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再会
(10)※
香油と白濁でぬかるんだ肉筒に蜻蛉が三度目の精を放った時、その衰えを知らない奔流に押し流されるように、梟もまた何度目かの絶頂に達し、悦楽の深さに耐えきれず気を失った。
蜻蛉は宣言した通り、その夜一度も梟に吐精を許さず、何度も緊張と弛緩を強いられた雄芯は、力を失っても重苦しく疼いたままだった。
全身にまとわりつくような熱を感じながら、梟はそのまま泥のような眠りを貪った。しかしその安寧は、夜明けとともに唐突に断ち切られてしまう。眠っている間も梟の中に居座り、日が昇るとともに白い肌を弄り始めた恥知らずな男がいたからだ。
皇帝の天幕は下げられたまま、か細い悲鳴が途切れ途切れに響き、日の光に寝室は明るくなっても、まだ夜の帳に閉ざされているようだった。
「かげ、ろう、……も、いきたくないっ……」
甘えた声で哀願する梟に、いつもの凛とした佇まいはない。一月ぶりに執拗に抱かれ過敏に熟した体に、眠りから覚めないまま再び挑まれ、意識がはっきりする前に理性が溶け崩れてしまっていた。
雄芯を縛めていた組紐は、眠りの間にゆるく結び直され、一晩中いたぶられた哀れなそこを卑猥に彩っていた。それを目覚めとともに解かれ、恥知らずな男はまるで疲れを見せない欲望を漲らせて、梟を翻弄し始めた。肉筒の中の弱いしこりを突かれて、長時間強いられた過激な情交で脆くなっていた体は、呆気なく陥落し絶頂を極めてしまう。
夜通し封じられた後だけに、与えられた頂がもたらす悦びは深く、高い嬌声を上げながら再び意識を手放しそうになった梟を引き戻したのは、さらなる悦楽だった。
「今朝は余がそなたの快楽に仕える番だ。花街の流儀に則り、そなたが三度達するまで余は極めぬ」
ぬけぬけとそう言い放った蜻蛉は、梟が感じるままに達するように、弱いところを一時にすべて責めた。肉筒の奥を突き上げながら胸の突起を弄り回し、唇を重ねて感じやすい粘膜を舌で撫で擦る。全身を使った愛撫に、梟はあっという間に再びの頂を得るはずだった。そして三度目も。
しかし、極めようと昂るたびに苦痛に見舞われ、中で極めることでその痛みが頂点に達し、その結果雄芯は力を失い痛みから解放されることを何度も繰り返す夜を越えて、快楽に弱く素直な体は、誤った『躾』を覚え込んでしまっていた。
雄芯の快楽を望めば、痛みを味わわされる。だから身に溜めた快感は、中で達することで解放しなければならない。
そう思い込んだ体は、封じられた生理現象としての射精を一度は簡単に許したが、二度目の白蜜を零すまでに、梟は密口から砂を絞り出すような苦しみに突き落とされた。蜻蛉に与えられる快感はすべて、中で達することで昇華してしまい、欲望は勃ち上がりはするものの、男の絶頂を迎える気配を見せない。痛みの記憶に竦んでしまったのだ。
肉筒を隅々まで剛直で突き抉られ、中では容易く何度も達するのに、欲望を弾けさせることなく啼き続ける梟に、蜻蛉は業を煮やした。雄芯を手荒く扱き、敏感な蜜口を割り広げるように指先で嬲り、付け根のしこりを硬い切っ先で中からぐりぐりと抉って、半ば無理矢理絶頂に導いたのだ。しかし、雄芯をあらゆるやり方で嬲り屈服させることができたのは、一度きりだった。
