辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良

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2章 王都編

05. 王太子の視察 ~北の辺境伯領~

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「お前は一体、何をどう管理していたのだ」

 北の辺境伯であるバルトを前に出た言葉が、険を含んでいたとしても仕方がないかもしれない。

 オラール家と同じ王都に拠点を置く辺境伯であるが、こちらは自領には片手で数えられるほどしか行ったことがなく、まるきりの放任主義だ。否、西とは違ってまったく管理されていない北の辺境伯地。素材収集の目標値ノルマさえ果たしていればそれ以外を目こぼしするやり方で、北を無法地帯とした領主は、責任能力以前に何が問題なのか理解さえしていなかった。

「しかし……辺境こんな地に住みたいと思うような平民もおらず、何より問題は起きておりませんゆえ

「問題しかない!」
 敢えて声を荒げ、わざとらしく大きく息を吐いて一拍おく。

「治安の維持は国の安寧に重要だとは思わないとは。なにより自分の領地が荒れるに任せるような無能に、分不相応な代物だと何故気付かない」

 バルトがビクリと肩を震わせた。
 無能、分不相応という言葉に、ようやく自分が何を言われているか理解したのだろう。

「小さな綻びがやがて大きな穴になる。辺境の地の諍いが巡り巡って王都を巻き込む大きな騒乱にならないと、何故言い切れるのだ?」

「可能性があるというだけで、断罪は如何なものかと――!」
 迫り出した腹を揺らしながら、自分が何を言われるか先回りして抗議する。領主としては無能だが保身には長けているらしい。

「領地の運営がまるで出来ていないのは可能性ではなく純然たる事実だろう? 陞爵(しょうしゃく)したにも関わらず何代にも渡ってまともに治められないのを指す言葉は「無能」以外に知らないのだが。教えてくれ、こういう状況を何と呼べば良いのか」
 指摘されて顔色を無くす。愚か者としか言いようがなかった。

「もしかして王権を弱体化させる心算だったか。だとすれば無能どころか有能だな」
 反逆罪であるが、と付け足してやれば、ガタガタと震えだした。

「陛下からの沙汰を待つがいい」

 自分の頭には既に北の辺境をこれからどうしていくのか一番効率が良いのかに、思考が取って代っていた。会談の始めより一回り小さくなったように見える目の前の男には、一欠けらの興味も失せていた。

 ――せめて傭兵団が手に入れていたというワイバーンがあればな。

 入手し繁殖にまで成功していたという亜龍さえあれば、忌々しい東や南を隔てる広大な森を移動できただろう。少なくとも矢の届かない高度からの攻撃を防ぐ手段にはなっていた筈だ。

 そのことを考えただけでバルトの無能をもっと早くにどうにかしておけば良かったと思うと腹立たしくて仕方がなかった。
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