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5話
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耳を澄ますと何やら動物の声や木々が騒めく音が聞こえては遠ざかっていく。
1度目の時は必死すぎて気が付かなかったのだが、どうやらこの魔法は高速で移動するための魔法のようだ。
段々と聴こえてくる音色が虫の鳴く声や鳥の声だけになったと思うと、周りが少し暖かくなる。
「あれ?着いた?」
返事はない。目を開けても良いのだろうか。
しかしもしもまだ影の中であるなら、目を開けてはならないし、何故グレンは何も言わないのだろう。
降ろしてくれても良いはずだし、やはりまだ着いてないのだろうか。
しかし影の中とは違いグレンの足音が微かに聞こえる。
恐る恐る片目を開けると、そこは外の世界であった。
「もう!なんで━━」
文句を言おうとすると、口を抑えられる。
(大人しくしていろ)
耳元でそう囁かれると、ここが奴らのアジトのような場所である事に気がつき、自分の口を塞ごうと思わず両手でグレンの手をつつむようにしてコクコクと頭を振った。
グレンが怪訝そうな顔でジッとあの眼でこちらを見つめてくる。
俺がグレンの手を抑えているという事に気が付き、慌てて手を離す。
そしてグレンは俺の口から手を離すとそのまま手を壁に当て、影を使って何かをするようだ。
(目を瞑れ)
不意にそう言われ、目を瞑りグレンにしがみつく。
落ちるような感覚を感じたと思うと、湿っぽい、独特な雰囲気の空気を感じる。
すぐさまグレンは目を瞑っている俺を降ろす。
「おい、何をしている」
「な、なんだお前!ぐはぁっ!」
何やら男の声が聞こえる、恐る恐る目を開けると既に決着はついているようだ。
ここはどうやら独房で、スカーレットのいるらしき場所からは頭の悪そうな人相の男がグレンに蹴飛ばされて出てくる。
「スカーレット……!」
俺はスカーレットの元へと走り出そうとする、その時
後頭部に何か重たい衝撃を感じ。そのまま地面に倒れ込む。背後には人影。
辺りがぼやけ、周りの音が頭の中で反響し大きく聴こえてくる。
その刹那、スカーレット達の方から殺意の塊のような波動を感じる。そして時が凍ったかのような感覚に包まれる。寒い。俺はこのまま死ぬのだろうか。
薄れゆく意識の中で男の悲鳴と人間から発してはいけないような音がすぐ背後から聞こえてくる。
「ひ、ひぃ、化け物……」
「あ、ありがとうございます…今日出会うのは2度目ですね、大変!怪我をしている女の子がいるわ!」
「それは私のただの使用人だ、気にするな」
「うっ、こちらの人は……」
「フン、まだかろうじて息はあるだろう、おそらく」
そういうと男は倒れている女の子を大事そうに抱き抱えた。
私はせめて手当でも…と口を挟もうとしたが、男の怒りに満ち溢れた異様な雰囲気に気圧され。後ろをついていく事しか出来なかった。
男はこの地下の独房から堂々と出ると、上の方では次々と男達の悲鳴が聞こえ、その先は地獄絵図になっていた。
壁に埋まっている人間や机が真っ二つに割られ、そのまま力なく倒れている男。
気が触れてしまったのか自らの顔を殴っている男もいる。
そして部屋の隅には見知った顔の男がいた。
「よ、よう、落ち着いてくれや、な?」
「私はこの女に手を出すな、と伝えておいたはずだが?」
私は襲われそうになり破かれた衣服やアザを遠巻きにアピールする。
「チッ、あのバカが……すまねぇ、若い衆が勝手にやった事だ、俺の管理不足だ」
「ケジメくらい付けてもらおうか、私の所有物にも傷がついた」
「あぁ、そいつは必ず始末しておく!本当にすまねぇ!」
「もう二度と私達に関わるな」
「ひ!!わかった!わかっ……ゲフッ」
借金取りはどういうわけか壁に向かって歩き出したかと思うと、そのまま壁に頭を激突して倒れた。
一瞬でこの惨状、一体彼は何者なのだろうか。
唖然としていると男は何事もなかったかのように建物から出て行くので後を追う。
「あ、あの……ありがとうございました」
「…………」
「アルクは、アルクは元気ですか?」
「………多分な」
「多分……?」
男は私とは目も合わさずに抱えている女の子の様子を心配そうに見ている。
ただの使用人とは言っていたが、あの怒り様から察するにとても大切にしているのだろう。
この人の元ならばアルクもきっと無事だ。
「金は明日あの家に置いておく、好きに使え、余った分はドア代にでもしろ」
「あ、あの!お名前は!」
せめて恩人として名前くらいは聞いておきたかったのだけれど、男は何も言わずに闇の中へと消えていってしまった。
どうして彼はこんなに私を助けてくれるのか、全く理由はわからない。