執拗な性技と愛撫を駆使して三度目の吐精を迫る蜻蛉に、梟は延々と啼かされ続けていた。
「かげろ、……もう、いや、……きもちいいの、いやっ」
「気持ちがいいのなら、好きなだけ味わえばよい。それが嫌なら、早く極めて余を楽にせよ」
「できないっ……できないって、しってるのに、……いじわる、しないで……」
「人聞きの悪いことを申すでない。ほら、こうして……そなたのよいところばかりを愛でてやっておるではないか」
「あぁんっ、……そこ、だめ、だめえっ」
また中で絶頂に達し、過ぎる快楽に泣きじゃくる梟は、幼子のようだ。純粋な魂そのものの可愛らしく稚い媚態は、滅多に現れるものではない。快楽の通り道を歪に繋ぎ変えられた衝撃は、それほど深く梟を蝕んでいた。
「あと一度ここで極めねば、いつまでも終われぬぞ」
濡れて震える雄芯を、手のひらでゆったりと包みながら囁かれ、梟はいやいやと首を振る。
「もう、いいからっ、いらないから、……も、おわって……!」
「ならぬ。皇帝の奉仕を、そなたは無下にする気か?」
「そんなの、ほしくないっ、……はううっ!……んうっ、くうぅんっ」
仔犬のような嬌声は甘く、ただ可愛らしい。
愛おしさのあまり、肉筒を卑猥に責め立てていた腰の動きを止めると、蜻蛉は繋がったまま梟の背と腰に手を回し、ゆっくり抱き起こした。そのまま敷布の上に座り、なるべく刺激しないように慎重に抱き寄せたが、中を抉るものの角度と場所が変わり、また自重でより深くまで貫かれることになって、梟が甘い悦びの声を上げる。
汗に濡れた体を抱き込んだまま向きを変え、蜻蛉は積み重ねた枕に上半身を預ける。その動きにも快感を得ているらしく、びくびくと小さく痙攣している梟を宥めるように背の傷を撫でながら、自らの上に凭れさせた。くったりと身を委ねてくる梟は、蜻蛉の肩に頭を乗せて、熱い吐息を零している。
「気持ちいいのが嫌なら、こうして抱いていてやる。これならつらくあるまい」
受けとめた重みも、濡れた肌の感触も、蠢く体内の熱も、何もかもが愛おしく心地好い。時間が許す限り、ずっとこうしていたい。
そう思いながら頭を撫でてやると、梟が力無く首を振る。
「これも、きもちいい……かげろうが、きもちいい……から、さわらないで……あんっ!」
凄まじい殺し文句に、意志の力を総動員して制止しても、梟の中の雄が喜びに躍り上がる。先端が突き当たった奥をぐぐっと刺激され、高く鳴いた梟が怨じる眼差しで見下ろしてくる。
いつまでも終わらない快楽に潤み、自分一人を映して蕩ける青灰色の瞳。
蜻蛉は、はあっと重いため息をついた。
男を煽るなと、一晩かけて何度も何度も言い聞かせた。さもないとこうなる、と組紐で欲望を縛め、快楽によがり狂わせて、徹底的に体に叩き込んだつもりだった。
しかし梟は、何一つ学んでいない。むしろ悪化しているような気さえする。
この手強い魔性が相手では、何もかもがお手上げだった。
(…薔薇に囲まれて育ち、神の名を唱えていれば、このように可愛さしか詰まっていない生き物に育つのか…?)
