トゥモロウ・スピーチ

音羽夏生

文字の大きさ
153 / 237
13章

5

しおりを挟む
「――今は一個人の見解に過ぎないことを前置きしておきます。その上で私は、日本が取るべき道は早期の講和だと確信しています。連合国あなたがたが、カサブランカ宣言を撤回しないであろうことはわかっている。それでも、講和のために最低限必要な道を、譲っていただくことはできないでしょうか」

 連合国が『完璧な罰と報復を課す』と明言している戦争指導者に、国家元首を含めないことは可能なのか。
 私見と断りを入れつつも単刀直入に問う志貴を、ジェイムズは満足そうに見つめた。

「君は以前、天皇のヘッドを取っても日本は戦争をやめないと言った。何とも扱いに困る首だが、ならばそれで『道』を通してはどうだ」

 どのように、と問うのは愚かだ。
 ジェイムズも答えを期待していないらしく、無言で返しても、気にする様子もなく続ける。

「文字通りの国家元首ヘッド・オブ・ステイト。かつては互いに行き来があり、今の天皇はアルバートの父上を随分慕っていたと聞く。来英時はアルバートとも親しくしていたようだし、彼の即位式にはすぐ下の弟宮夫妻を名代に立てていたな」

 アルバートとは、イギリス国王ジョージ六世のファーストネームであり、その父上というのは故ジョージ五世のことだ。友のように王を呼ぶジェイムズの人脈は計り知れないが、皇太子時代に一月ほどイギリスに滞在したことのある今上とイギリス王室には、彼の言うように深く交友した過去あった。

「――その顔では、君も同じことを考えていたのだろう。狙いどころは我が国の王室だと」

 英国王の名で講和を働きかけてもらえれば、母国が膝を折る素地ができる。国家として、最低限の面目が保たれる。
 縋るような思いで、志貴は一言一言を押し出すように舌に乗せた。

「内々にでも、皇室との友誼を――日本との講和をお言葉にしてくだされば……」
「周が生きていれば、きっと同じことを願っていた。何としても天皇に上奏するルートを確保し、どんな手を使ってでもアスター家わがやに接触してきただろう。残念ながら、梶はまだそこまで肚が決まっていないようだ。――さて、周の代役を務めるのは誰なのだろうな?」

 任国とのつつがない国交の維持に努め、個人としても現地の人々と広く交流し、その国の子供のために命を落とした父。
 イギリスには、矢嶋周という日本人を覚えている人間が、官民問わず今も多くいるはずだ。その中に、葬儀に勅使を立てた国王も含まれている可能性は高い。

「我が家には、国王と話のできる地位と力がある。以降の窓口となる用意も。――志貴、大恩ある矢嶋周の息子。父の命の代償に、何を望む」
「日本に住む人々とその生活――母国の未来を」

 迷いのない口調で、静かに志貴は望みを口にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

おめでとうが言えなくて

まめなぎ
BL
祝えないのは、最低だからじゃない。 まだ手放せていないからだ。

処理中です...