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4話 特訓失敗

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「セータ♪お手」
「……はい」

俺はハロの手に手を置く、何故こんな犬の芸のような事をしているかというと、時は少し遡る──────




「ハロ、俺もっと強くなりたい」
「どうしたんだい?急に」

俺は昨日、賊のような輩にコテンパンにやられた弱い自分に心底腹が立っていた。
折角こんな恵まれた肉体を持っているのにこれでは台無しだ。
それにこのままの弱さだと、この身体を通して米原セイタという人間をハロに見透かされてしまいそうなのがとても不気味だったのだ。

「それじゃあ、まずは僕を信頼する訓練から始める?」
「信頼?」
「セータ、昨日の戦いは覚えているかい?」

昨日の戦いを思い出す
大男に雑に殴りかかると余裕で躱され、顔面にパンチをもらう。
そのあとまた顔を殴られるのが嫌だったからガードしたらお腹を殴られたんだっけ。
適当に思い出した事をつらつらと話していると、ハロは残念そうな顔をし、俺に語りかけてくる。

『セータ、僕と君で1番大切なのはコレさ』
「あ」

首輪からハロの声が聞こえてくる。
そうだ、あの時彼はずっと何か俺にアドバイスのような事を逐一喋っていた気がするが、俺は切羽詰まって何も活かせなかった。
というわけで、俺はちゃんと首輪の指示を聞けるようにする訓練をハロにしてもらうのであった。

─────────────


「だからってなんでこんな犬みたいな……」
「セータ、その一瞬なんで?という思考が命取りになるんだよ。お座り」
「え?、あっ」

一瞬遅れてしゃがむ、やっている事は屈辱的だが、確かに反応が遅れた事は確かだ。
本当にこんなんで強くなれるかは疑問だが、とにかく指示に従う事にする。

「セータ、伏せ」
「はい」
「横にごろん」
「はい」
「お手」
「はい」

何度か繰り返し同じような指示をされる。これでは完全に犬だ。俺は羞恥心を捨て、もはや惰性で繰り返している。

「セータ、伏せ」

ハロの声のトーンが少し変わる。
違和感を感じたがすぐに伏せると頭に何かを掠めたようだ。
俺がキョロキョロしているとハロの右腕に何か舞い降りる。

「良かったねセータ、頭が無くならなくて」

ハロがそのモンスターの説明をする。
その鳥のような生き物はフェアリーバードというモンスターのようだ、フェアリーという癖にかなり厳つい見た目をしている。
あんな生き物が俺を攻撃してきたのか。

「それじゃ、続けようか♪」
「………え」

怒涛のリズムゲームが始まる。
ハロの指示に従ってすぐにそちらへ身体を動かす、でなければあのフェアリーバードとかいう化け物に轢き殺されるのだ。
その鳥は必ず死角を狙ってくるので、ハロを信頼するしか避けようがない。
当たったらひとたまりもなさそうだ。

「いいよーセータ、次は────」

その時とんでもない悪寒を感じる、第六感というものだろうか

『ごめんセータ、とりあえず上』
「うえっ!?」

俺は力の限り飛ぶ、というかごめんってなんだ?
下を見ると俺のいた場所が爆発している。

『とりあえず全力でガード』
「なんだそれ!!」

指示が雑だ、前を見るとフェアリーバードが何か赤いオーラを纏って突っ込んできている。こちらも青白い膜のような物で全身が包まれる。ハロの魔法だろうか。
身体を丸めるが凄まじい衝撃を前面に感じ、俺は数十メートル弾き飛ばされる。
地面で石ころの様に長いこと転がり、木に激突して無様にお尻を上げて戦闘不能になった。
ズルズルと鎖の能力でひっぱられていく。
口の中に土が入ってくるからやめてほしい。

「ごめんセータ、ルインが調子に乗っちゃったみたいだ、痛かったよね?」
「ピィー♪」

ルインとかいうバカ鳥は嬉しそうにバサバサと翼を広げている。
俺は起き上がる気力もないのでそのまま地面に顔を付けたままハロをジロリと睨む。

「指示はちゃんと聞いた」
「うんうん♪今度から上に飛ぶ時は木とか壁を狙って飛ぼうね」

ハロに抱えられ、されるがままにナデナデされる。彼にに触れられた傷はすぐさま癒えてくる。

「んっ……ふぁ……」

この回復、非常にもどかしい。
ずっと気持ちのいい所の少しズレた場所を撫でられているような感覚だ。
気がつくと俺はハロの服を掴んでしまっていた。

「セータ、切ない顔をしてどうしたの?」

ハロが耳元で囁く。

「な、なんでもないよ」
「この回復で気持ち良くなってきちゃった?」
「…………」
「喋れる子にこれを使うのは初めてだからね、どんな感じか教えてほしいな」

俺はもどかしい感じをなんとか言葉にして伝える。
判断力が落ちているのか恥ずかしいことも言った気がする。

「ルイン、そんな感じ?」

バカ鳥はあっさり首を横に振る

「なっ……!?」
「だよねぇ、セータはすごく敏感なのかな?」

今度は抱っこされ背中をトントンとされる。

「ぁっ……ふっ……」

トントンされる度に変な息遣いになってしまう。
これは獣人の特性なのだろうか、特に尻尾の付け根を触られると切なさが腰の周りにジーンと広がる。
ルインは何かを察して飛びっ立って行ってしまった。

「はろ……それっ……やっ……だっ……」

ハロはそれでも回復をやめてくれない、このままではまずい気がする。
それでも抱っこの状態で脚をハロの腰に回してしまっているので逃れようにも力が入らない。
どんどん回復力が強くなっている気がする。

「ぁ……………」

切なさが溢れ出し、一瞬なんとか堪えたものの、その努力も虚しく数秒後にはダムは決壊し太ももからお尻にかけて生暖かい感触がぐっしょりと染み渡る。

「はろ……まって……いやっ……うそだぁ……」

俺はどうすることもできず、ただ震えながら涙目で彼の服にしがみつき、その清々しい笑顔を見上げることしかできないのだった。




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