トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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2章

3

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 小さく咎めた声は無視され、その場の面々は家具を元の場所に戻しながら、好き勝手に答えた。

「衛藤中佐を敵に回すような度胸のある奴なんて、ここにはいませんよ」
「そもそも矢嶋君こそを敵に回したくはないね、綺麗な顔してえげつない仕返しをされそうだ」
「梶公使からも厳しいお叱りがありそうですしねえ」

 公使館に勤める書記生にまでのんびりと付け加えられ、志貴はため息とともに肩を落とした。
 何故自分のまわりには、こうも過保護な人間が多いのか――スペインの地にまで。

 幼少期に一番密な時間を過ごす母親が、子を千尋の谷に突き落として鍛える少々苛烈な教育方針を取っていたせいか、志貴の保護者を自任し可愛がる大人や年長者は多かった。父亡き後、親代わりを買って出て何かと気に掛けてくれた梶や、家が近所で家族ぐるみの付き合いがあり――つまり家族総出で志貴を可愛がってくれた衛藤家は、その筆頭だ。その二大巨頭が、何の因果で任地を同じくすることになったのか。
 梶は、その計画の遂行のために志貴の能力を必要と判断し、手を回して自らの下に呼び寄せた。亡父の遺志にも適う彼の計画に賛同し、使命感を抱いてスペインの地を踏んだわけだが、一洋まで赴任してくるのは想定外だった。海軍兵学校を首席卒業した恩賜組エリートで、語学堪能な一洋が駐在武官として欧州を渡り歩いているという話は実家経由で聞いており、欧州の情報収集の最前線となるスペインに派遣されることは理解に難くないが、それにしても偶然とは重なるものだ。
 親しい二人が同じ任地にいるというのは、心強い反面弊害もある。二人とも幼い頃から志貴を知っていることを隠そうとしないため、志貴がきっちり一線を引いて付き合わなければ、依怙贔屓だの縁故だの、ありもしないことで陰口を叩かれることになる。
 いくら一洋から苦情を言われようと、梶が「志貴君は堅すぎる。仕事を離れたら、以前のように『梶の小父さん』と呼んでくれていいんだよ」などと口を尖らせようと、断固として拒否しているせいで、今は周囲にも揶揄われるだけで済んでいるのだ。

「みなさん、もし私が増長しているように見えたら、どうぞ遠慮なく諫めてください。中佐も公使も、気に掛けていただくのはとてもありがたいことですが、みなさんとのチームワークこそが、異国の地で、少人数で最大の成果を挙げるために最も重要なことですから」

 律儀に腰を折る志貴に、周囲の男たちが慌てて「いや、こちらこそ」「矢嶋君は今も十分やっているよ」と取り成す様を、一洋が苦笑しながら眺めている。「これだから目を離せんのだ」という呟きが聞こえたが、志貴はつんと顔を背けて聞こえないふりをした。
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