蜻蛉は、過去の己の浅はかさを嘲笑った。
扇屋で梟を見つけるまでの三年の間に、煮詰まり焦げ付いた妄執が、あの敗北の日の白金の残像を美化し、氷の偶像を作り上げているのではないか。そんな愚かな疑いが、かつてあった。手元に置き共に暮らせば、知らずにいた欠点が表出し、狂おしい執着も多少は薄れるのではないか、と。
しかし実際は、薄れるどころではなかった。
氷の壁は思った以上に高く厚く、謎めいたまま心を開かないという唯一の欠点は、たまに垣間見せる素顔の魅力で帳消しにされてしまう。アルフレートとしても蜻蛉としても、様々な階層の人々と接する機会を持ち、それなりに人を見る目はあると自負しているが、これほど混じり気のない――欠片の邪心もなくひたすら無垢で可愛い生き物など、他に見たことがなかった。
手元に置いて、その透明さが無欲から生じるものであることはわかっていた。幼い子供でも、自分の欲求を通そうとする時、拙い企みをしたり、時には小さな嘘をついたりする。何も望まない梟には、その程度のささやかな邪心すらなく、だからこそ他人の思惑からどこまでも自由だった。そしてその執着の無さで、愛を捧げる者を昏い執着に突き落とし、翻弄する。――かつて扇屋の主が語った『天女』のように。
(こうして繋がっておれば、天に昇ることはできまい…)
天に昇ることも、扇屋に帰ることも。こうして己の熱で蕩かしている間は、悪霊に奪われることもあるまい。
頭を撫でる手はそのままに、もう片方を背筋に沿って下ろし、尻の狭間を辿る。びくびくっと跳ね上がった自身の動きで中を刺激され、呻く梟を仰向かせると、唇を吸いながら二人を結ぶ濡れた繋ぎ目をなぞる。淫靡な指使いに慄く肉筒が、蜻蛉の雄を締め上げる。
挿れられてから一度も抜かれることなく、大きなものを咥え込まされ続けている蕾は、昨夜注ぎ込まれた白濁を今も溢れさせながら、健気に雄に吸い付いている。肉筒は蜻蛉の形に変えられ、蜻蛉を受け入れるために存在するかのように熟れ、雄をねっとりと包み込む。その大きさと硬さで存在を主張しているものの、悪さはせず大人しく肉筒に収まっている雄を、蠕動する内襞が艶めかしく愛撫し、啜り上げる。
夜通しその熱く蕩けた肉に包まれて、それでも足りずに今もまだ貪る強欲さを、蜻蛉は自嘲した。
一月ぶりの情交で、ここまで執拗に抱くつもりはなかった。頑なに閉じているであろう体を丁寧に拓き、快楽を思い出させ、悪霊騒ぎ以来の心配と無自覚の媚態を組紐の戯れで償わせたら、酷く泣かせることなく終わらせるつもりだった。
それが、翌朝までも猛り、貪る仕儀となっている。その原因は勿論魔性の所業だが、この交わりは、一月前までのものとどこか違っているように感じていた。
どのような目に遭おうと折れそうにない勁さとしなやかさを備えた梟は、閨に引き入れる時だけ緊張に強張り、乱れまいと固く自身を鎧う。しかし昨夜の梟は、ただ困惑しているように見えた。何が気に掛かったのか、初見の、しかし興味を持つ人物を見るように、蜻蛉をじっと見つめていた。目に見えない手――否、もっと柔らかい、羽のようなものを伸ばされ、魂の形をなぞられているようだった。
それで何かを感じ取ったのか、痛みと快楽に悶えても、昨夜の梟に殉教者のような悲壮感はなく、どこか甘えているようなところがあった。
「そなたはもっと甘えてよいのだぞ…」
唇を離し、額を擦り合わせて蜻蛉は囁く。
「兄よりも扇屋よりも、余に甘えよ。そなたを愛する、そなたの男に」
