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小月は次々と人を指差した。選ばれた者は文句も言わずに群衆から抜け出して典弘とともに井戸に向かう。
「それから、今、私と視線があった二十人の人たちは病人を運んでください。この家に男の人を。向かいの家に女の人を。動かせない重病者と意識のない人は今から個別に李医師と私が対応します」
「で、でも触ったら伝染るんじゃないか。放っとくしかないだろう」一人がぶるぶると首を振って拒絶した。幾人かが同調して顔をしかめる。
「触っても伝染りません!」
「嘘だ。だったら何故俺たちは閉じ込められてるんだ」「伝染病だからだろう?」
小月は唇をかんだ。伝染病であることは否めない。だが原因はまだわかってはいない。
「南街区が封鎖されているのは……病の発生源だと目されているからです。原因がわかれば封鎖はとけます。あるいは──」
「私達全員が死ぬのを待ってるんでしょうよ」「俺らが死んでも、上の奴らは困らねえもんな」群衆の中に諦念が頭をもたげはじめる。「呪われているんじゃないか」「今の皇帝に徳がないからだって噂だ」「その噂は聞いたことがある」「疫鬼には誰も勝てねえ」
小月は言葉を叩きつけるように叫んだ。「全員で生き延びるんです! 病気が消えれば、万事解決します! 南街区の隔離は解除されます! みんなで頑張って生き延びましょう!」
「あのう」中年の女性が手をあげた。「うちの婆ちゃんが昨日死んで、亡骸は空き地に転がしてるけど、弔っていいかしら」
「馬鹿野郎。そんなもん転がしとくなよ」女の隣にいた男が唾を吐いた。
遺体はすでに何体も見ている。風に吹き寄せられた綿埃のように無造作に転がっていた。放置しておくわけにはいかない。
小月は意見がないかと李医師を振り返った。李医師はぽそりと「火葬にできないかな」と呟いた。
声を上げた女性と隣の男性を含めて、小月は十人ほどを埋葬係に指名した。
「すぐに埋葬できないならば火葬にしましょう。腐敗が進まないうちに」
人々の顔が一様に曇るのがわかった。この国の伝統的な埋葬は土葬である。だが例外的に火葬が選ばれることがあった。疫病による死者の場合である。地面に大きな穴を開けて複数の亡骸を投げ入れて同時に焼くのだ。
「触りたくねーよ」男性が喚く。
「誰かがやらないといけないんだよ。いいよ、私はやるから」女性の決断は早かった。「もう蛆が湧いてるのもあるし。放っておいたら別の病気が流行っちまう。菰に包んで一カ所に集めて燃やすしかないね」
「どこで焼くんだよ?」
「南西の空き地を使おうと思うんだけど」
訊かれた男性は渋々、「井戸とも離れているし、枯れ枝もあるし、そこしかないか」と答えた。
「動ける人は手伝ってちょうだい。力仕事だから男手は大歓迎だよ」
埋葬担当の責任者は決まった。
「雲花、私も……」
責任者のあとを小走りについていった女性は腕の中に子供を抱えていた。とうに死んだ子供だ。責任者になった女性の名前は頼雲花だと、小月は残った者に教わった。
「病を克服するには滋養のある物を食べて体力をつけなければなりませんが、ここには食べ物がどれくらいありますか?」
半数ほどの人が首を振った。残りは首を傾げている。
おずおずと発言があった。「蓄えてる者は少ないだろう」
「あっても正直に言うやつがいるものか。あ、俺はすっからかんだからな」
小月は李医師を振り返った。街区を封鎖している衛士は、食べ物を差し入れてくれますよね。そう質問しようとしたが、考えを読んだように、彼は首を振る。
「でも、それじゃ……」
「交渉はしてみよう。金銭で釣ってみる。だが全員に必要な量は手配できないだろう」
となると、街区の住人全員の協力が必要になってくる。
「……では提供してもよい、と思う方だけ協力してください。こちらで手に入れた物は協力してくれた方と共有します」
「蓄えが全くない俺はどうしたらいい?」小月より年下に見える少年が問う。破れた服の隙間から浮き上がった肋骨が痛々しい。
「調理や管理を手伝ってください。他に調理ができる方がいたら手をあげてもらえますか?」
「あいつ、できるよ。餃子屋の二徹」少年は恰幅のいい中年男性を指さした。
「餃子屋さん?」
目抜き通りに餃子屋を営んでいるという男で、暁二徹と名乗った。
「ええ、あの……実は娘が家で伏しているんです。娘を診てもらえるなら協力します」
「もちろん、診ます!」
「ああ、餃子女もか……餃子女まで病気になったのか」少年は髪をくしゃくしゃと掻いた。
餃子女という呼び名に聞き覚えがあったが、今の小月には記憶を探る余裕はない。
南街区の中に広い炊事場を持つ家が何軒かあるようだった。そこを借りて、俺が調理すると暁二徹は請け負った。少年の他に幾人かの協力者が手をあげた。食糧の管理と調理は暁二徹に任せることにした。
充分な食べ物を確保できるかあやしい状況である。どこまで人を信用していいのか、心配がないわけではなかった。
