ルピナスは恋を知る

葉月庵

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15話

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「さて、腹も膨れたことだし、もう宿に戻るか。」

 熊の蔵を出ると再び私を腕に抱いたガルムさんは、そう言って歩を進めた。そこで、私は一つ問題が発生したことに気づいた。

「私は宿でなく、野宿でも大丈夫ですのでここで下ろしてください。」

 三人は本日何度目かにもなる、盛大な溜息をついた。すると、レオさんが口を開く。

「言ったでしょ?これは僕達が好きでやっていることだから、ハル君は何も気にしなくていいの。どうせハル君は、お金がないからーって断っているんだよね。」

「そうですが……、では稼げるようになったら、今までの金額全てお返しします。」

「そういうことじゃないんすけどね……。」

 そうか。利子をつけないといけないか。また失言をしてしまった。

「ところで、どうやって稼ぐんだい?」

 レオさんの言葉にハッとする。すっかり聞くのを忘れていた。

「あの、冒険者ってどうやったらなれますか?……あっ、大丈夫です。一人で依頼はこなすので、皆さんには迷惑は掛けませんので安心して下さい。」

 私は周りの人の空気に何かを感じ、必死に取り繕おうとして早口になっていた。

「ダメダメっ!ダメっすよ!!冒険者なんか危ないことハル君にはやらせられないっす!ねっ!ガルムさん!」

 話しを振られたガルムさんはそうだなと頷いている。

「とにかくこの話は、一旦明日考えるとしよう。」

 ガルムさんが話をそう切り上げると、いつの間にか周りよりも少し高い建物の前まで来ていた。ガルムさんはそのままその建物内に入っていく。

「店主はいるか?急で悪いが、一名追加で宿を取りたいのだが……。」

「はいはい……おや、ガルムさんですか。おかえりなさいませ。えっと、追加の宿ですか?ちょっと確認しますね……。」

 そう言って奥から物腰の柔らかそうな、人間の老人が出てきた。その老人は、熊の蔵での人達同様に目を見開いた。その後、咳払いをし、手元の紙をペラペラと確認していく。

「すみませんねぇ。どうやら満室のようで。申し訳ない。」

「やはりか……。いや、大丈夫だ。店主、俺の部屋に一人追加で相部屋ということはできるか?なに、追加の金は払う。」

 ん?今聞き捨てならないことが聞こえたような?

「それは構いませんよ。では、追加で半人分の価格をいただけますか?」

「ありがとう。感謝する。……レオ、よろしく。明日の依頼料に追加しておく。」

「フフッ、はいはい。」

 ガルムさんは最初お金を出そうとしたらしいが、私に腕を使ってしまっており、お金を取り出せなかったようだ。ガルムさんの負担になっているようで申し訳なくなる。

「じゃあ、また明日っす!ガルムさん!レオ!ハル君!」

「は、はい。」

 私はウィルさんにそう言って手を振られたため、頷いて返した。ガルムさんはあぁ、と返し、レオさんは手を振って返していた。ウィルさんが上に上がっていくのを見て、レオさんも続く。

「では、僕も今日はここで。じゃあまた明日。」

 レオさんも私に手を振ってきたので、ウィルさんの時と同じように返す。

「では俺達も休むとするか。あー……、今更だが、俺と同じ部屋だが大丈夫か?」

「私は問題ないですが、逆にガルムさんは迷惑ではありませんか?」

「フッ、大丈夫だ。」

そう言ってガルムさんは微笑むとレオさん達が消えていった階段を上っていった。

今日一緒にガルムさん達と過ごさせてもらったが、確かにレオさんやウィルさんと比べると表情は乏しいようだ。
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