「あまえる……?」
額を合わせたまま、至近距離から快楽にけぶった青灰色の瞳がぼんやりと覗き込んでくる。かと思うと、そっと顔をずらし、頬を蜻蛉の肩に擦り付けて懐いてくる。こう?と確認しているかのようだ。
欲望を疼かせるその仕草を、もはや咎める気にもなれなかった。
「そなたには、かなわぬ…。可愛い…愛しい、余の梟…」
「……かわいいと、いっては、だめ」
呟くように、梟が言葉を返してくる。その言い方もまた可愛らしく、蜻蛉は目尻を緩ませた。
「可愛いものを可愛いと言って、何が悪い」
「かわいいと、……みつかって、しまう」
「…悪霊にか」
甘く蕩けた想い人の姿にほどけていた意識が、瞬時に締まる。恐れさせないように、悪夢を呼び覚まさないように、蜻蛉は慎重にその言葉を口にした。
ん、と短く返事をする梟の口調が、段々覚束ないものになっていく。過剰な悦楽と疲労、そして眠気で、限界が来ているらしい。
「かわいい、のは、……かくさないと……だめ……。みつかったら、……たべられて……しまうって」
「そうか、隠さないといけないのだな。…大事なことを、誰が教えてくれたのだ?」
「……コンラート、さま……」
そう、隠さなければならない。
素顔も。感情も。悪霊に一口齧られてしまった魂も。
心を閉ざし、生も死も望まず、神の刃となるために必要なこと以外には目を向けてはならない。
失った『すべて』を唯一の拠り所にし、欠けた心を見せてもいいのは、家族のように信じられる人、支え合う人だけ。ハインツ、椿、そして――。
「……かげろう?」
初めて見るもののように、梟は蜻蛉の整った顔を見つめた。
違う、という理性の声がする。ただ隣にいるだけで安らげる、ハインツや椿とは違う。この男は違うと。
でも、と反駁する声が上がる。一緒に眠ると、温かくて心地好くて、とても安心できる。その眠りを好きだと思ったではないかと。
――そう、とても、眠いのだ。今はただ、温かく、静かに眠らせてほしい。
「かげろ……すき……いっしょに、……ねむり、たい……」
途切れ途切れの懇願に、自分を包む男の体が緊張した。埋め込まれたままの雄もびくりと反応し、梟は小さく喘ぐ。眠いのか、と低く問われて頷くと、大きな手が頭を撫でてくれた。
「花街の男としては役立たずだが、余が極めねば終われぬ。それまで、辛抱できるか」
「……して……はやく、だして、……ひあっ!」
雄が躍り上がり鋭く梟を貫く衝動を、蜻蛉は止めることができなかった。
その催促が、この長い行為の終わりをねだっていることはわかっていた。それでも、舌足らずで卑猥な囁きは、雄を激しく煽り昂らせる、強烈な媚薬以外の何物でもなかった。
それまでの穏やかな時間が嘘のように、腫れぼったく充血した肉筒を獰猛に擦り上げられ、内襞が爛れるような熱に、梟は掠れた悲鳴を上げる。大人しく中に留まるだけでも感じてしまうのに、荒々しく抽送を繰り返され、奥まで突き上げられてその雄々しい形を思い知らされ、背筋に痺れが走った。
押し付けられる過激な快楽に朦朧とする中、梟は懸命に訴える。
「かげろ、つらい……ゆっくり、して……はやく、おわって……!」
「我が儘ばかり、申すでない…っ」
早く、出して、と無自覚に淫らなおねだりを繰り返す梟に煽られて、蜻蛉は白い尻を掴んで持ち上げ、下から突き上げると同時に引き下ろした。
「うあぁ! あっ、ひあぁんっ」
