トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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2章

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 予め梶が念入りに根回ししていたこともあり、マドリードに本部を置く対米諜報機関の設立が承認されたのは、年が明けてすぐのことだった。
 直ちに当座の資金が送金され、それを元手にテオバルトは行動を開始した。南北アメリカへの人員の配置、通信機材の購入や中継に必要な船舶の手配など、彼の仕事は迅速で抜かりなく、その手際の良さには梶も志貴も舌を巻いた。
 夏までには、全米のあちこちから頻繁に情報がマドリードに届くようになっていた。たった半年で、テオバルドはアメリカ本土を網羅する緻密な諜報網を作り上げ、稼働させたのだ。
 また彼は、一般的なラテンの大雑把な仕事ぶりとは異なり、報告を上げることを怠らず、それが特に梶の信頼を勝ち取っていた。大金が動いている以上、本国への報告はまめに行わなければならない。そのネタを毎日のように掴んでくる、テオバルドをリーダーとする彼のスパイたちは、相当に訓練され経験のある者たちに違いなかった。

 組織は、「とう」機関と命名された。元々は、情報を盗む組織であるから盗という字が当てられていたのだが、流石に外聞が悪いということになり、鳳凰がとまる聖木である桐の字が使われることになったのだ。
 スペインに桐は自生していないようで、初夏に淡紫色の美しい花を咲かせる花木だと教えたが、テオバルドは自らが率いる組織の名の由来に、特段興味を持たなかった。彼にとって、実務に関すること以外の情報は、すべてガラクタに分類されるらしい。
 全米に散った桐機関の諜報員からの電信は、南米パナマ沖に通信機材を積んで待機させた中継船を経由して、マドリードの秘密基地に届く。バラバラの情報を分析しやすいように時系列にまとめた上で、テオバルドがそれらを報告書に仕上げる。
 たとえ何者かに奪われても、それは一見ただの手紙だ。行間に特殊インクで記された報告書は現像しなければ現れず、その技術を知る者は公使館員でも桐機関メンバーの一部に限られる。そしてその受け取りは、昼休みシエスタの散歩を装った志貴が行う。――懐に護身用の短銃を忍ばせて。

 初顔合わせの日、別れ際に一悶着あった志貴とテオバルドだったが、意外にも仕事はスムーズに進んでいる。やたら友好的――というより、むしろ馴れ馴れしい態度で接してくるテオバルドに、志貴は事務的に対応していた。連絡役としてスパイと会うのに、その仕事に対する敬意は必要でも、愛想は不要と考えるからだ。
 しかしラテン男の悪癖は、男であれ興味を引かれた相手は何かと構い、ちょっかいを出さずにはいられないようだ。志貴の無味乾燥とした態度も、テオバルドにかかれば「志貴は本当に可愛いな」ということになるのだから、この男の頭に収まっている回路の不可解さは並大抵のものではない。
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