そして謎に包まれた悪魔のような冷酷な強さと、相反する情熱的な瞳の色の彼に少しだけ興味が湧いたのだった。
1度目の時は必死すぎて気が付かなかったのだが、どうやらこの魔法は高速で移動するための魔法のようだ。
段々と聴こえてくる音色が虫の鳴く声や鳥の声だけになったと思うと、周りが少し暖かくなる。
「あれ?着いた?」
返事はない。目を開けても良いのだろうか。
しかしもしもまだ影の中であるなら、目を開けてはならないし、何故グレンは何も言わないのだろう。
降ろしてくれても良いはずだし、やはりまだ着いてないのだろうか。
しかし影の中とは違いグレンの足音が微かに聞こえる。
恐る恐る片目を開けると、そこは外の世界であった。
「もう!なんで━━」
文句を言おうとすると、口を抑えられる。
(大人しくしていろ)
耳元でそう囁かれると、ここが奴らのアジトのような場所である事に気がつき、自分の口を塞ごうと思わず両手でグレンの手をつつむようにしてコクコクと頭を振った。
グレンが怪訝そうな顔でジッとあの眼でこちらを見つめてくる。
俺がグレンの手を抑えているという事に気が付き、慌てて手を離す。
そしてグレンは俺の口から手を離すとそのまま手を壁に当て、影を使って何かをするようだ。
(目を瞑れ)
不意にそう言われ、目を瞑りグレンにしがみつく。
落ちるような感覚を感じたと思うと、湿っぽい、独特な雰囲気の空気を感じる。
すぐさまグレンは目を瞑っている俺を降ろす。
「おい、何をしている」
「な、なんだお前!ぐはぁっ!」
何やら男の声が聞こえる、恐る恐る目を開けると既に決着はついているようだ。
ここはどうやら独房で、スカーレットのいるらしき場所からは頭の悪そうな人相の男がグレンに蹴飛ばされて出てくる。
「スカーレット……!」
俺はスカーレットの元へと走り出そうとする、その時
後頭部に何か重たい衝撃を感じ。そのまま地面に倒れ込む。背後には人影。
辺りがぼやけ、周りの音が頭の中で反響し大きく聴こえてくる。
その刹那、スカーレット達の方から殺意の塊のような波動を感じる。そして時が凍ったかのような感覚に包まれる。寒い。俺はこのまま死ぬのだろうか。
薄れゆく意識の中で男の悲鳴と人間から発してはいけないような音がすぐ背後から聞こえてくる。
「ひ、ひぃ、化け物……」
「あ、ありがとうございます…今日出会うのは2度目ですね、大変!怪我をしている女の子がいるわ!」
「それは私のただの使用人だ、気にするな」
「うっ、こちらの人は……」
「フン、まだかろうじて息はあるだろう、おそらく」
そういうと男は倒れている女の子を大事そうに抱き抱えた。
私はせめて手当でも…と口を挟もうとしたが、男の怒りに満ち溢れた異様な雰囲気に気圧され。後ろをついていく事しか出来なかった。
男はこの地下の独房から堂々と出ると、上の方では次々と男達の悲鳴が聞こえ、その先は地獄絵図になっていた。
壁に埋まっている人間や机が真っ二つに割られ、そのまま力なく倒れている男。
気が触れてしまったのか自らの顔を殴っている男もいる。
そして部屋の隅には見知った顔の男がいた。
「よ、よう、落ち着いてくれや、な?」
「私はこの女に手を出すな、と伝えておいたはずだが?」
私は襲われそうになり破かれた衣服やアザを遠巻きにアピールする。
「チッ、あのバカが……すまねぇ、若い衆が勝手にやった事だ、俺の管理不足だ」
「ケジメくらい付けてもらおうか、私の所有物にも傷がついた」
「あぁ、そいつは必ず始末しておく!本当にすまねぇ!」
「もう二度と私達に関わるな」
「ひ!!わかった!わかっ……ゲフッ」
借金取りはどういうわけか壁に向かって歩き出したかと思うと、そのまま壁に頭を激突して倒れた。
一瞬でこの惨状、一体彼は何者なのだろうか。
唖然としていると男は何事もなかったかのように建物から出て行くので後を追う。
「あ、あの……ありがとうございました」
「…………」
「アルクは、アルクは元気ですか?」
「………多分な」
「多分……?」
男は私とは目も合わさずに抱えている女の子の様子を心配そうに見ている。
ただの使用人とは言っていたが、あの怒り様から察するにとても大切にしているのだろう。
この人の元ならばアルクもきっと無事だ。
「金は明日あの家に置いておく、好きに使え、余った分はドア代にでもしろ」
「あ、あの!お名前は!」
せめて恩人として名前くらいは聞いておきたかったのだけれど、男は何も言わずに闇の中へと消えていってしまった。
どうして彼はこんなに私を助けてくれるのか、全く理由はわからない。
そして謎に包まれた悪魔のような冷酷な強さと、相反する情熱的な瞳の色の彼に少しだけ興味が湧いたのだった。
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