その深さと衝撃に射抜かれ、艶めかしい喘ぎ声を零しながら梟が肉筒で蜻蛉を締め上げる。絡み付く内襞を振り切り、摩擦で肉筒を溶かすように、蜻蛉が激しい律動を繰り返す。じゅぷっ、じゅぷっ、といやらしい水音を立てながら、繋ぎ目が白く泡立ち、中に留まっていた香油と白濁が溢れ出る。
体の奥底から湧き出し内に溜まり続ける快感を抱えきれなくなり、喉を反らせて梟が一際高く鳴いた。絶頂を迎えた肉筒の慄きと強烈な締め付けの中、導かれるように蜻蛉はその精を奥に叩きつける。
「――あっ、ああぁぁんっ」
尾を引く長い喜悦の声とともに、雄芯が少量の白蜜を噴き零す。肉筒と雄芯の同時の絶頂の凄まじさに、わずかに残っていた意識を削り取られて、梟は墜落するように失神した。
奥に男の精を浴びなければ、男として達することができない。そんな歪な体に躾けられてしまったことに、気づくことのないまま。
蜻蛉は宣言した通り、その夜一度も梟に吐精を許さず、何度も緊張と弛緩を強いられた雄芯は、力を失っても重苦しく疼いたままだった。
全身にまとわりつくような熱を感じながら、梟はそのまま泥のような眠りを貪った。しかしその安寧は、夜明けとともに唐突に断ち切られてしまう。眠っている間も梟の中に居座り、日が昇るとともに白い肌を弄り始めた恥知らずな男がいたからだ。
皇帝の天幕は下げられたまま、か細い悲鳴が途切れ途切れに響き、日の光に寝室は明るくなっても、まだ夜の帳に閉ざされているようだった。
「かげ、ろう、……も、いきたくないっ……」
甘えた声で哀願する梟に、いつもの凛とした佇まいはない。一月ぶりに執拗に抱かれ過敏に熟した体に、眠りから覚めないまま再び挑まれ、意識がはっきりする前に理性が溶け崩れてしまっていた。
雄芯を縛めていた組紐は、眠りの間にゆるく結び直され、一晩中いたぶられた哀れなそこを卑猥に彩っていた。それを目覚めとともに解かれ、恥知らずな男はまるで疲れを見せない欲望を漲らせて、梟を翻弄し始めた。肉筒の中の弱いしこりを突かれて、長時間強いられた過激な情交で脆くなっていた体は、呆気なく陥落し絶頂を極めてしまう。
夜通し封じられた後だけに、与えられた頂がもたらす悦びは深く、高い嬌声を上げながら再び意識を手放しそうになった梟を引き戻したのは、さらなる悦楽だった。
「今朝は余がそなたの快楽に仕える番だ。花街の流儀に則り、そなたが三度達するまで余は極めぬ」
ぬけぬけとそう言い放った蜻蛉は、梟が感じるままに達するように、弱いところを一時にすべて責めた。肉筒の奥を突き上げながら胸の突起を弄り回し、唇を重ねて感じやすい粘膜を舌で撫で擦る。全身を使った愛撫に、梟はあっという間に再びの頂を得るはずだった。そして三度目も。
しかし、極めようと昂るたびに苦痛に見舞われ、中で極めることでその痛みが頂点に達し、その結果雄芯は力を失い痛みから解放されることを何度も繰り返す夜を越えて、快楽に弱く素直な体は、誤った『躾』を覚え込んでしまっていた。
雄芯の快楽を望めば、痛みを味わわされる。だから身に溜めた快感は、中で達することで解放しなければならない。
そう思い込んだ体は、封じられた生理現象としての射精を一度は簡単に許したが、二度目の白蜜を零すまでに、梟は密口から砂を絞り出すような苦しみに突き落とされた。蜻蛉に与えられる快感はすべて、中で達することで昇華してしまい、欲望は勃ち上がりはするものの、男の絶頂を迎える気配を見せない。痛みの記憶に竦んでしまったのだ。
