Change the world 〜全員の縁を切った理由〜

香椎 猫福

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第十五話 後編

臼井と神 5

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ついに猿渡慎吾は逮捕され、覆面パトカーで連行されて行った
そして、同時に栗原優はすぐに救急車で運ばれ、犬神絵美が同行した
臼井誠も、もう一台の救急車に乗せられたのだが、自分が怪我をしているのかどうかも分からないでいた


「あんたのせいじゃないから」


栗原優の救急車に乗り込む前、犬神絵美が気にかけるように臼井誠へ声を掛けてくれた言葉だった
それが、どれ程の効果をもたらしたのかは、臼井誠の現状で分かる
遠くを見つめるような目、遠くなった耳、開かない口、意識のない栗原優の姿ばかりが浮かぶ頭の中


「あんたのせいじゃないから」


繰り返されてはいる犬神絵美の言葉
しかし、それが胸の辺りを和らげたり、軽くするような響き方をしてはくれていない
病院へ辿り着いても、臼井誠の様子に変化はなく、ただ、まともに歩けていることが返って罪悪感を膨らませているだけだった
もしも僕が世界を変えられたのなら…
何を変えることができたのか
人が必至に望む変えることとは、ポジティブな結果でしかない
それは自分も含まれていることもあるが、周りの人、特に自分が大切に想う人たちが救われ、笑顔であり、未来を健康に、前向きで幸せを掴もうとする意志が感じられるもの
緊迫感と恐怖感に立たされた人間が、その光景を変えたいと望んだ時には、間違いなく輝かしい光景へと変わっているはずなのだ
それが、世界を変えるということ
たった一人だとしても、愛すべき人を幸せにするために動こうとする、愛している者が動く理由は、本能的であり、反射的に体が動くように早く、助けようとする力がみなぎった、異性や子を持った生物のDNAに刻まれた能力なのだ
人間は、その力を仲間に発揮させる、言わば特殊能力と言える
世界を変えることは、人生を救い、変えること
変えられそうにない負の宿命すらも一変させる力なのだ
臼井誠が気に入って聴いていた曲は、孤独感を慣れさせられた人間であっても、本能で望んでしまうような、備わっている感覚を呼び起こそうと、体が求めている栄養素だったのだ
しかし、ポジティブな結果になるべき発想と行動が、一人の人間の命を奪う最悪のネガティブな結果を生んでしまった
そう、栗原優は…死んだ
病院へ運ばれて間もなくだ
臼井誠は、同じ病院で、近くにいた看護師へ状況を尋ねてから、しばらくして神妙な面持ちで、静かに伝えられた
視線の先は、病院らしく清潔感のある真っ白な壁を見つめていたはずだったが、なぜか灰色へと一気に濁り、すぐに全てが闇へと閉ざされていた
臼井誠は、気を失っていたのだ


「臼井さん!大丈夫ですか!?」


遠い意識のどこからか、看護師の声が聞こえてきたが、応える力も、意志もなかった
なぜ、立花桃を探す僅か一年の間に、一人の人間の尊い命が失われる結果を招いてしまったのか
臼井誠は、無限に終わらないような疑問を、自らに問いただしては、過去を振り返り、やはり納得できない疑問を繰り返し、また自らに問いただしては、ループを彷徨い続けていた
何度目かのループの途中、時折、聞こえてくる言葉がある
それが、何度目でも繰り返されるループの中で、次第に数を増して叫ばれていた


「僕が、居なければ良かったんだ」


意識を取り戻した臼井誠は、声を掛けてくれる看護師を他所に、栗原優と犬神絵美がいる場所へ、朦朧とする意識の中で歩み出していた
猿渡慎吾が捕まって、犬神里美は安心できただろうか
これでようやく、犬神絵美と立花桃は安心して距離を縮めて、互いを助け合っていけるかもしれない
だが、その未来にいる二人の頭の片隅に、自分が居てはいけないのだ
臼井誠は次々に、これまで関わってきた人達の顔を思い浮かべる
この能力がある内に、みんなの中から、自分を消してしまわなければならない
それが、自分にとって最後にできる、輝かしい世界へと変えることなのだ
ただ一人で、声に出さず心の中で葛藤し、結論付けてしまった臼井誠を、止められる者など居るはずがない
犬神絵美たちがいる部屋の扉に、臼井誠は手をかけた


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