トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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5章

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 いつものようにレティーロ公園で待ち合わせ、公園北のアルカラ門に近い地下鉄駅から、二号線でベンタス駅まで四駅。シーズン最後の闘牛が行われる日曜日の最寄り駅は混雑していた。
 赤茶けたネオ・ムデハル様式の、高く澄んだ青空を背景に聳え立つ闘牛の殿堂。スペイン最大の闘牛場ラス・ベンタスは、すべての闘牛士がここで成功を収めることを夢見る世界一の権威――なのだそうだ。さすがに勉強が間に合わず、何の知識も持ち合わせていないのだと正直に告白すると、テオバルドはいつも以上に滑らかな語り口で、彼の古巣について教えてくれた。
 ロイヤルボックスを備えた――ただし一党独裁が敷かれている今、この国に王はいない――闘牛場の格式同様、観客の目も最高に厳しいと言われるラス・ベンタスでは、金やコネで出場した実力に欠ける者はすぐに見破られ、容赦ないブーイングの嵐を浴びせられる。反対に、牛の耳を二枚も獲得するような活躍ができれば、スペイン中から数多くの出場依頼が舞い込み、一流として名を馳せることも夢ではない。

「今日はちんけなコネ野郎の出番じゃないといいな」

と、かつてこの場で満場の喝采を浴びていたという男は、歯を見せてニッと笑った。

耳二枚ドス・オレハスというのは、褒美なのだっけ」
「そう、観客はいくつかの手段で演技を評価する。一枚でも耳を貰えたら、素晴らしい演技をしたということだ。そこまでじゃなければただの拍手喝采、次がお情け程度の拍手、そして完全な沈黙。最低な演技に捧げられるのは、猛烈な野次と怒声だ。ラス・ベンタスでそんなヘマをしたら、しばらくどこからもお声は掛からないだろうな」

 人の流れに乗って、二人は闘牛場に入った。座席下の通路はごった返し、葉巻と香水の匂いが混ざり合って、休日前の酒場のような賑わいだ。座席に敷くクッションをパンパンとはたきながら、係の男が声を張り上げている。金を払って二つ受け取り、たむろする人々にぶつかることもなく、テオバルドはするすると進んでいく。はぐれないように、志貴はその背中を追った。
 狭く薄暗い階段を光の差す方へ上りきったところで、眼下に巨大な円形の砂場が口を開けて待ち構えていた。ぐるりと取り囲む三層の観客席は、試合開始までまだしばらくあるのに殆どが埋まっている。まだ日の当たる日向席は太陽と真っ向勝負で、確かにあれでは焼け焦げてしまいそうだ。それに逆光の中、肝心の試合も見づらいに違いない。

「観客は白いハンカチを振って、褒美を取らせよと主催者プレジデンテへアピールする。褒美を与える権限を持つのはあくまで主催者であって、観客じゃない。半数が振っていたら耳一枚オレハ、それでもなお観客がハンカチを振り続ければ、主催者の判断でもう一枚。さらに尻尾ラボが与えられることもある。ラス・ベンタスは客も主催者も辛口で、耳二枚も珍しいから、尻尾までというのは滅多にないが」
「その耳と尻尾は、仕留めた牛のものなのだろう?」
「そりゃそうさ」
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