肉筒を隅々まで剛直で突き抉られ、中では容易く何度も達するのに、欲望を弾けさせることなく啼き続ける梟に、蜻蛉は業を煮やした。雄芯を手荒く扱き、敏感な蜜口を割り広げるように指先で嬲り、付け根のしこりを硬い切っ先で中からぐりぐりと抉って、半ば無理矢理絶頂に導いたのだ。しかし、雄芯をあらゆるやり方で嬲り屈服させることができたのは、一度きりだった。
執拗な性技と愛撫を駆使して三度目の吐精を迫る蜻蛉に、梟は延々と啼かされ続けていた。
「かげろ、……もう、いや、……きもちいいの、いやっ」
「気持ちがいいのなら、好きなだけ味わえばよい。それが嫌なら、早く極めて余を楽にせよ」
「できないっ……できないって、しってるのに、……いじわる、しないで……」
「人聞きの悪いことを申すでない。ほら、こうして……そなたのよいところばかりを愛でてやっておるではないか」
「あぁんっ、……そこ、だめ、だめえっ」
また中で絶頂に達し、過ぎる快楽に泣きじゃくる梟は、幼子のようだ。純粋な魂そのものの可愛らしく稚い媚態は、滅多に現れるものではない。快楽の通り道を歪に繋ぎ変えられた衝撃は、それほど深く梟を蝕んでいた。
「あと一度ここで極めねば、いつまでも終われぬぞ」
濡れて震える雄芯を、手のひらでゆったりと包みながら囁かれ、梟はいやいやと首を振る。
「もう、いいからっ、いらないから、……も、おわって……!」
「ならぬ。皇帝の奉仕を、そなたは無下にする気か?」
「そんなの、ほしくないっ、……はううっ!……んうっ、くうぅんっ」
仔犬のような嬌声は甘く、ただ可愛らしい。
愛おしさのあまり、肉筒を卑猥に責め立てていた腰の動きを止めると、蜻蛉は繋がったまま梟の背と腰に手を回し、ゆっくり抱き起こした。そのまま敷布の上に座り、なるべく刺激しないように慎重に抱き寄せたが、中を抉るものの角度と場所が変わり、また自重でより深くまで貫かれることになって、梟が甘い悦びの声を上げる。
汗に濡れた体を抱き込んだまま向きを変え、蜻蛉は積み重ねた枕に上半身を預ける。その動きにも快感を得ているらしく、びくびくと小さく痙攣している梟を宥めるように背の傷を撫でながら、自らの上に凭れさせた。くったりと身を委ねてくる梟は、蜻蛉の肩に頭を乗せて、熱い吐息を零している。
「気持ちいいのが嫌なら、こうして抱いていてやる。これならつらくあるまい」
受けとめた重みも、濡れた肌の感触も、蠢く体内の熱も、何もかもが愛おしく心地好い。時間が許す限り、ずっとこうしていたい。
そう思いながら頭を撫でてやると、梟が力無く首を振る。
「これも、きもちいい……かげろうが、きもちいい……から、さわらないで……あんっ!」
凄まじい殺し文句に、意志の力を総動員して制止しても、梟の中の雄が喜びに躍り上がる。先端が突き当たった奥をぐぐっと刺激され、高く鳴いた梟が怨じる眼差しで見下ろしてくる。
いつまでも終わらない快楽に潤み、自分一人を映して蕩ける青灰色の瞳。
蜻蛉は、はあっと重いため息をついた。
男を煽るなと、一晩かけて何度も何度も言い聞かせた。さもないとこうなる、と組紐で欲望を縛め、快楽によがり狂わせて、徹底的に体に叩き込んだつもりだった。
しかし梟は、何一つ学んでいない。むしろ悪化しているような気さえする。
この手強い魔性が相手では、何もかもがお手上げだった。
(…薔薇に囲まれて育ち、神の名を唱えていれば、このように可愛さしか詰まっていない生き物に育つのか…?)
