月の在る場所

seaco

文字の大きさ
13 / 13

第13話

しおりを挟む
「好きだ」……と言われた。


幸多から。


それも………本気のやつ……。



「…………何か言えよ」

「え…あ……ん。と……えっと、……」


うまく言葉が出ない。

自分で言えって言っといて……いざ言われると、パニックだよ……



「……アイツと一緒?」
「え…?」
「…即答出来ねぇ?」
「………」

何も言えないで居た。
ドキドキが煩くて、極度に緊張して、口から何か出そうで……気持ち悪いし……


「出来ねぇって事は……アイツが居んだな」


少し……沈んだ声で幸多が言う。


「アイツと迷ってんだろ?」


何か……何も言えない自分が情けなくて、何かズルくて……嫌になる。


「なぁ、那生…」
「…………」
「黙んなよ」
「…………」
「何か言えって」
「…………」
「告白しちまったじゃねぇかよ」


………気持ちが……付いて行けてない。

幸多は何も言わず、ドアを開けて車を降りた。

「ちょっとトイレ行って来るわ。お前は?」
「だ、大丈夫」

やっと声が出た。
俺の返事を聞いてから、幸多はドアを閉めて歩いて行った。

その姿を車から見つめる。

……俺は………どうしたいんだろう……

幸多も遼も失いたくないって思うのは、ほんとに俺の我儘で……そんなの通る訳ないって分かってる。

だけど、遼は家族みたいな存在で…………俺の人生から切り離せない……切り離したくない……


幸多はどうだ……?


……幸多は………


幸多は…………



「あれ………、」



何か………涙が出た。

幸多の事考えたら………すごく……泣けてくる………


……あの日……屋上に1人残されて……暫く泣いた。
だって、バカみたいじゃん…。

罰ゲームで俺を落とそうとしてる人間に、本当に恋をしたって……それは罰ゲームだって分かり切ってるのに……

幸多の優しい顔や言葉を毎日毎日貰ってさ……ゲイの俺に……好きになるなって言う方が間違ってるじゃん…。


ガチャ、と突然、助手席側のドアが開いた。
泣いてて暫くぼんやりしてたから気付かなかったけど、幸多はもうトイレから帰って来てた。

「那生、」

と言ったと同時に、助手席から引っ張り下ろされて、行き成り抱きしめられた。

「えっ、……幸多っ、ちょっと、」
「うるせぇ、じっとしてろ」
「でも……人に…見られるよ…」
「…良い。見られても良い。そんな事より…お前が泣いてる方が問題だわ」

………もう、心臓止まるかも。
ほんとに………暴発するって……


「男が好きで何が悪いんだよ……」

「あ?」

「人を見せもんみたいに…みんなで寄って集って笑い物にしてさ……ただ純粋に……好きになる事の何が…ダメだったんだよ…」

「何のこと言ってる」

「罰ゲームなんて誰が考えたんだよっ、俺の事落とすなんて面白くも何ともないんだよっ、俺はただ………好きになっただけだ……」

「那生、」

抱きしめる力が強くなったのが分かる。

「幸多に優しくされて……毎日、何かちょっと楽しいじゃん、って思って……もしかしたら、幸多も俺の事…少しは好きになってくれたのかもって……そしたら、罰ゲームが終わっても……あの時みたいに優しくして貰えるのかも、って……だけど……好きになっても、笑われただけで……こんなんだったら、好きになるんじゃなかったって、……幸多の優しい所なんか、知るんじゃなかったって……忘れるの……苦労したんだ……」

「那生」

名前を呼ばれて、体を離した幸多が俺の顔を包み込む様に、両方の頬に手の平を添える。

俺は泣いちゃって……きっと酷いだろうな…。

「だけど……本当にイヤになったのは……男しか好きになれない自分……罰ゲームのせいじゃない、幸多のせいじゃない、……俺が……逃げたんだ…」

「………」

何も言わない幸多の顔が、少し泣きそうに歪んだ…。

「なのに……俺の前に行き成り現れるから……蓋をした思いなんてさ……簡単に溢れるよ。笑われても、キモイって…ウザいって言われても……俺はやっぱり男が好きで、男としかセックス出来なくて、男じゃないとダメだって…………だけど……いつの間にか………………幸多じゃなきゃダメになってる………」

