Change the world 〜全員の縁を切った理由〜

香椎 猫福

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第十三話 後編

それぞれの決着 5

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「…何があったのか説明してくれませんか?」


ようやく目覚めた臼井誠
病院まで運ばれてきた記憶は断片的だ
救急隊員と医者、看護士、何故か心配そうにその後ろにいた栗原優の姿は覚えている
だが、目が覚めた病室内で、仰向けに寝かせられているベッドの周りには、栗原優の隣に犬神絵美も居た
臼井誠の目覚めに驚いた様子の二人をよそに、病室内を見渡しながら状況を把握しようとする
ベッドが6つあり、他には誰もいない
窓の外はすっかり暗くなっていた
時間が気になるところだ
撃たれてから今までのことを栗原優が説明し出すと、その間に犬神絵美が窓際の方へ離れて行った
栗原優は一部を省略して説明をした
遊園地で臼井誠が撃たれてから立花桃と犬神絵美が接触したこと、狙撃手を警察が捜査していること、八峰華澄が同室で入院していること、犬神絵美と栗原優が付き合うことになったこと
臼井誠が一番驚いたのは、まさか犬神絵美たちが付き合ったことでも、八峰華澄との偶然でもなく、寝ていた自分の目の前に立花桃が居たということだ
だが、その姿が今はない


「立花さんはどこへ行ったんですか?」


「分からないんすよ。俺らが戻ってきた時には居なかったから、帰ったのかもしれないけど。まあ、もうすぐ面会時間も終わるし、俺らもそろそろ…」


窓際のベッドを探っていた犬神絵美が口を開く


「八峰さんも居なくなってるから、なんか嫌な感じ」


犬神絵美はベッドの周りを探りながら、何か手掛かりはないかと痕跡を探す犬のようだった
枕を持ち上げてみたり、ベッドの温もりを触れて確かめたりしている


「残念です。立花さんに会えたら、僕はこの騒動に終止符を打てそうだったのに」


「兄貴、立花に会えなかったのは残念だけど、もしかしたら明日には会えるかもしれないっすよ?ゴールはもうすぐです」


そう言いながら、臼井誠の肩をぽんぽんと叩く


「あんたら呑気ね。私の直感では、八峰さんと立花には何かがあったとしか思えないんだけど」


栗原優が犬神絵美の元へ歩み寄る


「何が気になる?」


「このベッド周り、やけに荷物が無さすぎない?」


そう言われ、栗原優はベッド周りを確認し始める
ベッド脇に設置されている棚の中、ベッドの下、いずれも私物が無かった


「確かに、ここに患者がいたとは思えない綺麗さだ」


「臼井、ナースコール押して」


「え…僕、何も困ってませんけど」


「あんた、撃たれても相変わらず、鈍感マイペース野郎ね」


「命張った人に、ひどい…」


「別に命を懸けた作戦じゃあ無かったでしょ。あんたの運が悪かっただけだから…とにかく、ナースコールを押して」


「看護士さんが来たらなんて言えば良いんですか?」


「用事があるのは私だから、あんたは単に、あの~起きたんですけど~って言ってれば良いから。ほら、早く押して」


臼井誠は渋々、ナースコールを押す
思っていたよりも早く若い看護士がやってきた
病室に入るなりすぐに臼井誠の様子に目を丸くし「目が覚めたんですね!」と驚きと安堵の表情を混じらせる
そして、犬神絵美が声を掛けた


「あの、その患者はいいんで、こっちの患者について尋ねたいことがあって」


「犬神さん、その言い方」


看護士は犬神絵美と栗原優の存在に気付き驚くと、会釈をして近付く


「あの、臼井さんの面会の方々ですか?」


「そうだけど、ここの窓際を使ってる患者について尋ねたくて。ここに別の患者が使っているはずなんだけど」


それを聞くなり、看護士は首を傾げる


「えっと~、この部屋は今、臼井さんしか使っていないはずですが」


「え!?」


犬神絵美と栗原優が同時に発した
栗原優が尋ねる


「八峰華澄って患者が入院しているはずですが…もしかして有名人だから、その、守秘義務で言えないんじゃなくてですか?」


「八峰さんが入院されていたことをご存知なんですね。確かに、うちの病院で入院はしていましたが、別の個室で入院して、今日、退院しましたよ」


「今日!?」


また、犬神絵美と栗原優が同時に発した


「今日のいつですか?」


「数分前です」


犬神絵美と栗原優は顔を見合わせる
戸惑う二人に代わって臼井誠が口を開く


「あの、八峰さんが退院する時は一人でしたか?他に誰か一緒に居ませんでしたか?女性とか」


「私が見たわけじゃないですけど、有名人なんでその様子は耳に入ってます。八峰さんと若い女性と、あと、若い男性が三人ほど付き添っていたそうです。やっぱり有名人だと、周囲が守ってくれるんでしょうね」


臼井誠も黙ってしまった
看護士は三人を見比べながら、一旦、臼井誠の方へ戻る
臼井誠に、痛みはないか具合は大丈夫かなど、看護士としての仕事に徹し始めた
その間、犬神絵美は真剣な表情で自分の考えを栗原優に伝える


「…立花は、連れ去られた可能性がある。もしそうじゃなかったと考えてみても、八峰の行動は怪しい」


「俺もそう思った。でも八峰さんは、臼井さんの能力で繋がった人だ。何の為に嘘をついたんだろう」


「立花にこだわる人物は一人しか浮かばないわ」


「…猿渡、か」


ふと視線を臼井誠へ移すと、やたら看護士に診てもらっている姿がデレデレして見えた
苛立った犬神絵美が吐き散らす


「あんたは一生入院してれば良い」


「犬神さん、恋人の前で口が悪い」


「いや、兄貴…この性格分かってて付き合ってるんで」


次の瞬間、栗原優が犬神絵美に思い切り足を踏まれる


「痛あ!!」

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