蜻蛉は、過去の己の浅はかさを嘲笑った。
扇屋で梟を見つけるまでの三年の間に、煮詰まり焦げ付いた妄執が、あの敗北の日の白金の残像を美化し、氷の偶像を作り上げているのではないか。そんな愚かな疑いが、かつてあった。手元に置き共に暮らせば、知らずにいた欠点が表出し、狂おしい執着も多少は薄れるのではないか、と。
しかし実際は、薄れるどころではなかった。
氷の壁は思った以上に高く厚く、謎めいたまま心を開かないという唯一の欠点は、たまに垣間見せる素顔の魅力で帳消しにされてしまう。アルフレートとしても蜻蛉としても、様々な階層の人々と接する機会を持ち、それなりに人を見る目はあると自負しているが、これほど混じり気のない――欠片の邪心もなくひたすら無垢で可愛い生き物など、他に見たことがなかった。
手元に置いて、その透明さが無欲から生じるものであることはわかっていた。幼い子供でも、自分の欲求を通そうとする時、拙い企みをしたり、時には小さな嘘をついたりする。何も望まない梟には、その程度のささやかな邪心すらなく、だからこそ他人の思惑からどこまでも自由だった。そしてその執着の無さで、愛を捧げる者を昏い執着に突き落とし、翻弄する。――かつて扇屋の主が語った『天女』のように。
(こうして繋がっておれば、天に昇ることはできまい…)
天に昇ることも、扇屋に帰ることも。こうして己の熱で蕩かしている間は、悪霊に奪われることもあるまい。
頭を撫でる手はそのままに、もう片方を背筋に沿って下ろし、尻の狭間を辿る。びくびくっと跳ね上がった自身の動きで中を刺激され、呻く梟を仰向かせると、唇を吸いながら二人を結ぶ濡れた繋ぎ目をなぞる。淫靡な指使いに慄く肉筒が、蜻蛉の雄を締め上げる。
挿れられてから一度も抜かれることなく、大きなものを咥え込まされ続けている蕾は、昨夜注ぎ込まれた白濁を今も溢れさせながら、健気に雄に吸い付いている。肉筒は蜻蛉の形に変えられ、蜻蛉を受け入れるために存在するかのように熟れ、雄をねっとりと包み込む。その大きさと硬さで存在を主張しているものの、悪さはせず大人しく肉筒に収まっている雄を、蠕動する内襞が艶めかしく愛撫し、啜り上げる。
夜通しその熱く蕩けた肉に包まれて、それでも足りずに今もまだ貪る強欲さを、蜻蛉は自嘲した。
一月ぶりの情交で、ここまで執拗に抱くつもりはなかった。頑なに閉じているであろう体を丁寧に拓き、快楽を思い出させ、悪霊騒ぎ以来の心配と無自覚の媚態を組紐の戯れで償わせたら、酷く泣かせることなく終わらせるつもりだった。
それが、翌朝までも猛り、貪る仕儀となっている。その原因は勿論魔性の所業だが、この交わりは、一月前までのものとどこか違っているように感じていた。
どのような目に遭おうと折れそうにない勁さとしなやかさを備えた梟は、閨に引き入れる時だけ緊張に強張り、乱れまいと固く自身を鎧う。しかし昨夜の梟は、ただ困惑しているように見えた。何が気に掛かったのか、初見の、しかし興味を持つ人物を見るように、蜻蛉をじっと見つめていた。目に見えない手――否、もっと柔らかい、羽のようなものを伸ばされ、魂の形をなぞられているようだった。
それで何かを感じ取ったのか、痛みと快楽に悶えても、昨夜の梟に殉教者のような悲壮感はなく、どこか甘えているようなところがあった。
「そなたはもっと甘えてよいのだぞ…」
唇を離し、額を擦り合わせて蜻蛉は囁く。
「兄よりも扇屋よりも、余に甘えよ。そなたを愛する、そなたの男に」
「あまえる……?」
額を合わせたまま、至近距離から快楽にけぶった青灰色の瞳がぼんやりと覗き込んでくる。かと思うと、そっと顔をずらし、頬を蜻蛉の肩に擦り付けて懐いてくる。こう?と確認しているかのようだ。
欲望を疼かせるその仕草を、もはや咎める気にもなれなかった。
「そなたには、かなわぬ…。可愛い…愛しい、余の梟…」
「……かわいいと、いっては、だめ」
呟くように、梟が言葉を返してくる。その言い方もまた可愛らしく、蜻蛉は目尻を緩ませた。
「可愛いものを可愛いと言って、何が悪い」
「かわいいと、……みつかって、しまう」
「…悪霊にか」
甘く蕩けた想い人の姿にほどけていた意識が、瞬時に締まる。恐れさせないように、悪夢を呼び覚まさないように、蜻蛉は慎重にその言葉を口にした。
ん、と短く返事をする梟の口調が、段々覚束ないものになっていく。過剰な悦楽と疲労、そして眠気で、限界が来ているらしい。
「かわいい、のは、……かくさないと……だめ……。みつかったら、……たべられて……しまうって」
「そうか、隠さないといけないのだな。…大事なことを、誰が教えてくれたのだ?」
「……コンラート、さま……」
そう、隠さなければならない。
素顔も。感情も。悪霊に一口齧られてしまった魂も。
心を閉ざし、生も死も望まず、神の刃となるために必要なこと以外には目を向けてはならない。