「それから、今、私と視線があった二十人の人たちは病人を運んでください。この家に男の人を。向かいの家に女の人を。動かせない重病者と意識のない人は今から個別に李医師と私が対応します」
「で、でも触ったら伝染るんじゃないか。放っとくしかないだろう」一人がぶるぶると首を振って拒絶した。幾人かが同調して顔をしかめる。
「触っても伝染りません!」
「嘘だ。だったら何故俺たちは閉じ込められてるんだ」「伝染病だからだろう?」
小月は唇をかんだ。伝染病であることは否めない。だが原因はまだわかってはいない。
「南街区が封鎖されているのは……病の発生源だと目されているからです。原因がわかれば封鎖はとけます。あるいは──」
「私達全員が死ぬのを待ってるんでしょうよ」「俺らが死んでも、上の奴らは困らねえもんな」群衆の中に諦念が頭をもたげはじめる。「呪われているんじゃないか」「今の皇帝に徳がないからだって噂だ」「その噂は聞いたことがある」「疫鬼には誰も勝てねえ」
小月は言葉を叩きつけるように叫んだ。「全員で生き延びるんです! 病気が消えれば、万事解決します! 南街区の隔離は解除されます! みんなで頑張って生き延びましょう!」
「あのう」中年の女性が手をあげた。「うちの婆ちゃんが昨日死んで、亡骸は空き地に転がしてるけど、弔っていいかしら」
「馬鹿野郎。そんなもん転がしとくなよ」女の隣にいた男が唾を吐いた。
遺体はすでに何体も見ている。風に吹き寄せられた綿埃のように無造作に転がっていた。放置しておくわけにはいかない。
小月は意見がないかと李医師を振り返った。李医師はぽそりと「火葬にできないかな」と呟いた。
声を上げた女性と隣の男性を含めて、小月は十人ほどを埋葬係に指名した。
「すぐに埋葬できないならば火葬にしましょう。腐敗が進まないうちに」
人々の顔が一様に曇るのがわかった。この国の伝統的な埋葬は土葬である。だが例外的に火葬が選ばれることがあった。疫病による死者の場合である。地面に大きな穴を開けて複数の亡骸を投げ入れて同時に焼くのだ。
「触りたくねーよ」男性が喚く。
「誰かがやらないといけないんだよ。いいよ、私はやるから」女性の決断は早かった。「もう蛆が湧いてるのもあるし。放っておいたら別の病気が流行っちまう。菰に包んで一カ所に集めて燃やすしかないね」
「どこで焼くんだよ?」
「南西の空き地を使おうと思うんだけど」
訊かれた男性は渋々、「井戸とも離れているし、枯れ枝もあるし、そこしかないか」と答えた。
「動ける人は手伝ってちょうだい。力仕事だから男手は大歓迎だよ」
埋葬担当の責任者は決まった。
「雲花、私も……」
責任者のあとを小走りについていった女性は腕の中に子供を抱えていた。とうに死んだ子供だ。責任者になった女性の名前は頼雲花だと、小月は残った者に教わった。
「病を克服するには滋養のある物を食べて体力をつけなければなりませんが、ここには食べ物がどれくらいありますか?」
半数ほどの人が首を振った。残りは首を傾げている。
おずおずと発言があった。「蓄えてる者は少ないだろう」
「あっても正直に言うやつがいるものか。あ、俺はすっからかんだからな」
小月は李医師を振り返った。街区を封鎖している衛士は、食べ物を差し入れてくれますよね。そう質問しようとしたが、考えを読んだように、彼は首を振る。
「でも、それじゃ……」
「交渉はしてみよう。金銭で釣ってみる。だが全員に必要な量は手配できないだろう」
となると、街区の住人全員の協力が必要になってくる。
「……では提供してもよい、と思う方だけ協力してください。こちらで手に入れた物は協力してくれた方と共有します」
「蓄えが全くない俺はどうしたらいい?」小月より年下に見える少年が問う。破れた服の隙間から浮き上がった肋骨が痛々しい。
「調理や管理を手伝ってください。他に調理ができる方がいたら手をあげてもらえますか?」
「あいつ、できるよ。餃子屋の二徹」少年は恰幅のいい中年男性を指さした。
「餃子屋さん?」
目抜き通りに餃子屋を営んでいるという男で、暁二徹と名乗った。
「ええ、あの……実は娘が家で伏しているんです。娘を診てもらえるなら協力します」
「もちろん、診ます!」
「ああ、餃子女もか……餃子女まで病気になったのか」少年は髪をくしゃくしゃと掻いた。
餃子女という呼び名に聞き覚えがあったが、今の小月には記憶を探る余裕はない。
南街区の中に広い炊事場を持つ家が何軒かあるようだった。そこを借りて、俺が調理すると暁二徹は請け負った。少年の他に幾人かの協力者が手をあげた。食糧の管理と調理は暁二徹に任せることにした。
充分な食べ物を確保できるかあやしい状況である。どこまで人を信用していいのか、心配がないわけではなかった。
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