神に見棄てられた街

兼穂しい

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神に見棄てられた街

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これは私が実際に体験した話である。



【 第一章 神に見棄てられた街 】



その陰鬱とした街を去ろうとした頃、日は沈み空は深い藍色に染まっていった。

湿った空気が漂い、生気の無い目をした人々が蠢くその街はまさに

「神に見棄てられた街」

の呼び名がふさわしかった。



*     *     *



(もうこの街に来ることはないだろう。)

最後に食事でもしようと辺りを見回す。

道路を挟んで向かい側にある小さな飲食店が目に入った。

風に煽られるノボリには「チ〇コ鍋」と書かれている。

(・・・またまたふざけちゃって。結構幅の広い大通りだぜ。とんでもないお下劣タウンだな。まったく・・・。)

おそらくは通学路である。こんな環境で育った子供達は将来どんな人間になるのだろうか。

(いや、待てよ。)

薬膳料理かもしれない。

鹿や虎のペニスが漢方薬の材料になるという話を聞いたことがある。

それともチ〇コとは、この辺りに伝わる方言なのだろうか?

だとしたら郷土料理の可能性だってある。

大小色とりどりのソーセージが鍋の中で踊る下品なイメージしか思い浮かばないが、考えたところでわかるものではない。

決心を固める。



(今宵、チ〇コを食す。)



道路を横切るべく車道に一歩踏み出した刹那、風が止んだ。

風をはらんで膨らんでいたノボリがまっすぐに伸び、「チャンコ鍋」の文字が現れた。

(チ〇コと思ったらチャンコかよ!あっぶねー!チ〇コじゃなかったよ!、チャンコなんか一人で食いきれねーよ!チ〇コじゃなかったわ!チ〇コ頼むとこだったよ!)

この日ほど頭の中でチ〇コを連呼したことはない。



【 第二章 妄想列車 】



車中で思う。

(あやうくバイト君に執拗にチ〇コをねだる伝説の客として語り継がれるところだった・・・。)

もしあの時、風が止まなかったら?

私はノボリを真に受け道を横切り入店していただろう。

「いらっしゃいませ。何名様で、」

店員の言うことを遮るように指を一本立てる。

「こちらへどうぞ。お決まりになりましたら、」

またしても相手の言葉を遮るように注文を告げる。

「チ〇コ鍋。」

「チャンコ鍋ですね。」

苛立ちを隠しつつ活舌よくやや大きめの声でもう一度。

「チ〇コ鍋。」

「・・・・・。」

困惑するバイト君。

(なんだよ。チ〇コ鍋って・・・。常連客とマスターだけに通じる裏メニューか?だとしたら入ったばかりのバイトの俺にはわかんないよ・・・。)

「少々お待ちください。」

厨房のマスターに助けを求めに行くバイト君。

やりとりの後、厨房の二人が宇宙人を見るような目でこちらを見つめる。

こちらは万に一つも自分が誤解しているとは思わない。

(ははぁ・・・。わかったぞ。在庫切らしてる?解凍に時間かかる?まさかホントにチ〇コ頼む客がいるとは思わなかった?いるんだよ。世の中にはチ〇コに金払う酔狂な客が。まがりなりにもそっちはプロでしょ?油断するなよ!サービス提供できないならチ〇コで人釣るようなノボリ出すなよ!こっちはもうチ〇コ食う口になってるんだよ!他の食い物じゃダメだ!チ〇コオンリーだ!チ〇コなめんな!)

意を決してマスターがおずおずとこちらへ近づいて来る。

ひきつった笑顔を浮かべるマスター。

「お客さん、ウチそういう店じゃないんで・・・。」


~ Fin ~
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