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12章
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共和主義者たちの絶え間ない口論と、目の前に横たわる諸問題への取り組みののろさが、ホセ・アントニオを政治的自由主義から遠ざけた。その愚鈍な手法は死滅の危機に瀕しており、自由主義の死滅後に訪れるのは革命である、と彼は断言する。
その力強い言葉は皮肉にも、明白に暴力を嫌うホセ・アントニオの下に好戦的な輩を集わせた。彼らは線香花火のように激しく刹那的であり、その言動は単純でわかりやすいが故に、党内で一定の力を持つようになる。
そしてそうした集団は、ファランヘ党だけで形成されたわけではなかった。敵対する勢力にも、暴力を厭わない集団が生まれていた。
あらゆる政治勢力の要人が、用心棒を雇わないと外を歩けないほどマドリードの治安は悪化し、街角での小競り合いは日常化していく。ホセ・アントニオが国の秩序を破壊するテロリズムをいくら嫌悪しても、あちこちで襲撃が繰り返され、毎日のように党員と敵対者の命が失われた。
暴力の波が日に日に高まる中で、ついに弱体な共和国政府は、混乱の源泉の一つと目するファランヘ党の抑圧をもって、事態を収拾しようとする。――自らの無能無策には目を瞑り、ただファランヘ党の非合法化を宣言することによって。
ホセ・アントニオは逮捕された。
多くの人々が、非合法なもの――つまりは脱獄も含め、あらゆるやり方で彼を監獄から救い出そうと奔走した。
テオバルドもその一人だった。ホセ・アントニオを地方選挙の候補者名簿に載せて当選させ、新たに議員の身分を得た上で堂々と監獄を出てもらおうと画策する彼の旧友の動きに同調し、暴力が蔓延する状況下で、自ら危険な連絡係を買って出た。
しかし共和国派が、その動きを指を咥えて眺めているはずもない。彼らの妨害工作のせいで、いくつかの選挙区でホセ・アントニオの得票は勘定されず、彼に議席が与えられることはなかった。
すべての試みが、果たされることなく、潰えた。
でっち上げられた反乱準備幇助という罪の下、凍える晩秋の夜明けに、ホセ・アントニオ・プリモ・デ・リベーラ――ファランヘ党党首、第三代エステーリャ侯爵であり、家族にも友にも敵勢力の要人にすらもその人柄を愛された、三十三歳のカリスマは銃殺された。
「共和国はホセ・アントニオを殺した。内戦が始まってからは、政教分離の名の下に教会を弾圧し、聖職者を虐殺した。支配地域の熱心な信徒も、少しでも共和国に対する不満を口にした人間も。つまり、ありふれた貧しい農村の善良な小間物屋――俺の両親も殺した。俺は記者になり、私怨から奴らの非道を暴き、新聞に書き立てた。でも内戦が終わってみれば、それ以上の虐殺や処刑で、反乱軍は敵勢力を殲滅しようとしていたんだ」
ゲルニカはその一部に過ぎない、と吐き捨てるようにテオバルドは言った。国際法に反する、人類史上初の市民に対する無差別爆撃を、自らが属する勢力が行った。その事実は、正義に燃える青年の胸を深く抉り、今も血を流したままなのだ。
その力強い言葉は皮肉にも、明白に暴力を嫌うホセ・アントニオの下に好戦的な輩を集わせた。彼らは線香花火のように激しく刹那的であり、その言動は単純でわかりやすいが故に、党内で一定の力を持つようになる。
そしてそうした集団は、ファランヘ党だけで形成されたわけではなかった。敵対する勢力にも、暴力を厭わない集団が生まれていた。
あらゆる政治勢力の要人が、用心棒を雇わないと外を歩けないほどマドリードの治安は悪化し、街角での小競り合いは日常化していく。ホセ・アントニオが国の秩序を破壊するテロリズムをいくら嫌悪しても、あちこちで襲撃が繰り返され、毎日のように党員と敵対者の命が失われた。
暴力の波が日に日に高まる中で、ついに弱体な共和国政府は、混乱の源泉の一つと目するファランヘ党の抑圧をもって、事態を収拾しようとする。――自らの無能無策には目を瞑り、ただファランヘ党の非合法化を宣言することによって。
ホセ・アントニオは逮捕された。
多くの人々が、非合法なもの――つまりは脱獄も含め、あらゆるやり方で彼を監獄から救い出そうと奔走した。
テオバルドもその一人だった。ホセ・アントニオを地方選挙の候補者名簿に載せて当選させ、新たに議員の身分を得た上で堂々と監獄を出てもらおうと画策する彼の旧友の動きに同調し、暴力が蔓延する状況下で、自ら危険な連絡係を買って出た。
しかし共和国派が、その動きを指を咥えて眺めているはずもない。彼らの妨害工作のせいで、いくつかの選挙区でホセ・アントニオの得票は勘定されず、彼に議席が与えられることはなかった。
すべての試みが、果たされることなく、潰えた。
でっち上げられた反乱準備幇助という罪の下、凍える晩秋の夜明けに、ホセ・アントニオ・プリモ・デ・リベーラ――ファランヘ党党首、第三代エステーリャ侯爵であり、家族にも友にも敵勢力の要人にすらもその人柄を愛された、三十三歳のカリスマは銃殺された。
「共和国はホセ・アントニオを殺した。内戦が始まってからは、政教分離の名の下に教会を弾圧し、聖職者を虐殺した。支配地域の熱心な信徒も、少しでも共和国に対する不満を口にした人間も。つまり、ありふれた貧しい農村の善良な小間物屋――俺の両親も殺した。俺は記者になり、私怨から奴らの非道を暴き、新聞に書き立てた。でも内戦が終わってみれば、それ以上の虐殺や処刑で、反乱軍は敵勢力を殲滅しようとしていたんだ」
ゲルニカはその一部に過ぎない、と吐き捨てるようにテオバルドは言った。国際法に反する、人類史上初の市民に対する無差別爆撃を、自らが属する勢力が行った。その事実は、正義に燃える青年の胸を深く抉り、今も血を流したままなのだ。
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