扇屋の福袋

音羽夏生

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強蔵(1)

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「まったくやってられないわ、あんな客!」

 日も傾き始めた遅い午後。
 気怠そうに一階の広間に現れた娼妓に、梟は目を向けた。
 いつもは溌剌とした気のよい娘で、顔を合わせれば世間話をする間柄だ。のろのろとした歩調も珍しく、よほど昨夜の客が酷かったのだろうと察しがついた。

「まさか、暴力を振るわれたのか。私がいればすぐ追い出して、そんな目には遭わせなかったものを……肝心な時に、すまない」
「もう、謝らないで。にいさんのせいじゃないでしょ」

 娼妓は梟に薄く微笑んだが、すぐに憤懣やる方ない様子で捲し立てた。

たれたわけじゃないけど、暴力といえば暴力ね。とんでもない絶倫だったの。やさしい顔して、態度も言葉面も丁寧だったけど、朝まで何度も何度も……! また来たって、二度と相手しないんだから!」
「そうだな。そんなしつこい男には、断固たる態度で厳しく対処した方がいい。甘やかすと、つけ上がるだけだ」
「──にいさん、やけに鼻息荒いわね」

 思わず強く完全同意してしまった梟は、「そんなことはない」と小さく返した。
 内心では冷や汗をかいていたが、硬い表情筋のせいで、勿論顔には出ていない。

「そう? ……そういえば大河ドラマの瀬川花魁も、絶倫男にめちゃくちゃされてたわね」
「あちらでは強蔵つよぞうって言うんでしょ? 何たるパワーワード……!」
「東洋の花街は、最高位であろうとも女に決定権がないのにはびっくりしたわ」
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