辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良

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1章 訣別

11. 森への視察

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 中央からの使者の来訪と、その夜の襲撃から一か月後――。
 クロヴィスと一緒に街道近くの森を視察に訪れている。前回は植林直後の約半年前だった。大丈夫だろうと思いつつも、気になって見に来たのだ。

「随分と森が広がったわ。それに鬱蒼としてきている」
 隣で飛ぶクロヴィスに話しかける。

 ワイバーンから見下ろす森の北縁の木々が育ち緑が濃くなっている。
 まだ少し肌寒さがやわらいだ程度の暖かさだけど、植えた直後の土ばかりが目立っていたのと違って、木の合間から地面が見えなくなっている。植林から半年とは思えない成長っぷりだ。防衛線の強化目的で促成栽培したけど、上空から見る限りでは悪くない環境のようだった。

「地上に降りてみてみたいけど……」
「止めてくれ。マリエは辺境の最重要人物なんだから、敵地に降りるのは駄目だ」
 オリオール辺境伯領の反対側、ランヴォヴィル侯爵領側は既に敵国だった。

「聖人の末裔たるキエザ辺境伯家があるから、何とかなると思うんだけど?」
 最近までは魔力量から唯一無二の存在だったけど、隣国の辺境伯家との交流ができた現在、相対的に聖女の重要度は減ったと思う。

「俺が嫌なんだよ。森の外は敵地なんだから、絶対に下ろしたくない」

 お兄様とルイーゼの結婚式の後で告白されてから、私たちは順調に交際を続け少し前に結婚している。元々、兄のように優しい存在だったけど、付き合い始めてから甘さが激増して、あっという間に恋人として認知された。あまりの甘さに恥ずかしくて逃げようとしたけど、周囲が全員クロヴィスの味方になって逃げ切れなかった。

「下りたいんだったら城壁の内側だ」
 魔獣対策のために張り巡らした城壁は魔法結晶で強化しているから内側は安全地帯だ。

「そういえば夜襲の後、中央に戻らず移住した兵士が居るっていってたっけ?」
 同じ国とはいえ辺境は考え方も習慣も違うから、帰りたいなら味方と合流できるようにしようと提案したらしい。捕虜にとったところで、近い将来に人の往来ができなくなることもあって価値を見いだせない。そもそも捕虜と交換する材料が中央には全くないから、捕虜を取る意味を探す方が大変だった。

 そんな訳で中央人の兵士に戻れるよう取り計らおうとしたが、断って辺境に住み着いたらしい。助かったのは一人だけで、受け入れ側の負担が少ないからと、最寄りの村が引き取ったと聞いている。

「森の近くに住む村人でさえ辺境を下に見てるのに、珍しいのもいるよな」
「そうよねえ、訳アリなんでしょうけど、だったら西か北の辺境伯領の方が良かったんじゃないかって思うわ」

 南の辺境と呼ばれるオリオール伯爵家とフォートレル辺境伯家、東の辺境と呼ばれるマンティアルグ辺境伯家と違い、西と北の辺境伯家は中央人として生きる道を選んだ。

 魔獣被害の大きな森の近くを危険地帯として領地の中でも王都よりの土地に住み、魔獣や森に生える薬草は年に数回の遠征で採取するのみ。

 そんな土地だから中央のしがらみから完全に逃れることはできなくても、こちら側よりは慣れた環境で人生をやり直せるのではないかと思った。

「気になるんだったら、どういうヤツか確認してみようか?」
「ええ……」

 好奇心もあるけど、何か月も村で暮らしてみて、やっぱり帰りたいと思っていたら、森の北側まで送ろうかと思う。今はまだワイバーンで森を越せるけど、夏を過ぎたらどうなるかわからない。
 後悔しているなら行ける間に帰してあげたいと思っている。
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