?」
「ん?じゃなくて、あの」
「何」
「えっと、あの、さっきの…ちょっと説明を…」

幸多は車の所まで歩き、立ち止まる。

「あいつが来たから途中になってたじゃん」
「え?」
「確かめたいって言ったやつ」
「あ、あぁ、」
「やっぱ、そうだった」
「何?」
「ちゃんと分かった」
「そう…それは良かったけど…何を…確かめたかったの?」

1人で納得すんなよな…
キスされた俺は、今軽くパニックなんだからさ…


「俺……那生とキスすんの平気だわ」

「…………え?」

「男同士だしキスとかどうなのって思ってたけど……何か…お前って有りだな」

「…………ん?」

「俺、お前の事、落とすかも」

「…………は?」

「今度は罰ゲームじゃなくて、真剣に」


これは何だ……
頭がクラクラして来た。

異常に顔が熱くて……もう、鼻血出そう…。


「あはっ、あははっ、何言ってんの?女ったらしのクセに~」
「別にタラシてるつもりはねぇよ」
「でも結果タラシてる」
「別に彼女居ねぇし」
「セフレだらけだもんな~」
「お前だって居るじゃん」
「うるせぇな…そもそも俺落としてどうすんの」
「う~ん、どうすっかなぁ」
「何だよ、決めてもないのに言うなよ」
「落としたら考える」
「そんなの却下。それに彼氏は要らないでしょ」

「彼氏は要らねぇ、でも、お前の事は……何か欲しい」


………………えっと………何でしょうか、これは……


バタン、と車に乗り込んだ幸多がドアを閉めた音で、暫く放心してた俺はハッとした。

「ボーッとしてんじゃねぇよ」
「お、お前が変な事言うからだろっ」
「別に変な事言ったとは思ってねぇよ」

………充分、変ですけど…。

「じゃあ行くわ」
「あ、…うん」
「水曜、空けとけよ」

水曜……そうだ、お守り買いに行く約束………ちゃんと行ってくれるつもりで居るんだ…。
ちょっと……嬉しくなって「うん」と頷いた。

「あと、」
「ん?」
「アイツとヤんないで」

言い終わるかどうかぐらいで頭を叩いてやった。

「てっ、」

文句言いながら痛がってるけど、無視。

「じゃあ、またな」

頭を摩りながら言う。

「うん、また」

ちょっと…寂しいような…感覚。

「何、寂しそうな顔してんの、もっかいキスしてやろうか?」
「早く行けっ、バーカ」

もう一度叩いてやろうかと思ったら、今度は身を引いて避けられた。

そのまま走り去る幸多の車を見送った。
……見えなくなるまで、ボーッと。

………何か…………

俺、いきなり………

すごい展開になってない?

『落とすかも』って言われても……
『お前の事は…何か欲しい』って言われても……

はぁ……

考えんの止めよ……もう、頭爆発するわ…。








玄関に入ったら…

「月っ」
「わっ、」

そこに遼が居て、行き成り抱きしめられて動けなくなった。

そうだ………変なモードに突入してる奴がもう1人居たぞ……
別に遼の事を忘れてた訳じゃないけど……帰って来るなりこんな事になるとは思って無かったから、正直、今、心拍数が上がってる。

「ごめんな…」
「え?」

俺に抱き付いたままで遼が言う。
すぐそばで聞こえる遼の声は、真面目な感じ…。

「アイツが居てムカついた」
「……うん…」
「いつから居たんだ、とか、何してたんだ、とか……色々浮かんで、」
「…うん」
「悔しくなった」
「……そっか」

……返事に困る。

「遼、中…行こっか」

遼の背中をポンと叩くと、少しして体が離された。
とりあえず、ティータイムでもして落ち着こう。

俺がリビングへ向かうと、素直に遼も後ろを付いて来た……と、思ったんだけど……

「友達よりちょっと進んだ関係ってどういう事?」
「えっ!?」

急に腕を掴まれて足が止まる。
そのまま後ろの壁に押し付けられる…………って、さっきも……幸多とこんなのしたよ……

幸多は、この後……キスして来たけど…………


「っ、!」


……何だ、これ。
遼の顔がめっちゃ近いし……

それに…唇に…柔らかい感触…………


って、キスしてんじゃんっ!!!!!


