135 / 237
12章
4
しおりを挟む
「ホセ・アントニオは、俺をラス・ベンタスに引き上げてくれた恩人の息子だ。まだ三級闘牛場を回る新人だった頃、俺の後援者になってくれたのが彼の父、ミゲルだ」
ホセ・アントニオの父と言えば、この国で知らない者はいない。
ミゲル・プリモ・デ・リベーラ。
二十年前、テロにより政府高官が次々と暗殺され、社会不安に混沌とする国内を鎮めたい思惑を持つ国王から内々の承認を受け、クーデターを経て王制下に軍事独裁政権を樹立した人物だ。
しかし軍事独裁になったからといって、何世紀にも亘り堆積し、今一気に噴出した問題が霧のように消えるわけもない。その治政は、失政として記憶される過去となり、ミゲルも国王も亡命先で客死している。
「俺は新進気鋭の闘牛士として世間に知られ始めた頃で、才能はあっても、金とコネは持ってなかった。ミゲルの後押しがなければ、ラス・ベンタスの砂場に立つには、あと二、三年は掛かっただろうな」
テオバルドは異例の若さで見習いから闘牛士へ駆け上がり、その美貌と勇壮かつ優美な技で人気を博していたが、それでも闘牛の殿堂ラス・ベンタスへの出場は遠い夢だった。
耳一枚を手にできれば、一夜にして花形となれる夢の舞台だ。出場するためには、格下の闘牛場での実績は勿論、金とコネが必要となる。興行主の目に留まり、その声が掛かって出場を依頼されるのはほんの一握りの花形闘牛士のみで、大抵は金とコネを使って出場を許可してもらうのだ。
テオバルドには、金もコネもなかった。地道に地方や格下の闘牛場を回って耳を獲得し実績を重ねる以外に、ラス・ベンタス出場の道はなかった。
そんな彼の傑出した才能と闘争心、そして華を認め、見習いの頃から目を留めていた闘牛愛好家がミゲルだったのだ。
彼の声掛けにより、テオバルドはラス・ベンタスに出場する機会を与えられ、見事その好機をものにした。彗星のようにラス・ベンタスに現れた、若く美しい才能に溢れた新人は、満場の観衆を熱狂させた。耳一枚でもお手柄なのに、初出場で耳二枚を獲得したのは、時の権力者でもある後援者への配慮もあったのかもしれないが、少なくとも白いハンカチを振り続け、主催者に耳二枚の授与を要求したのはその場の観衆だった。
こうして、テオバルドとプリモ・デ・リベーラ家の人々との付き合いが始まった。ミゲルの子供たちはテオバルドと年が近く、有望株の闘牛士の人気がいずれ子供たちの声望を高める役に立つかもしれない、とミゲルが引き合わせたのだ。
長男のホセ・アントニオはテオバルドより十歳年長だったが、一番気が合い、生意気な若手闘牛士を末弟のように可愛がってくれた。長兄と仲が良い妹のピラールとも、冗談を言い合う友人となった。
ホセ・アントニオの父と言えば、この国で知らない者はいない。
ミゲル・プリモ・デ・リベーラ。
二十年前、テロにより政府高官が次々と暗殺され、社会不安に混沌とする国内を鎮めたい思惑を持つ国王から内々の承認を受け、クーデターを経て王制下に軍事独裁政権を樹立した人物だ。
しかし軍事独裁になったからといって、何世紀にも亘り堆積し、今一気に噴出した問題が霧のように消えるわけもない。その治政は、失政として記憶される過去となり、ミゲルも国王も亡命先で客死している。
「俺は新進気鋭の闘牛士として世間に知られ始めた頃で、才能はあっても、金とコネは持ってなかった。ミゲルの後押しがなければ、ラス・ベンタスの砂場に立つには、あと二、三年は掛かっただろうな」
テオバルドは異例の若さで見習いから闘牛士へ駆け上がり、その美貌と勇壮かつ優美な技で人気を博していたが、それでも闘牛の殿堂ラス・ベンタスへの出場は遠い夢だった。
耳一枚を手にできれば、一夜にして花形となれる夢の舞台だ。出場するためには、格下の闘牛場での実績は勿論、金とコネが必要となる。興行主の目に留まり、その声が掛かって出場を依頼されるのはほんの一握りの花形闘牛士のみで、大抵は金とコネを使って出場を許可してもらうのだ。
テオバルドには、金もコネもなかった。地道に地方や格下の闘牛場を回って耳を獲得し実績を重ねる以外に、ラス・ベンタス出場の道はなかった。
そんな彼の傑出した才能と闘争心、そして華を認め、見習いの頃から目を留めていた闘牛愛好家がミゲルだったのだ。
彼の声掛けにより、テオバルドはラス・ベンタスに出場する機会を与えられ、見事その好機をものにした。彗星のようにラス・ベンタスに現れた、若く美しい才能に溢れた新人は、満場の観衆を熱狂させた。耳一枚でもお手柄なのに、初出場で耳二枚を獲得したのは、時の権力者でもある後援者への配慮もあったのかもしれないが、少なくとも白いハンカチを振り続け、主催者に耳二枚の授与を要求したのはその場の観衆だった。
こうして、テオバルドとプリモ・デ・リベーラ家の人々との付き合いが始まった。ミゲルの子供たちはテオバルドと年が近く、有望株の闘牛士の人気がいずれ子供たちの声望を高める役に立つかもしれない、とミゲルが引き合わせたのだ。
長男のホセ・アントニオはテオバルドより十歳年長だったが、一番気が合い、生意気な若手闘牛士を末弟のように可愛がってくれた。長兄と仲が良い妹のピラールとも、冗談を言い合う友人となった。
20
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる