トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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2章

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 広大なアメリカ大陸は海岸線が長く内陸部は深く、アメリカ本土侵攻は困難だ。カナダと南米の中間に位置し、陸続きで隣接する友好国からの援助が容易なため、海上封鎖も意味がない。そもそも対外依存度が低く資源が豊かなことから、その軍事力は強大で殲滅は不可能――つまり、首都ワシントンの制圧は不可能な以上、あらゆるルートから和平の道を探るのが現実的だった。
 同盟国である枢軸に派遣された外交官たちに、敵である連合国の情報を入手するのは難しい。精々その国の高官にぶら下がり、情報のお裾分けをもらうのが関の山だろう。しかし欧州の中立国であれば、英米の主要紙をすぐに入手できるし、スペインの外相ルートで相手方の動きを知ることもできる。テオバルドを斡旋したことからもわかるように、中立と言いながらこの国は枢軸に傾いている。この有利を活かし、日米が何とか合意できる落としどころを見つけて講和に持ち込む――そのための下地を作る。
 勿論、本国からそのような指令は受けていない。しかし言われたことだけをしていては、真の外交官とは言えない。万一に備えて裏ルートバックチャンネルを確保し、明日がどのように分岐してもカバーできる素材をかき集める。そのための日々の地道な情報収集であり、桐機関の活動なのだ。

 先月テオバルドがもたらした、あの情報。
 アメリカの大反攻を事前に叩き、その戦力を削ぐ千載一遇の好機だったはずなのに、何故大本営は一洋に照会するまでもなく、桐機関の成果を陸海軍の情報と突き合わせて、活用しなかったのか。それとも、何処の馬の骨ともわからぬ情報と、大本営に届く前に握り潰されてしまったのか。

(――それでも、諦めてたまるか)

 込み上げるやりきれなさを、明日のための燃料に置換する。
 弱音を吐くのはこれで終わりだ。一洋も志貴も、そして梶も、やるべきことはわかっていてここにいる。桐機関の諜報員たちも、そのために広大なアメリカ大陸に散っている。
 ならば、明日も粛々と、己の仕事をするまでだ。
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