Change the world 〜全員の縁を切った理由〜

香椎 猫福

文字の大きさ
87 / 106
第十三話 後編

それぞれの決着 3

しおりを挟む


しばらく沈黙は続いた
廊下の方から、看護師であろう女性の声が聞こえる
部屋の場所を案内するようなものだったが、話している位置が遠いのか内容はよく聞こえなかった
他は静かなものだった
栗原優は答えを言い出せずにいる
痺れを切らしたのは、やはり立花桃の方だ


「…冗談ですよ」


「え?」


顔を向けると、立花桃は無邪気な少女のような顔だった


「そんな、一目惚れぐらいで告白するほど、浅はかな女じゃないですから。ごめんなさいね、困らせてしまって」


そして、ケラケラと笑ってみせた
栗原優は開いた口が塞がらないでいる


「あのね、栗原さん。私が栗原さんに一目惚れしたのは本当です。ただ、歳を重ねると、相手を試したくなるんですよね。知らない人ほど警戒しちゃうと言うか、もっと知りたいというか…栗原さんは、今、本気で私のこと考えてくれてました?」


「あ~…いや、ごめんなさい」


「そうでしょ?だって、私が栗原さんを知らないように、栗原さんも私のことよく知らないじゃない?だけど、全然私のことを聞いてくれなかったでしょ?もし返事をOKしてたら、嫌いになってたかもしれなかった…軽い人だなあって思ってしまったかも。けど、栗原さんはそれ以前に、何も考えてない気がしました」


「おっしゃる通り…考えようとしてたんですが、なんか、前に進まなかったんですよね…なんでだろう。普段は色々と考えて、学生生活に工夫をしてきたつもりだったのに、この件については…頭が答えを出そうとしない感じがして」


「これは私の想像ですけど、栗原さんは新たな恋愛をしている立場じゃないって、頭が分かっているからじゃないですか?警察に追われるかも、目の前の臼井さんの状況、猿渡のこと…だけど、私はそれ以上のものがあると思いますよ」


「それ以上のもの?」


「栗原さんは、既に誰かに恋をしているのかも」


「え!俺が!?」


「あると思いますよ。そういう、認識はしてなかったけど、その人に会うといつもとは違う自分がいて…知らないのは自分と相手だけで、案外、周りが気付いているとか」


「…ん~、やっぱり分からないっすね。女友達は多くいますけど、正直、彼女がいたことなかったんで…あ、童貞ではないすよ?」


栗原優は恥ずかしさで顔を赤くして頭を掻き、立花桃は笑っていた


「まあ、私は恋愛マスターでも占い師でもないので、ただの可能性の話です。気になさらないで下さい」


「さっきも言いましたけど、俺は女性が困っていたら放っておけなくて、すぐに手を差し伸べたくなる性分なんです。だけど、恋愛に発展したことはありません。ただ、それに悩んだことも無いんですよね」


「そういうところじゃないですか?」


「え?」


「積極性に欠けてしまっているんじゃないですか?もしかすると、その助けてきた中には恋愛に発展するかもしれない出会いや、関係の進展があったかもしれない…そう気にかける、悔やむっていうことが栗原さんに無ければ、相手がアクションを起こしていても気付けてあげれないでしょ?つまり、鈍感な男って思われてるかも」


「でも、恋愛って感じるものって言うじゃないですか。俺、何も感じてこなかったんで」


「…恋愛対象者が女性じゃないとか?」


「いやいやいや!間違いなく女性ですよ!これもさっき言いましたけど、俺、童貞じゃないんで」


また、窓際の方から咳が聞こえた
八峰華澄はイヤホンをしているフリをして、ちゃんとこちらの話を聞いているのではないかと、栗原優は気になってきた


「栗原さんに一目惚れした一人として言わせてもらうと、やっぱり、男性からのアクションが無いと、女性は変に勘ぐって近付けませんから…童貞じゃ無いなら無いなりに、ちゃんと各女性の気持ちを考えてあげてくださいね」


「はい…立花先生」


二人は笑い合った
その時、病室の出入り口がノックされた
二人は驚き、そちらへ顔を向ける
最初、看護師が来たのかと思ったが、そこに立っていた人物は違っていた


「絵美っち!」


「絵美ちゃん」


とても機嫌の悪そうな犬神絵美が、こちらへ歩いてくる
そして、栗原優の前に来ると、黙ったまま、栗原優の頬を強烈に引張叩いたのだ


「ちょ、ちょっと絵美ちゃん!」


頬を抑えて黙る栗原優を、まだ黙って睨み続ける犬神絵美
窓際の方からカーテンが開けられる音がする
そして、立花桃に視線を向けることなく、ようやく犬神絵美が口を開く


「あんた…今まで何をしてたの」


「………」


「絵美ちゃん、栗原さんは」


「てめえは黙ってろ!!」


犬神絵美の切り裂くような声が、病室を越えて廊下まで響き渡る
それでも臆さない立花桃は話を続ける


「駄目だよ、絵美ちゃん。ここは安静にしなきゃいけない患者が沢山いるの。怒鳴り声が危険な患者もいるはずよ?目の前の臼井さんも同じ。まずは落ち着いて」


舌打ちをする犬神絵美は、黙ったままの栗原優の腕を掴むと、怒鳴ることなく、そのまま病室の外へと無理やり連れ出してしまった
取り残された立花桃は、追いかけることはせず、窓際の方へ視線を向けた
そこにはベッドで上半身だけ起こして、こちらを見つめる女性がいた


「あ、ごめんなさい。私は八峰華澄と言います。一応、栗原さんたちとは知り合いで、臼井くんとは長い付き合いで…つい、盗み聞きしちゃいました、ごめんなさい」


「いいえ」と言いながら立花桃は立ち上がり、八峰華澄の方へ向かい、隣のベッドに腰掛ける


「かえって説明が省けて助かります。八峰さんは、臼井さんとどういう関係なんですか?」


「まあ…友達ですね」


「いつから?」


「ん~、いつからだったかなあ」


悩む格好になる八峰華澄に、目の前の女性は臼井誠の能力による関係だと確信した
そして、自分が来る時に栗原優と何を話していたのか尋ねてみる
八峰華澄は迷うことなく、栗原優が考えた今後の動きを立花桃に話してくれると言い、ぜひ教えて欲しいと申し出る
その時、病室の出入り口に人の気配がすることに、八峰華澄が気付いた
そしてすぐに立花桃へ耳打ちをする


「悪い予感がする。立花さん、今すぐ隠れて」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

処理中です...