失った『すべて』を唯一の拠り所にし、欠けた心を見せてもいいのは、家族のように信じられる人、支え合う人だけ。ハインツ、椿、そして――。
「……かげろう?」
初めて見るもののように、梟は蜻蛉の整った顔を見つめた。
違う、という理性の声がする。ただ隣にいるだけで安らげる、ハインツや椿とは違う。この男は違うと。
でも、と反駁する声が上がる。一緒に眠ると、温かくて心地好くて、とても安心できる。その眠りを好きだと思ったではないかと。
――そう、とても、眠いのだ。今はただ、温かく、静かに眠らせてほしい。
「かげろ……すき……いっしょに、……ねむり、たい……」
途切れ途切れの懇願に、自分を包む男の体が緊張した。埋め込まれたままの雄もびくりと反応し、梟は小さく喘ぐ。眠いのか、と低く問われて頷くと、大きな手が頭を撫でてくれた。
「花街の男としては役立たずだが、余が極めねば終われぬ。それまで、辛抱できるか」
「……して……はやく、だして、……ひあっ!」
雄が躍り上がり鋭く梟を貫く衝動を、蜻蛉は止めることができなかった。
その催促が、この長い行為の終わりをねだっていることはわかっていた。それでも、舌足らずで卑猥な囁きは、雄を激しく煽り昂らせる、強烈な媚薬以外の何物でもなかった。
それまでの穏やかな時間が嘘のように、腫れぼったく充血した肉筒を獰猛に擦り上げられ、内襞が爛れるような熱に、梟は掠れた悲鳴を上げる。大人しく中に留まるだけでも感じてしまうのに、荒々しく抽送を繰り返され、奥まで突き上げられてその雄々しい形を思い知らされ、背筋に痺れが走った。
押し付けられる過激な快楽に朦朧とする中、梟は懸命に訴える。
「かげろ、つらい……ゆっくり、して……はやく、おわって……!」
「我が儘ばかり、申すでない…っ」
早く、出して、と無自覚に淫らなおねだりを繰り返す梟に煽られて、蜻蛉は白い尻を掴んで持ち上げ、下から突き上げると同時に引き下ろした。
「うあぁ! あっ、ひあぁんっ」
その深さと衝撃に射抜かれ、艶めかしい喘ぎ声を零しながら梟が肉筒で蜻蛉を締め上げる。絡み付く内襞を振り切り、摩擦で肉筒を溶かすように、蜻蛉が激しい律動を繰り返す。じゅぷっ、じゅぷっ、といやらしい水音を立てながら、繋ぎ目が白く泡立ち、中に留まっていた香油と白濁が溢れ出る。
体の奥底から湧き出し内に溜まり続ける快感を抱えきれなくなり、喉を反らせて梟が一際高く鳴いた。絶頂を迎えた肉筒の慄きと強烈な締め付けの中、導かれるように蜻蛉はその精を奥に叩きつける。
「――あっ、ああぁぁんっ」
尾を引く長い喜悦の声とともに、雄芯が少量の白蜜を噴き零す。肉筒と雄芯の同時の絶頂の凄まじさに、わずかに残っていた意識を削り取られて、梟は墜落するように失神した。
奥に男の精を浴びなければ、男として達することができない。そんな歪な体に躾けられてしまったことに、気づくことのないまま。
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座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される
マンスーン
BL
王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。
泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。
【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!
MEIKO
BL
本編完結しています。第12回BL大賞奨励賞いただきました。
僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!
「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」
知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!
だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?
※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。
俺以外を見るのは許さないから
朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。
その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。
(女性と付き合うシーンもあります。)
※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。