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第八十四話 傷物(23)
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「ごめんごめん、しんみりさせるつもりは無かったんだ」
「すみません……」
「いやいや、君達のプライベートなことを聞いてしまったんだ。僕も少しは明かさないと不公平だね。ふふ、歳を取るとお喋りになるわよ、か。彼女が残してくれた言葉も間違って無かったね」
「素敵な方だったんですね……」
私は何も言えずに、ただ何かを感じ合う二人を見守っていた。大切な人を失った辛さが、とても小さく揺らいでいる炎となって、二人を焦がし続けている。それは一生消えないかもしれない、そんなことをぼんやりと考えていた。
「ああ、結婚して間も無く病気になってしまってね、癌だよ。よくある話だろ、全く嫌になるほどね」
後輩も言葉を失って、彼の立ち話は坦々と続いた。
「僕は医者なのに、彼女を救えそうに無いのが辛くてね。親も可哀想と言うだけ、彼女が病室で寝ているときに、彼女の両親に謝られたのは辛かったな。人前で初めて泣いてしまったよ、情けないね全く」
彼は玄関に居続ける彼女の写真を見つめていた、遠く、遙か遠くを眺めるように。
「すみません……」
「いやいや、君達のプライベートなことを聞いてしまったんだ。僕も少しは明かさないと不公平だね。ふふ、歳を取るとお喋りになるわよ、か。彼女が残してくれた言葉も間違って無かったね」
「素敵な方だったんですね……」
私は何も言えずに、ただ何かを感じ合う二人を見守っていた。大切な人を失った辛さが、とても小さく揺らいでいる炎となって、二人を焦がし続けている。それは一生消えないかもしれない、そんなことをぼんやりと考えていた。
「ああ、結婚して間も無く病気になってしまってね、癌だよ。よくある話だろ、全く嫌になるほどね」
後輩も言葉を失って、彼の立ち話は坦々と続いた。
「僕は医者なのに、彼女を救えそうに無いのが辛くてね。親も可哀想と言うだけ、彼女が病室で寝ているときに、彼女の両親に謝られたのは辛かったな。人前で初めて泣いてしまったよ、情けないね全く」
彼は玄関に居続ける彼女の写真を見つめていた、遠く、遙か遠くを眺めるように。
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