扇屋の福袋

扇の要（2）

　その薄い反応に焦りながら──しかしそれがまったく顔に出ない梟は、扇屋の仲間内で見せる、いつものやわらかい無表情のまま、言葉を重ねた。

「他の娼館の主人たちと比べても、椿は一番見栄えがするし、頭も切れる。ああ見えて腕っぷしも立つし、厳しいところもあるが、頼り甲斐があって根はとてもやさしい人だ。これは、ばくいけ、と言えるのでは……？」

　当て推量で、おずおずと「ばくいけ」の意味を量る梟に、そりゃそうなんだけどさぁ、と女たちは大仰に、桃色のため息をついた。

「はいはいはいはい、ご馳走様。一途も過ぎると、ムズムズして聞いてられないわ」
「澄ました顔で照れもせずに堂々と惚気るって、ストレートにポイント高いわ～。勉強になるぅ」
「はああぁ♡ ホント愛しちゃってるのね、にいさん♡」
「おノロケにいさん超可愛い～もはや尊い～。御利益あるかも、拝んどこ」
「ちょっと父さん、どこに行ったの？　並べて絡ませて、目の保養にしなきゃ」
「ダメよ、そんなの。過剰摂取で秒で致死量よ！」
「──あら、ふうちゃん。久しぶりに帰ったと思ったら、早速この娘たちに萌えを供給してるの？」　

　きゃいきゃいと騒ぐ娼妓たちを制するように階段を下りてきたのは、要。扇屋の最高位の名跡、扇の『要』を背負う娼妓である。