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5章
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「ん、んっ!」
志貴の動揺と拒絶を封じるかのように、テオバルドは脚の間に体を割り込ませ、全身で志貴を押さえ付ける。
「……ふ、ぅ……んう」
決して逃がさないという意思を文字通り体現して、志貴を追い込んでくる。
「ん、うぅ、……ぁうっ!」
肩を掴んで押し退けようとした腕は手首を掴まれ、壁に押し付けられて封じられる。
ちゅく、ぬちゅ、という淫靡な水音が、空気を通さず内耳を震わせる。志貴の中が掻き回され生まれた音が、そのまま肉を、骨を伝って、耳まで届いているのだ。
「やぁっ、ん、――ふ、ぅんっ」
あまりのいやらしさに慄き、逃れようと何度顔を背けても、そのたびに執拗に追い掛けられ唇を奪われる。
いつも余裕をたたえた男がなりふり構わず見せる執着に、体の奥底がじわりと反応する。それが劣情という名の揺らぎであることに気づいた志貴は、咄嗟に激しく首を振り、追い縋る男の唇を振り払った。
興奮を孕んだ眼差しと、乱れた息遣いが、二人の間を行き交う。
自らの唾液で濡れた志貴の赤い唇から目を離さず、テオバルドが低く懇願するように言う。
「あんたにだけはテオと呼ばれたい。……子供の頃の愛称だ、今は他に呼ぶ者もない」
「離せっ」
「呼んだら離してやる」
ひそりと男が囁いた後、再び唇が重なった。
胸を合わせるように密着され、大きな手で喉を掴まれる。噛み付いたら締め上げると、言外に脅している。卑怯な接吻だ。
しかも唆すように、下肢の中心を擦り合わせるように動かれ、思わず洩れた悲鳴はテオバルドの唇に吸い取られた。男のそこは、明らかに欲望を示していたのだ。
このままでは、自分も巻き込まれてしまう。従いたくはないのに、じわじわと官能に追い詰められる。
込み上げる悔しさにも目を潤ませながら、息継ぎを許された隙に、志貴は望まれた名を口にした。
「……テオ」
腹立たしいことに、男を呼ぶ声は小さく震えていた。満足したように頬を撫でてくる男が、甘く吐息を洩らす。
「今後俺をテオバルドと呼んだら、問答無用でこの澄ました唇を奪ってやる。澄ましていて、そのくせ甘い唇だ。癖になりそうな――。キスしてほしくなったら、テオバルドと呼べばいい」
「誰がそんなことを望むものか。仕事熱心なのは結構だが、私は決して君の思い通りになどならない」
「仕事? 何のことだ」
「あの夜の男たちと同じ任務を、君も担っているのだろう。生憎だが私に色仕掛けは通用しない」
至近距離で目と目を合わせたまま、冷たく言い放つ。
スパイの生態を観察するために、男の軽口を聞き流すくらいは許容範囲だが、肉体的な接触まで許すつもりはない。矜持に抵触する振る舞いに対する警告と、無駄な努力への忠告をしたつもりだった。
しかし、男は静かに激昂した。
「俺があんたを謀るために、こうしていると思ってるのか」
獰猛な獣のように低く耳元で囁くと、テオバルドは目の前にある耳朶をいやらしく舐め上げた。びくっと身を竦めた志貴を逃さないようにきつく抱き締め、片手で顎を掴んで固定すると、熱い舌を耳から首筋へと滑らせる。
志貴の動揺と拒絶を封じるかのように、テオバルドは脚の間に体を割り込ませ、全身で志貴を押さえ付ける。
「……ふ、ぅ……んう」
決して逃がさないという意思を文字通り体現して、志貴を追い込んでくる。
「ん、うぅ、……ぁうっ!」
肩を掴んで押し退けようとした腕は手首を掴まれ、壁に押し付けられて封じられる。
ちゅく、ぬちゅ、という淫靡な水音が、空気を通さず内耳を震わせる。志貴の中が掻き回され生まれた音が、そのまま肉を、骨を伝って、耳まで届いているのだ。
「やぁっ、ん、――ふ、ぅんっ」
あまりのいやらしさに慄き、逃れようと何度顔を背けても、そのたびに執拗に追い掛けられ唇を奪われる。
いつも余裕をたたえた男がなりふり構わず見せる執着に、体の奥底がじわりと反応する。それが劣情という名の揺らぎであることに気づいた志貴は、咄嗟に激しく首を振り、追い縋る男の唇を振り払った。
興奮を孕んだ眼差しと、乱れた息遣いが、二人の間を行き交う。
自らの唾液で濡れた志貴の赤い唇から目を離さず、テオバルドが低く懇願するように言う。
「あんたにだけはテオと呼ばれたい。……子供の頃の愛称だ、今は他に呼ぶ者もない」
「離せっ」
「呼んだら離してやる」
ひそりと男が囁いた後、再び唇が重なった。
胸を合わせるように密着され、大きな手で喉を掴まれる。噛み付いたら締め上げると、言外に脅している。卑怯な接吻だ。
しかも唆すように、下肢の中心を擦り合わせるように動かれ、思わず洩れた悲鳴はテオバルドの唇に吸い取られた。男のそこは、明らかに欲望を示していたのだ。
このままでは、自分も巻き込まれてしまう。従いたくはないのに、じわじわと官能に追い詰められる。
込み上げる悔しさにも目を潤ませながら、息継ぎを許された隙に、志貴は望まれた名を口にした。
「……テオ」
腹立たしいことに、男を呼ぶ声は小さく震えていた。満足したように頬を撫でてくる男が、甘く吐息を洩らす。
「今後俺をテオバルドと呼んだら、問答無用でこの澄ました唇を奪ってやる。澄ましていて、そのくせ甘い唇だ。癖になりそうな――。キスしてほしくなったら、テオバルドと呼べばいい」
「誰がそんなことを望むものか。仕事熱心なのは結構だが、私は決して君の思い通りになどならない」
「仕事? 何のことだ」
「あの夜の男たちと同じ任務を、君も担っているのだろう。生憎だが私に色仕掛けは通用しない」
至近距離で目と目を合わせたまま、冷たく言い放つ。
スパイの生態を観察するために、男の軽口を聞き流すくらいは許容範囲だが、肉体的な接触まで許すつもりはない。矜持に抵触する振る舞いに対する警告と、無駄な努力への忠告をしたつもりだった。
しかし、男は静かに激昂した。
「俺があんたを謀るために、こうしていると思ってるのか」
獰猛な獣のように低く耳元で囁くと、テオバルドは目の前にある耳朶をいやらしく舐め上げた。びくっと身を竦めた志貴を逃さないようにきつく抱き締め、片手で顎を掴んで固定すると、熱い舌を耳から首筋へと滑らせる。
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