扇屋の福袋

音羽夏生

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扇の要(1)

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「相変わらずねえ、にいさんたら。ホント、なんにも知らないんだから」

 一週間ぶりに戻った、扇屋の広間。
 開店前に寛ぐ娼妓たちに迎えられ、和やかに挨拶を交わしていた梟は、年若い娼妓に呆れた口ぶりで肩を竦められ、戸惑った。

「なんにも、ということはないと思うが」
「だって話題の、東洋の花街が舞台の大河ドラマ、見てないんでしょ? 扇屋って名前の娼館も出てくるのに」
「下睫毛長めの、知的で粋で色気たっぷりの爆イケオヤジなんだよ、扇屋の主人!」

(ばくいけ……?)

 蜻蛉にも側仕えにも、時には幼い三兄妹にすら世間知らずと呆れられている梟は、そのたびに内心では、そんなことはない、と反発していた。皇宮の人間の物差しは、外の世界とは違うのだ、と。
 しかしこうして、自分の家に戻っても一部で会話が成り立たないことに、梟は軽い衝撃を受ける。ここで「ばくいけ」とは何なのかと訊ねたら、娼妓一同から世間知らずの烙印をどすんと押されることは間違いない。
 梟は、さりげなく探りを入れることにした。

「ドラマは知らないが、扇屋の主人というなら、椿の方が知的で粋で色っぽくて、……ば、ばくいけ、に相応しいのでは?」

 不自然にならないように口にしたつもりだったが、娼妓たちは半笑いのような微妙な顔で口をつぐむ。
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