57 / 71
2章 王都編
05. 王太子の視察 ~北の辺境伯領~
しおりを挟む
「お前は一体、何をどう管理していたのだ」
北の辺境伯であるバルトを前に出た言葉が、険を含んでいたとしても仕方がないかもしれない。
オラール家と同じ王都に拠点を置く辺境伯であるが、こちらは自領には片手で数えられるほどしか行ったことがなく、まるきりの放任主義だ。否、西とは違ってまったく管理されていない北の辺境伯地。素材収集の目標値さえ果たしていればそれ以外を目こぼしするやり方で、北を無法地帯とした領主は、責任能力以前に何が問題なのか理解さえしていなかった。
「しかし……辺境地に住みたいと思うような平民もおらず、何より問題は起きておりません故」
「問題しかない!」
敢えて声を荒げ、わざとらしく大きく息を吐いて一拍おく。
「治安の維持は国の安寧に重要だとは思わないとは。なにより自分の領地が荒れるに任せるような無能に、分不相応な代物だと何故気付かない」
バルトがビクリと肩を震わせた。
無能、分不相応という言葉に、ようやく自分が何を言われているか理解したのだろう。
「小さな綻びがやがて大きな穴になる。辺境の地の諍いが巡り巡って王都を巻き込む大きな騒乱にならないと、何故言い切れるのだ?」
「可能性があるというだけで、断罪は如何なものかと――!」
迫り出した腹を揺らしながら、自分が何を言われるか先回りして抗議する。領主としては無能だが保身には長けているらしい。
「領地の運営がまるで出来ていないのは可能性ではなく純然たる事実だろう? 陞爵(しょうしゃく)したにも関わらず何代にも渡ってまともに治められないのを指す言葉は「無能」以外に知らないのだが。教えてくれ、こういう状況を何と呼べば良いのか」
指摘されて顔色を無くす。愚か者としか言いようがなかった。
「もしかして王権を弱体化させる心算だったか。だとすれば無能どころか有能だな」
反逆罪であるが、と付け足してやれば、ガタガタと震えだした。
「陛下からの沙汰を待つがいい」
自分の頭には既に北の辺境をこれからどうしていくのか一番効率が良いのかに、思考が取って代っていた。会談の始めより一回り小さくなったように見える目の前の男には、一欠けらの興味も失せていた。
――せめて傭兵団が手に入れていたというワイバーンがあればな。
入手し繁殖にまで成功していたという亜龍さえあれば、忌々しい東や南を隔てる広大な森を移動できただろう。少なくとも矢の届かない高度からの攻撃を防ぐ手段にはなっていた筈だ。
そのことを考えただけでバルトの無能をもっと早くにどうにかしておけば良かったと思うと腹立たしくて仕方がなかった。
北の辺境伯であるバルトを前に出た言葉が、険を含んでいたとしても仕方がないかもしれない。
オラール家と同じ王都に拠点を置く辺境伯であるが、こちらは自領には片手で数えられるほどしか行ったことがなく、まるきりの放任主義だ。否、西とは違ってまったく管理されていない北の辺境伯地。素材収集の目標値さえ果たしていればそれ以外を目こぼしするやり方で、北を無法地帯とした領主は、責任能力以前に何が問題なのか理解さえしていなかった。
「しかし……辺境地に住みたいと思うような平民もおらず、何より問題は起きておりません故」
「問題しかない!」
敢えて声を荒げ、わざとらしく大きく息を吐いて一拍おく。
「治安の維持は国の安寧に重要だとは思わないとは。なにより自分の領地が荒れるに任せるような無能に、分不相応な代物だと何故気付かない」
バルトがビクリと肩を震わせた。
無能、分不相応という言葉に、ようやく自分が何を言われているか理解したのだろう。
「小さな綻びがやがて大きな穴になる。辺境の地の諍いが巡り巡って王都を巻き込む大きな騒乱にならないと、何故言い切れるのだ?」
「可能性があるというだけで、断罪は如何なものかと――!」
迫り出した腹を揺らしながら、自分が何を言われるか先回りして抗議する。領主としては無能だが保身には長けているらしい。
「領地の運営がまるで出来ていないのは可能性ではなく純然たる事実だろう? 陞爵(しょうしゃく)したにも関わらず何代にも渡ってまともに治められないのを指す言葉は「無能」以外に知らないのだが。教えてくれ、こういう状況を何と呼べば良いのか」
指摘されて顔色を無くす。愚か者としか言いようがなかった。
「もしかして王権を弱体化させる心算だったか。だとすれば無能どころか有能だな」
反逆罪であるが、と付け足してやれば、ガタガタと震えだした。
「陛下からの沙汰を待つがいい」
