【完結】后狩り

音羽夏生

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后狩り <破>

1

「シェル!」

 ぐらりと傾いた肩を、闇の淵から引き上げるように力強い手が掴んだ。
 痛みすら感じ、のろのろと顔を向けた先で、エーヴェルトがわずかに微笑んだ。

「俺を信じろ」

 シェルだけに聞こえるように囁いて、力ない体を支え木箱に座らせる。
 もう一度目を合わせて軽く頷き、エーヴェルトは鷹揚さを装うとイリスに向き直った。

「真に愛する者を后としないことで、生まれる悲劇もある。余は父帝と同じ轍を踏むつもりはない。だが余の后となる者は、母君に似て誇り高くてな。互いが唯一の婚姻でなければ、受け入れられぬという。皇家の種馬──後宮の一部に過ぎぬ皇帝は、尊貴なミレニオ国王に釣り合わぬと言われれば、確かにその通りだ。ゆえに余は、後宮を廃することにした」
「……男の皇后のために後宮を廃止なさると……?」

──私は何も諦めない、私のものは何一つ。

 イリスの声が掠れた。

──そのためなら、妨げるものすべてを排除する。それが何であろうと、どれほど時間が掛かろうと。
──後宮に納められた者は、二度と外に出られない。お気に入りの侍女を奪われた腹立ちはわからないでもないが、ここはミレニオではない。貴女の力が及ばないこともあるのだ。
──ビアンカがただ気に入りの侍女であるものか。あれは最も愛を注いだ者だ。今の言葉、いつか撤回させてみせよう。
──ルチア、……貴女は……。
──私は必ずビアンカを取り戻す。……檻に囚われているのなら、檻を壊すのも一興だと思わないか?
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