トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

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12章

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 弁護士として働いていたホセ・アントニオは、不安定な社会情勢を深く憂慮していたが、父親の立場もあり、自身の思想を語ることも、政治活動と捉えられることも一切しない、思慮深い若者だった。ただ時々、身内だけの小さな集まりで、国を案じる言葉をいくつか零すくらいだった。
 その呟きのような言葉は、しかし太陽の輝きを放ち、テオバルドはその中に国の新しい姿を見た。旧弊を取り除き堕落した無能な議会を廃し、その資格を持つ指導者が国民を力強く導き、一人一人が責任を果たし国を富ませる。搾取するばかりの支配階級から「羊のごとく大人しく従順」「怠惰な人間」と思われていた国民を、その奴隷的で愚鈍な存在から解放するのだ。

 知性に溢れ、穏やかながらも強い意志を秘めたホセ・アントニオは、これまで出会ったどの大人とも違い、まだ十代だったテオバルドは強い憧れを抱いた。もし彼が国のために何かを果たそうとするなら、必ずその助けとなりたい、と次第に未熟な愛国心を重ねるようになった。――盲目的に兄を慕う、彼の妹と同様に。
 しかし一年後、ミゲルは失脚し、亡命し、亡くなった。成人し自立していた彼の子供たちにとっても、難しい時代が始まった。

「俺は五年で闘牛士を引退した。憧れて入った世界で愛着もあったが、大学資金が貯まったからな。ホセ・アントニオと会って、彼のように学びたいと思うようになったんだ。そして、記者になりたいと。立憲君主制も軍事独裁すらも機能しない、腐敗したこの国を再生する一助となるような、そんな仕事に就きたいと思ったんだ」

 愛国心に満ちた志高い若者にとって――そして、すべてのスペイン人にとって、その後の数年間は過酷なものになる。
 その混乱の時代に政治家として立ったホセ・アントニオは、ファランヘ党を設立し、カリスマ的な指導者として知られる存在になっていく。父親とは違い軍人ではなく法律家であった彼は、詩的なレトリックを駆使した情熱的な演説で特に若い支持者を集め、また敵対勢力の人間にもその人柄を認められるような、人間的な魅力を備えていた。

「彼となら、この国を再生させることができる。彼のまわりにいる人間は皆そう思っていた。俺も、ピラールも」

 大学で学びながら、テオバルドはホセ・アントニオの事務所で、その政治活動の手伝いをするようになる。彼が演説する集会には必ず参加し、熱心に耳を傾けた。
 ピラールは常に兄に同行し、女の身ながら暗殺者から兄を守る盾となった。物陰から女を撃つ卑怯者という汚名は誰しも被りたくないから、危険ではあったが、彼女の献身には効果があったのだ。妹の身を案じる兄を強引に説き伏せ、ピラールは自ら進んで兄の護衛を務めた。

 左右の諸勢力が乱立しては淘汰されていくこの時代、スペインは無血革命を経て王制から共和制に移行している。しかし共和国政府になったからといって、それまで反目していた勢力がたちまち協力するわけもない。
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