自分の頭には既に北の辺境をこれからどうしていくのか一番効率が良いのかに、思考が取って代っていた。会談の始めより一回り小さくなったように見える目の前の男には、一欠けらの興味も失せていた。
――せめて傭兵団が手に入れていたというワイバーンがあればな。
入手し繁殖にまで成功していたという亜龍さえあれば、忌々しい東や南を隔てる広大な森を移動できただろう。少なくとも矢の届かない高度からの攻撃を防ぐ手段にはなっていた筈だ。
そのことを考えただけでバルトの無能をもっと早くにどうにかしておけば良かったと思うと腹立たしくて仕方がなかった。
135
あなたにおすすめの小説
冤罪で家が滅んだ公爵令嬢リースは婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!
山田 バルス
恋愛
婚約破棄された上に、学院の下働きにされた後、追放されて野垂れ死からの前世の記憶を取り戻して復讐する!
【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない
かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、
それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。
しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、
結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。
3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか?
聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか?
そもそも、なぜ死に戻ることになったのか?
そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか…
色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、
そんなエレナの逆転勝利物語。
【完結】きみは、俺のただひとり ~神様からのギフト~
Mimi
恋愛
若様がお戻りになる……
イングラム伯爵領に住む私設騎士団御抱え治療士デイヴの娘リデルがそれを知ったのは、王都を揺るがす第2王子魅了事件解決から半年経った頃だ。
王位継承権2位を失った第2王子殿下のご友人の栄誉に預かっていた若様のジェレマイアも後継者から外されて、領地に戻されることになったのだ。
リデルとジェレマイアは、幼い頃は交流があったが、彼が王都の貴族学院の入学前に婚約者を得たことで、それは途絶えていた。
次期領主の少年と平民の少女とでは身分が違う。
婚約も破棄となり、約束されていた輝かしい未来も失って。
再び、リデルの前に現れたジェレマイアは……
* 番外編の『最愛から2番目の恋』完結致しました
そちらの方にも、お立ち寄りいただけましたら、幸いです
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
【完結】猫を被ってる妹に悪役令嬢を押し付けられたお陰で人生180度変わりました。
本田ゆき
恋愛
「お姉様、可愛い妹のお願いです。」
そう妹のユーリに乗せられ、私はまんまと悪役令嬢として世に名前を覚えられ、終いには屋敷を追放されてしまった。
しかし、自由の身になった私に怖いものなんて何もない!
もともと好きでもない男と結婚なんてしたくなかったし堅苦しい屋敷も好きでなかった私にとってそれは幸運なことだった!?
※小説家になろうとカクヨムでも掲載しています。
3月20日
HOTランキング8位!?
何だか沢山の人に見て頂いたみたいでありがとうございます!!
感想あんまり返せてないですがちゃんと読んでます!
ありがとうございます!
3月21日
HOTランキング5位人気ランキング4位……
イッタイ ナニガ オコッテンダ……
ありがとうございます!!
魔力なしの役立たずだと婚約破棄されました
編端みどり
恋愛
魔力の高い家系で、当然魔力が高いと思われていたエルザは、魔力測定でまさかの魔力無しになってしまう。
即、婚約破棄され、家からも勘当された。
だが、エルザを捨てた奴らは知らなかった。
魔力無しに備わる特殊能力によって、自分達が助けられていた事を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる