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1章 訣別
15-1. マンティアルグ辺境伯領の森
しおりを挟むようやくカミラの話から辺境の話に戻ります。
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「それじゃあ、本題の方に行きましょうか」
「ええ……」
本題――マンティアルグ辺境伯家北部の森の視察が、今回の訪問の主目的だ。途中に領主館があるから、ついでに立ち寄っただけで。
二百年前のスタンピードは、大陸中央部か西部で発生したと言われている。暴走した魔獣はほぼ直線的に東に向かい、海に辿り着いた獣たちは岸壁から落ちていった。
一部の魔獣たちは数を減らしながら海岸線を北上していき力尽きた。魔獣の通り道が森になったけど、東の辺境伯領はほとんど影響がなかった。森が南との辺境伯家の境界になる程度しか広がらなかったからだ。
魔獣が跋扈する森は脅威だったけど、安全なものでもあると気付いたのは初代の頃だった。住民たちにとって危険なら、また畑の収穫を奪おうとする夜盗の類にも危険なのだと。適切な管理をしてやることで鉄壁の防壁になり、村人にとって安全になるのだ。
そんな訳で東の辺境伯家であるマンティアルグ家の領地も、森の西部と北部にも森を広げたのだ。当時の国王は危険だと渋ったものの、南の辺境の実績を提示することで、理解を得ている。
時代が下り、人が増え森が広がっても、まだ中央側には森と一番近くの集落の間に七十里ほど荒野が広がっている。
「北は魔獣のスタンピードが到達しなかったじゃない? 元の魔素が薄いのよね。魔石を撒いたり、植樹をしたりしているけれど、西の方みたいにはいかなくて」
西――フォートレル辺境伯領の西側に広がるのは、森の中でも一番深く、比例して危険度も一番高い地域だ。大陸中央部には、スタンピード以前から森が広がり、最奥部は人が足を踏み入れられないほどだった。原初の森と呼ばれ畏敬と信仰の対象でもあった。
その原初の森にもっとも近いのが、国内ではフォートレル辺境伯領なのだ。
「街道が使えるとして、既に馬が越えられないくらいには育っているけど、ワイバーンの対応はまだ無理なのよ」
馬と違って魔獣のワイバーンは少々、森が深くても怯えたりはしない。休憩せずに森を渡り切れなくても、途中で降り立ってしまえば問題はない。
人が入れないほど深く危険になれば、休憩することもできなくなって、森の内外を行き来することはできなくなるが。
「厄介ね」
「そう、とても面倒だと思うわ。でも傭兵団がワイバーンを使役し始めるのは、そう遠くない未来だと思うのよ。それでね……」
南はフォートレル辺境伯家とリオール伯爵家が共同で中央方面に広げている。ゆっくりと気づかれようにしているとはいえ、お母様の時代からだから、かなりの幅になってきている。南に限って言えば街道付近以外、ワイバーンで森越えが無理になった。もっとも休憩を挟めば森越えは可能だし、まだ森の中を人が歩けないというほど危険ではない。
その分は城壁が補ってくれるけど。初代のころ、再びスタンピードが来ても領民を守れるようにと、防壁を作ったのが初めのものだ。聖属性の魔石を混ぜた土を盛っただけのもの簡易的なものだったけど、それでも魔獣被害は格段に減ったらしい。
その後、一番森が深いあたりから今のような城壁を作っていったと聞いている。四つ足の獣が超えられない高さをできるだけ広範囲に。次に全体を徐々に高くしていき、今は森の木より倍くらい高くなっている。追加で聖属性の結界を張っているから、空を飛ぶ魔獣が城壁のに入ってくることもない。森の外での魔獣被害は過去のものとなっていた。
そして脅威が魔獣から人、それも王家に変わって、城壁は二重になった。新たなものは星型要塞と呼ばれる形状で対人を意識したものだ。
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