傍観者を希望

静流

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話し合いでげっそり疲れ果てていた。

これでも奮闘したのだ。

50回で何とか落ち着かせられた自分は偉いと自画自賛する程度には。

貸付た方が、何でこんなに苦労するんだか…。

陛下に任せたら、年50回以内で永年有効なんて言うのだ。

何を考えているんだと、反論しても「これ位で妥当だ」と主張する。

宰相殿も呆れ顔だが、何故か了承するのだ。

此方も、「今迄の功績を鑑みれば、問題ありません」と嘯く。

いや、功績って何?っていう私の意見は考慮してくれない。

精霊も、貰って当然だという雰囲気が漂っている。

結局、一人で全員を妥協させる羽目に…。

功労者を慰撫するのが目的なら、この状況は逆だ。

ゴネにゴネ、最後には泣き落としで脅迫紛いに納得させた。

終わった頃には、何がしたかったのか訳が分からない位に、頭が燃え尽きていた。

もー嫌っと椅子にグッタリと腰掛けていると、アルフレッドが慰めるようにお茶を入れてくれる。

最近気に入っている茶葉だと気付き、嬉しくなる。

同じご褒美なら、此方の方がいいとつくづく思う。

横からさり気なく添えられた茶菓子は、ライカの新作のようだ。

見た目も可愛くて、私好みだ。

崩すのが勿体ないなと思いつつ、そっとフォークで端を削る。

切り落とした分を口に運び、暫しの口福を楽しむ。


はわぁ~!堪らないーと内心で叫びながら、味わって現実逃避に勤しんでいた。


「セイ殿、そう拗ねないでくれ。総数や回数に、これ以上は文句を付けないから、安心してくれ」

「先程もそう言いながら、増量を狙ってきましたよね。何と言われようとも、これ以上の上乗せは却下しますから」

ジトと睨んで返せば、両手を軽く上げて降参だと訴えてくる。


「今迄の借りを、便乗して返すのは辞めるよ。功績や救援の自覚がないのも困ったものだな」


「宰相殿も溢していたが、いったい何を指して功績だというんだ?普通に領主をしていただけだが」


「セイ殿、謙虚も過ぎれば嫌味に聴こえる。ご注意なさい。先ずは、薬草園のお蔭で薬不足が解消。治癒園は、病人や怪我での死亡率を下げた。領内での識字率を向上させて、他の領地にもいい影響を与えている件もある。他にも、その学識の高さで助けられている。特に塔の人間が崇めていたぞ」

淡々と例を挙げるが、領主としては当然の事をしたまでで、功績か?と首を傾げる。

此方の反応に、逆に呆れた視線を遣される。


「未だ納得がいってないな。後は、我が子たちの教育をセイ殿がしたお蔭で、兄弟仲が良好になっているだろう。派閥争いでギスギスしていた昔が嘘のようだ。それでも、まだ何もしていないと言うのか?親として本当に感謝しているのに、なかったことの様に扱われるのは不本意だと、少しは理解してくれ」

感謝して貰うほどの事をした記憶がないのだが…。
力説されても、今一つピンとこない。

困ったことになったと、眉尻が下がる。


陛下も、此方が困惑している事に、溜息を漏らしている。


相互理解とは、中々上手くいかないものだ。

互いの基準が、大幅に擦れているのが問題のようだ、と何となく理解した。
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