「……え…?」

幸多が、俺に視線を合わせる。

「遼の事は好きだけど………やっぱり………幸多じゃなきゃダメだ、俺………幸多に……
…落として欲しい……」

「那生…」

「……ダメ…?」

幸多の片方の手が、俺の後頭部に回る。

「好きだって言ったのは俺の方だ」

「……うん」

「その相手に落としてって言われて、ダメな訳ねぇだろ」

幸多の、泣きそうに揺れる目蓋に指先でそっと触れる。
幸多だって、俺を傷付けた事を後悔してる。


「幸多……落として、早く……簡単だよ…直ぐ、落ちるよ…俺、」


そこまで言ったとこで、幸多の唇が俺の口を塞いだ。
熱い……噛み付くような……でも、すごく優しいキス…。

もう、誰が見てたって良い。
男同士だって言われても良い。

俺はもう、今……



「……落ちた…?」


「………うん…」


「那生…」


「ん、」


「……好きだ。もう、裏切らねぇ。傷付けねぇし、嘘も吐かねぇ。………俺を…許してくれるか?」


唇が触れそうな距離で囁く幸多は、昼間とは思えないくらいにクラクラするような色気があって……上手く体に力が入らない。


「そんなの……とっくに許してるってば…」


背骨が折れるくらい強く抱きしめられた。


「セフレ…全部切る。…お前も切れよな」

「…うん」





~~~~~~~~

「どれにすんの」
「ん~と……ちょっと待ってよ……これも良いけど……こっちの黒も良い」

お目当ての神社で、お守りを買ってるんだけど……悩んじゃって全く決まらない。

「もう、お前、何分ここで悩んでると思ってんだよ」
「えぇ~、まだ5分くらいでしょ?」
「倍だ倍、10分だ、10分」

幸多が明らかにイライラしてる。
何だよ、せっかちなの?

…まぁ、ちょっと俺も決めかねてるとこがあるから、イラつくのは分かるけど……

「よしっ、俺のこれ、幸多のはこれにするっ」
「俺のもあんの?」
「そうだよ、勿論じゃん」

良い出会いがある様に願かけて買うつもりだったのに、此処へ来る途中で関係が変化してしまって、買うべきお守りの成就内容が違ってしまった。

この先、波風が立たない様に見守ってくれる恋愛のお守りを2つ。
俺のは紫で幸多のは黒にした。

「あと、」
「まだ何か買うのか?」

言われて少し体温が上がった感じがした。

「…遼の分…」

遼、という名前に幸多が反応する。

「…遼には…幸せになって欲しいから…」

幸多は何も言わなかった。
複雑なんだろう…。

でも、俺は……遼の事をこのままには出来ないから…ちゃんと話して、それでも友達で居たいって…ダメかも知れないけど全部言うつもり。

幸多を選んだ俺を、どう思うかは分からない。
だけど、伝えないのは……違うな、って思うから…。

「…決めた」
「…そ、か」

頭に置かれた手がポンポンと撫でた。



買ったお守りを大事に鞄に仕舞って、幸多の車に向かう。

「那生」
「ん?」

…不意に、触れた指先に一気に顔が熱くなる。
これって、…ちょっと……

「…こうしたくなった」
「………うん、」

俺の手を包み込む様にして重ねられた幸多の手。

「那生…」
「何…?」

また呼ばれて…何となく擽ったい様な雰囲気になる。

「落ち着いたらさ……一緒に住まないか」
「え、」
「俺が直ぐ、我慢出来なくなると思うからさ…」
「……うん、…考えとく」
「…良い方向に頼むわ」
「フフッ、分かった」

朝、出かけるまでとは違う2人の関係に、何だか甘酸っぱさを感じて2人で照れる。

「幸多…」
「んー?」
「人生で2回も幸多に落ちるなんて、ちょっと不服~」
「まぁ、俺だからな」
「出たっ、俺様発言っ」

茶化してみたけど、確かに、幸多だから俺は2回も落とされた訳で……その可笑しそうに笑ってる男前の顔も、今日からは俺だけに向けてくれるんだって思ったら、落とされんのも悪くないかな、とか思えて来るよ…。

俺のトラウマは今消えて……今日からはこのお守りが護ってくれる。

俺は俺で良いんだ、って……幸多なら言ってくれる。


「那生」

「ん?」

「ごちゃごちゃ考えないで、お前は俺を好きでさえ居れば良い」


ほらね、……こういう、優しいとこ……。


「幸多もね」

意地悪く笑って見せたら、


「そうか…俺も落ちてんだったわ」


とか言われて…目が合って2人で笑う。


ここが、俺の場所。


幸多が居るこの場所が……欲しかった…俺の場所になる。



しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

BLACK無糖
2023.05.05 BLACK無糖

主人公と母親は人生にキズがついたままなのにアッサリ主人公がクズを受け入れるのが信じらんない・・・
こんな胸糞な再会モノだとは思わなかった。
クズはたいしたしっぺ返しをくらう事もなくサラッと反省してサックリ主人公とくっつくとか、マジで胸糞。
くっつくなら波乱があって然るべきでは?
クズが過去のやらかしに向き合わないのがマジで納得できない。
当て馬にされたキャラが不憫で、そういう意味で泣けてしまう。
当て馬ルートが見たかった・・・
主人公の過去と家族がひたすらに、つらい。

解除
lemon
2019.11.06 lemon
ネタバレ含む
2019.11.06 seaco

感想ありがとうございますっ!!
一気読みとか、本当に嬉しいですっ!!
余り、エロ全開なのが書けないタイプでして、この話に関してはエロ無しで完結してしまいました(笑)

すごく参考になる感想をありがとうございますっ。
確かに、そうですね。実は、同窓会で幸多が帰省する時に、那生の実家に立ち寄って母親に謝罪する的な流れを考えていたんですが、書き上がってみたら違う展開になってました(;'∀')

そして、私も書きながら、遼みたいなイケメンを振るのは勿体無いなぁ~…とか思ってました(笑)
遼ルート、良いかも知れませんね!

本当に参考になる感想をいただき、感謝していますっ!
ありがとうございましたっ!

解除
uno
2019.10.16 uno

すっごい感動しました!
涙で文字が見えなくなりました。‪𐤔‪𐤔
とても面白かったです!!!
この後の2人とかも見てみたいです!
もし良かったら続編待ってます!!
これからも応援してます!

2019.10.16 seaco

感想ありがとうございますっ!!
涙していただけるなんてっ、ほんとに嬉しいですっ。
2人の今後…もし続編が出来ましたらまた宜しくお願いしますっ!
本当にありがとうございましたっ。

解除

あなたにおすすめの小説

契約満了につき

makase
BL
仮初めの恋人として契約を結んだ二人の、最後の夜。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

発情期のタイムリミット

なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。 抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック! 「絶対に赤点は取れない!」 「発情期なんて気合で乗り越える!」 そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。 だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。 「俺に頼れって言ってんのに」 「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」 試験か、発情期か。 ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――! ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。 *一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。

目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?【高瀬陸×一ノ瀬湊 編】

綾波絢斗
BL
東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生の高瀬陸(たかせりく)と一ノ瀬湊(いちのせみなと)は幼稚舎の頃からの幼馴染。 湊は陸にひそかに想いを寄せているけれど、陸はいつも違う人を見ている。 そして、陸は相手が自分に好意を寄せると途端に興味を失う。 その性格を知っている僕は自分の想いを秘めたまま陸の傍にいようとするが、陸が恋している姿を見ていることに耐えられなく陸から離れる決意をした。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。