「これで、俺とも友達よりちょっと進んだな」


視界一杯に遼の男前の顔があって………
クラクラするような緩い笑みを浮かべて、俺にそう言った。


俺……


やっぱこれ………



モテ期、来ただろ。



それも、俺の中での2大イケメンから……マジで取り合いされてんじゃねぇの?これ…。



「ちょっと…あの…え、と……とりあえず………」


ティータイムでもしよう。
そうしよう。

ちょっと、落ち着かないとダメだ。

俺の心臓がもう持ちません。


この10分足らずの間に、2大イケメンの両方からキスされるって、普通有り得ませんから。


「……コーヒーでも飲む?」

「……ぷっ、」

俺の発言に遼が笑い出した。
まぁ、そりゃ、可笑しいだろう。

でも、とりあえず一旦落ち着きたい。

遼は、俺の後を笑いながら付いて来る。
俺はそれをひたすら無視してコーヒーを淹れた。


「はい」
「お、サンキュ」

小さめのテーブル。
遼は俺の隣に少し間を空けて座った。

「アイツ、泊まったの」
「え…うん」

チラッと遼の顔を見ると、さっきまでの和やかな感じじゃなくて………また少し脈が早くなる。

「アイツと…」

何を聞かれるのか……ドキドキして落ち着かない。

「昔、何があったの?」
「……………」

……説明するには……自分がゲイだって事を言わないといけない事になる。
そうしないと話は始まらない。

…………でも…遼とキスした。
男同士で。

何か、束縛的な感じもあるし……

言っても良いのかな……
分かって貰えるかも…?

だけど……男とセックスしてるなんて…それを遼に知られるのは、やっぱ無理って思う…。

今まで……けっこう、色んな男と寝た。
俺だって若いし、性欲だってある。

満たされる事は無かったけど……その場しのぎにはなるから。

……こんなの…遼には言えないよ…。

「…俺には言いたくない?」
「違う…そうじゃないよ…」

遼と居られなくなるのは耐えられそうにない。
遼にはずっと……親友で居て欲しいって思ってるから……

「…月、あのさぁ…」
「…うん、」
「違ってたら、ごめん」
「…ん?」
「月ってさぁ…」
「…うん、」



「男が好きなの?」



一瞬、頭がまっっっ白になった。

だいぶ長い間、瞬きしてなかった気がする。


遼に……核心を突かれると……すごく胸が苦しくなって来る。

そうだよ、って言ったら……遼はどう思うんだろう…。
自分の事も今まで、そんな目で見てたのかも、って思うかな……
そしたら、どう思うんだろう……

距離…置かれるかな……

今まで通りには出来ないって言われるかな……


あぁ……俺……もう、泣く…


じわじわと端から溜まって来た涙は直ぐに一杯になって……耐え切れなくなって零れ落ちた。


「…隠して来たのに……」


それだけ言って何も言えなくなった俺を、遼はゆっくりと抱きしめた。


「…苦しかったよな」

すごく近くで聞こえる遼の優しい声。

「…ぅ、っ……うぅ、…」

堪えようとしても、声が出てカッコ悪い…。

「男じゃないとダメなの?」
「……………うん……ごめん…」
「はは、何で謝るんだよ」

笑うけど、手は優しく背中を撫でてくれてる。
遼のこういう優しい所が好きだ。

「俺も実は月に隠してる事ある」
「…え…?」

背中は優しく撫でられたまま。
遼の声に集中する。



「俺、月が好きだ」



………え…?


……えぇ…?


何て……?



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