トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

文字の大きさ
88 / 237
8章 ※

4

しおりを挟む
 長い間顧みられてこなかった志貴の欲望は、何年ぶりかに他人の熱に包まれる悦びに、呆気なく追い詰められ放出へと導かれた。

「あぁっ、……あ、あ、はぁっ……」

 久しぶりの射精は、だらだらとみっともなく、間欠的に続いた。幼馴染に辱められる異常な行為に、はしたなくも体が反応し――昂奮し悦んだ証だった。

「くっ……、――ふ、うっ」

 堪えようとしても、嗚咽が喉を震わせる。こんな目に遭わされるほど怒らせ、心配させてしまったのだ――兄とも思う、大切な人に。
 一人前と認められたいのに、一方的に心配されるばかりの二人の関係は、結局何も変わっていない。悔し涙は快楽の涙となり、精を放つと同時に堰を切ったように眦から溢れた。

「……泣くな、苛めてるみたいだろう」
「苛めてるじゃ、ないか……ふ、ぅんっ」

 慰めるように濡れた陰茎を扱かれ、吐息が乱れる。
 一撫でして離れるかと思った一洋の手の動きは、しかし止まることなく熱心さを増していく。包むように握る手のひらに幹全体を、指先に裏筋を繰り返し擦られ、はしたない嬌声が喉を突く。

「ひぃっ、あぁ、……はぁっ、んっ」

 与えられる快楽に靡こうとする体を引き留めようと、志貴は懸命に身を捩った。騙そうとしたことへの罰だとしても、これ以上の辱めに耐えることはできそうになかったのだ。

「お願い、もう、離してっ」
「一度では満足できないだろう」

 溜め込んでいた欲望を吐き出し力を失いつつあるものに、休むことを許さないとでもいうように、淫靡な摩擦が加えられる。ぬちゅ、ちゅく、と粘りのある水音が立ち、その生々しさに、改めて自分の身に何が起こったのかを――今も起こっていることを思い知らされる。
 一洋の怒りを買い、淫らな罰を受けさせられていることを。立て続けの手淫に、極めたばかりの哀れなそこを、再び追い上げられていることを。
 達した直後の陰茎を弄られるのは、刺激が強すぎる。それを知らないはずはないのに、一洋は志貴の腹に散った白濁を掬い、たっぷりと手のひらに塗りつけると、敏感な先端を磨くように撫で回し始めた。

「ああっ、アッ、……や、やめっ、ひいぃ!」

 末端神経をまとめて擦られるような過激な体感は、快感などという生やさしいものではなかった。がくっ、がくっ、と縛められた体が不規則に跳ねて、強過ぎる刺激に全身が赤く染まり、じわりと汗ばんでいく。
 一洋の手技には、容赦がなかった。剥き出しにされ、痛々しく色づいたそこを、何度も志貴の精を塗り足しながら磨き上げる。もう取り繕うこともできず、ぼろぼろと涙を零しながら哀願しても、聞こえないとばかりに先端を握られ、指の輪で段差を強く扱かれた。

「ひあぅっ、やだ、それ、やめてっ。……来る、何か来るっ」

 腰の奥から突き上げるように込み上げてくる感覚は、尿意に近い。
 志貴の喉から、堪えようのない悲鳴が途切れなく迸る。それでも一洋は追い上げる手を休めない。

「離してっ、出る、出ちゃうからっ!」
「いいから、すべて吐き出してみろ」

 切羽詰まった訴えは、やさしい声に無情に受け流された。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...